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ハードウェアにも“笑い”を ~ソリッドアライアンス社長 河原邦博氏(後編)
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● 輸入代理店としての起業
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サンディスクで「メモリカードを普及させ、誰もが最低1枚のカードを使う世界を実現する」ことを目標としていたが、目標を達成できた時、なにか新しいことがやりたいと思うようになった
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サンディスクでの最大のテーマとして、「メモリカードを普及させ、誰もが最低1枚のカードを使う世界を実現する」ことだったのですが、デジタルカメラからPC、そしてPDAのデザインインを進める中での最終目標が携帯電話でした。その目標も無事達成でき、なにか新しいことがやりたいと思うようになりました。みんなが守りに入る中、自分は攻めないとダメと考えたためです。
僕は、切り込み隊長的に事業を立ち上げるのが向いているんですよ。そこで、2002年に自分で後輩と一緒に会社を立ち上げることにしました。結局、サンディスクには8年くらいいたことになります。
はじめは、築何十年の6畳間に机を持ち込んでのスタートでした。ところが、これがやることがないわけです。サンディスクの頃は1日150通くらいメールがきていたのに、5通程度。そこで、これまで自分がやってきたメモリカードの延長線上で何かができたら……と考えるようになったのです。
最初は、CFの輸入代理店業から始めました。当時としては世界初・世界最大容量だった3GBのCFカードや、重量4gの世界最小USBメモリなど、ある意味キワモノから扱い始めました。万人に売れる製品ではないですが、そこそこの数は売れていました。
● アヒルのUSBメモリからの出発
ある時、仲間がアヒルの人形を持ってきたんです。これにUSBメモリをつけたらおもしろいんちゃうん、と考えたのが始まりです。
さっそくアヒルのUSBメモリを作ることにしました。自社で作る初めてのオリジナル商品です。ほんとうに手作りで、USBメモリを入れるのに合うサイズのアヒルを注文して、アヒルにUSBメモリを差し込むのも手でひとつずつやっていました。
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現在のソリッドアライアンスの原点となった製品「i-Duck」
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パッケージは駄菓子風のイメージにするため、ビニール袋にアヒルを入れるのですが、その袋詰めも自分たちでやりました。ホチキスをとめているうちに、「原点に戻ったな」と感じました。大きなことばかりやっていると感覚が麻痺してしまうところがあります。一度リセットして原点に戻るのは大事だと思いました。
アヒルのUSBメモリは、自社でネットショップを開いて売り始めたところ、続々注文が入ってきました。それこそ10分に1個くらいの割合で売れていきます。それを眺めていると、自分で作った製品が売れている、というのが本当に実感できるんです。ビジネスの原点に戻ったようで嬉しかったですね。僕は、「自社商品をやろう」と決意していました。
● 「食品サンプルをUSBメモリにしよう!」
アヒルUSBのパッケージをもっと目立つように、透明のサイコロみたいな箱に変えようとして、調理用具から食品パッケージまで揃う、かっぱ橋道具街に箱を探しに行った時のことです。食品サンプルの店の前で、ボクの後輩が、思わず「これだ!」と叫びました。「寿司のUSBメモリ」だと。
食品サンプルは日本発祥で、日本人らしい細かいこだわりが随所に見られます。寿司のサンプルも本物そっくりで、インパクトは抜群ですよね。ただ、持って歩いて使うのはちょっと恥ずかしいかなと思ったのですが、実際作ってみたらこれがウケました。
今では「Sushi USB Memory(寿司型USBメモリ)」は、成田空港などでも売っているので、海外のエグゼクティブなどがお土産でよく買われるようです。寿司は日本の食べ物として比較的よく知られていますし、ビジュアル的に面白いしメモリとして使えて実用性もある、ということでウケているのでしょう。
寿司USBメモリを発売した時には、桶入りのセット商品も用意して、これは1セット7万円くらいしたのですが、単品の総数では2万個弱くらい売れました。海外のメディアで紹介された時はびっくりしましたね。
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食品サンプル部分は、かっぱ橋の佐藤サンプルに依頼。ひとつずつ手作りで製造されているので大量生産はできない
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最初に発売された、いくら、うに、鉄火巻、カッパ巻き、まぐろ。いまやSushi USB Memoryは成田空港でも販売されている
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● 対極のものを組み合わせる
アイディアは、飲んで雑談している時などに出てきたことをメモしておき、そこから発想していきますね。発想方法としては、対極的なもの同士を組み合わせることが多いです。たとえば、日本の伝統である食品サンプルとITの組み合わせです。
人間でも、見た目が怖くてとっつきにくい人が実は捨て猫を拾ってかわいがっているとか、いい意味で振れ幅がある人には、魅力があると思いませんか。それと同じで、対極のものを組み合わせると面白くなる。
食品サンプルは昔はろうでできていたので劣化しましたが、今の食品サンプルは塩化ビニル製ですから劣化はしません。したがって、買い換え需要はな見込めないので、いろいろな種類を出して需要を喚起する必要があるんです。
寿司型USBメモリの食品サンプル部分は、全部手作りで、本当に寿司を作るのと同じプロセスで作るんです。塩化ビニル製の素材が通常の、食べる食材と同様に揃っています。ごはん粒そっくりの素材を握って、海苔そっくりの素材を巻いて、上にキュウリとイクラそっくりの素材を並べて軍艦巻き完成――といった作業を、職人さんが手作りでやっていきます。
ですから大量生産ができないですし、コストもかかります。安価に大量生産という作り方ができないので、需要が急に拡大したとしても、対応が難しいという問題はあります。
● “ほたるいか”でMOMAデビュー!
「ほたるいかUSBメモリー」という製品があります。これは、富山大学の武山良三教授から、「イカを作るから来い」と言われて出かけて行って(笑)。
ほたるいかは富山の名産なんですよね。ほたるいかの型は、ルアー原型師の丸山達平氏とのコラボレーションで、本物のほたるいかそっくりに作りました。漁師さんに色を確認してもらったりもしたんです。
パッケージデザインや商品開発全般にわたって、富山大学の武山良三教授と非常勤講師の竹村讓氏とのコラボレーションにより製作したんですが、入れ物もスーパーのパッケージそっくりにして、値札シールも付け、パッケージの中には投網の網とブイが入っているという凝りようでした。
富山大学とのコラボによる“いかシリーズ”は、ほたるいかのほか、あおりいか、みみいかと3製品作りました。
このいかメモリが、ニューヨーク近代美術館の「MoMA Design Store」によって、「Destination:Japan(デスティネーション・ジャパン)」プロジェクトの対象アイテムとして選ばれ、MoMAに収蔵されました。MoMAストアでも販売されています。
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いかシリーズの「ほたるいか」。ルアー原型師のTAPP Craft 丸山達平氏にデザインと設計を依頼。本物のほたるいか同様に青く光る
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MoMAに選ばれた「みみいか」。MoMAストアでも購入できる
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実は、MoMAに選ばれるということのすごさが、僕は最初よくわかっていなかったんですよ。でも、周囲の人たちからすごいすごいと言われて。
いかシリーズ3種の中では当然、富山名物のほたるいかが僕らとしては一押しなんですが、MoMAは「みみいか」という微妙ないかを選んでくれました(笑)。アートに理屈はないんやなと思いましたね。
ちなみに、「ミスタージョーンズのTENGU」という製品があるんですが、これもMoMAストアで販売されているんですよ。
これは、アーティストであるクリスピン・ジョーンズ氏がデザインしたUSBガジェットです。USBポートに接続すると、赤色LEDで顔が表示されるんですが、話しかけたり音楽を聴かせたりすると、音センサーによって反応する――音に合わせて表情が変わるんです。ジョーンズ氏がうちの製品「お化け探知機」にインスパイアされて、お化けのイメージから“天狗”という名前が出てきたそうです。
「TENGU」で面白いのは、日本人が作ると、同じ製品はどの個体も当然同じ動きをしますよね。ところが、これは違うんです。やる気があるTENGUとやる気がないTENGUがある(笑)。同じ製品でも、個体差があるんです。デジタルでいながらアナログなんですよね。
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こちらもMoMAに収蔵された「TENGU」。ロンドンに拠点を置くアーティスト、クリスピン・ジョーンズ氏が「ばけたん」にインスパイアされて考案した製品だ
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「TENGU」は、音センサを内蔵しており、音を検知することにより、赤色LEDで表示される表情が変わる
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● 「ニッチからマスへ」 ~ばけたん発売
これまで食品サンプル系ばかりやっていたのですが、それでは一部の人にはウケるけれど欲しくない人は欲しくないわけです。そこで、頭をひねって万人ウケを狙ったものも出しています。
たとえば、最近発売した製品では、猫の手の形をしたUSB、「にゃんえすびぃ」があります。ちょっと手が硬くて年寄り猫みたいになってしまったので(笑)、次は肉球をふにゅふにゅさせたいですね。
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猫好きの心をわしづかみにする新製品の「にゃんえすびぃ」。今後、肉球のぷにぷに感がもっと出るように改良したいという
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お化け探知機通称「ばけたん」や、UFO探知機通称「ユータン」なども出しています。テレビのプロデューサーをしてる方が、「お化けやUFOを扱うと視聴率で10%は絶対にとれる」と言うんですよ。それ以上でも以下でもない、つまり20%とかはいかないそうなんですけど。とっかかりはマニアックだけれど、広がる可能性があるのではないかと考えたのです。ニッチだけれどマス、ニッチからマスへという流れができるかもと思ったわけです。
「ぱけたん」が矢追純一氏の監修となっているのは、もともと矢追氏にご連絡をいただいたところから、企画を考えたんです。できたものを検証していただき、「これはいけるよ」とお墨付きをもらいました。
製作にあたっては、自分で心霊スポットを四十数カ所ほど回ってみて、データも取りました。真面目に時間もお金もかけて作ったのですが、できたものの立ち位置が見えない(笑)。幽霊探知機なんて、圧倒的にとんがった今までにない商品を出すと、ショップの売り場でもどこに置いたらいいかわからないし、マーケットがないわけです。
迷いに迷って、結局USBメモリになりました。これならパソコン周辺器機として売れるからです。考えて、ばけたん・ユータンは携帯ストラップにもしました。ちなみに、ばけたんとかユータンは自分でも持ち歩いて、ここはヤバそうと思ったらチェックしています(笑)。
特殊センサーを使用してオーラカラーを測定してくれる「オーラ玉」も作りました。見えないモノを楽しんでしまえと考えたわけです。同じスピリチュアル系でも、高価な壺を買ったら痛いですが、オーラ玉なら2000円ちょっとでネタとして楽しめる。
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ばけたんが赤く光るとお化け出現!? 赤くなったら、ボタン長押しでバリアモードにして身を守る
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青く光ると守り神が出現! 願いが叶うかも?
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● ネットにはないドキドキ感を
会社を始めた頃は、メールも1日5件しか来ないし自由人だったので、多摩川にアザラシのたまちゃんを見に行ったり、東スポで岩手にカッパが出たと報じられたら見に行ったりしていました(笑)。カッパは結局芸人さんが着ぐるみを着て撮らせただけでしたけど。基本的にこういうものが大好きなんですよ。火星の土地も月の土地も買ったくらいですから(笑)。
フィールドワークは大事だと思うのです。ネットでは情報しかなくて、ドキドキ感がありません。もっと、ライブ感を提供できるものがいいと思うんですよ。
僕は、製品のアイディアを考える時にあれこれ想像してみるんです。たとえば、お化け探知機を持ってウロウロしている絵を想像する。UFO探知機は、それを持って富士山の上に行くところ。寿司型USBメモリは、エグゼクティブが社員を集めて、「これはUSBメモリなんだ。みんな好きなものを取ってくれ」と言っているところとか。
● 「人とつながる」がキーワード
結局テーマは「つながる」ということ。うちの製品は、人とのコミュニケーションツールなんです。人とつながるのに使ってもらえたり、笑ってもらえたらいいなと思っています。ネガティブにしかめっつらするより、笑っている方がハッピー。“笑えるハードウェア”は少ないので、“ニッチでありながら、マスにつながる可能性があるもの”というのがキーなんです。
たとえば、リカちゃんのUSBメモリだったらリカちゃんファンは買いますが、逆に言えばリカちゃんファンしか買いません。それに比べて、お化けは入り口がニッチなだけで、裾野は意外に広いと思うのです。寿司は世界中に知られていますが、寿司のハードウェアはありません。うちは、そういうところを狙っています。
他のメーカーも同じようなことを始めていますが、我々はそれに先んじて前を走っていくべきだと考えています。ニッチからマスへという絵を描けることも大切です。
今考えているのは、イケメンチェッカー。自分の好きなタイプを登録しておくと、たとえば合コンとかで、タイプの人の前で鳴ると面白いかなと。新橋の焼き鳥の匂いを全部チェックして焼き鳥の匂いチェッカーを作ろうという案もあります。
● 少数精鋭で海外も目指す
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海外展開も積極的に進めていきたいが、「サンディスクの時も少人数でやれていたことから、今後も少数精鋭で前例がないことを実現していきたい」という
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社員は現在8人です。基本は少数精鋭で、前例がないことを実現していこうと考えています。サンディスクの時も少人数でできていたので、そんなに人を増やさなくてもできると思っています。輸入代理店などではなく、今後もオリジナルにはこだわっていきたいです。
デスク周りを楽しくしようというコンセプトで、今後もいろいろと面白い商品を出していきたいですね。新しく、これまでの延長線上でいながら違う切り口で出していきたい。似たようなことをやっている会社は多いですが、うちのバックグラウンドを知らない人たちは競合していると思っていますよね。実はそういう人たちとも仲がいいので、サプライズコラボレーションもあります。
今後、海外展開も積極的に進めていきたいです。米国のアーバンアウトフィッターズという会社が当社の製品を扱ってくれていて、ロシアから引きあいが来たりしています。日本国内のみに限定しているのは、これからの時代にはかえってリスキーだと思うので、海外に保険をかけて分散させたいと思っています。
日本のアニメがこれだけ世界中で支持されているのだから、ハードウェアも受け入れられる下地はあるだろうと考えています。(おわり)
(→ 前編をみる)
関連情報
■URL
ソリッドアライアンス
http://www.solidalliance.com/
ソリッドアライアンス直販サイト (楽天市場内)
http://www.rakuten.ne.jp/gold/sastore/
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・ ハードウェアにも“笑い”を ~ソリッドアライアンス社長 河原邦博氏(前編)(2008/11/04)
2008/11/05 10:49
取材・執筆:高橋暁子 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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