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世界に先駆け日本で開催!
「Nature Photonics Technology Conference」

~慶応義塾大学 青山友紀教授に聞く

 来る10月23日から25日の3日間、東京有明のTFTホールにおいて、「Nature Photonics Technology Conference」(主催:NPGネイチャー アジア・パシフィック、インプレスR&D)が開催される。このイベントは、世界の科学技術誌「Nature」の姉妹誌「Nature Photonics」の創刊、およびその編集部を日本に常設したことを記念して企画されたもので、光コミュニケーション分野のエキスパートが世界から集結、総勢31名によるコンファレンスが行なわれる。会場には、有力企業が最新技術・製品を一堂に披露する展示会も併催され、通信・放送関係者はもちろん、これから光技術の適用が期待される家電・自動車関係者にとっても必見の内容となっている。その見どころを、プログラム構成にあたった諮問委員会の青山友紀委員長(慶応義塾大学教授)に伺った。


日本はフォトニクス分野の先進国、技術でもビジネスでも先頭を切るチャンス

青山友紀(とものり)教授
Nature Photonics Technology Conference諮問委員会 委員長/慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授
―はじめに、フォトニクスと通信がどう関係しているのか、どのようなところにフォトニクスが使われ始めており、今後何を期待されているのかといったところを教えてください。

青山 フォトニクスという言葉は、どちらかというと部品とかデバイスといった分野で使われる言葉で、いわゆる通信とか情報の人は今まであまり頻繁に聞く言葉ではなかったと思います。エレクトロニクスがエレクトロン(電子)からきているように、フォトニクスという言葉はフォトン(光子)から来ています。フォトンが起こすいろいろな物理現象を利用して、部品やデバイス、あるいはディスプレイや光センサといった最終的なシステムとして実際に我々が使うわけですが、それらを総体的に表わすのがフォトニクスという言葉です。

 情報通信分野では通常オプティカルという言葉が使われますが、それに比べるとフォトニクスは、いわゆるサイエンス(科学の基礎研究)からテクノロジー(工学利用・産業応用)までカバーする言葉です。そういうことから、ネイチャーという非常にサイエンスに強い出版社が、今回「nature photonics」というテクノロジーにも重点をおいた新しい月刊誌を発刊したわけです(※2007年1月創刊)。

―電子が光子になることのメリットは、スピードということでよいのでしょうか。

青山 物理的にそれ以上速いものはないのが光ですから、一番の利点は進む速度です。銅線などいろいろなものをエレクトロンが通って行く速度は、フォトンに比べれば格段に遅い。だから、フォトンをベースにした物理現象で、一番典型的かつメリットがあるのは、非常に速いということですね。


―今回、ネイチャーがフォトニクスというテーマを扱うにあたり、日本で始めるというのが非常に画期的ですね。これは日本がフォトニクスの先進国だからということなのでしょうか。

青山 研究開発とビジネスの面面があります。まず研究開発の面では、例えば光通信の分野では、OFC(Optical Fiber Conference)というコンファレンスがあります。米国で毎年開催される世界で最も大規模かつレベルの高い国際会議なのですが、最先端の技術がそこで発表・展示されます。そこではいわゆる技術のトップを競う発表も行なわれます。例えば、光ファイバを使った通信速度のスピード競争が行なわれますが、その中で日本は今までかなりの回数、その時のトップ記録を出しています。

 また、最近は1本の光ファイバの上に何波長送れるかという競争もあります。光は虹の七色というように、いろいろな色が合成されて白色光になっているわけですが、それを専門的な言葉でいうと、さまざまな波長の光が合成されているということになります。その波長の数が多ければ多いほど、ファイバ1本当たりの通信速度が速くなります。つまり、1本1Gbpsで1波長しかなかったら通信速度は1Gbpsですが、10波長あれば10Gbpsで送れる。光のパルスの速さと波長数をかけたものが、高速性を表わすわけです。その競争でも、日本はほぼトップで、研究レベルでは1000波長といった数字が出ています。

 一方、ビジネスの分野でも、いろいろなデバイスや半導体で日本は世界のトップを走っています。半導体レーザーやフォト・ディテクターといった部品も日本がほぼトップですし、光をつなぐコネクタも強い。これら光通信分野以外でも、DVDやデジタル・カメラに使われるCMOS、液晶といったものがフォトニクスで、これらはまさに日本がトップの分野です。それからFTTHも日本が最も進んでいますね。ユーザー数は世界でダントツで、日本が世界を引っ張っている。

 というように、研究開発から実際のシステム、ビジネスまで、すべての分野で日本はトップクラスであるということをネイチャーも評価して、日本に編集部を置くことでいろいろな最先端の情報が集まりやすいと判断したのだと思います。さらに、今後韓国や中国がマーケットとして急激に伸びるだろうということも意識しているでしょう。

―では、日本は光の分野で世界の先頭を切るチャンスと思っていいわけですね。

青山 そうですね。今後そのチャンスをどう活かせられるか。それを見極めることもコンファレンスの重要なテーマになります。


光コミュニケーションをテーマにあらゆる内容を網羅

「こういう組み合わせの講演者が一堂に会するのは初めてだと思いますよ」
―諮問委員会の委員長としてプログラムの設計にあたり、ご苦労された点や注目してほしいポイントといったものを紹介していただけますか。

青山 フォトニクスというのは非常に広い分野を含んでおり、何もかもというわけにはいきませんので、今回のコンファレンス・展示会では、テーマを光コミュニケーション分野に絞りました。私はかつてNTTの研究所で光通信の研究をしていましたし、今は「超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会」という産学官の協議会の会長も務めていますので、それで諮問委員会の委員長をということになりました。とはいえ、光通信分野にテーマを限定しても、まだかなり広い。諮問委員会を構成して、その光通信の中でもいろいろな分野をできるだけカバーするように調整しました。

 プログラムにはいろいろな特徴がありますが、ひとつは企業のエグゼクティブの講演と、ノーベル賞あるいはノーベル賞クラスの非常に先端的な研究者の講演の両方があることです。さらに、実際のシステムや光通信のアプリケーション的な側面といったものも含めて、デバイスから部品、システム、ネットワークというすべての分野をカバーしています。

 また、もちろん日本で開催するので日本の講演者が多くはなりますが、米国、ヨーロッパ、韓国・中国という国々から、講演者に参加していただけることになりました。それぞれの方が、ご自身が強い分野について講演していただくということで、それぞれのトピックがまんべんなく網羅されたプログラムができたと思います。こういう組み合わせの講演者が一堂に会するのは初めてだと思いますよ。


光ファイバが実現する4Kデジタルシネマについての講演も

「4Kデジタルシネマは、光ファイバ網におけるキラーアプリケーションの1つとなるはずです」
―ご自身も講演なさいますが、その内容を少し教えてください。

青山 私は、NTT時代に光ファイバを使った光通信の研究開発をしていました。随分昔なのでインターネットもまだなくて、当時のNTTのサービスは基本的には電話中心です。テレビ会議も研究されていましたが、当時は64kbpsといった低いスピードでできないかというような時代でした。すると、光ファイバを使った光通信の研究といっても、いったい何に使うんだということになります。そこで、光ファイバの普及には、何か広帯域を使うアプリケーションが必要なのではないかと考え、着目したのが映像というか画像です。

 当時、NHKがハイビジョンの研究開発をされていて、まだ実用にはなっていませんでしたが、放送の世界で将来的に出てくると見られていました。それなら我々は、もっと高精細の画像および伝送ネットワーク技術の研究をやろうということでスタートしました。例えば、映画はテレビよりも大きなスクリーンに映像を映すわけですし、遠隔地からの診断に使う医療用の画像なども高精細が必要です。

 当初は動画なんてとてもできないレベルで、最初は静止画を扱いました。例えば、絵画を超高精細で撮影してデータベース化し、検索できるようにした電子美術館。これは、ニューヨークの美術館と連携してデモを行ないました。そういうことを進めながら、やはり動画をやりたいということで、いわゆる“4K”と呼ばれる800万画素の精細度をもった動画像の研究を始めました。

 映画といえばハリウッドなわけですが、当時のハリウッドではデジタル・シネマについてのある論争がありました。1999年に、ジョージ・ルーカス監督が「スター・ウォーズ エピソードI」という映画で、フィルムで撮ったものをスキャンしてデジタル化したものですが、はじめてフィルムレスでの上映を行ないました。それは、“2K”と呼ばれているHDTV(高精細テレビ)クラスの精細度を持ったプロジェクタで、そこからデジタルシネマに火がつきました。

 当時、ハリウッドの大多数は、ジョージ・ルーカスがやっているんだからこれでいいじゃないかという意見でしたが、テレビと映画は基本的に違うコンテンツなのにテレビの技術で映画をデジタル化するのかと言う人々もいました。しかしそれは少数派で、そんな技術どこにあるんだ、何年待てばできるんだ、デジタル化はすぐにならなければならないのだから、2Kでいいじゃないかというのが多数意見でした。


 そのような論争のさなか、2000年ですが、我々が研究していた4Kの800万画素のプロトタイプを、ロサンジェルスで開催されたコンピュータ・グラフィックの世界最大の展示会である「SIGGRAPH(シーグラフ)」に持っていったわけです。NTTは電話会社ですから、ハリウッドではいぶかしがられると思い、「ディジタルシネマ・コンソーシアム」を設立しましたが、それでもハリウッドに人脈があるわけではありません。にもかかわらず、口コミで4Kの噂が広まって、とうとうパラマウントスタジオで評価してくれるということになりました。当時の評価自体は惨憺たるものでしたが、パラマウントの社長が「パラマウントは2Kでデジタル化するつもりはないが、この技術は可能性があるから頑張れ」と言ってくれたんですよ。そこでダメだと言われたら、その先はなかったでしょうね。結局、デジタルシネマの業界標準を作る時にも4Kを入れてくれました。

 その後、実際にハリウッドのスタジオに置かれたデジタルシネマのコンテンツを、暗号化・圧縮して太平洋を渡って伝送し、NTTのサーバに蓄積してそこから映画館に配信して上映する「4Kピュアシネマ」という実験を、ワーナーブラザーズと東宝とNTTが共同で行ないました。デジタルシネマも、2Kはもうかなりの映画館で上映していますが、本当の品質には4Kが必要で、4Kのプロジェクタはソニーが世界で初めてコマーシャルなものを売り出し、これから映画館に入ってくるというフェーズです。それには、当然かなり高速のネットワークが必要なので、光ファイバ網におけるキラーアプリケーションの1つとなるはずです。


量子暗号、フォトニクス結晶、可視光通信、車載ネットワークなどもカバー

「光の技術というのは、将来のネットワークやその上に作られるユビキタス社会の、基本的なテクノロジーです」
―なるほど。そうしたアプリケーション以外にも本当に幅広い分野の講演がありますね。

青山 光の将来のキーテクノロジーである量子ドットやフォトニクス結晶、量子暗号といった最先端の講演もあります。また、光ファイバではなく可視光を使った通信や、自動車の車載ネットワークへの光ファイバの応用など、本当に面白いプログラムになったと思っています。

―光というのは今までは非常に専門的なものでしたが、幅広い分野で使われるようになっているんですね。今回のイベントは、当然フォトニクスの専門家の方々がいらっしゃるでしょうが、それ以外にどのような方に来ていただきたいとお考えですか。

青山 光の技術というのは、今後のいわゆるNGNと呼ばれている次世代ネットワーク、さらにその次の新世代ネットワークなど、将来のネットワークやその上に作られるユビキタス社会の、基本的なテクノロジーです。だからその技術の動向によって、将来のネットワークがどうなるか、将来のアプリケーションにどういうインパクトがあるかといったことが見えてきます。

 また、一般のユーザーにとっても、どういう可能性があるのかという将来動向が、このコンファレンスと展示会を見ることでつかめると思います。IT企業のエグゼクティブによる光の技術が、将来のビジネスにどんなイノベーションを起こすかというような講演もありますので、研究者だけでなく、開発者や営業担当者を含めた光ビジネスを考える人にも、ぜひ参加していただければと思います。

―ありがとうございました。


関連情報

URL
  Nature Photonics Technology Conference 光コミュニケーションの現状と展望
  http://www.impressrd.jp/photonics/


( 聞き手:井芹昌信 )
2007/10/15 14:35

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