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第92回:オフライン対応のカーナビiPhoneアプリ「navico」をレビュー


 現在さまざまな会社からiPhone用のカーナビアプリがリリースされているが、まだ決定版と言えるものは登場していない。そんな中、最近になって新たなカーナビアプリがリリースされた。株式会社ワックドットコムの「navico(ナビコ)」だ。昭文社の「MAPPLE」の地図をローカルにインストール可能で、オフラインでも使用できるこのアプリについて詳しくレビューしよう。

オフラインで使用可能なカーナビアプリ

「navico」製品紹介ページ

 iPhone用のカーナビアプリは、使用するごとに地図データをネットワークから取得するタイプと、ローカルにインストールして使うタイプの2種類に分けられる。「navico」は後者のタイプで、ローカルに地図データを置くので3G回線やWi-Fiがつながらないエリアでもオフラインで使用できる。ネットワークのパフォーマンスに左右されずに地図データにアクセスできるため、スクロールの動作も軽快なのが特徴だ。反面、メモリーの使用量が大きいことに加えて、アプリ自体の価格も高めになってしまうというデメリットがある。

 「navico」の価格は、「全国詳細地図版」が6000円、東名阪を中心とした「東名阪詳細地図版」が5400円。iPhone用アプリとしては高価に感じるが、実はこの価格には地図データのアップデートサービスも含まれている。アップデートサービスは現在のところ2011年1月と2012年春の2回が予定されており、アップデートサービスの終了後も、すでにインストールしたアプリやデータはそのまま使い続けられる。

 なお、地図データをローカルにインストールするiPhone用カーナビアプリというと、インクリメントPの「MapFan for iPhone」(2300円)があるが、こちらは地図データの閲覧はオフラインで可能なものの、ルート探索がオンラインの機能となっており、ルート探索機能を使い続けるためには1年ごとに更新料が必要(地図の閲覧だけなら更新料は不要)となる。対して「navico」はルート探索もオフラインで可能で、現在のバージョンを使用する限りは更新料はいっさいかからない。

豊富な施設アイコンと一方通行表示

 対応機種は、iPhone 4およびiPhone 3GS、iPad、iPod touch(第3世代)。ただしiPod touchやiPadのWi-FiモデルはGPS非搭載なのでナビゲーション機能は利用できない。iPhone 3Gが非対応なのは残念だが、ハードウェアの性能によりパフォーマンスが著しく劣るため、やむなくこのような措置となったようだ。

 アプリ容量は「全国詳細地図版」が1.42GB、「東名阪詳細地図版」が935MB。市街詳細道路地図の収録エリアは、「全国詳細地図版」が全国47都道府県・1450エリア、「東名阪詳細地図版」は東名阪11都道府県・335エリアとなっている。今回のレビューでは「全国詳細地図版」を使用した。

 地図データのバージョンは2009年春版で、縮尺は広域図が10mから200kmまでの14段階、詳細図は10~25mおよび50mスケールの2~3段階が収録されている。

 それでは、Google マップおよび各社からリリースされているiPhone用カーナビソフトと地図画面を比較してみよう。まずは東京都千代田区の神保町交差点付近の地図だ。


navicoGoogle マップいつもNAVI
MapFan for iPhone全力案内!

 次に地方都市の例として、千葉県東金市のJR東金駅付近の地図を見てみよう。


navicoGoogle マップいつもNAVI
MapFan for iPhone全力案内!

 navicoの地図画面の第一印象は、コンビニやファーストフード、ファミリーレストラン、銀行、ガソリンスタンドなど施設アイコンが多いこと。神保町交差点を見ると、「サブウェイ」や「ドトール」の名称が目立つ一方で、電器店の「セレクトインキムラヤ」や書店名などは記載されていない。施設名はアイコンによる表記が多く、警察署や消防署、病院、学校などの公共施設を示すアイコンも数多く掲載されている。

 また、カーナビ用途に特化しているせいか、地下鉄のホーム位置や出口表記などが省かれている。これは徒歩で使うにあたってはマイナスだ。その代わり、一方通行表示が細かく入っており、路地裏などを通行するときには役立つ。地方に行くと施設名の情報量は落ちるが、施設アイコンはまんべんなく掲載されているのでスカスカという感じではない。ただし山間部は等高線の記載が無く、登山などには使えないだろう。

 縮尺を小さくしても施設アイコンが表示されるので、現在地の周辺にどんな施設があるのかを調べるのには便利だ。また、東京ドームや遊園地のような大きな施設は固有の大きなアイコンが掲載されており、施設の種類を直感的に把握しやすい。


神保町交差点付近を縮小した状態東京ドーム付近富士山・御殿場口登山道付近

 地図表示は2Dのノースアップおよびヘディングアップ、そして簡易3Dビュー(バードアイ)も可能だ。また、画面モードはランドスケープ(横長)とポートレート(縦長)の2タイプが用意されている。iPhoneが縦でも横でも使えるのでセッティングの自由度は高い。

 渋滞情報が取得できない一方で、空いている可能性の高い抜け道を青い線で示す「ぬけみち表示」機能を搭載している。地図色は昼・夜・外の3タイプで、文字サイズも「普通」「でっか字」「もっとでっか字」の3段階から選べる。地図の拡大・縮小はピンチイン/アウトまたは地図画面上のボタン[+]と[-]で切り替えられる。


バードビュー表示ぬけみち表示
夜モードの画面設定画面

交差点や高速道路入口を拡大表示

 住所検索のデータ件数は約3600万件と充実しているが、電話番号検索は約780万件、ジャンル検索は約55万件と、PNDなどに比べると少なめだ。このほか昭文社の出版物に掲載されているオリジナルコード「まっぷるコード」による検索も可能で、検索データは約8万件収録されている。このコードは「MGコード」や「クチコミNo.」とも共通で使える。

 ルート探索はローカルで処理しているせいかレスポンスが早く、すぐに結果が表示される。ナビゲーションの条件設定は「距離優先」「高速回避」「高速優先」、そして最適なルートを自動判別する「おすすめ」の4種類だ。探索の結果には目的地までの距離や到着予想時刻、有料道路の料金、そして目的地の天気情報などが表示される。

 到着予想時刻が表示されるのは便利だが、渋滞情報は加味されないので、おおまかな目安程度に考えるべきだろう。また、できれば料金は首都高速などの均一料金区間とそれ以外で分けて表示されるほうがよかった。


ルート探索結果経由ポイントとなる交差点や施設までの距離を一覧表示

 「案内開始」をタッチするとルート案内が開始される。交差点や高速道路の入口が拡大表示されるのはとてもわかりやすい。高速道路の料金所エリアではETCの場所も表示される。サービスエリアの施設がアイコンで一覧表示されたり、駐車場の位置を示した簡略図が表示されたりするのも便利だ。このような各種の案内表示はかなり充実しており、PNDに近い完成度だと思う。


交差点の拡大表示高速道路入口の案内表示高速道路ICの案内表示(デモモード)
料金所前のETCレーン案内表示サービスエリアの駐車場案内図

Twitterとの連携機能も搭載

 このほか、Twitterとの連携機能も搭載されている。TwitterのIDを登録しておけば、地図を見ているときにダッシュボードを開いて、「渋滞なう」「いまここ」「気になったー」と、あらかじめ用意された3つの言葉をつぶやくことができる。現在地の周囲に投稿されたほかのユーザーのつぶやきをチェックすることも可能だ。また、地図の閲覧中にiPodで再生中の音楽を操作することもできる。


ダッシュボードを開くとTwitterやiPodのメニューが表示される3種類の“つぶやき”から選択可能iPodの操作も可能

 これらに加えて、Safariとの連携機能も搭載されているのだが、これについては今ひとつ使い方がよくわからなかった。Safariにブックマークレットを登録し、Safariでの検索結果を解析してnavicoの目的地設定に転送する機能のようだが、対応サイトがオンラインヘルプにまだ載っていないので使えない。どうもこの機能についてはまだ発展途上中のようだ。

 全体的には完成度が高く、価格に納得できるのであればかなりおすすめだが、渋滞情報に対応していないのは残念だ。次のバージョンではぜひ渋滞情報の取得と、渋滞を考慮したルート探索を実現してほしい。

 また、カーナビとしてだけではなく徒歩のナビゲーションにも使えるように、地下鉄の出口位置の情報なども充実させてほしい。ルートも一方通行を無視した探索が可能になれば、ウォーキングやサイクリングなど使い方の幅が広がると思う。将来的にはこのような点での強化も期待したい。

【追記 2010/08/30 20:00】
 運転中に携帯電話などを手に保持してインターネットやメール確認などのために画面を注視することは道路交通法で禁止されているため、注意が必要だ。

 なお、navicoでは、およそ時速8km以上で操作制限モードに入る設定(ただし、GPSの受信精度や走り出し・停止直後でGPSが安定していないこともあるため、あくまでも参考値)。

 操作制限モードでは、複数回のアクションを必要とするメニュー操作や入力操作、リスト選択操作などを受け付けないようになる。一方、一般的なカーナビと同様に、地図の操作(拡大・縮小、スクロール)、案内中のタップ操作(案内リストの切り替えや一般道・有料道の切り替え)など、アクション数の少ない操作は制限対象外だという。


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2010/8/19 06:00


片岡 義明
地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。