趣味のインターネット地図ウォッチ

第191回

iPhone連携のカーナビ用前方透過ディスプレイ「Garmin HUD」を試す

 ハンディGPSやGPSランニングウォッチなど、多彩なGPS機器を展開している米Garmin。そのGarminが6月25日に新しく発売したのがヘッドアップディスプレイ型ナビゲーションデバイス「Garmin HUD日本版」だ。この製品は透過型の反射レンズにナビ情報を表示するもので、前方の視界を遮ることなく必要な情報を読み取れる。

Garmin HUD

 本体のサイズは108×88×19mm、重量は177gと軽量・コンパクトだ。情報を表示する専用反射レンズのサイズは95×60×2mmで、iPhoneのディスプレイと比べると一回り小さい。設置にあたっては両面テープは使わず、底面の粘着部を貼り付けるだけで固定できる。この粘着部は取り外しが可能なので、複数の車で使い回すこともできる。

 使用にあたっては、専用反射レンズを取り付けた本体をダッシュボードの上に置いて、シガーソケットに電源アダプターを挿し、コードを接続すれば準備完了だ。シガーソケットにはUSBポートが搭載されているので、Lightningケーブルを接続してiPhoneに給電できる。この状態でエンジンをかけてシガーソケットが通電状態になるとディスプレイに情報が表示されて、その光をレンズが反射して透過表示される仕組みになっている。

 専用反射レンズの設置角度は固定されているが、本体にチルト機構が搭載されており、本体ごと設置角度を調整できる。なお、海外版の紹介動画を見ると、フロントウィンドウの下部にスクリーンフィルムを貼ることで、専用反射レンズを使わずにウィンドウに直接情報を映し出す方法もあるようだが、日本では法令により禁止されているため、専用反射レンズの使用が必須となる。

パッケージ
HUD本体
サイドに電源ケーブルを接続するジャックを装備
背面
チルト機構を装備
裏面の粘着部
ディスプレイを装着した状態
シガーソケットアダプター
iPhoneを充電するためのUSBポートを装備
海外ではフロントウィンドウにスクリーンフィルムを貼って使うことも可能

カーナビアプリはiPhone用「マップルナビ」を使用

 Garmin HUDはBluetoothでiPhoneと接続した上で、専用アプリ「マップルナビ for HUD」と連携して使用する。透過ディスプレイに表示される情報は、右左折の方向指示に加えて走行車線案内、次の方向転換までの距離、速度、目的地への到着予想時間などで、地図についてはアプリの画面で確認する。

 マップルナビ for HUDは昭文社の子会社であるマップル・オンが提供するカーナビアプリで、App Storeからダウンロードできる。価格は無料だが、初回起動時に、iPhoneとGarmin HUDをBluetoothで接続させないと起動できない仕様になっている。ただし、一度アプリを起動させてしまえば、以後はiPhoneとGarmin HUDが接続していなくても起動可能で、乗車前にルート検索などを行える。

 マップル・オンは以前から「マップルナビK」や「マップルナビS」などのカーナビアプリを提供しているが、マップルナビ for HUDはこれらの既存アプリにGarmin HUDとの連携機能を追加したもので、ナビ機能そのものはほとんど同じだ。なお、App StoreのページではiPod touchやiPadにも対応していると記載されているが、Garminの説明書には、iPhone 4/iPhone 3GおよびiPod touch、iPad、iPad miniでは使用できないと書かれている。

 マップルナビ for HUDはほかのマップルナビシリーズと同様、地図データをローカルストレージに保存するのが特徴で、そのためファイルサイズは2GB超とかなり大きい。地図データは年2回・2年間、無償での更新が可能だ。なお、カーナビの基本機能はオフラインで利用可能だが、住所検索や電話番号検索、連絡先検索、ぐるなび検索をする場合はインターネットへの接続が必要になる。ちなみに通常版の「マップルナビ K」の価格は1400円で、Garmin HUDのユーザーならばこの料金を支払わずに同じ内容のアプリを利用できることになる。

「マップルナビ for HUD」
車内に設置
車外から見たところ
アプリを起動させるにはiPhoneと「Garmin HUD」をペアリングさせる必要がある
ペアリングが完了すると「OK」が表示される

表示色は変更できないが表示はかなり見やすい

 Garmin HUDを利用する場合は、前述したようにiPhoneとBluetoothでペアリングを行う。接続が完了してGarmin HUDのディスプレイに「OK」が表示されたら、マップルナビ for HUDを起動させる。アプリ上でルート検索し、案内開始の操作を行うとGarmin HUDのディスプレイに方向転換案内や走行車線(レーン)情報などの情報が表示される。

 表示される情報の中で最も大きく目立つのは、ディスプレイ左半分に表示される方向転換を示す矢印で、その下にレーン情報が表示される。レーン情報は、現在走行中の道路について、車線数分の矢印が表示されて、その中で自車がいるべき車線が濃く表示される。

ナビゲーション中の画面
曲がる地点が遠い場合や、片側1車線の場合はレーン情報が消える

 ディスプレイの右半分には方向転換までの距離や目的地到着予想時間、速度などが表示される。この中で最も表示が大きいのは方向転換までの距離で、この距離表示はアプリでは1m刻みで表示されるが、Garmin HUDには10m刻みで表示される。

 情報表示の色は薄い緑色で、フロントウィンドウ下部の運転席の前方に置いてもほとんど邪魔にはならず、それでいてかなり情報を読み取りやすい。晴天で太陽光が強い時にはさすがに見づらくなるが、それでも全く見えなくなることはない。HUDを見るだけで、次はあとどれくらいの距離でどちらに曲がればいいのか、どのレーンに入っていればいいのかが分かるので、視線移動の機会を減らせて実に快適だ。

 なお、ディスプレイの表示項目や表示色を変更することはできず、この点は少し残念だ。また、ナビゲーションを行わない時は「N」「S」「SW」など方角と速度は表示されるが、その際にもマップルナビ for HUDは常に起動させておく必要があるのが少し面倒だ。

 このほか、ナビゲーション中に電話がかかってきて通話中になった場合に、マップルナビ for HUDがバックグラウンド動作になるため、Garmin HUDの表示も消えてしまうのも不便だ。通話が終了すると自動的にナビ画面に戻り、HUDの表示も元に戻る仕組みになっているのだが、できればバックグランド動作にしてもHUDの表示は継続されるようにしてほしかった。

方向転換までの残り距離は10m刻みで表示される
ナビでは1m刻みで表示される
ナビゲーションを行っていない時は方角表示となる

スマホナビの弱点を補うデバイス

 スマートフォンのカーナビアプリは専用機に比べて安価に利用できるし、乗車前にルート検索ができるというメリットがあるが、反面、専用機に比べて画面サイズが小さく案内表示が見にくいというデメリットもある。Garmin HUDはそのようなスマートフォンの弱点を補うデバイスとして有用だ。

 ただしいくつかの点で不満もある。まず、アプリがマップルナビ for HUDしか対応していないこと。マップルナビは地図やナビゲーション機能は完成度が高いものの、VICSなどの渋滞情報に対応していないのがもの足りない。また、iPhoneだけでなくAndroidにもぜひ対応してもらいたい。

 表示内容のカスタマイズができないのも残念だ。目的地までの距離や現在時刻など、表示可能な項目の選択肢を増やして、どの項目を表示させるか選択可能になると、もっと魅力的なデバイスとなると思う。

 いずれにしても、GPS専業メーカーであったGarminが、GPS非搭載のこのような機器を発売するというのは興味深い。パイオニアの「サイバーナビ」の「AR HUDユニット」など、HUDを搭載した専用カーナビも存在するが、Garmin HUDを使えば、そのようなHUDの効果を、それほど高くない価格で手にすることができる。ただしサイバーナビの場合はHUDに交差点名なども表示されるほか、方向指示モードだけでなく地図そのものを見られる「HUDマップモード」など凝った表示も可能だし、信号機の色や道路標識の速度制限を認識して知らせる先進機能も搭載している。それに比べるとGarmin HUDの表示項目はかなり見劣りすると言わざるをえない。

 ただし、表示する情報を必要最低限に絞った分、視認性は高く実に見やすい。従来からマップルナビのアプリを使っていた人はもちろん、他のナビアプリのユーザーで渋滞情報が必要ないという人にもかなりお勧めできる。

 Google Glassやスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスでも、ナビアプリと連携して方向指示表示などを行う機能が実現すると言われているが、スマートフォンのカーナビアプリと連携する端末としては、Garmin HUDのようなHUDタイプのデバイスが今後普及していくのではないだろうか。Garmin HUDはそのような一歩先の未来を感じさせるデバイスと言えるだろう。

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。