被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

それって「国際ロマンス詐欺」ですよ!

マッチングアプリで知り合った外国人を信用したら1000万円以上を失った

 「国際ロマンス詐欺」の被害は落ち着くどころか、コロナ禍をきっかけに増大しています。米連邦取引委員会(FTC)の発表によると、2020年の被害額は3億ドル以上に上り、2016年から4倍増加しました。被害が急増しているのは、コロナ禍で人と会う機会が減っていることが原因として挙げられています。

 国際ロマンス詐欺とは、SNSなどのやり取りで相手を信用させて、その後いろいろな口実でお金を振り込ませる手口です。一般的に女性をターゲットとしており、外国人がコンタクトを取ってきます。SNSやメッセンジャーアプリなどで声をかけてくるのですが、迷惑メールと異なり、本当に本人がメッセージを送ってくるのが特徴です。そのため、相手の言うことを信じやすくなってしまいます。しかし、遅かれ早かれ、お金を求めてきます。もちろん、お金を取ったら連絡が途絶えるだけです。

 日本では日本語は利用されていることもあり、英語が利用されている欧米と比べると被害は小さかったのですが、それでも多数の人が国際ロマンス詐欺に遭っています。筆者が所属するNPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)としても、何度か情報を発信しているのですが、被害に遭ったという方から先日連絡がありました。国際ロマンス詐欺の悲惨さをもっと広く認知させて欲しい、というご意見でした。

今回、本人が被害に遭った国際ロマンス詐欺の事例を紹介します。なお、個人情報保護のため、細部は変更しています。

「投資をして一緒に稼ごう」、借金をしてでも相手の指示に従うことに

 事の発端は2021年1月のことです。マッチングアプリで知り合って、LINEの連絡先を交換したのが始まりでした。相手は米人ですが、たどたどしい日本語でコミュニケーションしてきます。最初は怪しんでいましたが、連絡を取るごとに信頼できるように感じてきました。

 国際ロマンス詐欺師の特徴として、ものすごくマメに連絡してきますし、日本人では考えられないくらい情熱的に口説いてきます。気分は盛り上がり、会う約束も取り付けますが、コロナ禍を理由に、約束はキャンセルされてしまいます。しかし、LINEでは結婚の話が出ますし、自分も仕事を辞められるという未来が見えており、信用しきってしまいました。

 そんな中、投資をして一緒に稼ごうと持ちかけられます。この方は投資に興味はないので断っていたのですが、信じてくれと口説かれて手を出すことになります。日本の有名なビットコイン取引所に口座を作り、お金を入金したのです。ここまでは、自分の口座の中のことなので問題ありません。

 その上で、そのビットコインを外部のビットコイン投資サイトに送るように言われたのです。これは見知らぬ人の銀行口座にお金を振り込むようなものです。投資をした経験がないので、最初は小さな額を送ったのですが、増えて戻ってきました。元金が大きくないと利益も増えないというので、さらにチャレンジしてみると、また少し増えて戻ってきました。

 そこで送金額を増やすことになりました。貯金していた1000万円を送金した後は、クレジットカードのキャッシングで200万円、カードローンで200万円、生命保険の契約者貸付制度で300万円借りて、ビットコインを買い、送り続けました。

 彼女はそもそも投資に興味がないので、入金する度に不安になったそうです。しかし、そのたびに「安心して、僕がついてる。資金は絶対大丈夫」と繰り返し言われ、従ってしまいました。

 最後には家族に借金をして、お金を渡しました。すると、外部の投資サイト上で、残高が25万ドルを超えたので、すべての資金を戻すという話になったそうです。しかし、戻すための手数料がかかると言われ、振り込むと次は税金がかかると言われました。それも振り込むと、「問題が発生した」といわれ、投資サイトから出金できないことになりました。

使っていたのは詐欺サイト、相手との連絡も途絶え……

 もちろん、この外部の投資サイトというのは、詐欺師が用意した詐欺サイトです。当然、投資などはしていません。2度ほど返金したのは、信用させるためのテクニックです。その後、彼女はログインできなくなり、ウェブサイト自体も消滅し、男とも連絡が取れなくなりました。2021年3月頭、彼女は警察に連絡し、国際ロマンス詐欺に遭ったことを知らされました。

 十数年間つらい仕事に耐えてコツコツと貯めてきた1000万円の貯金を失い、生命保険も解約し、家族にも迷惑をかけてしまいました。国際ロマンス詐欺も仮想通貨投資詐欺も、どちらも被害回復が難しい犯罪です。警察にも弁護士にも相談しましたが、為す術なしとの回答だったそうです。

 「私は洗脳され頭がおかしくなっていたのです。もう生きる気力も失いました」と言われ、筆者も言葉を失いました。

 この手の詐欺を回避する最も簡単で効果的な方法は、詐欺の手法や事例を知る、ということです。デジタルリテラシーを身に付ければ、話を持ちかけられた瞬間に詐欺だと気が付くことができます。

 今回の被害者は若い方でしたが、FTCによると、被害件数が多いのは40~69歳で、金額が大きいのは70歳以上の方だそうです。男性相手の国際ロマンス詐欺も報告されており、もはや全ての人が知っておくべき情報と言って良いでしょう。ぜひ、ネット詐欺の被害を抑えるために、情報拡散のご協力をお願いします。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

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