第4回:新聞・雑誌などの定期購読にも対応する電子書籍端末「GALAPAGOS」

シャープ株式会社 中村宏之氏・笹岡孝佳氏


 電子書籍は現在、コンテンツやデバイス、流通、規格、ビジネスモデル、文化など、さまざまな要素がからみあい、いろいろなアプローチが登場している。このシリーズインタビューでは、それぞれ異なる方向から新しい市場に取り組むキープレイヤーに話を聞く。

 シャープは12月10日に、電子書籍や新聞・雑誌などの定期刊行型のコンテンツに対応したメディアタブレット「GALAPAGOS(ガラパゴス)」を発売した。液晶タッチパネルや無線LAN通信機能を備え、専用のオンラインストア「TSUTAYA GALAPAGOS」からコンテンツを購入できる。

 シリーズインタビュー第4回は、シャープ株式会社 ネットワークサービス推進センター 副所長 兼 サービス企画室長 中村宏之氏と、ネットワークサービス事業推進本部 商品企画担当 係長 笹岡孝佳氏に話を聞いた。

端末とサービスを結び付け、プッシュ型のコンテンツを提供

ネットワークサービス推進センター 副所長 兼 サービス企画室長の中村宏之氏
ネットワークサービス事業推進本部 商品企画担当 係長の笹岡孝佳氏

―― 反響はどのような感じでしょうか。GALAPAGOSには5.5インチのモバイルモデルと10.8インチのホームモデルがありますが、その比率なども。

笹岡:順調な売れ行きです。モバイルモデルとホームモデルで、だいたい2:1ぐらいの割合です。当初はモバイルモデルが圧倒的に多いと予想していましたが、見開きページなどの見やすさなどからご判断いただいたのでしょう。ホームモデルも予想を超えた売れゆきとなっております。

 モバイルモデルとホームモデルは、画面サイズとトラックボールの有無以外はまったく同じで、液晶比率も同じです。トラックボールはモバイルモデルでこだわったことの1つで、電車の中で片手で操作するシーンを考えて付けました。混雑した電車でも、トラックボールを押しこむだけでページ送りでき、転がせば前ページに戻ることも可能です。

―― 新聞や雑誌の定期購読も特徴ですが、ホームモデルの人気も、それに関係があるのでしょうか。

笹岡:それもあると思います。小説というより、雑誌のレイアウトされたページが読みやすいというのが、ホームモデルのメリットとしてあります。

 もともと、GALAPAGOSのコンセプトには、「端末とサービスの結び付き」を目指すということがあります。これまでは端末だけを作って店頭で売り切るビジネスを中心にしてきたわけですが、GALAPAGOSは製品とサービスを結び付けたプッシュ型のコンテンツを大きな特徴としています。新聞や雑誌の定期購読がそうですし、おすすめの本などの紹介もプッシュ型で提供しています。これによって、新しい生活習慣を提案していきたいと考えています。

 GALAPAGOSのデスクトップも、新しい読書習慣を提案するという観点から、4つの本棚の画面に分かれています。本との出会いとして新しく購入した本や定期購読のコンテンツが届く「未読・おすすめ」の棚、いま読んでいる本が入る「最近読んだ本」の棚、何度も読み返したい本が入る「お気に入り」の棚、定期購読しているコンテンツを管理する「定期購読」の棚です。

コンテンツの作り方は4種類

メディアタブレット「GALAPAGOS」

笹岡:電子書籍を見やすくするための機能も用意しています。コンテンツにもよりますが、まず、ページのレイアウトはそのままで本文の文字だけ拡大できる機能があります。単純に拡大するとその画面からタイトルやイラストが消えてしまったりしますが、そのレイアウトを保ったまま拡大縮小できるものです。

 また、雑誌の記事などで多段組になっていたり、写真などが入っていたりするコンテンツを、本文テキストだけの表示に切り替えて読みやすくできる機能もあります。そのほか、図鑑などでは、動画や音声などを再生できるものもあります。

―― そうした機能を使うには、コンテンツを作る側はどのぐらいの作業が必要になるのでしょうか。

中村:コンテンツを作るには、4通りの手段があります。まず、一番リッチなコンテンツの表現方法は、従来のXMDFを拡張した「XMDF 3.0」フォーマットを使うものです。専用のオーサリングツールなどを使ってコンテンツを作成する必要がありますが、この方式を使うことで、レイアウトはそのままで文字の拡大縮小を行うといった機能が実現できます。

 逆に最も手軽な方法としては、紙面イメージのPDFからコンバーターを使って自動生成することもできます。とりあえずページイメージとして文字が読めれば良いという場合には、この方法がおすすめです。

 この2つの中間的の方法としては、ページイメージにテキスト情報を加えたハイブリッド形式があります。この形式であればページ全体はイメージで確認でき、本文はテキストデータとして扱えるので、検索も可能です。コンテンツ制作にあたってはページイメージのPDFと、記事の区切りや見出しなどを表すHTMLのタグを付けたテキストを用意していただくことになります。

 最後に、HTMLでコンテンツを作成する方法もあります。既にウェブで提供しているコンテンツがベースになっているものでは、この方法が親和性が高いと思います。

 こうした元データを複合アーカイバで束ねて1つの書籍コンテンツとして作ることができます。4つの方式は、目的と手間を考えて、出版社様に採用いただきます。1つの書籍コンテンツの中で混在させることもできます。たとえば雑誌では、広告面はページイメージで、記事面は本文のテキスト表示に対応するといったこともできます。

―― 現在提供中のコンテンツでは、どのパターンが多いのでしょうか。

中村:雑誌ですとハイブリッド形式が多いようです。本文のテキストはデジタルデータとして持っている場合が多いので、ページイメージとテキストを用意すれば、もう一手間かければ電子ならではの使い勝手ができるということで、比較的人気の高い作り方です。

読み方が変わる~プッシュで届く新聞・雑誌コンテンツ

メディアタブレット「GALAPAGOS」のサイト

―― 現在のGALAPAGOS用の電子書籍のラインナップはどのような感じでしょうか。

笹岡:現時点では約2万4000冊で、日々増えています。

 サービスとしては、本を買いやすいように、リアル書店と同じような構成を取っています。書店のテーマごとのコーナーに相当する「スクエア」、通りに相当する「ストリート」、レジ前の平台に相当する「特集」を用意して、書店の店員さんが勧めるようなようにしています。たとえば、特集で平野啓一郎さんのインタビューを掲載して、実際の作品に誘導するようなこともしています。

 定期購読できるコンテンツを揃えている点も特徴です。新聞では、日経新聞、Maichichi iTimes、西日本新聞の3紙でスタートしており、スポニチも予定しています。今後拡充していく中では地方紙にも声をかけていて、前向きに検討いただけています。たとえば関西から関東に引っ越した人が、関西の新聞を読めるというのはメリットだと思います。

中村:私も日経新聞の電子版を契約しているのですが、今までは携帯電話に配信された見出しを通勤途中などでチェックしてパソコンで本文を読むという使い方をしていました。そうすると気になった記事しか読まないんですよね。ところが、GALAPAGOSに配信されると、記事本文が全部ダウンロードされているので、モバイルでもサクサクと読み進められふだん読み飛ばしていた記事も読むようになりました。

笹岡:雑誌では、5大ビジネス誌を揃えているほか、一般誌も約40誌程度読めます。単体で買えるものもありますし、定期購読で読んでいただくこともできます。

中村:おすすめ情報が届くと、試し読みもできますし、そこですぐ買えるようにもなっています。すると手軽なので、私もつい買ってしまうんですよね、特に新幹線の中などで。

―― 今後の雑誌のラインナップの方向性はどのようにお考えでしょうか。

中村:現在はビジネス誌が多いですが、今後はユーザーターゲットをどう広げるかを考えています。テーマ別にコンテンツを紹介する「スクエア」のコーナーには現在のところ、ビジネス向けの「丸の内スクエア」、ファッションや美容などをテーマにした「白金スクエア」、文芸を中心とした「神田スクエア」がありますが、今後はもっと幅広い趣味嗜好に応えるラインナップを拡充し、さまざまなスクエアを作っていきたいと考えています。

アプリケーション版や海外展開も

―― シャープでは、PDA「ザウルス」の頃から電子書籍の販売をされていますが、これまでのサービスとGALAPAGOSの大きな違いは何でしょうか。

中村:いままでやっていたのは、小説や文字などを中心としたコンテンツの単品販売でした。シャープではこれに加えて、新聞や雑誌を配信できる仕組みを作りたいと考え、電子書籍ならではの豊かな表現を実現するXMDFの開発や、毎日自動配信する仕組み、定期購読型の販売モデル、読みやすいユーザーインターフェースなど、さまざまな仕組みを研究してきました。それが結実したのがGALAPAGOSということになります。

 GALAPAGOSでは、読みやすさのために、液晶も自社で専用のサイズを独自開発しました。モバイルモデルの5.5インチ液晶は、人間の手で安定して持ててスーツの胸ポケットにも入るサイズから画面を割り出しました。ホームモデルの10.8インチ液晶は、同じ比率で、見開きの雑誌も読めることと、持ち運べるぎりぎりのサイズで作りました。

―― ハードの設計はいつごろからやっていたのでしょうか。

笹岡:2年ぐらい前ですね。

中村:XMDF 3.0も構想は2年ぐらい前から、大筋が決まったのは1年前です。出版社からのご意見もいただきながら、サービスインまでブラッシュアップしてきました。

 こうした取り組みを経て発売する運びとなったのですが、それがたまたま「電子書籍元年」と呼ばれる2010年の発売になりました。他社を意識していたわけではないのですが、タイミングとしては良かったと思います。

―― GALAPAGOS以外のハードウェアへの対応の予定はありますか。

中村:2011年春に、TSUTAYA GALAPAGOSストアサービスに当社製のAndroidスマートフォンが対応予定です。今後拡大が予想されるさまざまなタブレット端末にもサービスを提供していきたいと考えています。

笹岡:Kindleの専用端末とアプリケーションと同じようなもので、電子書籍を読むには専用端末が一番使いやすいようになっていますが、裾野を広げるためにアプリケーションソフトも用意するということです。

―― 今後、XMDF以外のフォーマット、たとえばEPUBへの対応は。

中村:XMDFにしか対応しないというつもりはありません。日本にはまだEPUBの書籍はほとんどないため対応していませんが、縦書きやルビなど日本語組版に対応したEPUB 3が規格化され、日本語のコンテンツが増えてくれば、対応していくことも考えています。海外には既にEPUBで何百万冊もの電子書籍がありますので、GALAPAGOSの海外展開では当然EPUBへの対応を検討しています。

 どうしても「EPUB対XMDF」とか、「(ソニー)Reader対GALAPAGOS」といった対立の構図で語られがちですが、市場の開拓期においてはナンセンスだと思っています。

 EPUBはパブリックなツールもありますので、たとえばユーザーコミュニティで小説を作るといった用途には向いてるかもしれません。用途によって適切なフォーマットを選択いただくことによって、まずは、電子書籍の点数を揃えることの方が重要だと考えています。


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(高橋 正和 / 三柳 英樹)

2011/1/17 06:00