山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

Google撤退~中国国内は報道少なく、超ヘビーユーザーはtwitterで抗議


グーグル(谷歌)撤退を大きく扱う国務院のページ

 Googleが検索サービスの中国撤退を発表した。「google.cn」「g.cn」「google.com.cn」へのトラフィックは香港の「google.com.hk」にリダイレクトされるようになった。Googleは検索サービスのみ香港に移転し、研究開発や営業拠点は中国に残す。

中国政府は公式に不快感を表明

 Googleの検索サービス撤退の一連の動きに対して、中国政府は不快感を示した。国務院新聞バン公室(バンに相当する日本語漢字はない)は「過去に中国進出の際に交わした書面での承諾を無視し、フィルタリングを止め、かつハッカーの攻撃を中国のせいにする。こうしたGoogleの、商業問題を政治問題化する方法に対して、強い不満と憤慨を表明する」とコメントした。国務院新聞バン公室のWebページでは、トップに大きな文字でこのトピックを掲載している。

 一方ニュースサイトの報道はといえば、これほど大きなニュースであれば特設ページが組まれ、ニュースページ下部に設置されたコメント欄に多数のコメントが書かれるのが普通だが、今回は老舗ポータルサイトの「新浪(Sina)」「捜狐(SOHU)」「網易(NetEase)」は、上記の国務院の発表について類推憶測を交えずに、小さく掲載したのみとなっている。

 特定ニュースに対してコメント欄を開放しないのは、きわめて珍しいことだ。また、大きなニュースなら、必ずといっていいほど設置されるニュースに対する投票欄も、今回は各紙とも設置していない。

 ちなみに「網易」は、Google撤退の可能性を示唆したときには「Googleが中国から撤退してもいいのか」という投票を開催。「撤退してほしくない」が1万1600票で、3151票の「撤退してかまわない」を大きく上回った。なお、この時のニュースページはすでに削除されている。

CCTV(中国中央電視台)のニュースでも、グーグル撤退問題に対する政府のコメントを流した網易サイトでは、1月の投票結果は残っているものの、投票のソースとなったGoogleが中国撤退を示唆したことを伝える記事は消えている

 こうした中、老舗ポータルサイト3サイトに迫る「qq.com」というポータルサイトが、このニュースをコメント欄付きで取り上げた。この記事は新華社の「新華網(新華ネット)」で配信された国務院発表に忠実な記事を転載したものだが、日本時間23日18時の時点ですでに1万近いコメントが書き込まれた。そのコメントの多くは「Googleは使ってない」「百度を使っているから」「外国企業に中国の金をあげたくない」など様々な理由で「撤退してかまわない」という内容であり、「撤退して欲しくない」という内容のコメントは少数だった。これら数少ない撤退を残念がるコメントの中には「まだ他国版でもいいからGoogleにアクセスできればいい」というコメントも見られた。

 憶測も含めた独自記事を掲載する著名でないサイトもある。そうした記事はたとえば、「百度の株価が上がる」「百度が中国検索市場を独占するだろう」「競合がないので検索広告の単価があがりはしないか心配だ」といった内容だ。

 「Google敗走中国的真正原因(Google中国で敗北し撤退する真の原因)」というタイトルの記事では、「ある知識人によれば、中国でのローカライズ不足で、中国人の利用習慣を把握しなかったため、中国市場で敗北し撤退に至った」と解説している。これらのあまり著名でないサイトでは、コメント欄は設置されているがコメントはついていない。

ポータルサイトQQでの掲示板の反応。撤退容認派が多数を占める

ブロガーの反応は

 ブロガーの反応はどうなのか。Googleアップデートで、中国語で「谷歌退出中国(Google中国撤退)」と検索すると、twitterで、言論の自由や撤退の真意について中国語(大陸で使われる簡体字が主)で討論しているのが見える。この件についてのブログ記事は23日18時現在(日本時間)、非常に少ない。

 ご存じの方も多いかもしれないが、実は中国ではtwitterへのアクセスはブロックされており、twitterは利用できない。しかし、VPNやプロキシーなどを利用して、なんとかして金盾(グレート・ファイアウォール)をくぐり抜けてtwitterを利用しているユーザーもおり、こうした人がGoogleの撤退をtwitter上で論議している。

 ニュースサイトのコメント欄とはうって変わって、twitterを流れるコメントはほぼすべての意見がGoogleの撤退を惜しみ、今後を憂慮する悲観的なもので、「Google中国は撤退した。ネットの粛正はこれからはじまる」というコメントが多くのtwitter上でコピーされている。

 では、twitterを利用する中国人はどれだけいるのか。「可能〓(〓は口へんに巴)」の「中文Twitter用戸群抽様調査(中国語twitterユーザー調査)」という調査でその数が垣間見れる。

 この調査は2010年1月末に実施、「性別・年齢・職業・学歴・所在地」を調査し、1000強の回答を得た。中国から普通の方法ではアクセスできないtwitterの中国人ユーザーなのだから、国外に在住する華僑がメインかと思いきや、「中国以外(グラフでは大中華以外)」や「香港」「台湾」は少数派だった。この調査の利用者データによれば、本土の沿岸部の都市の利用者が大半という結果だった。なお、調査に参加したのは1000人強であり、実際の中国人のtwitter利用者はもっと多いと思われるため、1000というサンプル数や結果が妥当なのかは判断しがたい。参考程度に見ていただきたい。

「可能〓(〓は口へんに巴)」の「中文Twitter用戸群抽様調査(中国語twitterユーザー調査)」による中国人twitterユーザーの分布

 1月18日に本誌で掲載した「“中国のシリコンバレー”Google中国前での献花運動が話題に」という記事では、ネット先進都市である北京のハイテクパークで働く人々は、インターネット歴が長い利用者が多く、転じて百度よりもGoogle派の人が多い、ということを紹介した。

 Google撤退実行のニュースで、インターネット歴が長いヘビーユーザーの多くが、報道される情報が公式発表をほぼ踏襲した内容に限られていることもあり、今回の事の成り行きを多角的に見ることも論議することもできずにいるが、その中でも金盾をくぐり抜けられる少数派の超ヘビーユーザーらは、twitter上で現状と将来を嘆いているようだ。

Googleアップデートからは、アクセスできないはずのtwitterでのやりとりが活発なのが見て取れる「人民英雄記念碑」という名で広まる、中国から消えたサイトや中国国内からはアクセスできないサイト

関連情報


2010/3/24 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。