期待のネット新技術

10BASE-T同様の仕組みに光ファイバーを用いて最大2kmを実現した「10BASE-F」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

ツイストペアの主流はいまだに10GBASE-TCAT 8.1/8.2ケーブルは25/40GBASE-Tへ向けた先行用途向け

 実を言えば、2019年6月に「COMPUTEX TAIPEI 2020」を取材した際、ケーブルメーカーがCAT 8.1/8.2のLANケーブルを意外なほどラインアップしており、「案外普及は早いのかもしれない」などと思っていたのだが、今のところ全く普及の兆しが見えていない。

2019年6月に開催された「COMPUTEX TAIPEI 2020」でのTwentsche Cablesという中国企業のブースの様子。CAT 8/8.1/8.2のケーブルを展示している企業は全部で10社ほどあった

 中には、25GBASE-TのDACをラインアップしているメーカーもなくはなかったが、その存在は少数にとどまっており、どうやら現状では、CAT 8.1/8.2のケーブルは「将来25/40GBASE-Tを通すときのために、先行して敷設しておこう」といった用途に使われているだけのようだ。

 ちなみに、CAT 8/8.1/8.2はいずれも正式な規格だが、CAT 8は「ANSI/TIA-588-C.2-1」として標準化されたもので、端的に言えば米国のみの規格である。一方のCAT 8.1/8.2は「ISO/IEC 11801」として標準化されている。

 CAT 8.1は従来のCAT 5~6Aと後方互換性を持ち、具体的に言えばRJ45コネクタを採用したものだ。CAT 8.2は、より伝達特性のいいコネクタを採用している。ただ、現実問題としてCAT 8.2は40GBASE-T専用に近く、コネクタも異なるため、これを敷設してしまうと既存のEthernetに接続できないということもあって、CAT 8.1が選ばれる例は多いようだ。

厳密に言えばケーブルの伝達特性への要求も異なり、CAT 8.1はISO/IEC 11801-99-1 2nd PDTR Class I、CAT 8.2はISO/IEC 11801-99-1 2nd PDTR Class IIとなるため、内部構造も異なる。ただ、このCAT 8.2ケーブルはあくまでも一例
GG45は、RJ45とARJ45の両方に互換性がある(同時に、ではない)タイプ。CAT 8.2ではARJ45かTera 8-contactsが使われる。いずれも出典は802.3bq TFのAlan Flatman氏による"Class I vs. Class II Cabling"

 そんなわけでツイストペアに関しては、いまだに10GBASE-Tが一番普及している規格ということになる。その10GBASE-Tもまだ普及途上という状況で、成熟には程遠いから、25G/40GBASE-Tの普及がはるか先になるのは、疑う余地もない。

最初に標準化された光Ethernet「IEEE 802.3d」最大ケーブル長2.5km、工場などの複数建屋間を接続

 その一方で、光ファイバーを使ったEthernetは、既に200Gbpsが普及段階であり、まだ標準化も終わっていないにもかかわらず、すでにさまざまなメーカーが400Gbpsに向けた準備を始めているという有様だ。アクセス回線などはともかく、コアネットワークの接続には、もはや光ケーブルしか考えられない状況となっている。

 そもそもEthernetが1983年に「10BASE5」として登場し、次いで1988年に「10BASE2」が追加されたわけだが、光Ethernetが世に出たのは、さらにそこからもう少し後のことだ。

 光Ethernetとして最初に標準化がなされたのは、「IEEE 802.3d」、通称「FOIRL(Fiber-Optic Inter-Repeater Link)」である。実は10BASE5が世の中に出た直後から、「500mでは足りない」という声が結構あった。例えば、複数の建屋にまたがる工場などで、それぞれの建屋の中のEthernetのケーブル長は100mにも満たない(1980年代だから、事務所くらいにしかEthernetの口を持つ機器は置かれない)が、建屋の間が数100mあったりすると、10BASE5ではどうしようもないということになる。

 実は10BASE5の場合、セグメント長(1本の10BASE5ケーブルの最大長)は500mだが、コリジョンドメイン(CDMA/CDで衝突を検出できる最大長)は2500mなので、間にリピーターを4つ介することで、2.5kmまでは延長ができた。しかし、そうした正攻法とは別に、以下の図1のように、2つのEthernetのセグメントを光ファイバーで繋いでしまう、一種のExtenderが独自に発売されていたりした。

 この理屈は簡単で、単にMAU(Medium Attachment Unit)を間に挟んで電気信号と光信号の双方向変換を行うだけだ。ネットワーク面から見ると、2つの10BASE5のセグメントが繋がって1本になっているように見えるかたちとなる。

 ここでミソなのは、光ファイバーを使えば、10BASE5のケーブルに比べて信号伝達が高速に行えるということだ。ご存じの通り、光の速度は秒速30万kmほどであるが、銅配線内ではここまでのスピードが出ず、おおむね60~75%となる秒速18~23万km程度となる。逆に言えば、銅配線を光ファイバーに置き換えれば、1セグメントの最大長を670~830mほどまでに伸ばせるということだ。

 実際にはMAUを挟むことによる遅延などもあるから、もう少し減るとは思うが、それでも到達距離が延びるのは大きなメリットだ。さらに言えば、10BASE5のケーブルは直径1cmで、しかも非常に曲げにくいものなので、細かい取り回しが大変不便だった。これを光ファイバーに置き換えると、曲げにくい(曲げ半径が大きい)のは10BASE5と大して変わらないのでさほどデメリットとはならず、むしろファイバーそのものが細く軽いことがメリットとなった。

 ただ、この独自Extenderは、やはり1セグメントを無理やり拡張するという点もあり、いろいろ問題があった。実際にある程度の距離を延ばしたときに通信障害を不規則に引き起こしたりする弊害や、独自規格がゆえにベンダー間の互換性がないことが問題視され、広く普及するには至らなかった。とは言いつつも、拠点間を光ファイバーで結ぶというアイデアにニーズがあることが認められたためか、きちんと標準化しようという機運が持ち上がった。

 こうして標準化されたのが「IEEE 802.3d」である。先の独自Extenderとの違いは、リピーターがきちんと間に入ったことである。速度はもちろん10Mbpsとなるが、距離は最大で1kmまで到達可能であり、それこそ拠点間の接続などに十分活用できた。

10BASE-Tと同様の仕組みで光ファイバーを利用「10BASE-F」、1993年に「IEEE 802.3j」として標準化

 ただ、このIEEEE 802.3dはあまり長くは使われなかった。はるかに構成が容易な「10BASE-T」が、10BASE2に続いて1990年に「IEEE 802.3i」として標準化され、これが普及したためである。ただ、10BASE-Tの配線は最大でも100mまでに限られていて、これを超える距離へのニーズは確実に存在した。そこで、10BASE-Tと同様の仕組みながら光ファイバーを利用する接続方法として、1993年に「10BASE-F」が「IEEE 802.3j」として標準化された。

 この10BASE-Fだが、実際には10BASE-FL/10BASE-FB/10BASE-FPの3種類の規格に分かれていた。ただ、どの規格もマルチモード光ファイバー2本で構成され、850nmのレーザー光を利用する点は共通していた。最大到達距離は“原則として”2kmとなっていたが、それぞれの詳細などは以下の通りだ。

  • 10BASE-FL
    ノード間の直接接続などのほか、FOIRLの後継としても利用される。FOIRLの場合はやはり図2のように、「Repeater+MAU」の構成となる。FOIRL対応の機器をそのまま利用できるメリットがあるが、その場合の最大到達距離は、FOIRLにあわせて1kmまでに制限された
  • 10BASE-FB
    "Fiber Backbone"でハブ―スイッチ間を繋ぐ目的で利用され、ノード間の接続には利用されない。同期型通信を行うことで、10BASE-FLを利用する場合に比べてレイテンシが減るメリットがある。また、10BASE-Tや10BASE-FLと異なり、最大セグメント数の5を超えての接続も可能だ(これはレイテンシの削減で可能となった)。
  • 10BASE-FP
    "Fiber Passive"で、パッシブハブ向けの規格。最大33のノードを接続できる。最大到達距離は500m

 ただ、10BASE-FPは標準化こそ完了したものの、これを採用したデバイスは筆者が知る限り皆無だ。10BASE-FBも、あまり広く使われたとは言い難く、この世代では結局のところ、10BASE-FLが最も使われた規格となった。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/