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SWDMを用いた100/40Gbpsの光Ethernet規格「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

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SWDMを用いた光Ethernet規格の確立を目指す「SWDM Alliance」

 ということで、今週からはIEEE非標準の光Ethernet規格を紹介していく。まず最初の「SWDM Alliance」は、2015年9月に結成された。創立メンバーはCommScope、Corning、Dell、Finisar、H3C、Huawei、Juniper Networks、Lumentum、OFSの9社だ。

 ちなみに、2019年9月20日に買収されたFinisarの社名は現在、買収先であるII-VI Incorporateとなっている(それを言えばDellも今はDell EMCになったが)。その後、アンリツ、Hisense、Huber+SUHNER、inneos、Panduit、Prysmian Group、Superior Essex、駿河精機、YOFC(長飛光繊)が加わり、現在は18社のメンバー企業で構成されている。

 SWDM Allianceの目的は名前の通り、「SWDM(Shortwave Wavelength Division Multiplexing)」を利用した光Ethernet規格の確立である。SWDMは、基本的にWDMの一種というか、異なる波長の光を重ね合わることで1本の光ファイバーへ複数波長を通すことで、結果的に広い帯域を容易に得られるようにする仕組みである。

 ただ、そもそもWDMは主に長距離通信向けに開発されてきた歴史的経緯もあり、主に利用されるのは、SMF向けに1000nm以上の波長を持つ光源だった。

 少し古い話だが、こちらの記事で紹介した「100BASE-BX10」が1310nmと1550nmの光源を利用するのに対し、SWDMは1000nm未満、具体的には波長846~953nmの光源を利用してWDMを構成しようという仕組みだ。ちなみに40Gbpsでは2~440m、100Gbpsでは2~150mの到達距離を見込んでいる。

 これを利用することのメリットは、MFMが利用できることだ。データセンター内や、ラック内の配線としてSMFを使うのは、技術的には可能ながら価格の面が厳しい。そこで、安価なMMFを利用可能な40~100GbpsのEthernet規格を、という声に応えるべく、SWDMを利用したMMF対応規格の策定に向け、SWDM Allianceが結成されたわけだ。

100Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と40Gbpsの「40G-SWDM4-MSA」

 ちなみに、SWDMの基本的な仕組みが以下だ。4つの光源を利用し、これをWDMでまとめることで通信速度を引き上げるという理屈である。面白いのは、SWDM Allianceでは「40G-SWDM4-MSA」と「100G-SWDM4-MSA」の2つの規格を定めているが、構造はどちらも同じとなっていることだ。

これは40Gのものだが、100Gの図も全く同じだ。出典は"40G SWDM4 MSA Technical Specifications Rev 1.1"

 つまり、40Gbpsの場合は10Gbps×4、100Gbpsの場合は25Gbps×4となる。利用する波長は送受信とも以下であり、40Gの場合は10.3125GBd±100ppm、100Gの場合は25.78125GBd±100ppmとなる。

  • L0:844~858nm
  • L1:874~888nm
  • L2:904~918nm
  • L3:934~948nm

 細かいパラメーターには微妙に異なる箇所は当然あるものの、おおむね変わりはない。妙な点は、100G-SWDM4-MSAではL0~L3のRMS spectral Widthが全て0.59nmとなっているが、40G-SWDM4-MSAはなぜかL0だけ0.53nm(L1~L3は0.59nm)に設定されていて、相違が見受けられる点だろうか。

 ちなみに光ファイバーはOM3/4/5を利用することになるが、波長がこれだけ異なると、Bandwidthがレーンごとに異なるという、やや厄介なこととなっている。到達距離については、40G-SWDM4-MSAと100GBASE-SWDM4-MSAのどちらも、当然ながら最も条件が厳しいL3にあわせて定めることになる。

レーンOM3OM4OM5
L0210846064700
L1178232943700
L2152324802880
L3131919812500

 ※(単位:MHz・Km)

 また、Specificationによれば、以下の到達距離の確保が要求されている。ちなみに変調方式は「NRZ」で、特に凝ったことはしていない。

レーンOM3OM4OM5
40G-SWDM4-MSA2~240m2~350m2~440m
100G-SWDM4-MSA2~75m2~100m2~150m

100G-SWDM4に最適なトランシーバーモジュール「QSFP28」

 トランシーバーモジュールには「QSFP28」の利用が念頭にあったようで、ホワイトぺーパーにもQSFP28を利用した構造図やモジュールが実際に示されている。

 QSFP28は、こちらの記事で紹介した通り、NRZで100G、PAM-4で200Gを狙ったモジュール規格となるため、100G-SWDM4には最適と言える。

光源にVCSELを利用していることを妙に強調した「QSFP28」のブロック図。SWDM自体がVCSELを利用することを前提とした規格だから当然かもしれない。出典は"SWDM: The Lowest Total Cost Solution for 40G/100G in the Enterprise Data Center"(Finisar)

 一方の40G SWDM4であるが、Specificationには以下の英文があり、基本QSFP+のモジュールを利用することになっていた。

Different form factors for the transceivers are possible. Initial implementations are expected to use the QSFP+ module form factor. Other form factors are possible and are not precluded by this MSA.

(さまざまなフォームファクターを利用できるが、最初の実装では「QSFP+」の利用を想定しており、MSAはほかのフォームファクターのことは考慮しない)

 ただ、現実問題として、40G SWDM4対応のQSFP+モジュールを探しても、II-VI(旧Finisar)のモジュールと、その後継製品くらいしか見付からなかった。

 要するに40Gのモジュールはもう求められていなかった、ということなのかもしれない。Finisarは2017年9月に初代モジュールの出荷を開始しているが、そもそも40G-SWDM4の目的は、1対のMMF Fiberで40Gbpsに対応できるというものだから、可能性としては、既に導入されている「10GBASE-SR」あたりからの置き換えということになる。

 ところが、もうバックボーンはとっくに10Gでは足りなくなっていた。それこそ「100GBASE-SR10」あるいは「100GBASE-SR4」を導入したり、といった頃だ。この時期に40Gのモジュールを出しても、今さら遅かった、というあたりではないかと思う。

 ちなみにFinisarのモジュールのデータシートを読むと、冒頭に「Allows upgrades from 10GBASE-SR without changing fiber plant」と書かれており、基本的には10GBASE-SRからの置き換えを狙っていたようだが、あいにくそうした顧客はそれほどいなかった、ということだろう。

 一方の100G-SWDMモジュールの方は、消費電力も3.5W未満と低く、既存のMMFも活用できる。

II-VIの100G-SWDMモジュール。これだけみるとSWDM4かどうか分からない。出典は"SWDM: The Lowest Total Cost Solution for 40G/100G in the Enterprise Data Center"(Finisar)

 妙な話だが、100GBASE-SR10を導入すべく大量のMMFを敷設した顧客が、モジュールを変えるだけで利用帯域が10倍になる。要するに数にして10倍のモジュールを、ケーブルを変えずに利用できるわけだ。これもあって、既存のデータセンターの更新などの際に採用される事例が少なくなかったと聞いている。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/