第383回:ハイエンドNASはどこがスゴイのか?
Core 2 Duo搭載の8ベイNAS「Thecus N8800PRO」


 低価格製品からエンタープライズ向けまで、幅広い機種が手に入るようになったNAS。そんな製品の中で、エンタープライズ向けでありながら、比較的リーズナブルな価格で販売されているのがThecus(シーカス)の「N8800PRO」だ。その実力を実際に試してみた。

意外に手頃なエンタープライズ向けNAS

 見るからに迫力のある2Uラックマウントのサイズ、飾りっ気のないデザイン、いかにも冷えそうなメッシュの筐体と高速ファン。恐らく、Thecusの「N8800PRO」を目にした人の多くは、自分には関係のない製品だと考えることだろう。それもそのはず、本製品はThecusがラインナップする製品の中でハイエンドに位置するモデルとなり、いわゆるエンタープライズ向けの製品となっている。


Thecusのエンタープライズ向けNAS「N8800PRO」。Core 2 Duo搭載の高性能8ベイ対応NAS。価格は23万円前後で、中小・部門単位でも手が届く存在と言える

 しかしながら、この製品は用途によっては非常に魅力的な製品と言えるだろう。家庭や個人事務所レベルでの設置はさすがに難しいが、10台前後のクライアントしかないような小規模の現場で、デザインや設計、医療など、大容量のデータを安全かつ高速に扱う必要がある場合には、据え置き型のNASとは比べものにならないほどのパフォーマンスと信頼性の高さを得ることができる。

 価格はエンタープライズ向けNASとしては意外にリーズナブルで、HDDレスの本体価格は実売で23万円前後となっている。本製品は8ベイ対応なので、仮に1TBの市販HDDを8台を用意したとしても、初期導入コストを30万円以下に抑えられる。

 ラックマウントということで、かなり敷居が高い印象もある。しかし、別途ハブなどの通信機器やアプリケーション用サーバーなどと一緒に小型の19インチラックに収めてしまえば、タワー型のPCサーバーを複数台設置するより場所を取らないだろうし、管理も楽になる。

 同様のラックマウントタイプのNASは、バッファローやアイ・オー・データ機器といった国内メーカーからも一部発売されている。今後、中小規模の現場でも、こうした製品が注目を集めてくることだろう。

Core 2 Duo搭載で10ギガイーサにも対応可能

 それでは製品を見ていこう。外観に関しては冒頭に触れたように、2Uのラックマウントタイプとなっている。実測サイズは420×90×590mm(幅×高×奥行)程度で、それなりに大きい。


本体正面側面

背面「DOS/V POWER REPORT」誌と比較したところ。その大きさがわかるだろう

 HDD用のベイは3.5インチ用が8つ搭載されており、フロントカバーを開いて、専用カートリッジで取り付けるようになっている。フロント部にはIPアドレスの設定などが可能な液晶パネルとボタン、さらに電源スイッチなども用意されている。また、インターフェイスも豊富で、USB 2.0インターフェイスはフロントとリアに2ポートずつの合計4ポート、背面に外付けHDD用のeSATAポートを備えている。

 スペックも豪華だ。CPUはモデルやクロックは明らかにされていないが、「Intel Core 2 Duo」を搭載。メモリーは、4GBのDDR2 SDRAMを搭載している。ネットワークインターフェイスは背面に1000BASE-T対応のポートが2つ用意され、電源も350Wのリダンダント(冗長)、4基搭載するファンもホットスワップ対応と、万が一のトラブルに備えて主要なパーツの冗長化が図られている。

 内部にはPCI-Express x8対応のスロットも1つ用意されており、「Intel Ethernet Server Adapter X520-DA2」など、本製品に対応する10ギガビットイーサネットアダプターを増設することで、10ギガビットでの通信も可能となっている。スペック的に見れば、値段がもう一桁高くても不思議ではないといった印象だ。


フロントに3.5インチ×8のHDDベイを搭載。2TB HDDを使えば最大16TBのストレージとして利用できるHDD用のマウンター

CPUにはCore 2 Duoを搭載。PCI-Express x8を利用して10ギガビットイーサネットにも対応できる二重化された電源。利用時は片方が110W前後、もう片方が20W前後の電力を使用。もちろん、片方の電源が停止しても稼働を継続することができる

 なお、Thecusのエンタープライズ向けNASには、タワー型の「N7700PRO」という製品もラインアップされており、こちらの製品も「Core 2 Duo」搭載で10ギガビットイーサネット対応になっている。HDDは7ベイで、電源の冗長性を確保する必要する必要がないのであれば、価格も実売13万円前後なので、こちらを選ぶのも良い選択だ。絶対的な信頼性という点では「N8800PRO」だが、コストパフォーマンスの高さと設置場所を考慮する場合には、「N7700PRO」も検討してみるのも良いだろう。

RAID 6対応でiSCSIでも利用可能

 実際の使い方だが、エンタープライズ向けとは思えないほど簡単だ。本コラムで以前に「N4200」という製品を取り上げたが、設定方法や設定画面の構成はほぼ一緒だ。

 今回は機材の関係で1TB×4、1.5TB×4(うち1台がSeagate製、残りはWestern Digitalの「WD10EADS/WD15EADS」)を利用したが、これらのHDDを本体にセットし、フロントの電源ボタンで電源をオン。数分後に起動が完了するので、フロントパネルのボタンを使って、WANポートのIPアドレス(標準では192.168.1.100固定)を実際の環境に合わせてセットする(付属のCDからも設定可能)。その後、ネットワーク上のPCからブラウザーを使って設定画面にアクセスするという流れだ。


コンシューマー機と同じインターフェイスの設定画面。エンタープライズ向けとしては使いやすく、メディアサーバー機能なども搭載しており機能も豊富だ

 セットアップのタスクとしては、RAIDの構成、共有フォルダーの作成、ユーザーの追加といったあたりがメインになる。

 まずはRAIDだが、本製品は複数のHDDを1つのドライブとして使用できる「JBOD」や「RAID 0/1/5/6/10」に対応している。コンシューマー向けのNASであれば、「RAID 0」か冗長性を考慮しても「RIAD 5」で使うのが一般的だが、本製品の場合、やはり信頼性を確保することが重要なので、「RAID 6」もしくは「RAID 10」で利用するのが良いだろう。

 今回は、前述したHDD構成で8台すべてのドライブを利用し、「RAID 6」を構成してみた。「RAID 6」構成の場合、1TB×8=8TBのうち2台分の容量がパリティに使われるので、実容量は約6TBとなる。HDDが5~6台の場合、RAID6構成では実容量が大幅に減るのでもったいない気がするのだが、さすがに8台も搭載されていると余裕だ。これで最大で2台のHDDが故障したとしてもデータを保護することが可能となる。

 ただし、RAIDの構成に関しては、容量によっては非常に時間がかかるので注意が必要だ。今回の場合でも、RAIDの構成を開始してから、完了するまでに約22.5時間ほどの時間を要した。より容量の大きいHDDを利用する場合、すべてのセットアップが完了するまでに数日ほどを見込んでおく必要があるだろう。


JBOD、RAID 0/1/5/6/10に対応。HDDが8台搭載できるのでRAID 6が容量や信頼性を考えても有利だろう

 HDDの構成が完了したら、共有フォルダーを作成するのだが、一般的なSMBでの利用はもちろんのこと、本製品はiSCSIにも対応している。iSCSIのターゲットボリュームは未使用領域を使って作成する必要があるが、標準ではRAIDの構成時に全容量の5%ほどが未使用領域として残っているので、これをiSCSI用に利用できる。

 もちろん、はじめからiSCSIを利用する予定がある場合は、RAIDの構成時に、その容量を見込んで残しておくと良いだろう。

 最後にユーザーの追加だが、通常のNASと同様にローカルにユーザーを作成することも可能だが、今回はエンタープライズ向けということで、Windows ServerのActive Directoryを利用してみた。ユーザーの設定画面で「ADS」設定を選び、ドメイン名、ドメインコントローラーのサーバー名、Active Directory(AD)の「FQDN(Fully Qualified Domain Name)」、管理者アカウントを指定すると、ネットワーク上のWindows Serverへ接続され、認証の利用が可能となる。


Windows ServerのActive Directoryとの連携も可能。Windows Serverベースのファイルサーバーからのリプレースや併用にも最適

 今回は、Windows Server 2008 R2をWindows Server 2003モードで構成した環境で利用したが、問題なくN8800PROからAD上のアカウントを参照することができた。具体的には、共有フォルダーの設定画面で同期を実行すると、一覧にAD上のユーザーやグループが表示されるようになる。このアカウントやグループを利用して、N8800PRO上の共有フォルダーのアクセスを制限すれば良いというわけだ。

 中小規模の環境では、Windows Serverをファイルサーバーとして利用しているケースが少なからず存在すると思われるが、このような環境に追加する形でN8800PROを導入すれば、ユーザー管理は以前の環境を引き継ぎながら、ファイル共有環境を手軽にアップグレードすることができる。ファイルサーバーのリプレースという点で考えても、かなり手軽に使えそうだ。

 このほか、スケジュールによるオンオフやISOマウント機能、さらには外出先などからも利用できるWebアクセス機能も用意している。


スケジュールによるオンオフにも対応メディアサーバー機能も搭載

地味だが便利なISOマウント機能Webディスク機能で外部からのアクセスも可能

同時利用時のパフォーマンスが抜群

 最後にパフォーマンスについて見ていこう。本製品はNASとしてかなり高いパフォーマンスを実現できる製品で、特に複数ユーザーで利用したときの速度の落ち込みがかなり抑えらられている。

 まずは、単体のPCからアクセスしたときのパフォーマンスだが、以下のように通常のファイル共有では読込で70MB/s前後、書き込みで110MB/s前後、iSCSIでは読み書きともほぼ100MB/sとなった。

 この結果に関しては、正直さほど高いものではない。実際、比較としてWindows Home ServerをインストールしたPC(Intel Atom D510/RAM4GB/WD10EADS/オンボード1000BASE-T)の値も計測してみたが、それほど開きは見られなかった。値を見るとほぼ500~800Mbps前後となっているので、1000BASE-Tがボトルネックになっている印象だ。

 なお、クライアントにはIntel Core i7 860/RAM4GB/SAMSUNG HA501LJ/RealTek 1000BASE-T/Windows 7 Ultimate 64bit搭載機を使用している。


N8800PRO SMBの結果N8800PRO iSCSIの結果AtomD510 Windows Home Serverの結果

 続いて、複数のPCから同時にアクセスした際のパフォーマンスを検証してみたのが以下の画面だ。3台のPCを用意し、1台目は共有フォルダー上のAVCHDの映像(17Mbps)を再生、2台目はトータルで約13GBになるJPEGファイルを共有フォルダーに対してコピー、この作業をしながら3台目のPCでCrystal Disk Mark 2.2を実行した。


N8800PRO SMBの結果N8800PRO iSCSIの結果AtomD510 Windows Home Serverの結果

 この結果を見ると、N8800PROの性能の良さがわかる。SMB、iSCSIともに若干の速度低下は見られるが、かなり高い転送速度を維持できている。

 ただし、この場合でも、やはりネットワークがボトルネックになることは変わらない。値としては確かに高いが、ベンチマーク中に再生しているAVCHDの映像は、ところどころで瞬間的に止まることがあり、決してスムーズに再生できたとは言えなかった。

 そこで、さらにN8800PROのネットワーク機能を利用し、2ポート用意されているLANでロードバランスを設定してみた。N8800PROでは、ネットワークのリンクアグリケーションとして、ロードバランス、フェイルオーバー、802.3adの3種類を設定可能だが、ここではロードバランスを選択した。


N8800PROでロードバランス設定後のSMBこちらはロードバランス設定後のiSCSI

 上記の結果は1台のクライアントからアクセスしたときの値だ。処理の関係で、全体的なパフォーマンスが通常のネットワーク構成時よりも低くなってしまったことがわかる。しかしながら、この構成の場合、以下のように、今度は複数クライアントからアクセスしてもパフォーマンスの低下はほとんどみられなくなる。


N8800PROでロードバランス設定後のSMBに複数クライアントからアクセスした場合こちらはiSCSIの場合

 実際、標準のネットワーク構成では、ベンチマーク中に映像が止まることがあったAVCHDの再生も、ロードバランスを設定して以降は極めてスムーズに再生されるようになり、全体的な安定性がかなり向上した。

 例えば、iSCSIで仮想環境のストレージとして本製品を使うといった場合など、単純にパフォーマンスを求めるのであれば標準設定、もしくは可能なら10ギガビットイーサネット環境が適しているが、複数ユーザーで利用する場合はこのような設定も考慮した方が良さそうだ。

設置場所が確保できればお買い得

 以上、Thecusのエンタープライズ向けNAS「N8800PRO」を実際に使ってみた。ラックを設置できるスペースと、爆音と言ってもいい音を遮断できる環境が用意できるなら、価格的にも、パフォーマンス的にも、信頼性の高さ的にも、間違いなくお買い得な製品と言える。

 管理面などを考えると、大規模な環境なら既存サーバーのバックアップや仮想環境のストレージとして利用するのが適しているが、比較的小規模な環境でも大量のデータを日々扱うのであれば、これくらいのスペックのNASを用意しておいた方が、パフォーマンス的にも安心だ。

 大容量のHDDが安く購入できるようになってきたことを考えると、こういった海外製のコストパフォーマンスの高いNASと市販のHDDという組み合わせは、今後、さらに存在感を増してくると考えられる。国内メーカーの製品には、使いやすさや付加価値などといった魅力があるが、圧倒的なパフォーマンスというのも、これからは大きな魅力の1つになってきそうだ。


関連情報

2010/3/16 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。