Atom D510搭載でパワーアップした「Acer Aspire easyStore H342」


 Acerから、Windows Home Serverを搭載したホームサーバー「Aspire easyStore H342」が発売された。従来モデルや競合モデルとの違いを中心に製品をチェックしていこう。

活性化が期待されるWindows Home Server市場

 ここ数カ月、Windows Home Serverを搭載した新製品の登場が相次いでいる。先日、本コラムでもレビューしたHPのMediaSmart Server EX490、同じくHPの法人向け製品StorageWorks X510 DataValut、そして今回取り上げるAcerのAspire easyStore H342だ。

 実質的にはHPの参入しただけに過ぎないが、新たに投入されたHPの製品のインパクトが強かっただけに、市場全体が若干のにぎわいを見せている印象だ。

 消費者にしてみれば、家庭用のネットワークストレージ製品の選択肢が広がったことを素直に喜びたいところだが、メーカー側、特にHPとAcerについては、これからが勝負どころといったところだろう。決して大きいとは言えないWindows Home Server市場で競い合いつつも、市場全体を広げていかなければならないことになる。

 個人的にはぜひ国内メーカーも参入してほしいところだが、まずはAcerとHP、この2メーカーに魅力的な製品の継続的な投入を期待したいところだ。

Acerの新型ホームサーバー「Aspire easyStore H342」。Atom D510搭載でパフォーマンスの向上と低消費電力化が図られている

旧モデルから内部を刷新

 というわけで、今回取り上げるのは、そのAcerから新たに登場したAspire easyStore H342-S5だ。

 同社は、すでに2009年からAspire easyStore H340というホームサーバー製品を国内で発売していたが、今回のH342ははその後継に当たるモデルとなる。

 従来モデルと見分けがつかないほどそっくりな外観は、まるでサイコロのような印象の立方体となっており、シンプルながら安定感のあるデザインとなっている。

旧モデルのH340(左)と新モデルのH342(右)。外見ではほどんと区別が付かない

 登場当初は、4台のHDDを搭載できるストレージ製品としては、コンパクトな製品であったが、最近ではNASなどを中心に、もう少しサイズの小さな製品も登場しており、決して大きくはないものの、コンパクトとも言いづらいサイズと言ったところだ。

 HDDは前面のパネルを開くことでアクセスできるようになっており、専用のHDDカートリッジを使って、前面から装着する。

 今回試用したモデルはH342-S5という型番の1TBモデルで、一番下のベイにSeagate製の1TB HDDが1台装着されていた。HDDドライブはモデル変更されているものの、こういったアクセス性の良さも旧モデルと同じく、相変わらず高い完成度だ。

正面側面背面
前面のカバーを開けるとHDDにアクセス可能。最大4台搭載可能。試用機では一番下にSeagate製の1TBのHDDが搭載されていた

 このように従来モデルとの違いがわかりにくいH342だが、どこが新しくなったのかというと内部のスペックだ。従来のH340はシングルコアのAtom 230(1.6GHz/HT対応)を搭載していたが、これがデュアルコアのAtom D510(1.66GHz/HT対応)へと変更され、パフォーマンスの向上と低消費電力化が図られている。

 このほか、搭載されるアプリケーションがバージョンアップしているなど、若干の違いはあるものの、利用できる機能はほとんど従来モデルと同じとなるため、今回の新製品の最大のポイントはAtom D510が搭載されたことと言えるだろう。

 なお、メモリについては今回試用した1TBモデルは1GBとなっているが、3TBモデルのH342-S6は2GBとなる。マザーボードはMini-ITXベースながらスイッチやHDDなどのインターフェイスに専用のコネクタとケーブルが使われるなど、相変わらずの専用設計だが、メモリスロット自体は通常のPC用と同じとなるため、DDR2のメモリに差し替えることでメモリの増設は容易に可能だ。

内部の様子。mini-ITXベースだがコネクタ類が専用設計のマザーボード。メモリは交換すれば増設も可能

Atom D510の実力はいかに?

 では、実際のパフォーマンスを検証していこう。手元にあったH340とパフォーマンスを比較してみたのが、以下の画面だ。

 Core i7 860/RAM8GB/HDD500GB/オンボード1000BASE-T/Windows 7 Ultimate搭載のPCから、サーバー上の共有フォルダーをネットワークドライブとして割り当て、CrystalDiskMark3.0dを実行した値となる。

旧モデルとなるH340の結果(100M)旧モデルとなるH340の結果(1000M)
新モデルのH342の結果(100M)新モデルのH342の結果(1000M)

 項目によって新旧モデルで若干の違いはあるものの、NASとしての性能はほぼ互角という印象だ。H342の方が1000MBのシーケンシャルライトが速いので、大容量のデータの保存といった点では若干有利といった程度だろう。

 現状、在庫がいつまであるかはわからないものの、旧モデルとなるH340は新モデルよりかなり低価格で購入できる。オンラインショップの実売価格で見てみると、H340-S4(3TBモデル)のは3万6800円で、新モデルのH342は1TBモデルのH342-S5が5万6465円、3TBモデルのH342-S6は7万1319円だ。

 この価格差を考えると、あえて旧モデルを選ぶを選ぶのも悪くない選択だ。しかしながら、トータルで考えると、この価格差も決して高くないと思えるようになる。

 まず、消費電力の問題だ。Atom D510は非常に低消費電力性能に優れたCPUとなっており、実際にシステム全体が消費する電力も低く押さえ込まれている。

 ワットチェッカーで実際に新旧両モデルを比較してみたところ、新モデルのH342(HDD1台)は平均して27W前後しか電力を消費しないのに対して、旧モデルのH340(HDD1台)は43W前後もの電力を消費していた。基本的に常時稼働させることになるサーバー製品では、この消費電力の違いは大きいだろう。

 また、静音性にもAtom D510が大きく貢献している。新旧両モデルとも側面の12cmファンで内部を冷却しているが、このファンの回転数を確認してみたところ、旧モデルのH340は1300rpm前後、新モデルのH342は750rpm前後と半分近い回転数に押さえ込まれている。

Atom D510のおかげで消費電力が大幅に低下。常用時で27W前後側面のファン。12cmファンが低速で回転している
H340(左)とH342(右)のファンの回転数の違い。新型のH342は750rpmという低い回転数でファンが回っているので無音と言えるほど静か

 デュアルコアの分、CPUの温度は高くなっているが、このファンのおかげで動作音はほとんど聞こえないほど静かで、HDDのアクセス音が聞こえなければ、動いていることさえまったく意識しなくて済むほど静かだ。

 また、パフォーマンスについても、サーバー上でアプリケーションを動作させる場合に大きく影響してくる。単純にファイルを保存する、バックアップをするといった使い方ならさほど違いはないが、多くのAdd-inを利用するなどして、サーバー上でいろいろなアプリケーションを動作させるとなると、デュアルコア+HTによる処理性能が効いてくる。

H340(左)とH342(右)のデバイスマネージャ。ストレージのコントローラとプロセッサ、グラフィックなどが大きな違い。ネットワークは同じとなっているが、アプリケーションの動作などでパフォーマンスの違いが影響してくる

 つまり、以下の点を考慮すると、前述した価格差を考慮しても新モデルとなるH342を購入するメリットが見えてくる。正直、個人的にも手持ちのH340を処分して、H342に買い換えたいほどだ。

・約半分の消費電力によるランニングコストの低さ
・低回転のファンによるほぼ無音の静かさ
・デュアルコアによるアプリケーション処理性能の高さ

HPとどちらを選ぶか?

 このように、AcerのAspire easyStore H342は、中身を中心に大幅に従来モデルから進化した製品となっている。見た目だけで製品を判断してはいけないという良い例と言えそうだ。

 とは言え、従来モデルからいくら進化しているとは言え、ライバル製品と比較すると少々厳しい戦いを迫られることになりそうだ。

 前述したように、HPのホームサーバー製品は、同じく4台のHDDを搭載可能でありながら、コンシューマー向けのMediaSmart ServerでCeleron 2.2GHz搭載、Mac対応、多くの独自アプリ搭載で、価格は4万9980円とかなりの低価格が実現されている。

 この選択は、正直、ユーザーとしてはかなり悩むことになりそうだが、前述した静音性と消費電力では、Acer Aspire easyStore H342が一歩リードしている印象だ。多目的な用途にヘビーに使うならHPが有利だが、ファイルサーバー/バックアップサーバーとしてとにかく静かな製品が欲しいというなら個人的にはAcerをおすすめしたいところだ。

 見えにくい部分に特長がある製品だが、二世代目として着実に進化したホームサーバー製品と言えそうだ。


関連情報

2010/8/10 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。