イベントレポート

ブロックチェーンでビジネスが変わる

ブロックチェーンはなぜ注目され、なぜ恐れられているのか

 ブロックチェーンの最新事情を知ることができる「ブロックチェーンでビジネスが変わる~技術動向、ビジネス変革~仮想通貨の最新動向から危機管理まで」が4月13日、都内で開催された。主催は株式会社インプレス。

 同イベントは、ブロックチェーンの基本機能や技術動向、適用事例、今後の方向性、リスクへの備えなどについて、同分野の第一線のキーパーソンが解説する内容となり、情報通信、製造、金融・保険、卸・小売、電気・ガス・水道、建設などの幅広い業種から聴講者が参加。約200人が来場した。

あらゆる業種から参加した「ブロックチェーンでビジネスが変わる~技術動向、ビジネス変革~仮想通貨の最新動向から危機管理まで」

 「インターネットに次ぐ技術革新」といわれる「ブロックチェーン」は、データの改ざんが極めて困難であることに加えて、比較的安価にシステムを構築、運用できるという特性を持っており、昨今話題の仮想通貨での利用だけにとどまらず、企業活動の基盤として、あるいは社会基盤としての応用にも注目が集まっている。

 今回のイベントは、企業がブロックチェーン技術を活用する上で、必要となる基本的な情報や、黎明期ならではの不安材料およびリスクについて正しく理解することを目的に、半日間に渡って幅広い視点からプログラムを構成。ブロックチェーンの「今」を知ることができる内容となった。

中央管理者を不要にする可能性を秘めているのがブロックチェーン

 午後1時から行われた基調講演では、株式会社東京海上研究所主席研究員/東京海上日動火災保険株式会社業務企画部次長兼IT企画部参事の牧野司氏が、「ブロックチェーンの基本機能とビジネス変革の可能性について」をテーマに、ブロックチェーンの基本機能や技術解説、ビジネス変革の可能性のほか、シンギュラリティによって生み出される未来の世界についても言及した。

株式会社東京海上研究所主席研究員/東京海上日動火災保険株式会社業務企画部次長兼IT企画部参事の牧野司氏

 牧野氏は冒頭、ブロックチェーンのインパクトについて言及。未来学者であり作家でもあるドン・タプスコット氏が「今後、20~30年に最も大きなインパクトをもたらす技術はビッグデータでも、ソーシャルメディアでも、AIでもなく、ブロックチェーンである」と指摘したことを紹介。さらに「ブロックチェーンの最大の破壊力は、中央の管理者を不要とするところである」としながら、「中央管理者モデルでは、官僚主義であり、余分な時間やコストが生まれやすく、口座開設などの契約ができないため取引できない人たちが生まれる。こうした課題を解決できるのがブロックチェーンであり、中央管理の仕組みに慣れた金融業界などが焦りを見せている。ブロックチェーンは、あらゆる中央管理者を不要にする可能性を秘めており、だからこそ注目され、だからこそ一部から恐れられている」と指摘した。

 講演の中では、岐阜県飛騨高山市や飛騨市、白川村が、地域通貨としてブロックチェーンを活用した「さるほぼコイン」を発行していること、ガーナでは78%の土地が未登記であり、ここにブロックチェーンを活用した仕組みが導入されていること、さらには、東京海上日動では外交貨物保険証券をブロックチェーンで共有実証実験を開始していることなどを紹介。そのほかにも、中国では、歯を磨くと仮想通貨の報酬を得られる歯ブラシが発売されたり、パートナーや恋人との交際をブロックチェーンに記録すると改ざんが不可能になるため、自分と交際相手の過去の交際履歴が閲覧できるサービスが行われていたユニークな事例も紹介した。

 「中央管理者がいないということは、どんなアイデアでも、形にしやすいことにつながる。ブロックチェーンは、そうした可能性を秘めた技術である」とした。

シンギュラリティ時代に、人間は何をすればいいのか

 一方、人間の能力を超えた汎用人工知能が生まれたり、生物的限界を超えたポストヒューマンが誕生したりする「シンギュラリティ」にもついても言及した。

 レイ・カーツァイル氏などが創設したシンギュラリティ大学に、牧野氏が1週間参加。2045年に訪れるテクノロジーシンギュラリティにより、技術が幾何級数的に進歩。コンピューターや太陽光発電、遺伝子解析などのコストが劇的に下がり、エネルギー、交通、住宅、食料、医療など、生活に必要なものが豊富に供給され、限りなく無料に近づく世界が訪れると予測されていることに触れ、「嫌な仕事はやらなくて済み、自分が本当にやりたいことだけをやればいいという時代がやって来る。従来型の資本主義が成り立たなくなり、お金を重視する時代から、関係や信頼が大切な世の中がやって来る」などと述べたほか、「○○だけは人間にしかできないという幻想はなくなる。また、シンギュラリティ時代には、人の生き甲斐が変化し、物の価値や人の価値、能力を測る価値が変わってくる。ペーパーテストで測れる能力はシンギュラリティ時代には役に立たなくなる。仮に、お金ではなく感謝が価値の媒介になれば、Internet of Thingsではなく、Internet of Thanksの時代が訪れる」などと語った。

 最後に牧野氏は、「人間の能力をロボットが超える時代がやってきたときに、人間は何をすればいいのか。答は、人生を楽しめばいいということになる。人生を楽しむことは人間にしかできない。これからは、人生を楽しむという考え方が大切になる」と語り、講演を締めくくった。

 講演中には、いくつかのアンケートを行い、仮想通貨に関するイベントでありながらも、来場者のうち3分の2が仮想通貨を持っていないことや、何でも好きなことをして暮らせるならば何をしたいかという設問には、来場者から「旅行」「ボランティア」「ゴルフ」「農業」「ゲーム」などの回答が集まった。牧野氏は、2万円分のビットコインを所有していることを明かし、「仮想通貨を理解するためにも、あまり投資をせずに、少しだけ所有してみることがいい」と提案した。

 なお、「ブロックチェーンでビジネスが変わる~技術動向、ビジネス変革~仮想通貨の最新動向から危機管理まで」の内容は、別記事でも紹介する。