イベントレポート

IPv6 Summit in TOKYO 2018

IPv4に頼らない基盤を2025年までに確立――IPv6は、ビジネス環境整備のための新たなフェーズに

(左から)「IPv6社会実装推進タスクフォース」代表の江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授/IPv6普及・高度化推進協議会専務理事)、中村修氏(慶應義塾大学環境情報学部教授/IPv6普及・高度化推進協議会常務理事)

 「Internet Week 2018」との併催で11月26日に開催された「IPv6 Summit in TOKYO 2018」の会場において、「IPv6社会実装推進タスクフォース」の設立が発表された。これまでテレコム/インターネット関連団体が協力し活動してきた「IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース」を改名したものだ。その名が示すように、今後はIPv6を基調とするビジネス環境整備を目指した活動に切り替える。

 IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースではこれまで、IPv4アドレスが枯渇する局面における円滑なIPv6の導入推進が主な活動であった。具体的には、情報提供やアクションプランの制定・普及、テストベッドの提供や教育プログラムといった活動である。それらに対し、今後は「2025年までにIPv4に頼らない持続可能な技術的、社会的、経済的基盤を確立する」ことを目指して積極的な展開をしていくという。

 その発表に合わせたかたちで、同タスクフォースの代表を務める江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授/IPv6普及・高度化推進協議会専務理事)から、日本のインターネット接続環境におけるIPv6普及率の最新データが報告された。それによると、固定網では、NGN(NTT東西の光ファイバー回線「フレッツ 光ネクスト」網)におけるIPv6の普及率(同サービス契約者のうち、実際にIPv6ネットワークを使うことができる契約者)が、9月時点で54.7%となっている。2012年末には0.8%に過ぎなかったが、速いペースで進み、ここにきて半数を超えたということだ。

 また、モバイルネットワークでは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯キャリア3社が、2016年下期よりIPv6接続のデフォルト提供を進めてきており、2018年7月1日時点でその割合が17.1%となった。携帯端末には古いものが多いが、更新サイクルも早いことから徐々にでもその割合が上がっていくことが予想される。

 このように、インターネット接続サービスにおけるIPv6対応は着実に進んでいる。総務省が調査している「我が国のIPv6対応状況」の平成29年度調査分[*1]によれば、ISP全体では3割強(31.8%)だが、10万契約以上の利用者がいる大規模事業者では8割以上(87.5%)がIPv6に対応した商用サービスをすでに提供中である。

 一方で、世界に目を向けると、インドでのIPv6普及が大きく進展した点が注目される。江崎氏はこの点について、その理由を「モバイル系の安価な接続サービスがIPv6で提供されたことで、爆発的に普及が加速した」と述べた。例示された円グラフを見ると、世界のIPv6人口の国別内訳では、インドが44%と、2位の米国の21%のダブルスコアでトップ。以下、ドイツ6%、ブラジル6%で、日本は5%で5番目となっている。このあたりの情報について詳しく知りたい方は、ISOCの「State of IPv6 Deployment 2018」[*2]を参照していただくといいだろう。

 また、Googleが公開している統計データも良い参照先となる。ここでは、IPv6の採用状況を示した統計情報[*3]と、IPv6の国別採用状況[*4]を紹介する。このページは、いずれも日本語で解説されている。

課題は、サービス/コンテンツ側の対応

 前述したように、日本のインターネット接続サービスにおけるIPv6対応の進展=すなわち、インターネットのエンドユーザー側では、いつでもIPv6でインターネットを利用できる環境が整いつつある一方で、今後、期待されるのが、サービス/コンテンツを提供する側でのIPv6対応である。

 実際問題として、日本国内におけるサービス/コンテンツ側でのIPv6対応は遅れている。iDC(データセンター)やASP、政府機関や地方公共団体、一般企業といったサービス/コンテンツ側の対応がなかなか進まない状況があることは、先に示した総務省の「我が国のIPv6対応状況」で数字としてはっきりと示されている。

 iDC事業者全体では、IPv6対応をしているところは約2割(21.2%)であり、売上額100億円超の大規模事業者では3割以上(35.7%)あるが、中小規模事業者では1割程度(11.1%)であり、未検討・検討の上、提供しないとした事業者が5割以上(52.8%)を占めている。これがASPになるとさらに数字が下がり、売上高100億円超の大規模事業者で約2割(18.8%)、中小規模事業者で5.4%、未検討・検討の上、提供しないとした事業者の割合が6割を超える(66.0%)という状況である。昨年度と比較するとIPv6対応が微増しているとはいえ、お寒い状況であることに変わりはない。

 当然のことだが、利用者側がIPv6を使って通信をするようになると、サービス/コンテンツを提供する側もIPv6で通信できることが理想である。IPv6とIPv4の通信を変換するには多かれ少なかれコストがかかるし、そのことが通信速度や通信品質に影響するかもしれない。

 今後のことを考えると、IPv4は徐々にフェードアウトし、IPv6が主流になっていくことは明らかだ。江崎氏は、ハイパージャイアントの例や国内プロバイダーのIIJやさくらインターネットの例を出し、IPv6への対応がいかに重要かを呼び掛けた。また、「Abema TV」が2019年1月よりIPv6による動画配信サービスを開始することにも触れている。

 この中で江崎氏は、「AbemaTVに代表される、ハイパフォーマンスのサービスを必要としているサービス事業者がIPv6対応へ動くインセンティブが、我が国では存在している」と述べ、IPv4よりもIPv6の方がサービス品質の向上に対するアドバンテージがあるとした。

 日本の場合、多くのユーザーがNGNを利用している。このNGNがインターネット(ISP)と接続する部分に配置するのが「NGN網終端装置」である。この装置は県単位のようなエリアごとに設けられ、そのエリアにいるユーザーのトラフィックは必ず網終端装置を通過するかたちをとる。ある時間帯で多くのトラフィックが集まれば網終端装置を通過するトラフィックは輻輳(渋滞とか混雑)を起こすが、それがパケットロスやパケットの再送の原因となるために通信品質が下がってしまうということが起こりやすい。そして、「PPPoE」方式における網終端装置の増設には縛りがあり、その増設は容易ではない。

 PPPoEが主にIPv4ネットワークへの接続である一方で、最近話題になる「IPoE」方式は、IPv6ネイティブのネットワークへの接続になる。IPoEでは、PPPoEとは異なり、網終端装置の増設を柔軟に行うことができる。このことは(費用がかかるという問題はあるにせよ)、サービスレベルに合わせたトラフィックを処理するためのネットワーク設計を行いやすいということでもある。また、最近ではIPv4アドレスを節約するために多段NATなども使われていることから、IPv6を使うことでNAT絡みの問題から開放される。

 話の内容はシンプルで、IPv4を無理して使うよりもIPv6を使った方が素直な通信ができる。その結果、通信品質が上がるからIPv6を使いましょうということである。携帯電話網においても、LTE-Advancedや5GではIPv6技術が標準技術の一部になっていることから、通信をする際にIPv6ネットワークを選ばない理由はなくなってきている[*5]

IPv6は、新たなフェーズに入った

 これまでIPv6は、IPv4のアドレスが枯渇することへの対策として説明されることが多かった。広大なアドレス空間、現状から大幅に減るであろう経路情報、ルーターの負荷軽減、そのような文脈から離れて、通信品質の向上という利用者に直接訴えかけるメッセージに変わったことがポイントであろう。

 江崎氏は「今や、IPv6は実験・研究のフェーズではなく、商用オペレーションしてもらうにはどう進めたらいいのか、どうやって本格的にビジネスとしていくかを考えていくフェーズに入っている」と強調。「現在、実際にIPv4ベースで提供しているサービスを、どうやってスムーズにIPv6にマイグレーションできるのか」というということを考えつつ、ホスティング事業者やASP事業者、クラウド事業者などに、まずはIPv6環境を整備してもらい、企業や公的団体などもIPv6に移行できるようにしていきたいとした。

 現在のIPv4ネットワークが安定しているからといってIPv6への投資を怠ると、外堀がどんどん埋まってしまい、いずれ重い足かせとなってしまうかもしれない。IPv6社会実装推進タスクフォースが目指しているところは、このような点を事業者に周知し、米国やインド同様にIPv6への移行を積極的に推進していくものであろう。今後の活動に注目したい。

INTERNET Watchでこれまで掲載した「Internet Week」関連記事のバックナンバー(2009年以降)は、下記ページにまとめている。