イベントレポート

「ないものは作ってしまえ!」から約2年、自由なホームオートメーション「CL-SYSTEM」はここまで来た!

ナースコールに内線、カメラ、カーテンレール………

新たな機能がいくつか追加されたという「CL-SYSTEM」の現状を聞いた
2020年12月、東京ビックサイトで開催された「第3回 AI・スマート住宅EXPO」に出展していたクリティカブース

 鹿児島県の眼科医が経営するシステム開発会社「クリティカ」が、独自のホームオートメーションシステム「CL-SYSTEM」を順調に進化させている。

 「ないものは作ってしまえ!」という問題意識から開発が始まり、2019年5月から製品を発売した同システムだが、「オープンな規格を活用し、自由に開発できる」「低コスト」「クラウドに依存しない」という特徴をそのままに、デバイスの追加や、開発資料の整備、電気工事事業者との連携などを行い、着実に環境整備を行ってきた。

 2019年には同社取締役の川畑氏が経営する眼科医院がCL-SYSTEMを導入、鍵や照明、エアコンなどを自動制御したり、スマートフォンやパソコンなどから遠隔制御できる環境を整えていたが、今年は同氏の自宅でもリフォームを機に全面的にシステムを導入。そこで得られた知見をもとにアップデートを重ね、来年2月には国内の産婦人科医院への導入が決定、さらに別のクリニックでも導入検討が進められているとのことだ。

 これら施設への導入にあたっては、単純にCL-SYSTEMを設置するだけでなく、「医療施設ならではの困りごと」を解決するべく、導入先の医院と相談して追加開発も行なっているという。

 どのような機能が追加され、今のCL-SYSTEMはどんなフェーズにあるのか。12月6~8日、東京ビッグサイトで開催された「AI・スマート住宅EXPO」に出展していた同社ブースを取材しつつ、川畑氏にオンラインでインタビューを行なった。

 なお、CL-SYSTEMの詳細については、以下の各記事も参考にしてほしい。

産婦人科への導入……高額なのにつながらない「ナースコール」を置き換える

有限会社クリティカ取締役の川畑善之氏。鹿児島にいるためインタビューはオンラインで行なった

――CL-SYSTEMですが、川畑さんの眼科医院のほかに、導入が進んでいる施設があると伺ったのですが、近況を教えてください。

[川畑氏]はい、ある産婦人科医院で導入が決まり、すでに工事が進められています。稼働開始は2021年2月の予定です。あともう1箇所、導入に向けて話し合いを進めているクリニックがあります。

 産婦人科の場合は新生児を扱うので、人の出入り、不審者に関しては非常に注意しなければいけません。建物を増築する計画があるとのことでしたので、それに合わせてCL-SYSTEMの鍵の自動化・遠隔操作の仕組みを導入することになりました。また、監視カメラも一般的なメーカーのものだと、かなり高額になってしまうので、市販の安価な監視カメラとCL-SYSTEMを連携させ、低コストかつ高機能な構成を実現しました。

クリティカブースの展示物
従来からある鍵の制御を行なう仕組みもデモしていた

 また、内線電話についても費用を抑えたいとのことでしたのでAsteriskというオープンソースのIP電話ソフトウェアを使ったシステムを構築することになりました。さらに既存のナースコールの仕組みが500~1000万円もかかっているとのことでしたので、その代わりとなる「緊急通報システム」も開発しました。

 これらはCL-SYSTEMに必要なサーバソフト「openHAB」などを含め、すべてのソフトウェアを1台のNASに組み込んでサーバーとして動作させ、スマートフォンやパソコンなどから操作できるようにすることで低コスト化しています。

――低コスト、というところがポイントになるのでしょうか。

[川畑氏]今は新型コロナウイルスや医療費削減の影響で、多くの病院が厳しい経営環境にあります。その産婦人科医院も「システムにかかる費用をなるべく抑えつつ、利便性や安全性を高めたい」とのことでしたので、可能な限り安価にシステムを導入できる方法をとりました。

――ナースコール代わりになるという「緊急通報システム」について詳しく教えてください。

病室のナースボタンを押すと……
病室に設置している電話機(左)から発信。ナースステーションにある画面(右)にどの部屋でボタンが押されたかを表示する

[川畑氏]既存のナースコールの仕組みは、病室にいる患者さんがボタンを押したときにナースステーションに置いてあるランプがつく、というものが一般的です。ナースステーションから病室に内線を介して通話できたり、看護士の方が持ち歩いているPHSを使って通知や通話ができたりする場合もあります。

 「緊急通報システム」は、「医療用のナースコールと同等」というものではなく、あくまでも一般的な「通報用システム」として開発したものです。ただし、ナースコールに使うようなボタンや電話機をCL-SYSTEMと連携させ、これまでのナースコールと同じように動作する仕組みになっています。

――従来のナースコールと比べたときの「緊急通報システム」ならではの特徴はありますか。

[川畑氏]そうですね。そもそも、国内にある内線電話用ビジネスフォンのシステムは大変高額ですし、ナースコールも専用システムで非常に価格が高い。さらに、そうしたシステムのほとんどがPHSを利用しており、近々PHSのサービス自体が終了(停波)してしまうという課題を抱えています。

 さらに現場では「PHSがつながらない」「患者がボタンを押しても通知を受け取れない」といった動作不良も少なくないと聞いています。高価なのに使えない、というのでは意味がありません。

 今回は、AsteriskというIP電話として(ある程度)確立したシステムをCL-SYSTEMと組み合わせて使い、ビジネスフォン環境を構築していますので、比較的安価に導入できますし、つながらないようなトラブルは発生しにくくなっています。

――「緊急通報システム」は具体的にはどのように動作するのでしょうか。

[川畑氏]病室にいる患者さんがボタンを押すと、病室内の電話機が「緊急通報中です」というメッセージを室内に流しつつ、特定の内線電話番号に電話をかけます。かけた先の電話では、あらかじめ設定してある録音音声が室内に流れ、自動的に病室内の電話につながります。

 たとえば病室からナースステーションに電話がかかり、「〇号室から緊急通報がありました」といった録音データが再生され、インターフォンとしてつながる、という動作になります。

 ナースステーションで緊急通報を受け取ったら、その電話を使って病室の電話機とすぐに通話できますし、患者の方では電話機を操作せずにハンズフリーで通話できますので、電話口で状況確認のやりとりが可能です。必要に応じてスタッフがすぐに病室に駆けつけられます。

ナースステーションにある電話機に着信しているところ。病室の電話機と通話でき、必要な対処ができる
ナースボタンと電話機を接続する端末。これを各部屋に設置してCL-SYSTEMと連携させる。Raspberry Piがベースになっている

電話機のボタンで鍵の解施錠が可能に、安価な電動カーテンも開発中

――その他に新たに開発した仕組みはありますか。

[川畑氏]Asteriskで使える電話機には、モニターを持ったものもあるので、既存のシステムを応用して、インターフォンのボタンが押されると、電話機のモニターに訪問者の顔を映す、という仕組みも作りました。電話機のボタンを押して鍵の開け閉めやエアコンのオンオフをする、という機能も開発しています。

 たとえば留守中に両親が自宅に来たとき、インターフォンが鳴らされたら遠隔から映像を確認し、玄関扉の鍵を開けて、先に入っていてもらう、というようなこともできます。これは今、CL-SYSTEMを導入した私の自宅でも使っています。

 市販品で同等のことをやろうとすると、細かい動作の変更や調整が難しいわけですが、CL-SYSTEMであれば照明やエアコンと連動させたり、タイマーでなにかやったり、ということも自由にできるわけです。

カメラ付きインターフォンとの連携も可能に

――ご自宅に導入されたCL-SYSTEMでは、他にはどのような機能を利用できるのでしょうか。

[川畑氏]遠隔からの玄関鍵の開け閉めの他に、各部屋の照明、エアコンのオンオフが可能で、自動開閉する電動カーテンも試験的に導入しています。電動カーテンは国内にもすでに同様の製品はありますが、CL-SYSTEMからWi-Fiで制御できるものを新たに開発しています。

 3メートルを超えるカーテンレール2本とモーターとスイッチ、すべて込みで1箇所あたり2万円程度で製作できることがわかりましたので、販売時には国内メーカーの電動カーテンよりかなり安価にできると思います。スマートフォンやパソコンから操作でき、日の出・日没の時間帯に合わせて自動開閉もできます。あと2、3カ月ほどでシステム開発が終わる予定で、もちろん技術基準適合証明も取得したうえで発売する予定です。

――既存のカーテンもそのまま使えますか。

[川畑氏]専用のカーテンレールを取り付けることと、そこにモーターを動かすための100ボルトの電源を持ってくる必要があります。カーテンレールは一般的なものとほぼ同じ形状ですので、既製品なりオーダー品なり、お好きなカーテンを取り付けることが可能です。

――ご自宅にCL-SYSTEMを導入してみて、新たな気づきみたいなものはありましたか。

鍵、照明、エアコンの制御はパソコンでの操作がメインだったが……
スマートフォン上で扱いやすいインターフェースも用意した

[川畑氏]自宅だと、ひと部屋に照明がいくつかあったりします。最初はその1個1個をオンオフするスイッチを並べていたんですが、使い方としては、ひと部屋に2つ照明があっても両方ともつけるか、両方とも消すかのどちらかしかないんですよね。

 いちいち1つずつオンオフするのは手間なので、「シーン」という概念を導入して、一度のボタン操作で複数の照明やエアコンを動作させられるようにしました。たとえば寝室で普段過ごすとき用のボタンと就寝時用のボタンの2つを作っておくと、シーンごとに一発で切り替えられるので利便性が高くなります。

――そのような「シーン」をカスタマイズするのには何か特別なスキルが必要になるのでしょうか。

[川畑氏]ある程度openHABの仕組みについて理解がなければ作ることは難しいと思います。でも基本的な理解があれば、1つのシーンについてテキストファイルに5、6行記述するだけで実現できます。CL-SYSTEMを導入していただく際には、当社でひな形を用意しておいて、利用者の環境に合わせて一部を書き換えるだけで使えるようにもするつもりです。

――ちなみにご自宅に導入したときのご家族の反応はいかがでしたか。

[川畑氏]CL-SYSTEMはすでに私の病院で導入していて、妻もそこで医師として日頃から使っていましたので、特にこれといって戸惑いみたいなものはありませんでした。高校生の娘と大学生の娘も、若い世代だからなのか、問題なく使っていますね。

 日没になったら家の敷地内の外灯を点灯するとか、夜12時になって人がいなかったら消すとか、もしくは日没頃の時間帯に室内の何カ所かの照明を自動で付けたりとか、そういった仕組みも初めから組み込みましたので、新たに「こうしてほしい」といった要望もありませんでしたね。

介護施設や寮、公的施設などからの引き合いも電磁石を使った電気錠システムも用意

――今のところCL-SYSTEMの導入が決まっているのは医療施設が多いようですが、他の業種・業態からのニーズはいかがですか。

開発中の人感センサー。室内に動く人がいるかどうかを検知して、CL-SYSTEMを通じて照明やエアコンを自動制御できるようになる
従来は3台に分かれていたディマー、リレー、JEM-Aを1つに統合したデバイスも開発中

[川畑氏]すでに何件かお話をいただいています。病院の他には介護施設、学校の寮、その他の公的施設やイベント会場などからも相談があります。

 CL-SYSTEMは元々、鍵や照明、エアコンなどを一括で自動・遠隔操作できる、というところから始めたわけですが、実際に導入が始まったり、お話を伺ったりしていくと、そのままCL-SYSTEMを導入する、というパターンは実はあまり多くありません。

 それよりも、既存のシステムで不足している部分や課題になっている部分、コストのかかっている部分を、CL-SYSTEMをベースにした仕組みでカバーしてほしい、というニーズが多いことがわかりました。ですので、元々考えていたよりも広い範囲を手がける感じになりそうです。システム開発そのものというより、全体的なシステム構築のお手伝いをするようなことが増えていますね。

――今後、CL-SYSTEMをどのように展開していきたいと考えていますか。

[川畑氏]今、日本では若い労働力が減っていて、そもそもどこの業種でも人手が足りていないという問題があります。そうなると自動化して物事を動かしていくことが必須です。さらには新型コロナウイルスの影響で、遠隔から一括で鍵や照明、エアコンを制御したいというニーズが今後増えていくことも間違いありません。

 したがってCL-SYSTEMについては、そうしたホームオートメーションの仕組みのなかでも比較的安価で導入でき、手間をかけずに施設管理できる、というところをもっと強くアピールしてニーズを掘り起こしていければと考えています。

昨年末に公開されたopenHABの最新版「openHAB 3.0」の動作についても検証中。openHAB 3.0ではユーザーインターフェイスの改良や、ビジュアルプログラミングへの対応など、様々な改良が行われている。

 また、技術面でもさらに進化していく予定で、例えば、昨年末に公開されたばかり「openHAB 3.0」もすぐに検証し、リリース1週間未満で試験導入ページを公開しています。

 openHAB 3.0では、設定の概念がより便利なかたちになったほか、新しいユーザーインタフェイスやビジュアルプログラミングも利用できるようになり、利便性もさらに増すと思います。こうした進化をとり入れやすいのも、オープンな規格を採用しているからで、CL-SYSTEMとしても優位性が増していくと考えています。

――ホームオートメーションの導入を検討されている方に向けてメッセージなどありましたら。

数百kgもの磁力を発生する電磁石が今や安価に入手できる。これとCL-SYSTEMを連携させた電気錠のシステムも構築可能とのこと

[川畑氏]最初は施設全体じゃなくてもかまいません。まずは1部屋、2部屋から小さく導入していただいて、鍵の機能だけ使ってみる、というのでもアリだと思います。

 鍵の開け閉めを自動化したいとなると、たいていは大手鍵メーカーの電気錠システムを導入する、みたいな話になりがちです。でも、かなり強い電磁石が数千円で販売されていて、それをドアに取り付けてCL-SYSTEMと組み合わせれば、簡単に電気錠を実現できるんです。非接触RFIDや、スマートフォン・パソコンから開け閉めするシステムも安価に作れます。

 監視カメラについても、スマートフォンやパソコンからその映像を確認したり、人の動きを感知して録画したり、同時に特定の照明を点灯させたり、といったシステムも構築可能です。ご要望に応じてまだまだCL-SYSTEMは拡張していきますので、興味がありましたらぜひご相談いただければと思います。

(協力:クリティカ)