NGN=ネクスト・ガラパゴス・ネットワーク、三木谷浩史氏が批判


楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏。eビジネス推進連合会の会長として講演した

 一般社団法人ブロードバンド推進協議会が23日に開催したシンポジウム「三木谷浩史・孫正義が語る『国民の、ITによる、日本復活』~ブロードバンドアクセス100%がもたらす国民生活の変貌とポテンシャル~」では、同協議会の代表理事である孫正義氏の講演のほか、楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏による講演や、両者によるパネルディスカッションも行われた。

 約2時間に渡るシンポジウムの模様はUSTREAMでネット中継されたほか、Twitterには専用ハッシュタグが設けられた。会場には一般聴講客や関係者向けに1280席を用意、最終的にほぼ満席になったという。

 さらに今回のシンポジウムは、民主党・自由民主党・みんなの党に所属する衆議院・参議院議員ら41名が来賓として名前を連ねており、政治的アピールの濃さが際だっていた。

「NGNは・ネクストガラパゴス・ネットワークの略」

 三木谷氏は2月に設立された「eビジネス推進連合会」の会長として、医薬品のネット通販規制などに反対する立場をとっている。世界標準に合わない日本特有の規制を緩和し、ネットに最適化していくことが日本経済の唯一の希望だと主張する。

2050年の経済規模予測を例示。悲観的な数値を覆すためにネットの有効活用が必須だと訴えた

 三木谷氏は「ネットビジネスは中小企業や地方経済にとって有望。リアルの市場を食うと言うよりは、新しい市場を作っていけるはずだ」と、内需向上につながると説明。また、少子化などで国内市場が縮小していくことを見据え、外需の取り込みも積極的に行う必要があると論じる。

 だが、インターネットが年々普及していく状況にあっても「この国では議員ではなく役人が国を動かしている」と批判。議会での審議を経ずに官僚らが直接制定できる“省令”への嫌悪を示し、“ガラパゴス規制”だと揶揄した。

 中でも、一部医薬品の通販規制については明確な反対意志を提示。過剰規制の象徴的な例として、反対活動を特に注力して行っているという。このほか、東京都による携帯電話のフィルタリング規制や、「年収でローン金額を制限されては起業もできない。人権違反であり、要らぬお節介だ」と貸金業法の総量規制にも矛先を向けた。

 また、NTTが導入を進めるNGN(Next Generation Network)は、インターネットと似た存在であることを匂わせながらもオープン性の点では真逆であると指摘。利用者を囲い込むための独自仕様によって国際性が低く、事業者間のサービス競争も生まれないと説明する。「Next Generation Networkではなく、ネクスト・ガラパゴス・ネットワークと呼ぶべきだ」と語った際には、会場から笑いも起こっていた。

 三木谷氏は経済が上向かない状況を打破するために、日本独特の規制を整理・撤廃し、世界標準へ改めるべきだと改めて主張。官民ともどもネットを徹底活用し、知的生産性を上げていくことが経済復活への道だと強調している。


ネット関連の規制には反対の意思を表明。NGNもオープン性の観点から問題だという各種規制の緩和、外国人労働者の受け入れ、英語教育の充実などを主張

孫氏と三木谷氏が対談、開国党も結成!?

 三木谷氏、孫氏の講演後は、両者による対談が行われた。三木谷氏はかつての銀行勤務時代、最大の得意先であった孫氏と出会っており、親交は長年に渡るという。孫氏も「医薬品通販規制があって助かった人の数より、できないで困っている人のほうが多いのではないか。育毛剤買うの恥ずかしいから便利じゃないか。さすがに最近はあきらめたけれど」と頭髪に関するジョークで応えるなど、対談は終始なごやかなムードで進んだ。

対談する孫正義氏(左)と三木谷浩史氏(右)

 三木谷氏の講演の主題となった“規制”について、孫氏は「政府の役人は、国民を保護しようという意識が強すぎるのではないか。ごく一部の人間が悪さをしただけで、それを針小棒大に捉えて規制している」と答え、一種の過剰反応だとした。選挙運動のネット利用についても、孫氏は「運動員が個別に電話するより、ネットを使うほうがよほど安上がりなのに」と語った。

 孫氏は対談の前に行った講演で、総務省の「光の道構想」を推進し、国内全世帯へ光ファイバー網を整備することによって生まれるパラダイムシフトの意義を力説していた。「『ネットを使わない人もいる』との批判もある。だが、かつて不要だったはずの電気や水道は今や誰もが必要。一度でも光ファイバーのメリットを体験してしまえば、元には戻れない」と話し、生活に必要不可欠な社会インフラになりうると強調した。

 一方、三木谷氏からは「韓国があれほど規制緩和や経済活動に熱心なのはなぜなのだろうか」という素朴な疑問もなされた。孫氏は「10年ほど前の経済危機で、国が本当につぶれかけるところまで体験したことが大きいのではないか」との私見を披露。明治維新や戦後という危機をを克服してきた日本にも、十分なポテンシャルがあると前向きにコメントした。

 また孫氏は、年間1000億円の赤字を4年間に渡って発生させたADSL事業「Yahoo! BB」について「当時マスコミには散々叩かれたが、NTTが頑なに否定していたADSL事業を開始させ、競争による値下げも起きたことは十分意義深かった」と振り返った。

 対談終盤、国産技術を極端に尊ぶ一部の人々を「鎖国だ。開国せねばいかん」と、幕末時代になぞらえた孫氏。三木谷氏が「開国党でも作りますか?」と聞くと、孫氏はまんざらでもない様子だったが「いや止めておきます。ジョークと言うことで」と返し、政治家・活動家への転身(?)をやんわり否定していた。


筋金入りの幕末好きで、大河ドラマ「龍馬伝」のファンという孫氏。明治維新になぞらえた話題を度々展開していた三木谷氏は聞き手に回り、規制の問題などを孫氏にぶつけた

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(森田 秀一)

2010/4/26 06:00