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教育レゴ「WeDo 2.0」を小学校の国語科に取り入れる試み、相模原市立旭小学校がプログラミング授業を公開

 教育用レゴ「WeDo 2.0」を使用したプログラミング授業を神奈川県相模原市立旭小学校が9日、公開した。

 新指導要領では小学校のプログラミング教育を行う学年や教科、指導内容を学校側に委ねているが、実践する上で課題となるのが授業時間の確保だ。同校では複数の教科にわたりプログラミングを体系的に学ぶための試みとして、4年生の国語科での実践を行った。

報告文を「書く力」をプログラミング授業から身に付ける

 WeDo 2.0は、レゴブロックと各種センサー、ビジュアルプログラミングソフトを使ってプログラミングを学べる教材。2016年4月より学校、塾、NPO法人など向けに提供を開始している。プログラミングのソフトは、アイコンをドラッグ&ドロップする直感的な操作でギアやモーターなどを制御できるようになっているのが特徴だ。

各種ブロックやセンサー類
プログラミング画面。アイコンを組み合わせて動きを制御する

 プログラミングの実践授業にあたり、レゴエデュケーション(レゴジャパン株式会社)、株式会社内田洋行、株式会社JMC、株式会社アフレルの4社が協業し、機材の貸し出しや授業のサポートを行う。レゴジャパンの社長から「WeDo 2.0を通して学んだことや思ったことを送って欲しい」という内容のビデオレターが4年1組宛てに送られ、児童はその依頼に応えるために報告文を作成することになる。

 授業は「学習課題・計画を知る」(1時間)、「報告文を書くための調査・情報収集、報告文にまとめる」(8時間)、「報告文の発表会」(2時間)の全11時間で構成。今回はWeDo 2.0のプログラミング、動作検証を通して「感じたこと」「学んだこと」を付せんに書き留め、報告文に載せる情報をまとめていく。

 ここでは、相手に伝えるための情報をまとめ、目的に沿った文章を書くことを意識することで、国語科における「書く力」を身に付けることを目標としている。

レゴジャパン株式会社の社長から届いたビデオレター
今回の授業では報告文を書く前に必要な情報をまとめていく
授業では、各グループ3人ずつに分かれ、ブロックの組み立て、プログラミング、メモ書きの各役割を交代しながら取り組む

 4年1組の担任の荒木昭人氏は授業を通して、「身近な生活の中でコンピューターが活用されていること」「問題の解決には必要な手順があることに気付くこと」について、WeDo 2.0の操作やクラスメイトとのディスカッションから学ぶことを目指したという。

 プログラミング教材の価値として、荒木氏は「情報の活発な送受信」ができることを挙げる。「従来行ってきた図書資料や映像資料、インターネットからの情報収集は、情報を“受信”する一方向性となっていたが、プログラミング教材では思考を反映するための“送信”も行える。これを従来の情報収集手段と並行しながら活用することが重要になる」と持論を展開した。

 実際にプログラミング授業を実践すると、意欲的に活動し、真剣に学ぶ児童の様子が伺えたそうだ。「自分の生活の中に使われているものとの関連性や、繰り返し実験することの大切さに気付いている」という。

先生の問い掛けにも積極的に答え、発言しようとする児童が多い
何度かつっかえながらも、自分の言葉で伝えようとする姿勢が見えたのが印象的だった

 「各教科で育まれるべき思考力とプログラミング的思考力をどう繋げていくのかが難しい」と感じながらも、各自治体、各小学校でプログラミング教育への理解を深めるための先行実践の必要性を感じたそうだ。そこで、相模原市教育委員会からの要望を受け、プログラミングの実践授業を行うに至ったと説明した。レゴエデュケーションからのビデオレターも荒木先生がはたらき掛けたそうだ。

神奈川県相模原市立旭小学校4年1組担任の荒木昭人氏
プログラミングは“情報の活発な送受信”が行えるとしている

まずは教師への研修や環境・意識作りから

 授業で使用する基礎プロジェクトには、洪水を防ぐための水門や災害救助のためのヘリコプター、耐震性のある建物の構造を検証する機器などをWeDo 2.0で再現するためのデータが収録されている。現行の学習指導要領でも地震から守るための社会・環境の仕組みや、地震が起こるメカニズムなどについて順次学んでいくため、ここでもWeDo 2.0を活用することができる。

 授業をサポートする内田洋行の鴫田麻弓氏によると、これらのプロジェクトに対して「子どもたちの興味は家を丈夫に作ることなのか、地震はなぜ起こるのか、それに対してどんな社会が安全なのか、さまざまな方向に向いて行く。それらをまとめて、自分たちが研究したいテーマは何なのか、どのようにしてモデルを組み替え、プログラムをどう工夫したら良いのか、という考えを深めることができる」と述べる。

 また、自分の考えをブロックとプログラムで表現し、その過程から浮かぶ疑問や理解したことを付せんに書き留め、相手に伝えるべき情報を整理する力が身に付くことが期待できるとしている。

株式会社内田洋行の鴫田麻弓氏

 児童を対象にしたプログラミング教育の実践授業を行う一方で、教材の見た目の可愛さから「おもちゃっぽいのではないか、これで何ができるのか」という疑問を持たれやすいそうだ。

 「子ども達はWeDo 2.0をおもちゃではなく、自分たちの研究素材、ツールであると意識している。まずは、プログラミング教育で何ができるのか、啓蒙活動も行っていきたい」と語った。

 レゴエデュケーションの三浦隆氏は、WeDo 2.0が画面だけのプログラミングで完結するのではなく、ブロックやモーター、ギアなどのハードウェアを制御できることをメリットとして挙げる。「例えば、各種センサーを搭載した掃除ロボットがどのように動いているのかイメージできる」という。

 教育機関におけるプログラミング教育の普及活動に関しては、「いきなりレゴから入るのではなく、まずはプログラミング的思考がどういったものなのかを提示し、その中の教材の一つとして提供していきたい」と語った。

レゴエデュケーションの三浦隆氏

 なお、相模原市では来年度もプログラミングソフトの使い方と活用方法、授業の進行方法に関する研修を教育関係者向けに行う予定だという。今年の夏休みに教師への研修・相談を実施し、2学期に実際に学校でも実践する流れを作っていくとしている。

 相模原市立総合学習センターの岡部竜生氏によると、プログラミングをどのように授業に取り組めばよいか悩む教師が多いという。しかし、「新指導要領が適用された後になってから『何もしなかった、何もできていなかった』という状態は避けたい。まずは、何ができるのかということを提案し、フォローを行っていく。今回の実践も含め、各学校で少しずつ取り入れながら前に進んでいきたい」と語った。

相模原市立総合学習センターの岡部竜生氏