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ISDNの「ディジタル通信モード」終了は2024年1月、企業は早急に点検と対策を! JISAが対策ガイドライン新版を公開

 2024年1月にNTTの固定電話網がIP網へ移行する。これに伴い、ISDNの「ディジタル通信モード」が終了することから、企業間の自動発注システムなどに大きな影響が出ると予想されている。一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)が5月17日、その対策に関するセミナーを開催した。5月22日からは、協会内でまとめた対策ガイドラインの最新版をウェブサイトで公開する。

5月17日に開催されたセミナーの様子。JISA会員企業の関係者を中心に約80名が出席した。午前・午後の部とも満席で、その注目度の高さを伺わせた

想像以上にインパクト大? IP網移行も同じタイミングで

 「固定電話網のIP網移行」「ISDNのディジタル通信モード終了」を巡っては、その影響範囲の広さから、JISAでは専門のタスクフォースを設立。継続的に対策に取り組んでいる。2016年10月には第1回の公開セミナーを開催しており、本誌でもその模様をお伝えした。終了するディジタル通信モードの概要については、そのときの記事(2016年10月24日付関連記事『ISDNのディジタル通信モードが2020年度にも終了へ、企業間の自動発注システムに大きな影響? JISAが対策を呼び掛け』)をご参照いただきたい。

 以降、約1年半の間にも、総務省をはじめとした関連省庁や団体の間では円滑移行に向けた調整が続けられており、今回開催された第3回のセミナーでは、それら最新動向を踏まえた解説がなされた。

 まずNTT東西の取り組みについては、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)の山内健雅氏(ビジネス開発本部第一部門担当課長)が解説した。山内氏が冒頭で「(その規模や重要性ゆえに)NTT東西の一存で進められるものではない」と述べるように、IP網移行は時間をかけてじっくりと進められてきた。最初に方針が明かされたのは2010年11月。「PSTNのマイグレーションについて~概括的展望~」と題した文書を公表し、国際的な動向、固定電話需要の減少、交換機設備の寿命・維持限界を主な根拠に挙げ、将来的なIP網移行への理解と賛同を求めた。

東日本電信電話株式会社(NTT東日本)の山内健雅氏(ビジネス開発本部第一部門担当課長)

 2011年には情報通信審議会(総務省)に関連して「電話網移行円滑化委員会」設置。政府レベルでの議論が進む中、2017年9月に「固定電話網の円滑な移行の在り方」に関する二次答申がまとめられた。これを受け、NTTでは翌10月に詳細な移行スケジュールを公表しており、対策の緊急性がさらに現実味を増した格好だ(本誌2017年10月17日付関連記事『「INSネット ディジタル通信モード」2024年1月に提供終了、NTT東西の固定電話がIP網へ移行』参照)。

NTTが2017年10月に公表した文書で、移行スケジュールなどがより明確になった

 めどとなるのは2024年1月。エンドユーザーから見た場合、このタイミングを境に回線交換式からIPベース電話への移行が順次スタートする。ただ、全国の電話を一斉に切り替えることは物理的に難しいため、切り替えが完了するのは1年後の2025年1月となる見込み。

 移行とは言っても、対応はほぼすべて電話局側で行われるため、宅内の電話機などは既存のものがそのまま使える。また、電柱から引き込まれるメタル回線もそのまま維持されるので、事前の工事なども必要ない。音声通話の料金面では、距離別制が廃止され、全国どこへかけても3分8.5円(税別)の一律料金制の導入が予定されているなど、メリットもある。

IP網切り替え前後のスケジュール

 とはいえ、影響はゼロではない。2024年1月のIP網移行と同時に、利用者減少などが見込まれるオプションサービスが一部廃止される。その1つがISDNサービス「INSネット」の「ディジタル通信モード」であり、JISAがまさに懸念を示している部分だ。企業間の取引・自動発注などを担う「EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)」は、その通信品質や信頼性から、2018年時点でもISDNが多く使われているのが実情である。

 NTTでは、2024年1月までに対策できない企業がいることも想定。緊急避難的な補完策を数年程度の期間限定で提供するべく、技術検証環境なども構築し、関連団体とも連携している。

「INSネット」の「ディジタル通信モード」終了が企業のEDIに与える影響は大

 今後重要になってくるのが、産業界はもちろん、社会全般に対する周知・広報だ。全国レベルでの施策だけに、悪質商法の発生も懸念される。NTT東西では、請求書に同封するチラシでの注意喚起もすでに実施しているが、山内氏はセミナー参加者に向けて「社内はもちろん、お取引先様へのご紹介も含め、まずはIP網移行への認知を広げたい」と述べ、協力を仰いだ。

周知・広報も今後は重要に

インターネットEDIへの移行、その注意点

 セミナー後半は、JISAのEDIタスクフォースのメンバーが直近の活動状況を説明した。座長の藤野裕司氏によると、タスクフォースではステアリングコミッティと全体会をそれぞれ月1回程度のペースで開催。国内のEDI製品ベンダーを巻き込んで、議論を重ねている。

JISAのEDIタスクフォースで座長を務める藤野裕司氏

 活動の大きな柱が、文書(資料)の作成だ。中心となる「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】」は改訂を重ね、現在のバージョンは「3.1.0」。同書では、技術的な検証などを重ねた結果、ISDNなどを利用した従来型EDIからインターネットEDIへの移行を薦めている。

「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】」の要旨

 また、補足資料にあたる「インターネットEDI移行の手引き」(バージョン1.0.0)もこのほどまとめられた。インターネットEDIをどのように導入すべきかを、移行スケジュールとともに説明する。「この文書のポイントは『2024年1月にはIP網に切り替わる。つまりEDIはそれまでにインターネットEDIへ移行を“完了”させていなければならない』ということ。そこをとにかくご理解いただきたい」(藤野氏)。

 通常、あるシステムを新システムに移行する場合、トラブルが発生したなら旧システムへ戻せる。しかし今回のケースでは、2024年1月を過ぎてしまうとISDN型EDIへ基本的には戻せない。

 加えて、EDIは1社で完結する問題ではなく、あくまで他社と接続し、正常に機能してこそ意味がある。自社の都合で独自にEDIプロトコルを作ると、他社はそれに合わせたシステムを開発せざるをえない。

 当然、世のほとんどの企業は取引先がただ1社であるはずがなく、取引先の数だけ対応が増えるという事態も懸念される。藤野氏も「場合によっては下請法などにも抵触する恐れがあるかもしれない」と、注意を促した。

 まず考慮すべきは、業界動向だ。例えば金融業界では、全国銀行協会が2017年5月に「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」を制定。一方で、従来バージョンのサポート終了方針を明らかにした。このような動きが流通などの他業界に波及するか、注視する必要がある。

 「インターネットEDI移行の手引き」では、企業内における導入の流れを細かく説明しているが、まず最初の段階で「全社的なプロジェクトである」ことを徹底すべきだと藤野氏はアドバイスする。「インターネットEDIに移行したからといって、業績が直接向上するわけではない。特に経営層には(業務の)補助くらいにしか理解されていないかもしれないが、実際にはEDIがなければ会社は動かない」(藤野氏)。営業、倉庫担当者、経理などあらゆる部署に影響が出ることを想定すべきだとした。

「インターネットEDI移行の手引き」の内容
相互接続テストに時間がかかることを念頭に

動作テストは「相手がいること」を忘れずに

 藤野氏らEDIタスクフォースの関係者が繰り返し強調するのは、動作テストにかかる時間だ。EDIのテストは必ず相手方と同期をとって行わなければならない。日程を調整せねばならず、好みの時間に好きなだけ続けられるとは限らない。「自社がいくらテストスケジュールを組んでも相手の都合がある。そして、実際に接続するすべての取引先とテストをしなければならない。1日でできる件数も恐らく2~3社がいいところ。失敗した場合のリスケのことも考えねば」(藤野氏)。

 EDIタスクフォース副座長の石金克也氏も、テストには相応の時間を要すると話す。「テストが1回で終わることはほとんどない。問題の切り分けだけで数日、解決までに数週間かかるケースは普通にある。また、テストは(石金氏の所属企業の事例では)1日4社が限界。IP網移行とは別の事例になるが、400~500社との間でEDI相互接続試験を完了させるのに4~5年かかった例は現実にある」(石金氏)。

EDIタスクフォース副座長の石金克也氏

 このほか石金氏からは、前述の「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」について、実装上の注意点などが解説された。そもそもの前提として、従来バージョンのプロトコルは、安全性の高い公衆回線/ISDN回線でのみ利用できたため、暗号化が必要なかった。

 しかし新方式はインターネットを経由するため、当然、暗号化しなければならない。仮にSSL/TLS方式で暗号化する場合、証明書の準備が必要で、さらには有効期間なども綿密に検討しなければならない。開発スタイルが根本的に変わることを十分に理解する必要があるだろう。

「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」の特徴

 EDIタスクフォースが作成した各種文書は、JISAのウェブサイトで5月22日から公開予定。顧客説明向けの資料などとしても、出典・引用元を明示する限り自由に利用できるという。ただし、頻繁な改訂を予定しているため、別サイトでの再配布は禁止。必ずJISAのウェブサイトから直接ダウンロードするよう、呼び掛けている。