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「水中LAN」を推進するALANコンソーシアム、水中光無線技術やLiDARで新たな市場創出目指す

 海中を代表とする水中環境を一つのLAN(Local Area Network)として位置付け、光無線技術を活用し、既存の音波や有線の通信技術との棲み分けによって柔軟性のあるネットワークの構築を目指すとともに、水中を次世代の新経済圏と捉えて、材料、デバイス、機器、システム、ネットワーク開発を推進するというコンセプトのもと活動している、「ALANコンソーシアム」。そのALANコンソーシアムは2月7日に説明会を開催し、現在までの状況を報告するとともに、今後の展開について説明を行った。

 ALANコンソーシアムは、2018年5月21日に一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の「共創プログラム」第1弾として採択され、同6月21日に設立された。2018年10月16日~19日の期間で開催された「CEATEC JAPAN 2018」にも出展している。コンソーシアムには、代表のトリマティス、会員の海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、千葉工業大学をはじめとする大学、KDDI総合研究所、太陽誘電をはじめとする複数の民間企業が参加している。

 ALANコンソーシアムの運営委員でもある海洋研究開発機構の吉田弘氏は、「我々日本人は、海という場所に対して敬意や思い入れを持っていますが、その意識が強すぎて、海洋立国といういう割には産業はあまりなされておりません」と指摘しつつ、これからの時代我々が生き抜くためには、“日本が海を使わずしてどうする”という思いのもと、光技術をベースにプラットフォームまで含めて水中のネットワーク化を実現するために立ち上げたのがALANコンソーシアムであると紹介。そして、3年後(2021年度)に水中LiDARを利用したレーザースキャンニングシステムの実現、1~100mほどの距離で数十Mbps~1Gbpsの速度での水中光無線通信技術の確立、そして1~10mの距離で10W以上の給電が行える水中光無線給電技術の確立によって、「水中の可視化」の実現を目指しているという。

 また吉田氏は、米国やロシア、中国でも同様の動きが見られつつあることを指摘しつつ、日本は領海と排他的経済水域を合わせた面積が世界で6番目の広さであり、非常に恵まれた環境を生かすとともに、海洋研究開発機構が持つ世界トップレベルの解像度と伝達性を持つレーザースキャナー技術や、名城大学の青色LED技術など、世界をリードする技術を活用することで、イニシアチブを取るべく活動していくと意欲を示した。

ALANコンソーシアムについて説明する、海洋研究開発機構の吉田弘氏
ALANコンソーシアムは、海中を代表とする水中環境を一つのLANとして位置付け、光無線技術を活用し柔軟性のあるネットワークの構築を目指している
ALANコンソーシアムには、代表のトリマティス、会員の海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、千葉工業大学をはじめとする大学、KDDI総合研究所、太陽誘電をはじめとする複数の民間企業が参加
3年後に水中のレーザースキャンニングシステムの実現、水中光無線通信技術の確立、水中光無線給電技術の確立によって、「水中の可視化」の実現を目指している
日本は領海と排他的経済水域を合わせた面積が世界で6番目の広さで、活用しない手はない
海洋研究開発機構が持つ世界トップレベルの解像度と伝達性を持つレーザースキャナー技術や、名城大学の青色LED技術など、世界をリードする技術を活用することで、イニシアチブを取るべく活動するという

海や河川、湖の中の状況を可視化 新たな映像体験の実現や環境調査にも

 続いて、同じくALANコンソーシアムの運営委員であり、産業技術総合研究所の森雅彦氏から、どういった市場をターゲットに具現化していくかについて説明された。

 市場性の分かりやすい例として示されたのがアミューズメント分野だ。海や河川、湖の中の状況を可視化し、地上や家庭などからリアルタイムで見えるようにするというもの。例えば水族館の様子をVRなどで家にいながら楽しめるようにすることで、新たな映像体験を実現するだけでなく、ヘルスケアや介護産業への提案も可能とする。

 また、社会的に重要な例として示されたのが、インフラや社会課題分野への対応だ。2023年には国内の橋梁の43%が建設50年を迎えるとのことで、それらのメンテナンスが重要になってくる。そこで、LiDAR技術や水中ネットワーク技術を活用することで、ダイバーなどの人手に頼ることなく、高精度な点検作業が行えるようになるとし、社会課題の解決と大きなマーケットの創出につながるとした。

 漁業についても、大きな市場性があると指摘。人口増加と水産物ニーズの高まりから、水産資源の供給課題が叫ばれている中、新たな取り組みとして“スマート水産”や“陸上養殖”といった新たな取り組みが台頭しつつあるという。そういった分野では、魚の数や姿を正確に捉えたり、育成状況をリアルタイムで把握するといったことが重要になるとのことで、そこに光センシング技術が活用できるという。

 この他、海中の災害調査や、近年世界的に問題となっているマイクロプラスチック問題への対応など、環境調査といった分野でも市場性が考えられるとした。

 こういった市場を想定しつつ、ALANコンソーシアムでは、水中ネットワークの方式設計やシステムへの仕様要求を決定する「水中プラットフォーム」、システムへの仕様要求をベースに機械系の設計を行う「筐体・ロボティクス」、システムへの仕様要求をベースに、水中光無線通信のデバイスや機器の仕様化を行う「水中光無線通信」、水中LiDARのデバイス。機器の仕様化を行う「水中LiDAR」、水中無線給電のデバイスや機器の仕様化を行う「水中光無線給電」という5つのワーキンググループを設置し、それぞれが連携しながら市場ニーズを分析しつつ、デバイスや機器の設計、仕様化を行っていくという。そして、各領域での水中光無線技術を今後3年(2021年度頃)を目途に確立するとともに、技術開発だけでなく事業化も想定して取り組んで行くとした。

ALANコンソーシアムがターゲットとする市場性について説明する、産業技術総合研究所の森雅彦氏
海や河川、湖の中の状況を可視化し、地上や家庭などからリアルタイムで見えるようにする。水族館の様子をVRなどで家にいながら楽しめるようにすることで、新たな映像体験を実現し、ヘルスケアや介護産業への提案も可能とする
LiDAR技術や水中ネットワーク技術を活用することで、ダイバーなどの人手に頼ることなく、高精度な点検作業が行えるようになり、社会課題の解決と大きなマーケットの創出につながる
“スマート水産”や“陸上養殖”といった新たな取り組みにおいても、光センシング技術が活用できる
海中の災害調査や、マイクロプラスチック問題への対応など、環境調査の分野でも市場性が考えられる
ALANコンソーシアムには5つのワーキンググループが設置され、それぞれが連携しながら市場ニーズを分析しつつ、デバイスや機器の設計、仕様化を行っていく
各領域での水中光無線技術を今後3年(2021年度頃)を目途に確立する計画

「水中LiDAR」の開発がスタート、“水中の見える化”実現に向けて

 今回の説明会では、ALANコンソーシアム発の第1弾プロジェクトとして、ALANコンソーシアムの代表企業であるトリマティスにより、「水中LiDAR」の開発をスタートしたことが発表された。実際に説明会の会場には、水中LiDAR試作機の実機を展示するとともに、トリマティスの島田雄史氏が、開発中の水中LiDARについて説明した。

 島田氏は、ALANコンソーシアムの代表という立場で、ALANコンソーシアムを推進する傍ら、「まずは自分たちが先頭に立ってやってみる」ということが必要だと考えたという。水中に関わる産業はたくさんあるが、要素技術はまだ足りないし、必要としているユーザーに対する技術の訴求もできていないと指摘。そこでまず、どういったことが出来るのかを示すために、まずは水中を詳細にデータ化することで“水中の見える化”を実現しようと考えたという。そのために開発をスタートしたのが「Aqua-Pulsarシリーズ」だ。

 Aqua-Pulsarシリーズでは、青、緑、黄の光のミキシング技術を活用し、水中ストロボの「Aqua-Pulsar」、水中カメラの「Aqua-Pulsar Viewer」、水中LiDARの「Aqua-Pulsar LiDAR」、水中Eyeシステムの「Aqua-Pulsar Eye」で構成。そして、水中光無線通信の「Aqua-Pulsar Link」、水中光無線システム「Aqua-Pulsar Robo」によって、データを無線で電送し、ネットワークへ橋渡しするという。

 また、平成29年度ものづくり補助金を活用して、2018年11月末にかけて水中LiDAR試作機を開発したという。この試作機は、直線の距離のみを測定できるフラッシュタイプの水中LiDARで、遠隔操作型無人潜水機(ROV)に装着可能なように設計されている。5mmの優れた測距分解能や、水深10m以上の耐水性も備わっている。この水中LiDARは、現時点では直線での測距のみが可能となっているが、今年中に水平または垂直に角度を付けて広範囲に測距できる水中LiDARを実現したいという。合わせて、コンソーシアムのメンバーが実証用として利用できるプラットフォーム的な水中LiDARロボットを年内に1台、水槽などで光無線通信のデモを行うロボットを夏までに作りたいとした。

開発中の水中LiDARについて説明する、トリマティスの島田雄史氏
ALANコンソーシアム発の第1弾プロジェクトとして、トリマティスによる「水中LiDAR」の開発がスタート
Aqua-Pulsarシリーズは、青、緑、黄の光のミキシング技術を活用して水中を照らし出し、撮影し、詳細にデータ化し、無線データを伝送するというコンセプトで開発している
説明会場に展示された、トリマティスが開発中の水中LiDAR「Aqua-Pulsarシリーズ」の試作機
展示された試作機は、直線の距離のみを測定できるフラッシュタイプの水中LiDARで、遠隔操作型無人潜水機(ROV)に装着可能なように設計。5mmの優れた測距分解能や、水深10m以上の耐水性も備わっている

社会インフラの検査市場は650億円に達する見込み、ミドルクラスのROV・AUVが海洋ビジネスの中核に

 Aqua-Pulsarシリーズの想定市場は、社会インフラのメンテナンス市場としている。先に森氏が説明したように、社会インフラのメンテナンス市場は今後増大が予想されている。仮に1件あたりの検査費用を100万円と想定したとしても、国内の市場規模は650億円に達すると推測している。また、世界のROVや自律型無人潜水機(AUV)の市場も、2022年に52億ドル規模まで発展すると予想されており、非常に大きな市場が見込まれるという。

 ただ、現在のROV、AUVは数十万から100万円程度の低価格帯のものか、海洋調査などで利用される数千万円から数億円規模の高価格帯のものに二分されているそうで、その中間を埋める、数百万円から数千万円前半のミドルクラスの製品が全く存在しない。島田氏は、そのミドルクラスの製品こそ海洋ビジネスの中核になると指摘し、そのレンジを狙っていきたいとした。

 具体例として示されたのが、漁業現場で使われているステレオカメラだ。現在使われているステレオカメラは価格が500万円ほどで、1mほどの大きさの魚を見分けられるそうだが、その画像に写る魚の見分けや数の計測、大きさの測定は測定員が画像を見ながら行わなければならない。しかし水中LiDARを応用すれば、魚の数や大きさをより正確に細かく、自動で計測できるようになる。価格も導入当初は1000万円ほど、広く普及すると300~500万円を想定しているそうで、実際に漁業現場からも、実現できるならすぐにでも導入したいとの声があるという。

 そして、今後のビジネス展開については、ネットワーク側はニーズを意識するとともに、デバイスや機器側ではニーズ喚起を意識したパフォーマンスを実現すること、そして水中での光無線通信の必要性を訴えることによって広げて行きたいという。島田氏は、地上の無線通信状況を見ても、10年前にWi-Fiがここまで普及することは予測できなかったとしつつ、水中も同じように一気にネットワーク化が進む可能性が高いと指摘。そして、ALANコンソーシアムに参画しているメンバーとの連携によって、技術開発と市場創出を同時に行うコンセプトのもと、Aqua-Pulsarシリーズ開発のプロジェクトを進めていきたいとした。

 合わせて、2019年3月後半にALANコンソーシアムのメンバーが実施したいテーマをプレゼン(非公開)することで、新たなビジネスの可能性を探るとともに、研究開発プロジェクトへと展開させたいという。また、2019年2月13日にALANコンソーシアムの入会説明会を実施して新たなメンバーを募り、プロジェクトのさらなる推進に繋げたいとのことだ。

社会インフラのメンテナンス市場。国内の市場規模は650億円に達すると推定している
世界のROVや自律型無人潜水機(AUV)の市場も、2022年に52億ドル規模まで発展すると予想され、こちらも大きな市場となる
現在のROV、AUVは数百万円から数千万円前半のミドルクラスの製品が全く存在せず、そのミドルクラスの製品こそ海洋ビジネスの中核になるとして狙いを定めている
漁業現場で使われているステレオカメラと比較すると、水中LiDARの応用で、魚の数や大きさをより正確に細かく、自動で計測できるようになる
ネットワーク側はニーズを意識し、デバイスや機器側ではニーズ喚起を意識したパフォーマンスを実現すること、そして水中での光無線通信の必要性を訴えることによってビジネスを展開したいという
ALANコンソーシアムに参画しているメンバーとの連携によって、技術開発と市場創出を同時に行うコンセプトのもと、Aqua-Pulsarシリーズ開発のプロジェクトを進めていきたいという