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Wi-Fi 6製品は2020年末までに16億台へ、「メリットは低遅延と確実な性能」

 Wi-Fi Allianceは、IEEE 802.11axに対応する製品の認証プログラム「Wi-Fi CERTIFIED 6」についての記者説明会を開催した。

「Wi-Fi CERTIFIED 6」認定製品は2020年末までに16億台へ

 Wi-Fi CERTIFIED 6の開始については既報の通りだが、Wi-Fi Allianceのマーク・ハング氏(テクノロジー兼エンジニアリング担当バイスプレジデント)によれば、一部メンバー企業は、すでに認証を受けた製品の出荷を始めているとのことだ。

Wi-Fi Allianceのマーク・ハング氏(テクノロジー兼エンジニアリング担当バイスプレジデント)

 Wi-Fi Allianceでは2020年末までに、16億台のWi-Fi 6対応デバイス出荷を見込んでいるという。そして、過去のWi-Fi市場の製品導入と同様に、最初はスマートフォン、アクセスポイント/ルーターでの出荷増を見込んでいるとした。

 認証プログラム「Wi-Fi CERTIFIED 6」は今月始まったばかりだが、すでに実施された実証実験について紹介。米国カリフォルニア州のペブルビーチで開催された全米オープンゴルフのコース内400カ所にCiscoの11ax対応アクセスポイントを設置。車で1時間のところに自宅のある同氏も会場に出向き、所有するGalaxy S10で接続してみたという。

 このほか、Boingoがジョン・ウェイン空港で、CiscoおよびSamsungと共同で実施した実証実験では、「混雑した空港という環境で、今までにないユーザー体験を実現できた」とのことだ。

 Wi-Fi 6に対応する製品自体は、例えば日本国内ではASUSから2018年末にルーターが発売されている。こうした製品とWi-Fi CERTIFIED 6の認証を受けた製品の違いについて「互換性の高さと高いセキュリティレベルを保証する点にある」とした。

 Wi-Fi CERTIFIED 6の製品にはロゴを表示できるが、認証を受けるには、「WPA3 CERTIFIED」と「Wi-Fi CERTIFIED Agile Multiband」の認証取得も義務付けられているという。

 11axの規格はまだドラフトではあるが、この段階で認証制度を立ち上げる理由として、「11nや11acのときも認証制度はドラフト段階で開始された」ことを披露しつつ、「これらと比べてドラフトの完成度は既に高く、また、IEEEでの最後の6~9カ月は手続きに関する部分の策定が多くを占めるため、最終確定までの間に大きな変更があるとは業界は見ていない」とした

低遅延と確実な性能がWi-Fi 6のメリット

 Wi-Fi 6のメリットについては「混雑した環境で快適に動くこと。また、確実に高い性能と低い遅延が必要とされる用途にも向いている」とした同氏は、「性能の面でも提供できるアプリの面でも、Wi-Fiにとっての大きな転換点」とした。

 そして「単一デバイスのピーク性能だけでなく、ネットワーク全体で性能を改善できる点が大きなメリットになる」とし、「従来よりも幅広い多様なアプリに対応していて、例えば消費電力を削減するセンサーのようなIoT機器でも、高性能低遅延が求められるVR/ARでも利用できる」とした。

 さらに、2.4GHz帯での性能が改善された点も挙げ、「Wi-Fi 5、つまり11acは5GHz帯だけに対応していたので、2.4GHz帯の改善は、Wi-Fi 4(11n)の10年前に改善されて以来となる」と述べた。

最重要なWi-Fi 6の要素技術は「OFDMA」

 こうしたWi-Fi 6に盛り込まれている主要な要素技術のうち、最も重要なものとしてOFDMA(直交周波数分割多元接続)を挙げ、「5Gで使われているネットワークスライスと似たような仕組みで、セルラーネットワークでも利用され、今回初めてWi-Fiに取り入れられた技術」とした。

 そして「従来のWi-Fiでは、ベストエフォート型のチャネルアクセス手法が用いられていたが、OFDMAによって、(Wi-Fi子機の)デバイス間にリソースを分配し、一定程度の帯域を確保して利用できるように保証する」とし、「帯域幅の有効利用、混雑した環境での優れたユーザー体験を実現している点では大変重要。また、BSSカラーリングも、その一助になっている」と述べた。

 次に挙げたのがTWT(Target Wake Time)だ。「従来、Wi-Fiは消費電力の少ない技術とは考えられていなかったが、そうした状況が変わる」との見方を示した上で、「(TWTでは)一部のIoTセンサーは、1日1~2回の送信で十分。電源はそのときだけ入ればいいし、温度や湿度の変動が大きいなど、通常と異なる動きがあるときは、起動頻度を高くして必要な情報を適宜ネットワークに送信できるようになスケジューリングが可能になった」とした。

 そして、「数時間から数日だった電池寿命はを数カ月から数年まで伸ばすことが可能になる。IoT機器など、消費電力が重視されるデバイスでは、特にメリットが大きい」とした。また、周波数の効率利用を可能にしているOFDMAにも、消費電力を削減する効果がある」ことにも触れた。

 このほか「単純化して言えば、ピーク性能の面では、MU-MIMO、帯域幅の160MHzへの拡張、従来の4から拡張された8の空間ストリーム、1024QAMの4つの技術が高速化を実現している」と述べ、「こうした技術のおかげで、10Gbpsに近い性能が出るようになった」とした。さらに「ネットワークエッジでも十分な帯域幅を確保できるための技術として効果を発揮しているのがビームフォーミング」とした。

 そして、これらの技術により、「Wi-Fi 6という同じネットワークインフラを使いながら、IoTネットワークにも、高速さが必須となる4K動画のストリーミングにも対応できる」と述べた。

Wi-Fi 6と5Gの関係は?

 Wi-Fi 6と5Gの関係を語る上で、その背景として同氏は「モバイルデータの80%は、Wi-Fiにオフロードされているのが現状で、帯域がさらに向上する5Gでは、オフロードの割合はさらに増えるだろう」との見方を示した。

 そして、「速度、レイテンシ、電力効率などの面でWi-Fi 6は5Gのいくつかの性能要件を満たしつつある」とした上で、「技術面での共通性は高いが、そのビジネスモデルはWi-Fiと5Gでは大きく異なっている」とした。

 「Wi-Fiはオーナーが運用する。このため設備投資や運用のコストは安い。一方、セルラー網はオペレーターが運用する。速く多く移動するドローンならSIMを搭載するメリットはあるが、例えば産業用IoTの場合、同じ場所にある全ての装置に毎月料金を支払うSIMカードを挿入して、Wi-Fiの代わりに5Gを使う理由があるだろうか?」と述べた。

 一方で「5Gで10Gbpsのスループットを実現するにはミリ波を使う必要がある。そうすると室内の大部分のアプリでは現実的でなくなる。どちらの技術にも強みがあるが、大方の領域では補完し合う位置付けにあると考えている」と語った。