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Zoomと大分県が「包括協定」の成果を語る、防災、教育、農業、福祉、医療、観光、スポーツまで……

「行政サービスのスピードアップにもつながっている」

 米Zoomの日本法人であるZVC Japanと大分県が、2020年10月に包括連携協定を結んでから、約半年が経過しようとしている。

 ZVC Japanが、地方自治体と協定を結んだ初めての事例であり、大分県では、Zoomを地域の活性化や県民サービス向上のためのツールとして活用。その範囲が、防災、教育、農業、福祉、医療、観光・スポーツ分野と幅広い分野に及んでいる点も、この協定の特徴だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大とともに、求められる県民サービスの質の変化にも対応するツールとして活用しているほか、同時に県職員の働き方改革にもZoomが貢献している。この半年間の協定の成果を、大分県商工観光労働部情報政策課地域情報化推進班の武藤祐治主幹に聞いた。

広瀬知事はZoom飲みの経験も

 ZVC Japanと大分県が結んだ協定は、Zoomのテクノロジーやサービスを活用して、大分県における地域の活性化や、県民サービスの向上を図ることを目的とし、防災、教育、農業、福祉、医療、観光・スポーツ分野といった広範な領域が対象となっている。

 2020年10月22日に、大分県庁で行われた協定締結式には、ZVC Japanの佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャーと、大分県の広瀬勝貞知事が出席。協定書に署名した。

佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャー(左)、大分県の広瀬勝貞知事(右)

 大分県の広瀬知事は、「今回の協定により、新たな課題を解決する上で、Zoomからの全面的な支援を得ることができた。願ってもないことであり、感謝したい。Zoomは、コロナ禍で成長した新たな形のインフラである。これまでにないユニークな使い方も始まっており、社会課題の解決につながっている。個人的にはZoom飲み会もやってみたが、それもいいものである。これからの新たな生活、新たなビジネスに有効に使われることを期待している」と発言。

 ZVC Japanの佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャーは、「Zoomは、ストレスなく気軽に使えるビデオコミュニケーションを開発し、提供している会社である。日本でも様々な人に利用されているが、大分県での利用は画期的なものばかりであり、幅広い領域で活用されている。大分県の取り組みを全力で支援したい」と述べた。

佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャー(左)、大分県の広瀬勝貞知事(右)

 協定締結式では、Neat JapanおよびDTEN JapanのZoom専用デバイスも寄贈され、県庁内では、これらデバイスの積極的な活用も行われている。

テスト導入からわずか半年で協定を締結

 大分県では、かねてからオンライン会議システムを積極的に活用してきた経緯がある。

 専用回線を活用したテレビ会議システムを活用していたほか、ネットワークのIP化などの取り組みとともに、2017年頃からは、Webexを導入していたという。

 Zoomの活用を検討したのは、新型コロナウイルスの感染が広がろうとしていた2020年2月末のこと。

 複数のコミュニケーションツールを検討するなかで、県庁内で職員が利用するには、庁内に導入されていたWebブラウザによる仮想環境でも実行できるツールとして、Zoomが最適だったことが理由のひとつ。だが、それ以上に重視したのは、初めて利用する県民にとって、使いやすいツールであるということであった。

 大分県商工観光労働部情報政策課地域情報化推進班の武藤祐治主幹は、「コロナ禍において、県庁内だけでなく、県内の中小企業や商店街の店舗、旅館業者をはじめ、外部の人たちと、新たな形でコミュニケーションを強化する必要が出てきた。それに最適なツールの検討を開始した際に、最有力候補のひとつにあがったのがZoomだった」とする。

 選定の際に要件にあがっていたのが、ITに不慣れな人たちでも簡単に接続できることだった。たとえば、事前にID取得や登録が必要なツールは、それだけでハードルをあげてしまうため、早い段階で候補から外した。

 「緊急的要素が強いため、設定方法や利用方法を説明したり、トレーニングしたりといった時間が取れない。ZoomであればミーティングIDを入力するだけで利用できるなど、利用までの敷居が低い。また、若い人を中心に、すでに利用している人が多いツールでもあった。まずは使ってもらえなければ意味がない。利用する人のことを考えるとZoomがベストだと考えた」と語る。

 ただ、その頃に、Zoomにはセキュリティ問題が発生。世間を騒がせていた。

 「もちろん、セキュリティ面については徹底的に検討した。だが、4月末には、Zoomバージョン5.0がリリースされ、それによって、セキュリティ対策が大幅に向上されたことで利用には問題がないと判断した。利用時には招待制とすること、内容にも注意し、センシティブな内容や個人情報を扱う場合には、電話や面会などの代替手段を利用することを前提とした。録画に関しても、先方の同意の上、ローカルに保存することにしている」という。

 大分県では、3月末からZoomの活用に向けたテストを開始。5月中旬には、トライアル段階という位置づけだったが、新型コロナウイルスに関する支援制度の説明会などにもZoomを利用したという。

 注目されるのは、テスト開始から約半年間という短期間で、ZVC Japanと地方自治体初の協定を結んだという点だ。

 武藤主幹は、「話し合いのなかで、自然と協定を結ぶという話になった」と前置きし、「協定を結ぶことで、ZVC Japanからの直接支援を受けることができるメリットは大きいと考えた。実際、不明な点は、直接問い合わせることができたり、新たな取り組みでは技術支援を行ってもらうといったこともあった。さらに、地域課題を共有し、県民にとって効果的な活用方法を模索できるほか、県民に対して、県がZoomを活用することを訴求し、関心を高めたり、セキュリティ対策に関する情報をいち早く共有したりといった点でも効果がある。また、Zoomをプラットフォームとして活用して、県民や国民だけでなく、世界中の人たちに、大分県の施策や、観光情報などを発信できないかとも考えた」と、ZVC Japanとの協定の狙いを語る。

「行政サービスのスピードアップにもつながっている」

武藤祐治主幹

 2020年度は、職員全体がZoomを使ったコミュニケーションを行えるようにすることを目指したが、2020年10月に、ZVC Japanと協定を結んで以降、職員の意識も変化し、積極的にZoomを活用する風土が生まれ、ウェビナーでの県民向け説明会や商談会などをオンラインで随時開催。Zoomを使った外部との会議も毎日のように行われているという。

 「コロナ禍では迅速な対応が求められる。従来の仕組みでは、関係者の日程を調整し、会議室を確保するだけで多くの時間がかかっていたが、Zoomを活用することで、すぐに自席から会議を行うことができる。月1回だったものが、毎週行うようになるなど、会議を行う回数が増え、県庁と現場の意識のずれがなくなっている。テレワークにおいても、Zoomを有効活用しており、在宅勤務が4割に達した時期もあった。県内を移動する時間も削減できている。その結果、作業量や作業時間は5倍ぐらいに拡大しているのではないか。できることが広がり、行政サービスのスピードアップにもつながっている」とする。

 なお、ZVC Japanとの協定にあわせて大分県に寄贈されたZoom専用デバイスのDTEN MEやNeat Barは、主に福祉分野で活用されており、県内全域の関連施設とのコミュニケーションに利用。さらに、知事の会見や会談などにも使用されているという。

 「DTEN MEは持ち運びも簡単であり、電源をつなげるだけでいい。すぐに接続して、画面も大きく、画質も高い環境で利用できる。会見や会談の際には、知事室に移動させて利用することも多い」と、あらゆるシーンで、有効に活用しているようだ。

防災や観光など多岐に渡ってZoomを活用

 先にも触れたように、ZVC Japanと大分県の協定では、防災、教育、農業、福祉、医療、観光・スポーツ分野といった広範な領域が対象となっている点が特徴だ。

 協定に盛り込まれた各分野におけるそれぞれの活用を見てみよう。

防災:被害情報の収集や、災害対応の情報共有に

 防災分野では、災害時における被害情報の収集、災害対応の情報共有において、Zoomが利用されている。

 「災害対応の情報共有を日常的に行っているほか、社会福祉協議会による災害ボランティアの活動支援にZoomを活用。令和2年7月豪雨の際には、災害用IDを緊急に発行してもらい、約10カ所の災害ボランティアセンターと現地を結び、タブレットに表示されたZoomの画像をもとにしながら、進捗状況の確認や最適な人員配置などに生かすことができた」とする。

教育:すべての県立高校にZoomを導入、遠隔授業のための「Zoom部屋」も整備

 教育分野においては、すでに70校すべての県立高校にZoomの導入を完了。2021年度はすべての県立高校に、遠隔授業を行うための通称「Zoom部屋」を設置し、DTEN MEなどのZoom専用機を設置することになる。

 「コロナの影響や災害によって登校ができなくなった場合も、学びを止めないで済む環境が整う。また、この仕組みが整うことで、災害時の情報共有や見守りにも利用できることになる。行政と生徒の家をつないだインフラとしても有効である」とする。

 また、教育分野では、2019年から、米スタンフォード大学と結んだ「遠隔講座」を開催。ここにもZoomを利用しているという。

農業:ドローンの映像をリアルタイム共有、農地の遠隔観察を

 農業分野においては、ユニークな取り組みが開始されている。

 大分県佐伯市では、長野県の製菓メーカーがお菓子の原材料として、レモンを栽培する農地を造成。進捗状況の把握にドローンで撮影した映像を、Zoomを通じてリアルタイムで共有。農地の遠隔視察などを行っているという。ここにおいても、ZVC Japanが技術支援を行っており、今後、生育状況などもドローンで確認することができるようになる。

 一方で、病害虫駆除などに関する農家向け説明会などにも、Zoomを利用。これにより、職員が離れた場所を巡回して説明会を開くということがなくなり、それにあわせて説明会の開催回数を増やすといったことができたという。「いまは農家の人たちに、地方出先機関に集まってもらっているが、今後は、直接、自宅から参加する農家の人も増えていくだろう」と予測する。

福祉・医療:健康体操のサロンや、離島診療に

 福祉分野では、高齢者向けの健康体操を行う「オンラインサロン」を、2021年度からZoomで配信することを予定しているほか、医療分野では、離島を対象にしたオンライン診療にもZoomを利用する予定だ。

 「オンラインサロンを開催する回数を増やしたり、高齢者が様々な人たちとコミュニケーションを図れるきっかけづくりにもZoomを活用したい。また、大分県には有人離島が7島ある。Zoomのような軽いアプリケーションであれば、回線の帯域の問題にも対応しやすく、離れた地域とのコミュニケーションや、オンライン診療にも効果が発揮できるだろう」としている。

観光・スポーツ:オンライン観光やワーケーション、高校生スポーツや障碍者スポーツの配信も

 そして、観光・スポーツ分野においては、オンライン観光やスポーツ観戦のほか、ワーケーションや旅館のテレワークスペースの提供などにも活用しはじめたという。

 具体的には、国内外の旅行会社や、地域のコーディネータを対象にしたオンライン商談会を、Zoomを利用して開催。「アフターコロナを見据えて、インバウンド観光客に対する提案を行う商談会は、かつては年1回の開催だったものが、すでに4回以上開催している。Zoomを活用して、国内を対象にしたオンライン観光も開始されており、今後は、ワーケーションやオンライン観光の提案とともに、Zoomのプラットフォームを活用して、幅広い人たちに大分県の魅力を発信していきたい」とする。

 さらに、スポーツでは、2021年度から、高校生スポーツや障碍者スポーツを、Zoomを使って配信することも考えているという。

 そのほか、Zoomの翻訳機能を活用。通訳者が会議に参加することで、海外とのコミュニケーションを円滑にしたり、映像ならではの特徴を生かして、手話を利用。障がい者の社会参画を支援するといったことにも取り組んでいくという。

 「各分野における取り組みは、いままでやってきたことを置き換えるというものが多い。海外とのコミュニケーションの強化や、障がい者の社会参画といったように、ZVC Japanの協力を得ながら、新たなコミュニケーションツールの活用によって生まれる成果や可能性を広げたい」とする。

 ZVC Japanと大分県の協定は1年間となるが、その後は自動更新することになっているという。

 大分県では、「令和3年度県政推進指針」において、あらゆる取り組みにおいて、デジタルを活用していくことが盛り込まれている。そのなかで、Zoomが果たす役割は重要だ。地方自治体におけるZoomの先進的活用事例が、これからも生まれてきそうだ。