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「年末調整の抜本的なデジタル化」を平井デジタル改革大臣に提言、社会的システム・デジタル化研究会が発表

紙前提からデジタル前提のシステムへ、2026年までの段階的な改革案を示す

デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言(プレスリリースより)

 弥生、SAPジャパンなど6社が参加する「社会的システム・デジタル化研究会(通称:Born Digital研究会)」は6月3日、「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」を平井卓也デジタル改革担当大臣へ提出したと発表した。

 同研究会は、経理など社会的システムのデジタル化、効率化の向上、および社会的コストの最小化を目的として2019年12月に発足した。本発表時点での参加メンバーは、SAPジャパン株式会社、株式会社オービックビジネスコンサルタント、ピー・シー・エー株式会社、株式会社ミロク情報サービス、弥生株式会社、株式会社Works Human Intelligenceの6社。

 2020年6月には「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」を発表し、「中長期的には、確定申告制度、年末調整制度、社会保険の各種制度等について、業務プロセスを根底から見直すデジタル化を進めるべき」との提言を行っている。今回の「デジタル化による年末調整の新しいあり方に向けた提言」は、その中から年末調整に関しての詳細をまとめたもの。

 年末調整に限らず日本の社会的システムの多くは、紙での処理を前提に構築されている。年末調整は本来ならば確定申告の簡易版であるはずだが、税制の複雑化に伴い、確定申告と比べて処理が複雑になってしまっている。このような課題を、デジタルのシステムを前提としたものに構築し直すことで、抜本的な効率化を図ることを提案。同研究会の岡本浩一郎代表(弥生株式会社代表取締役社長)らが、オンラインミーティングでデジタル改革担当大臣に提出し、意見を交換した。

現在の年末調整業務の流れ(プレスリリースより)

 以下の5点が、新たな年末調整の基本的な考え方として挙げられている。

  1. 発生源でのデジタル化
  2. 給与支払額、従業員の扶養状況など計算前の「原始データ」をリアルタイムで収集
  3. 一貫したデジタルデータとしての取り扱い
  4. 必要に応じた処理の主体の見直し
  5. 確定した事実ベース

 提言の主な内容は、以下の通り。

  • 年末調整制度について、デジタルを前提とし、業務のあり方そのものを見直す「デジタル化(Digitalization)」を推し進めること
  • 社会全体としての最適化を実現するために、デジタル化を前提に、業務の処理方法、処理時期、そして従業員、事業者、行政の役割を見直すこと
  • 明確なロードマップを策定し、段階的に、着実に推進すること。またその推進のために、行政と民間が協同で取り組むこと

 原始データに関しては、従業員の扶養状況等の情報、月次の給与支払いや源泉徴収の実績、各種控除証明データを、発生源からデジタルデータでリアルタイムに収集し、翌年1月以降に年税額・精算額を算出することを提言している。紙媒体と同じ作業を電子媒体上で再現する「紙の電子化」にとどまらず、作業の流れ自体をデジタル環境を前提に見直す「デジタル化」によって、年末調整業務における効率の向上を目指す。

 新たな年末調整の実現に向けては、変更に要する工数や時間軸において難易度が異なるものが混在することから、段階的に実現していくアプローチが望ましいとしている。全体を2段階に分け、主に事業者内でのシステムの見直しを行う第1ステップは2023年分、大規模な法令改正や行政のシステム見直しを要する第2ステップは2026年分ごろの実現を目指すという。

新たな年末調整業務の流れ(ステップ1)
新たな年末調整業務の流れ(ステップ2。行政のシステムで年税額計算を行う場合)

 同研究会は、年末調整制度は主に行政の仕組みであるため、新たな制度の実現に向けては行政による主導が必要となる一方、民間事業者からも一定の関与と強力な後押しが不可欠であるとして、提言内容の実現に向けて引き続き積極的な活動を目指すとしている。