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テレワークで総労働時間の増加も、原因の1つはウェブ会議――課題と対策、働き方の新たな方向性とは?

日本テレワーク協会、企業の取組事例などをまとめた研究レポート公開

 一般社団法人日本テレワーク協会は、「働き方の未来特別研究プロジェクト」において交換された意見や企業の事例をまとめたレポート「新展開を迎えた働き方改革・テレワーク推進~コロナ下における課題と取組~」を公開した。レポートはPDF形式で、同協会のウェブサイトから無償でダウンロードできる。

「新展開を迎えた働き方改革・テレワーク推進~コロナ下における課題と取組~」表紙

 働き方の未来特別研究プロジェクトとは、テレワークに関する意見や事例などを交換・共有する場で、日本テレワーク協会において発足した。テレワークに先進的なNTTデータや富士通などITに関わる企業はもとより、日産自動車、日本航空、三井住友海上火災保険など、幅広い業界から約20社が参加。主に人事担当者がメンバーとなっている。

 研究会は「新展開を迎えた働き方改革・テレワーク推進」をテーマに、2020年10月から2021年3月までの間にオンラインで5回開催。今回公表されたレポートは、その研究会の情報をまとめたものだ。

 働き方の未来特別研究プロジェクトは、このレポートについて「経営者や人事担当者、働き方改革の推進担当者にとって、テレワークを取り巻く働き方の新たなスタンダードを模索する上で参考になれば幸いだ」としている。

「新展開を迎えた働き方改革・テレワーク推進~コロナ下における課題と取組~」目次。レポートには、テレワークにおける人事制度の見直しについても書かれている

 2020年度は、コロナ禍により全国でテレワークの導入が呼び掛けられたことが大きな出来事だった。また、テレワークを阻害する「対面・紙・ハンコ」を前提とした業務の見直しとデジタル化の機運が一気に高まったことも挙げられる。これらのことにより、プロジェクトは「コロナ下における各社の働き方改革・テレワーク推進に関する事例の共有や意見交換が活発に行われたことが特徴だ」としている。

 テレワークは、業務の見直しとデジタル化を進めるため業務の効率性につながる。さらに多くの場合、テレワークで仕事を行うのは自宅のため、オフィスとの移動時間が削減できる。しかし、実際にはコロナ禍によるテレワークが進んだ2020年度は、2019年度よりも総労働時間が延びている企業が目立ったという。

 原因の1つとして、ウェブ会議が挙げられる。オフィスでは立ち話程度で済んだ相談をウェブ会議で行うことが多くなったという。ほかには、オフィスの会議室と異なり、ウェブ会議は簡単に延長できる。これらの原因により、スケジュールがウェブ会議で埋まり、長時間労働につながっているとしている。

オフィスの役割・機能の見直し、出社とテレワークを組み合わせた働き方の工夫を

 2020年のコロナ禍から続いているテレワークだが、生産性が高く、継続を希望する声が多いため、「出社を前提とする働き方を見直し、テレワークを標準とする働き方に大きく舵を切った企業が目立った」としている。しかし、テレワークに一本化し、オフィスを完全に廃止するのではなく、出社とテレワークを組み合わせた働き方で、従業員と企業が高いパフォーマンスが保てるように試行錯誤を進めているという。

 これを踏まえて「オフィスの役割や機能の見直し」として、在宅勤務などのテレワークの増加によりオフィスへの出社率が低くなり、立地や面積をはじめとして「オフィスの役割や機能に関して経営・人事戦略上の重要な検討項目として取り上げられるようになった」としている。

 また、テレワークが前提の仕事であっても、オフィスは会議の参加者が同じ立場で意見を出し合う「ブレインストーミング」、コラボレーションの創出、新規事業の立ち上げ、新人の育成などは効率が良いと捉えている企業もある。また、「オフィスは会社のブランドイメージや価値観を共有できる場として必要」という意見もあった。

 このようにオフィスの用途が変わることで、必要とされる設備も異なってくる。出社したメンバーが気軽に意見交換ができるスペース、ウェブ会議に集中できるスペースが必要だ。また、もう一歩進むと、経営層やオンラインセミナー用の専用スタジオの設置も考慮した方がよい。

 テレワークでは、従業員がオフィスに集まって仕事をするのではなく、それぞれ離れた場所に分散している。このような場合、コミュニケーションや情報共有が行えるウェブ会議やチャット、ファイル共有などのサービスは欠かせない。しかし、「一人ひとりのITリテラシーを底上げしていかないと、テレワークの生産性が下がってしまう」という課題がある。

 この課題を解決するには、指導や教育が必要だ。しかし、コロナ前は、ウェブ会議は特別なことであり、教育や指導をするべきマネージャーはノウハウを共有できずに悩んでいるという声が多数寄せられたという。そのため、従業員は我流でそれぞれオンライン営業をしているのが実態だ。

 これには企業からの支援が必要だとして、ある会社は、ウェブコミニケーションにおける自分の見せ方や話し方、ウェブ会議の効率的な進め方をまとめた資料を作成したという。

 ウェブ会議のために設置したウェブカメラだが、管理職が行きすぎた監視や指導を行う「テレハラ」と「リモハラ」につながることもある。テレワーク中に部下が仕事をしているのか監視するために、カメラを常時オンにすることを命令する、業務状況の報告を細かく求める、ウェブ会議やチャットで罵倒する――といったことだ。「テレワーク下のハラスメントは、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントにもつながりかねない」として、オンラインでハラスメントセミナーを開催する企業もあった。

 このレポートについて働き方の未来特別研究プロジェクトは、「2021年以降は出社とテレワークを組み合わせた働き方で工夫を重ね、いかに組織の生産性や社員のエンゲージメントを高めていけるかが経営戦略・人事戦略上の大きな論点になりそうだ」としている。