コンピューターが監視されるのか? 法務省が「サイバー刑法」に関するQ&A


 法務省は、コンピューターウイルスの作成・提供行為を直接罪に問う「ウイルス作成罪」などを盛り込んだ、いわゆる「サイバー刑法」(情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案)の法案に関するQ&Aを、同省のサイトで公開している。法案は4月1日に国会に提出されており、現在衆議院で審議中となっている。

 ウイルス作成・提供行為を罪に問う法律については、2005年に共謀罪の創設などとともに刑法改正案が国会に提出されたが成立には至らず、今回、ウイルス作成罪や通信記録の保全要請規定などに関する部分が改めて刑法改正案として国会に提出された。

 Q&Aでは、「この法案はコンピューターに対する監視を強化するものではありませんか」という問いに対して、増加を続けるサイバー犯罪などに適切に対処するため、ウイルス作成罪の新設などの罰則の整備や、捜査手続きの整備などを行うもので、監視を強化するものではないと説明。法案によってコンピューターの監視を可能とするような特別の捜査手法が導入されるわけではなく、監視が強化されるものでもないとしている。

 ウイルスの作成・提供罪の成立要件については、1)正当な理由がないのに、2)無断で他人のコンピューターにおいて実行させる目的で――ウイルスを作成・提供した場合だと説明。ウイルス対策ソフトの開発など正当な目的でウイルスを作成した場合や、ウイルスを発見した人がそれを研究機関に提供した場合などは、いずれも要件を満たさないため罪は成立せず、プログラマーがバグを生じさせた場合なども、故意犯ではないため罪にはならないとしている。

 また、法案ではウイルスを保管する行為についても罰則を設けているが、ウイルス保管罪は「正当な理由がないのに、無断で他人のコンピューターにおいて実行させる目的で、ウイルスを保管した場合」に成立するものだとして、単にウイルスを送りつけられて感染させられた場合などは、そもそもウイルスであるとの認識を欠く場合も多いと考えられる上、仮にウイルスであることを知ったとしても要件を満たさないため罪は成立しないと説明している。

 このほか、捜査機関が通信事業者などに対して通信記録の保全を要請できる規定の導入については、通信履歴を一時的に消去しないよう求めるものにすぎず、保全要請の対象となるものもその時点でプロバイダーなどが業務上記録しているものに限られると説明。保全された通信記録を捜査機関が手に入れるためには、これまでと同じように令状が必要となり、捜査機関が無令状で通信記録を簡単に取得できるようなものではないとしている。

 また、この時期に法案を提出した理由としては、2005年に国会に提出した法案の内容をベースとしつつ、国会の議論なども踏まえたもので、法案を国会に提出することは東日本大震災の発生前に閣議決定されていたが、当日に震災が発生したため提出が震災後になったと説明。この法案の成立後は共謀罪の新設などさらなる捜査権限の拡大を狙っているのではないかという問いには、共謀罪の新設などはサイバー関係の法整備とは別個に検討すべき課題であり、今回の法案と結びつけるのは正しくないとしている。


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(三柳 英樹)

2011/5/19 15:15