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これがネット犯罪の手口だ、警察庁がフィッシング検挙事例を解説

 株式会社シマンテックは14日、サイバー犯罪啓発を目的としたセミナーを都内で開催。サイバー犯罪を担当する警察庁生活安全局の吉田光広氏が登壇し、被害総額が約1億円に上ったフィッシング詐欺の犯行グループの手口と、犯人逮捕までの過程を解説した。

警察庁生活安全局の吉田光広氏

ヤフーを騙った組織的なフィッシング詐欺事件

 吉田氏は2012年3月に通称“サイバー課”と呼ばれる現在の部署に赴任。不正アクセスやフィッシング詐欺、ウイルス罪などの犯罪捜査に関する都道府県警の指導・調整を担当している。静岡県警察本部サイバー犯罪対策室管理官だった2011年には、Yahoo! JAPANの会員がターゲットになった大規模フィッシング詐欺事件を捜査した実績を持つ。

 この事件では、東京都豊島区に拠点を置いていた詐欺組織が、2010年10月から2011年6月までの間に約32万通のフィッシングメールをYahoo! JAPAN会員に送信。だまし取った約2000件のクレジットカード情報を使い、オンラインショップから購入した高額商品や電子マネーを換金し、約1億円を荒稼ぎしていた。

不正入手したカード情報で高額商品や電子マネーを購入

 主犯は、「出会い系サイトやオレオレ詐欺をやっていたが金にならなかった」(吉田氏)というA(当時28歳)。フィッシングサイトのツールを入手したことをきっかけに、今回の犯行に至った。

 詐欺組織はこのほか、フィッシングサイト運営に利用したデータ通信カードを契約する際に必要だった身分証明書を偽造するツールをAに提供したI(当時31歳)、オンラインショップで購入した商品の送り先となる空き部屋情報をAに提供した不動産会社勤務のF(当時29歳)、空き部屋で商品を受け取っていたH(当時25歳)ら9人で構成されていた。

 主犯のAは、ゲーム上のキャラクターやアイテムを現実の通過で売買する「リアルマネートレード(RMT)」を行なっていた大阪在住のE(当時30歳)にフィッシングで入手したカード情報を提供。それをもとにEは電子マネーを中古の携帯電話にチャージし、コンビニで換金していた。

カーテンのすき間から24時間監視、自転車とバイク、車で追跡

 捜査は、東京都豊島区にあった詐欺組織のアジトを見下ろすマンションの一室を借り、24時間体制の張り込みが行われた。カーテンのすき間から望遠レンズでアジトを監視し、犯人の出入りや電気のオン・オフをチェック。アジトの玄関から犯人が出てきたら、自転車とバイク、自動車で追跡するといった捜査を数カ月続けたという。

 張り込み捜査では、犯人がオンラインショップで購入した高額商品がアジトに届けられる写真や、商品を保管していたレンタル倉庫の近くで外国人の故買屋と取り引きする写真を撮影するなど、証拠固めを行なっていた。

 「商品の受け渡しでは、犯行一味が山のように荷物を積んだタクシーで走っていると突然停車した。すると、その後ろから付いてきていた外国人が乗ったタクシーも停まったかと思うと、外国人と犯行グループが入れ替わって『はいさようなら』といったやりとりもあった。」

 こうした捜査を続けて関係者を割り出した捜査本部は、一斉検挙に踏み切る。主犯Aは横浜市の高級ホテルの一室で、補佐役のBは川越市のアパートでそれぞれフィッシングサイトを立ち上げているところを現行犯逮捕。電子マネーに換金していた大阪在住のEの自宅からは224台の中古携帯電話が押収された。

 「犯行グループは、ごくごく街にいるような不良の集まり。たまたまAが知識を持っていただけで、ほとんどネットについて疎い連中だったが、短期間に1億円も集めていた。我々警察は日夜、コンピューターを利用した机上での捜査と並行して、証拠集めをしながら犯人を追い詰めていって逮捕する捜査をしている。」

(増田 覚)