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「お風呂中は使いません」宣言用紙をスマホ契約時に配布、都がネット依存対策

青少年問題協議会が緊急提言

 東京都青少年問題協議会は、“ネット依存”の問題が青少年に広がっており、今後ますます深刻化する恐れがあることが分かったとして「緊急メッセージ」を出した。都に対して予防のための取り組みを提言するとともに、子供を持つすべての保護者および中学生・高校生等に向けた呼び掛けのメッセージを発信している。

東京都庁

 緊急メッセージは、24日に開かれた第29期東京都青少年問題協議会の第2回総会において決議したもの。協議会の今期の審議テーマは「青少年のインターネット・携帯電話への依存について」。会期は2年で、2012年12月の第1回総会の後、学識経験者などによって構成する専門部会を7回にわたって開催し、専門家からのヒアリングなどを通じて実態把握を行ってきた。第2回総会では、その調査結果について中間報告があった。

 都では当初、今年11月をめどにとりまとめられる最終報告を待って具体的な対策の議論に入る予定だったが、ネット依存で実際に心身に問題を抱えて医療機関を受診する事例が増えていること、スマートフォンが急速に普及している中でネット依存に陥る子供が増える懸念があることが中間報告の段階で見えてきたことから、協議会では緊急メッセージを発信することで早急な取り組みを促すこととした。

 都に対しては、青少年および保護者向けに早急にネット依存予防について啓発を行うこと、実態調査を行うこと、家庭内ルールの策定および中学・高校の生徒自身による自主ルール策定が進むように支援すること、教育・保健医療分野を含めた総合対策の実施を国の関係省庁に求めること、SNS・ゲーム事業者に対して青少年保護のための自主的な取り組みを要請すること――などを提言している。

 「対策が遅れることで、ネット依存で心身や学業に悪影響を与える青少年が増えることが懸念される。今やネット依存の拡大を食い止める取り組みが急務。青少年本人とその保護者に対して広くネット依存の問題を注意喚起し、都をはじめ各自治体において実施可能な対策に直ちに取り組んでいきたい。」(秋山俊行東京都副知事)

秋山俊行東京都副知事

ネット依存についての説明書と宣言書、スマホ契約時に販売店で配布

 第2回総会では、提言を受けて都として具体的にどのような取り組みが考えられるのか、その案も提出され、事務局(青少年・治安対策本部青少年課)から説明がなされた。

 具体的には、1)保護者向けの啓発リーフレットの作成・配布、2)都内の青少年のネット依存について実態調査の実施、3)ネット依存についての相談窓口による対応、4)家庭におけるルール作成の支援、5)中学・高校の生徒会やクラスでの自主ルール作成の支援――という5項目だ。

 相談窓口については、「こどものネット・ケータイのトラブル相談! こたエール」という窓口をすでに提供しているが、従来は架空請求やネットいじめなどを想定していたという。今後、相談員の研修会などを通じてネット依存についての相談対応力の向上を図る。

 家庭におけるルール作成については、これも従来より展開している「ファミリeルール」講座について、ネット依存予防の観点を重視した講義内容を充実させるほか、青少年が使用するスマートフォン/携帯電話の契約時に、販売店において保護者向けの説明書などを配付する。

 この説明書では、「子供のメディア教育は家庭教育の必須事項の一つ」であり、「情報化社会を『生きる力』の育成を担うのは、第一義的には家庭」であることを、保護者に対して訴える。

 また、過度のネット利用によって身体面、精神面、学業面、金銭面、対人面で支障を来す子供が増えていることを説明。健康や普段の生活に悪影響が生じないよう、また、ネット上の危険から子供を守るために、子供と話し合い、共通の理解のもとにネット利用の家庭内ルールを作成することの重要性を訴える。

 なお、過度のネット利用で生じるものとして挙げているのは下記のような項目で、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターのネット依存治療研究部門の資料をベースにしている。

  • 身体面:視力低下、運動不足、エコノミークラス症候群など
  • 精神面:ひきこもり、昼夜逆転、睡眠障害など
  • 学業面:成績低下、遅刻・授業中の居眠り、留年・退学など
  • 金銭面:浪費、保護者のクレジットカードの無断使用など
  • 対人面:家庭内暴力・暴言、友人関係の悪化など

 説明書に加えて、実際にルールを作成するための記入用紙も用意する。イメージとしては、「私の宣言書」というタイトルで、「私は約束します」「約束を守れなかったら」という項目で具体的なルールを個条書きするものだ。

 例えば、「食事中、お風呂、夜10時から朝6時まではスマホを使用しません」と約束し、これを守れなかった際は「1週間、スマホをお母さんに預けます」といった“メタルール”も取り決めるかたちだ。宣言者および確認者の署名欄もある。

 ネット依存の予防は、スマートフォンなどを使い始める時が重要だとして、契約時に販売員から必ず保護者に配布するよう事業者に協力を求めていく。

 説明書ではこのほか、乳幼児に対する“スマホ子守”についても言及。このような行為が子供の健全な発達を妨げる恐れがあるという日本小児科医会の指摘なども紹介する。

中学・高校生による“自主ルール”はLINEにも言及するイメージ

 中学・高校生による自主ルール作成については、生徒集会などにネット依存に詳しい講師を派遣するなどして、生徒自身によるルール策定の動機付けを促す。また、「今、皆さんは、自分の将来を方向付けるかけがえのない時期を生きています、ネット依存によって貴重な時間を失わないよう、ケータイ・スマホの節度ある利用と、豊かな実体験を通して、充実した日々を送ってください」といった呼び掛けを行っている。

 この呼び掛けでは、スマートフォンや携帯電話、PCは便利で有用性が高い一方で、不適切な使い方により自身や他者に悪影響を及ぼすこともあるとし、保護者向けと同様に各側面での支障を来す例を提示。ネット依存により自身・友人が健康を害したり、日常生活に悪影響が生じないよう、生徒会やクラス会などで生徒同士で議論し、使用時間の限度や不適切な使用の防止について自主ルールを定めるよう促す。自主ルールのサンプルイメージとして、以下のような“5か条ルール”も例示している。

  • 第1条 人の悪口や欠点などの書き込み、LINE(ライン)などで特定の人を無視したり、グループから仲間はずれにする行為など、人の心を傷つけたり悲しませたりすることは絶対に許しません。
  • 第2条 SNSサイトや掲示板などに、自分や他人の個人情報(氏名・住所・電話番号・メールアドレス、LINEのなどの各種ID、顔写真など)は書き込みません。
  • 第3条 ネット上で知り合った人に、自分の個人情報を教えたり実際に出会うことは、犯罪に巻き込まれる危険があることを十分理解し、慎重に行動します。
  • 第4条 夜○時から朝○時までの間は、ケータイ・スマホ、PCの使用はしません(LINEも夜○時で終了します)。
  • 第5条 このルールは最低限のものであり、このルールにないことや、このルールより厳しいことを、保護者と話し合って家庭のルールとして定め、これを守ります。

ネット依存の低年齢化で、小学生も対象に含めるべきとの意見も

 第2回総会では、提言案および都の取り組み案を受けて、各委員からさまざまな意見が出された。

24日に開かれた第29期東京都青少年問題協議会の第2回総会

 まず、「ネット依存という言葉は分かっているが、子供自身、自分がネット依存だという意識があるのかどうか」との懸念があるという。また、ネット依存の低年齢化で小学生にも問題が広がってきているとし、呼び掛けの対象に小学生を追加することや、メッセージが子供にしっかり届き、理解されるよう、学齢に応じた呼び掛けの表現を検討すべきといった指摘があった。

 一方で、今回の提言には盛り込めないが、「大人のネット依存はどうするのか?」という問題も挙がった。電車の中などを見ると大人の方がよほどゲームをやっているとし、そのような状況ではそもそも青少年がネット依存を直したいという意識にならないのではないかというわけだ。

 また、スマートフォン契約時に説明書や宣言用紙を配布してもらう取り組みについては、今後、事業者に協力を求めていくことになるが、「携帯キャリアやゲーム事業者にまだ十分に実態が分かってもらえていない」「携帯電話のフィルタリングの問題が一時話題に上がった時も事業者にもそれなりに努力していただいたが、現状、店頭での自助努力がどうなっているのかという別の問題も発生しているようだ」といった指摘もあった。

 このほか、ネット依存対策というと、どうしても時間を制限するなど否定的な方向になってしまうことに対して、規制するだけでは受け入れられないと指摘。「やっていいこと」の開発も必要ではないかとして、例えば「使うことによって依存症でなくなるアプリ」という方向性のアイデアも出た。“スマホ子守”についても、核家族化によってどうしても子育てに手が足りない世帯もあるのが現実だとし、「あるものを生かすことを考えなくてはならない。子守に使ってもよいアプリが考えられるのであれば、開発すべき」だという。

 協議会では各委員からの意見を参考に、小学生も対象として含めることなどを考慮。当初の案で「中学生・高校生への呼びかけ」だった部分を「中学生・高校生等への呼びかけ」にするなど一部を修正した上で緊急メッセージを発信した。

(永沢 茂)