補償金訴訟を受け東芝が見解、結論出ていないものは徴収できない


東芝が発表した「私的録画補償金に関する当社の対応について」

 東芝は11日、私的録画補償金に関する同社の対応について公式見解を発表した。アナログチューナー非搭載DVDレコーダー(以下、デジタル放送専用録画機)については、「補償金の対象か否か明確ではないため、現段階ではご購入者様から補償金を徴収できない」としている。

 私的録画補償金を徴収・分配する私的録画補償金管理協会(SARVH)が10日、販売したデジタル放送専用録画機の補償金を納付しなかったとして、東芝を相手取り、補償金相当額3264万5550円の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こしたことを受け、東芝が見解を示した。

 補償金の対象かどうか明確ではない状況で補償金を徴収すれば、その後、デジタル放送専用録画機が対象外であるとされた場合に、購入者への返還が事実上不可能なことから、現状では補償金を徴収できないとしている。

 また、仮に今後、デジタル放送専用録画機が補償金の対象であることが明確になった場合でも、それ以前の購入者に対し、さかのぼって補償金を徴収することはないという。

 デジタル放送専用録画機を補償金の対象とするかどうかについては、関係者間の合意が得られず、メーカー側と権利者側が対立したままとなっている。

 ダビング10やコピーワンスといったDRMが施されていないアナログ放送については、無制限に複製が可能なことから、私的複製により権利者が被る経済的不利益を補償するため、アナログチューナー搭載DVDレコーダーを補償金の対象としている。東芝でも、それらの製品については補償金分を上乗せして販売し、消費者から徴収した補償金を納付しているという。これに対して、DRMが施されている現在のデジタル放送では複製が制限されることから補償金は不要とするのが、メーカー側の業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)の主張だ。

 実際のところ、デジタル専用録画機の取り扱いについては、今年5月にブルーレイディスク・録画機を補償金の対象に追加指定する政令の施行通知の中で、「デジタル専用録画機が発売されて関係者の意見の相違が顕在化した場合は調整を行う」という旨が明記されていた。東芝ではこの点からも、現時点では「補償金の対象か否か明確でない」との判断だ。

 これに対して権利者側は、デジタル放送専用録画機であっても、従来のアナログ放送録画機と同様に対象になると主張し、SARVHでも東芝に対して納付を要請してきた。しかし、文化庁著作権課が「デジタル専用録画機も補償金の対象になる」との見解を9月に示した後も、東芝がデジタル放送専用録画機の補償金納付に協力しなかったため、訴訟に発展した。

東芝が2009年2月に発売した「RD-G503W」

 SARVHが支払いを求めた3264万5550円は、東芝が2月に発売したデジタル放送専用録画機3製品「RD-E303」「RD-G503K」「RD-G503W」の、2月から3月までに販売した3万1091台分の補償金に相当する。単純平均すると、1台あたり1050円。

 東芝では8月にもデジタル放送専用録画機「RD-E1004K」「RD-E304K」を発売しているが、これら2製品についても、販売するにあたって補償金を徴収していないことを明らかにしている。

 なお、東芝の今回の公式見解はあくまでも、デジタル放送専用録画機が対象となるかどうか結論が出ていないことを主張する内容だ。対象とすることじたいの是非については、「補償金の支払義務者である消費者を代表する主婦連合会や一般社団法人インターネットユーザー協会も、当該商品のようにアナログチューナー非搭載で著作権保護技術が施されているデジタル放送のみの録画機器を補償金の対象とすることには反対している」と引き合いに出すにとどまっている。

 東芝では、「今後も、当社は、著作物の権利者や消費者の方々とともに解決に向けた議論に真摯に取り組んでいきます。また、今後、経済産業省と文化庁が、消費者、権利者、製造業者など関係者の合意のもと、必要な措置を適切に講じることを期待します」とコメントしている。

 関係者間の話し合いの必要性は、メーカー側、権利者側、消費者団体側ともに主張しているところだ。ただし、権利者側においては、今回のデジタル放送専用録画機の問題と合わせて、iPodなどのHDD/メモリ型の音楽プレーヤーやPCのHDDへの課金についてもセットで議論を求める向きもある。メーカー側の反発も当然ながら予想され、本当にそのような場が実現するのか注目される。


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(永沢 茂)

2009/11/11 19:17