レビュー

最大4804MbpsのゲーミングWi-Fi 6ルーター「TUF-AX5400」、非対応端末もVPN接続できる「VPNフュージョン」も魅力

ルーター側でVPNに接続、指定デバイスだけVPN通信を可能に

 ASUSがWi-Fi 6対応ルーター「TUF-AX5400」を新たに投入する。同社のWi-Fiルーターはゲーミング機能が充実しているのが特徴だが、中でもTUFシリーズは、同社のラインアップではゲーマー向けかつ、「タフ」という名前どおり、高い安定性と耐久性を持つ製品ということになる。

 しかし、実はこの製品、ゲーマー以外にも便利に使える独自機能を備えているのも特徴だ。特に、VPNに対応していない機器をVPN接続させる「VPNフュージョン」は、ゲーム機やIoTデバイスだけでなく、さまざまな用途に使えそうだ。

 そこで今回は筆者のゲーマー的視点に加えて、ネットワーク系マニアとしての視点からも、本機の面白さをお伝えしたい。

ASUSのゲーミングWi-Fi 6ルーター「TUF-AX5400」

最大4804MbpsのWi-Fi 6、WAN/LANともにリンクアグリゲーションに対応

 まずはWi-Fi 6ルーターとしての基本的なスペックを確認してみよう。

 Wi-Fi 6の速度は、5GHz帯で4804Mbpsと現状の製品では最高の性能。2.4GHz帯は574Mbpsとなる。有線はWAN、LANとも1000BASE-T。ここに書いた主なスペックだけで比較すると、同じASUS製の「RT-AX82U」と同等の性能だ。

 TUFシリーズの製品としては、「TUF-AX3000」と比べて5GHz帯の速度が倍になっているのが大きな違い。ノートPCなどWi-Fi子機側の最大速度が現状では2402Mbpsなので、実用上で速度差は出にくいが、注目点はほかにもある。

TUF-AX5400
対応規格Wi-Fi 6
最大速度(5GHz帯)4804Mbps
最大速度(2.4GHz帯)574Mbps
ストリーム数4×4(5GHz帯)、2×2(2.4GHz帯)
WAN1000BASE-T×1
LAN1000BASE-T×4
USBUSB 3.2 Gen1×1

 外観は6本のアンテナが特徴的。向きは1本ごとに調整できるが、取り外しは不可。ボディカラーはブラックで、本体中央付近に描かれたTUFシリーズのロゴがLEDで光る。ロゴは同社のLEDライティング機能であるAura RGBに対応しており、色や光り方をカスタマイズ可能。Aura RGBを無効にすれば消灯もできる。

アンテナは背面に4本、側面に各1本で計6本を装備。向きはそれぞれ調整が可能
ACアダプタは縦長の形状で、マルチタップに接続しても邪魔になりにくい

 ポート類は背面に集約されている。4つのLANポートのうちLAN1は、接続した機器の通信が優先されるゲーミングポートとなっている。

背面端子はWAN×1、LAN×4、USB、WPSボタンなど。LAN1がゲーミングポート、LAN2はリンクアグリゲーションにも使う

 LAN1とLAN2を使ってリンクアグリゲーション(IEEE 802.3ad)も構成できる。対応NASなどと接続すれば、複数のWi-Fi子機からの同時アクセスを高速化したり冗長化したりできる。さらに、Wi-Fi 6接続では1Gbpsを超えるアクセスも可能となる。なお、リンクアグリゲーションは初期設定ではオフになっているので、使うには設定でオンに切り替える必要がある。

 さらにWAN側も「WANアグリゲーション」という名前でリンクアグリゲーションに対応しており、WANポートとLAN4ポートで構成できる。対応するモデムは希少だが、WAN側も一応2Gbpsで接続できるようにはなっているわけだ。

LAN1とLAN2を使ってリンクアグリゲーションの設定が可能
WAN側もリンクアグリゲーションで2Gbpsの通信が可能

 このほか、ASUS独自のメッシュWi-Fi機能「AiMesh」にも対応しているので、同社製のWi-Fiルーターと組み合わせてメッシュWi-Fiを構築すれば、電波の範囲を広げることもできる。

近距離での通信安定性の高さが光る、近距離下りで900Mbps超

 次に、Wi-Fiの通信速度を検証しよう。160MHzの帯域幅に対応し、最大リンク速度2402MbpsとなるノートPCをWi-Fi子機とし、ルーターに1000BASE-Tの有線LANで接続したPCをサーバーとしてiPerf3でテストを実施した。

 同室内での近距離通信のほか、筆者宅である3LDKのマンションで、通路側の部屋に本機、ベランダ側の部屋の端にPCを置いて通信した。間に2枚の木製扉があり、筆者宅にあるNURO光のホームゲートウェイ「HG8045Q」だと、5GHz帯のリンクが途切れる距離だ。

上り下り
近距離915.8940.4
遠距離4.930.2

※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載

 近距離では、900Mbpsを超える通信速度を安定して維持できていた。個別の測定データを見ても速度のブレ幅が小さく、上り下りともに、速さはもちろん安定性の高さを感じさせる結果となった。

 遠距離では、下り方向の通信自体は比較的安定しているものの、かなり速度が低下して30Mbps前後となり、ウェブブラウジングなどでもたつきが感じられた。上り方向ではたびたび通信速度が途切れてテストに失敗することもあった。Wi-Fi 5世代の古いWi-Fiルーターに比べればマシではあるが、電波の飛びはそこそこという印象だ。

注目の独自機能VPNに対応しない機器でもVPNで接続できる「VPNフュージョン」をテスト

 次に注目の機能面について。最初に挙げた「VPNフュージョン」は、ルーター側でVPN接続を確立させた上、指定したWi-Fi子機のみVPN通信を使えるという機能だ。

 例えば、テレワークの際に会社のノートPCを持ち帰って自宅で会社のネットワークへVPNで接続する場合、通常であればノートPCから会社のVPNに接続する手続きが必要だが、本機を使ってあらかじめ設定しておけば、自宅のWi-Fiに接続した時点で、そのノートPCだけは会社のVPNを経由した通信にできる。

 また、ルーター側でVPN接続を確立させるので、子機側でVPN接続の操作が不要なのもポイントだ。つまり、VPN接続機能を持たないゲーム機やスマートデバイスなども、本機を使えば特定のWi-Fi子機を指定した上でVPN接続が可能になるわけだ。

「VPNフュージョン」の設定画面

 では、具体的な設定を見ていこう。スマートフォンアプリ「ASUS Router」には「VPNフュージョン」に関する設定項目が見当たらないので、まずウェブブラウザーで「router.asus.com」または本機のIPアドレスを入力して設定画面を開き、VPNの項目から「VPNフュージョン」を選ぶ。

 次にVPNサーバーを登録する。VPNのタイプはPPTP、L2TP、OpenVPNが選べるので、いずれかに対応するVPNサーバーを登録しよう。今回は、筑波大学の公開VPN中継サーバープロジェクト「VPN Gate」を利用し、L2TPで接続できるVPNサーバーを選択した。

 L2TPの設定にある「設定内容」の項目は、本機のVPNサーバーリスト上の名前に使われるものなので、自由に付けていい。「VPNサーバー」はVPNサーバーのアドレスを入力。「ユーザー名」と「パスワード」はVPNサーバーで指定されたものを使う。ちなみに「VPN Gate」では、どちらも「vpn」と指定されている。

今回はL2TPで設定。VPNサーバーのアドレスとユーザー名、パスワードを入力する

 設定が済むと、サーバーリストに登録される。この時点ではまだデータを登録しただけで、VPN接続はできていない。接続するには、リストのステータスの項目にあるボタンをクリック。設定に間違いがなければ、VPNサーバーへ接続され、リストの状態の項目にチェックマークが付く。同様の手順で、最大16のサーバーを登録でき、同時に4つまでのVPN接続を確立できる。

登録できたら、ステータスのボタンを押して接続

 次に使用するVPNを選ぶ。標準ではインターネット、つまりVPNなしの接続となっているので、リストの一番左にあるデフォルトの項目から、使用するVPNサーバーを選択する。最後に下部の適用ボタンを押せば設定は完了だ。本機に接続された全ての子機の接続がVPN経由となる。VPNを通さない設定へと戻したければ、リスト最上段のインターネットの項目を選んで、適用ボタンを再度押せばいい。

デフォルトの項目を使用したいVPNサーバーに合わせる

 続いて、サーバーリストの下にある例外リストを登録する。例外リストでは、特定のWi-Fi子機とVPNサーバーを組み合わせて設定することで、端末ごとに接続するVPNサーバーを指定できる。この設定は先述のサーバーリストの設定よりも優先されるのがポイントだ。

例外リストにはWi-Fi子機とVPNサーバーを組み合わせて設定する

 例えば、サーバーリストでVPNサーバー"A"を使うように選択し、例外リストで端末"x"をVPNサーバー"B"に設定する。この場合、端末"x"だけはVPNサーバー"B"を通して通信し、そのほかの端末はVPNサーバー"A"経由で通信するようになる。

 このとき、必ずしもVPNサーバーを通す必要はなく、インターネット(VPNサーバーを使わない)を指定しても構わない。上記の例で言うと、VPNサーバー"A"をインターネットに設定すれば、端末"x"だけはVPNサーバー"B"を通すようにしつつ、ほかの端末はVPNを経由しないで通信できる。逆にVPNサーバー"B"をインターネットに設定し、端末"x"だけはVPNを経由しないという設定も可能だ。

画像のように設定すると、接続名testtの端末のみVPN接続を行い、ほかはVPNなしで通信する
スマートフォンと台湾のVPNサーバーを例外リストで指定。設定が無効の時にはVPNを経由しない直接の通信になる
例外リストの設定を有効にすると、すぐにVPN経由の通信に切り替わる。スマートフォン側では何も設定していない

 このように、VPNを柔軟に使い分けるため、最大4つの接続を同時にできるようになっている。接続先も設定画面で簡単に切り替えられるので、VPNを日常的に使用するなら、VPN接続の管理を本機に任せてしまうのも手だ。

 VPNの用途は、特定の国でしか使えないサービスの利用や、割り当てられたIPアドレスが海外のアドレスと判定された時の緊急回避など、さまざまなパターンが考えられる。

 その際、「端末ごとに異なるVPN接続に振り分けられる」、「VPN接続機能を持たない端末もVPN経由で通信できる」という「VPNフュージョン」があれば、VPNの活用法は相当に幅広くなる。ネットワークオタク的にも「これは結構遊びがいがある機能だな」と思う(笑)。

NAT対応や通信優先などゲーミング機能も多数

 このほかの機能についても見ていきたい。ASUS製のルーターは元々かなり多機能で、本機にはさらにゲーミング向けの機能も追加されているため、覚えておきたい要素がいくつもある。

 ゲーミング向けの機能として特徴的なのが「Open NAT」だ。いわゆるポートフォワーディングの機能だが、メジャーなオンライン対応ゲームの情報がプリセットされており、遊びたいゲームとプラットフォーム、使用する端末のIPアドレスを入力すると、適切なポートを開放してくれる。もちろん、ポート番号を指定する手動設定も可能だ。

 最近多いサーバー・クライアント型のオンラインゲームでは、ポート開放を必要とする場面は少ないが、インターネット回線の状態や、ボイスチャットなどゲームに付随するサービスを利用する際には、トラブルが起きる可能性はある。登録されているタイトルは海外製のメジャータイトルが多いので、洋ゲーファンであれば、覚えておいて損はない機能だ。

ゲームタイトルとプラットフォームから適切なポートフォワーディングができる「Open NAT」
モバイル端末のゲーム通信を優先させる「モバイルゲームモード」はアプリから設定可能

 「ゲームブースト」は、ゲーム関連のパケットを優先させる機能。同社のWi-Fiルーターに搭載されている「Adaptive QoS」と連携していて、こちらはゲームの通信を優先するよう設定される。

 さらに、特定の端末をゲームデバイスとして登録もできるようになっている。このほか、スマートフォンアプリ「ASUS Router」では、モバイル端末からのゲームの通信を優先する「モバイルゲームモード」も利用できる。

ゲームの通信を優先させる「ゲームブースト」
ゲームデバイスを登録して対象の端末を絞り込める
セキュリティ機能「AiProtection」

 ほかにも、悪質なウェブサイトのブロックや、ウイルスに感染したデバイスの検出、ペアレンタルコントロールなどを行う「AiProtection」、隔離したWi-Fiを来客用に提供できる「ゲストネットワーク」、USBポートに接続したストレージをインターネット共有ストレージやメディアサーバーとして活用できる「USBアプリケーション」など、便利な機能が用意されている。

隔離Wi-Fi環境「ゲストネットワーク」
接続したUSBデバイスを活用できる「USBアプリケーション」

高い安定性と多機能でゲーマー以外にも。v6プラスにもベータ版ファームで対応

 ゲーマー向けの製品と言うと、ゲーマー以外の人には関係ないと思われてしまうかもしれないが、本機に関しては、決してそんなことはない。

 TUFシリーズがうたう耐久性や安定性は、確かにゲーマーが強く求める要素でもあるが、壊れやすく不安定な製品を使いたいという人はいない。基本的にしっかりした製品を使いたいというだけでも、立派に本機を選ぶメリットとなる。

 さらに、「VPNフュージョン」は、ゲーマー以外の人にも便利に使えるものだ。VPNの必要性や活用法を理解している必要があるため、ネットワークの知識をある程度持っている人に向けた機能ではあるが、使用環境にマッチしているなら、ほかの製品に対して大きなアドバンテージとなり得る。

ベータ版としての対応ながら、WAN設定の項目にv6プラスの文字が確認できた

 このほかにも、ゲーミング向けの機能が豊富なので、ゲーマーにとって安心して手に取れる製品であることは確かだ。また、下位モデルである「TUF-AX3000」と同様、ベータ版のファームウェアでv6プラス(MAP-E)にいち早く対応したのがWAN接続タイプの項目から確認できる(筆者宅にはv6プラスの接続環境がないため未テスト)。このユーザーであればかなり競争力の高い製品と言える。

(協力:ASUS JAPAN株式会社)