「収益化? 楽観してるよ」YouTube担当者が課金モデルに言及


 米GoogleのYouTubeパートナーシップコンテンツ&プラットフォーム担当ディレクターのベンジャミン・リン(Benjamin Ling)氏が、テレビ朝日およびTBSテレビとのコンテンツライセンス契約締結発表にあわせて来日。違法動画対策「コンテンツIDシステム」の特徴や、現在検討中という課金制サービスを含む今後のビジネスモデルについて語った。

ユーザーの情熱をプラスに変える「コンテンツIDシステム」


YouTubeパートナーシップコンテンツ&プラットフォーム担当ディレクターのベンジャミン・リン氏

 コンテンツIDシステムは、YouTubeにおける違法動画を自動的に検出するシステム。仕組みとしては、まず著作権所有者が動画や音声を提供し、YouTube側で動画や音声の特徴となる部分を「コンテンツID」として抽出する。これをユーザーがアップロードした動画と照合し、同一と思われる動画をリストアップをする仕組みだ。そのリストは著作権所有者に提供されるが、リストアップされた動画をどのように扱うかについては、著作権所有者側に判断が委ねられる。

 著作権所有者が選択可能な対応策としては、動画の公開を中止する「ブロック」、動画をブロックせずにトラフィック情報などを取得する「トラック」、動画に広告を表示して広告収益を受け取る「マネタイズ」という3つがある。リン氏によれば、パートナー企業の半数以上が「マネタイズ」を選択しており、単に違法動画を削除するのではなく、宣伝として活用することで収益を得る企業が多いという。

 その具体例としてリン氏は、結婚式でダンスする人々を撮影した人気動画「JK Wedding Entrance Dance」を紹介。この動画では、BGMにクリス・ブラウンの「Forever」が無許可で使われていたが、著作権所有者のSony Musicは「マネタイズ」を選択し、YouTubeの動画からiTunesで楽曲を購入するためのリンクや、再生ページに広告を設置した。その結果、当時で1年前に発売されていた「Forever」が、iTunesのランキングで上位に浮上したという。

 「『ファン』という言葉は、その語源である『ファナティック』からもわかるように、ある物事に情熱を燃やすことを指しています。ユーザーが無許可でコンテンツをアップロードするのも、そのコンテンツを他人と共有したいからなのです。そうした場合には著作権が考慮されていないことも多いですが、著作権所有者はコンテンツIDシステムを使うことで、ファンの情熱をプラスに活用できるのです。」

課金制サービスは検討中、赤字拡大懸念の声には「楽観」


 著作権所有者のニーズに応えるために、コンテンツIDシステムは日々進化しているとユン氏は語る。最近では、YouTubeに投稿された動画の著作権所有者が複数の地域に分散している場合にも、各地域の著作権所有者が「マネタイズ」「トラック」「ブロック」を選択できる仕組みを導入。これにより、動画が再生される地域ごとに、著作権所有者の意思が反映されるようになった。また、同じ内容の動画でも、再生時間に応じて「マネタイズ」「トラック」「ブロック」を選択する機能も追加した。

 「YouTubeは著作権所有者の成功を後押ししている」と自信を見せるユン氏だが、一部報道ではYouTubeの赤字拡大を指摘し、収益化を懸念する声もある。この点についてユン氏は「そのようなレポートは把握していますが、楽観しています」と反応。その理由の一つとしては、コンテンツIDシステムが大きな進展を見せたことで、「マネタイズ」による収益がYouTube側にもたらされていることを挙げた。現在は、1000以上のパートナーがコンテンツIDステムを利用しており、パートナーがYouTubeに登録するファイルの再生時間は10万時間以上に達するという。

 さらにユン氏は、ユーザーの動画視聴に対して課金するビジネスモデルも検討していると語る。YouTubeの課金制サービスをめぐっては、ストリーミング形式で映画を配信するビジネスモデルを大手映画会社と協議していると報じられているが、ユン氏も「開始日は未定ですが、実現に向けて取り組んでいることは事実」と説明。1タイトルごとに課金するビデオオンデマンド形式や、定額制で限られたタイトルを閲覧できるようにするサブスクリプション形式などを検討しているという。

 「世界の動画市場は6000億ドルに上り、そのうち、広告を収入源とする無料動画市場は3分の1、ビデオオンデマンド形式は3分の1、サブスクリプション形式は3分の1を占めるとも言われています。YouTubeとしては、著作権所有者が課金型のビジネスモデルを望むのであれば、それを可能にするための方策にも目を向けます。YouTubeは誕生してまだ4年と歴史は浅く、成長の可能性は大きいと考えています。」


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(増田 覚)

2009/9/30 11:00