非モテSNS管理人永上裕之氏、起業を語る
~エイプリルフールではありません!


 4月1日、モテない人たち通称“非モテ”が集まりお互いのモテない話をするSNS、「非モテSNS」の管理人として知られる永上裕之氏が起業したという話題がネット界を駆けめぐった。しかし、起業はネタではないという。「エイプリルフールに会社を作り、ネタと思わせて本当に作っていたというのがやりたかった」と永上氏。なぜ起業したのか、会社ではどんな活動をするのか。非モテSNSはどうなるのか。株式会社ホットココア代表取締役社長永上裕之氏に話を聞いた。

サービス開発には手を出さず、経営に専念

非モテSNS管理人として知られる永上裕之氏。4月1日に株式会社ホットココアを設立した

 ホットココアという社名は、「心がほっとする」から名付けた。「僕個人はイメージが悪いので、せめて会社は可愛らしくと思って。あははははは!」と永上氏。元営業職だけあり、笑い声は大きく、トークはあくまで明るく、聞いていて飽きさせない。

 ホットココアではWebサービスを自社開発・運営し、できる限り受託仕事はしない予定だ。会社の資本金を始め当座の運転資金は、個人の資産を利用する。初月から、人件費も含めて黒字が確定しているという。「元々は『お金持ちになりたい』と思っていたのに、社長になって『社員のために頑張りたい』と思うようになった」。

 永上氏は、これまでに個人で150個あまりのWebサービスを作ってきた。起業するにあたり、「個人での経験を生かして、個人ではできないようなお金をかけて作るWebサービスがやりたい」と考えたという。そのためあえて現場には立たず、お金を取ってくることと経営だけに専念する。「個人の感覚のまま会社をやると、社員も成長しないし自分がいないとダメになってしまう」からだ。

新サービスのテーマは「寂しい」

 新サービスのテーマは、「寂しい」だ。行くと誰かがいて話せる場を提供する、メールサービス「エニィメール」と掲示板サービス「どこでも掲示板」を予定している。エニィメールのターゲットは、携帯電話をヘビーに使う女子中高生だ。デコメの利用も考えている。どこでも掲示板の方はもう少し上の2、30代の男女が対象だ。

 「寂しい」というテーマは、社員みんなで話している時に出てきたものだ。「既存のサービスは、全て感情で言い表せる」と永上氏は主張する。たとえばmixiは「安心」、モバゲータウンは「楽しい」「友情」、Twitterは「つながり」「リアルタイム」などがキーワードと考えられる。そのように既存サービスを感情軸で分けていったところ「寂しい」にまつわるサービスがなかったのが、作ることを決めた理由だ。

作るだけでなく宣伝を重視

 新サービスは8月頃をめどにサービスインする予定。まず、ユーザー数を増やすことに力を入れていく。「最初からマネタイズについて考えるのではなく、ユーザーが集まればお金は後からついてくる」。

 永上氏は、個人でWebサービスを作っていた時代も、「Webサービスが当たるかどうかは、プログラムと宣伝運用の力が半分ずつ」という考えのもと、リリースなど宣伝に力を入れてきたという過去がある。今回も、新サービスの宣伝には力を入れる予定だ。「ただ作るだけではなく、ユーザーが盛り上がってコミュニティができることが目的」だからだ。

 また、「ネットの人格が本当の人格」と考え、匿名で交流できるよう、本名や学校名などのプロフィールは出さずに利用できるようにする。ただ、有料サービスを始めると実名が必要になってしまう。「儲けるのは悪ではないが、ユーザーに負荷がかかるのは問題。有料サービスを始めてサービスの向上を取るか、無料のままユーザーの使い心地を取るかで悩んでいる」。

恋愛至上主義を壊す“新人類非モテ”

非モテSNS
http://himote.in/

 この辺りで、非モテSNSについても聞いてみよう。なぜこのようなSNSを作ったのだろうか。

 「最初はモテたいと考えて作った。けれど、今はモテはどうでもいい」と永上氏。「彼女や彼氏がいる人が一番偉いという考え方や、30歳までには結婚したいなどの考え方が恋愛至上主義。そうではなく、仕事や趣味をして友達といればいいというのが、最近の非モテの考え方。この考え方を広めたい」。モテ以外のいろいろな価値観があってもいいというのが、基本的なスタンスだ。

 彼女を作らない主義とか、女友達はいるけれど恋愛は面倒くさいなどの「モテないのではなくて要らない」人たちを、永上氏は“新人類非モテ”と呼ぶ。新人類非モテは、ユーザーの中から自然発生的に生まれたものだ。当初は「今まで彼女ができなかった」「女性と話せなかった」という、“旧人類非モテ”が多かったものの、会員が増えるに連れて“新人類非モテ”が増えてきたという。ちなみに、永上氏も新人類非モテだそうだ。

ユーザーが心を開けるように“モテ”は強制退会

非モテSNSのトップページに掲示されているわかりやすいガイドライン。“モテ”の強制退会は、日記の内容を内部告発されるケースが最も多いという。モテた話、彼氏彼女の話は厳禁だ

 個人で作ったサービスとしては驚異的な4万5000人ものユーザーを集めている非モテSNSだが、先日、"モテ“と判断された1000人を強制退会処分にしている。「英国の美男美女しか入会できないSNS『Beautiful People.com』が年末年始の体重増を理由として強制退会処分にしていたので、その日本版がやりたかった」からだ。

 モテは内部告発から発覚した例が多い。彼女や奥さんがいるなどの情報が判断基準となったが、情報は非モテSNS内からだけではなく、「リンクをたどったりハンドルで検索し、外部サイトから拾ってきて引用付きで告発してくるものが多かった」という。

 「非モテSNSは、恋愛コンプレックスがある同士で心をうち解けて語り合う場。一人でも『バカみたい』と思う人がいると心が開けないので、基準をしっかりする必要がある」。

 これほど会員数を集めて軌道に乗っている非モテSNSだが、起業後も会社のサービスには組み込まず、個人で続ける予定だ。「儲けようとするとどうしてもユーザーに負荷がかかる。収益を考えないで赤字でも続けるというスタンスの方が、ユーザーが楽しいと思うので」。

非モテSNSのチーム運営を経営に活かす

 非モテSNSは開始後しばらく永上氏が一人で運営していたが、現在は30人のスタッフチームで運営している。「最初の一年は自分で企画しないとだめだったが、組織作りを優先したら、スタッフが自分で動き企画が回るようになった」。この経験は、起業後の会社運営に活かすつもりだ。

 ユーザー同士をリアルにつなげたいと思い、毎月オフ会を開催中だ。非モテSNSのイベントは、個人運営にもかかわらず、タレントの田代まさし氏などを呼んで大がかりにやっている。「当然赤字だが、楽しいからやっている。ずっと一人で作ってきたので、みんなと一緒にやるのが楽しい」。イベントなどで知り合って、既に2組ほど結婚が報告されている。

小学生からのデジタルネイティブ

2ちゃんねるで掲示板やサイトの宣伝をして回り、「伝説の厨房」というスレまで立った。ともかくネットが大好きで、西村博之氏といつか対談するのが夢のひとつだと言う

 永上氏は、小学生の頃からずっとネットで本名で活動してきた。自分が作った掲示板の宣伝を2ちゃんねるのあちこちの板でするなどして、結果的に荒らし呼ばわりされてしまったこともある。「ネットは年齢関係なく話せて何でも教えてもらえたので楽しかった」ため、それ以来ずっとネット漬けの日々を過ごしてきた。

 携帯電話やメールアドレスなどの個人情報は、ネット上で広く公開している。「個人情報を出すとつながりやすい」と考えるからだ。「嫌がらせの電話も多いけれど、出すことで色々な人と知り合えているのでメリットは大きい」。

 Webサービス作成歴は長く、中学生の時に携帯電話で学校裏サイトを作ったのが最初だ。高校生の頃にはネットラジオにはまり、ファンサイトやネットラジオサイトを作った。18歳からはプログラミングを始め、画像.inやプロフ.inなどの「.in」シリーズを量産して話題となった。これをきっかけに、ロケットスタート社長けんすう氏、字幕in社長矢野さとる氏、アルカーナ社長原田和英氏らにプログラミングなどを教わってきた。

 その後就職し、23歳現在までに三社移っている。スキルと経験を手に入れるために、ベンチャーや大手企業、組織経営や広告営業など、あえて様々な会社と仕事内容を経験してきた。これまでの様々な経験の集大成が、今回の起業だ。

優秀な主婦を雇用したい

 永上氏は「イメージがあまり良くないネットの世界を変えたい」と豊富を語る。テレビのニュースで解説するなど、タレント活動も考えている。ネットの中だけに止まるのではなく、既存メディアに露出することで、世間全体のイメージを変えたいという。行動原理はお金でもモテでもなく、「ただ楽しいから」と言い切る。「元々はモテたかったのに、『興味がない』と言っているうちに本当に興味がなくなってきた」。

 「最近若い人が元気がない」と永上氏は語る。若い自分が起業して若者を熱くしたいというのが、起業の目的の一つだ。いずれ団塊の世代に理解してもらい、後輩のために地ならしをしたいという。「自分が色々な人に教わってきたので、恩返しに若い子たちに毎日Skypeでhtmlを教えている。こういうことが載るとイメージがいいかも(笑)」。

 「会社で主婦を雇用したい」という思いもある。主婦、特に子どもが生まれた後は、たとえ優秀でも再就職が難しいからだ。「最近は、こういうことを考えるのが楽しい。自分で雇用が作れるのが楽しいし、今後もたくさんの人を雇用できるだけの収益は上げたい」。

 個人で非モテSNSを盛り上げた手腕で、新しいステージに立つ。


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(高橋 暁子)

2010/4/9 06:00