CDショップ20年の経験で人力リコメンド、HMVのAmazon差別化策


 HMVジャパン株式会社が運営するオンラインショッピングサイト「HMV ONLINE」では、音楽・映像専門店ならではのアーティスト特集や、音楽を気分で検索できるユニークな機能で他のECサイトとの差別化を図っている。HMVジャパン執行役員EC事業本部長の内山潤氏、EC事業部EC企画部長の新美朋子氏に、同社のEC展開について話を伺った。

音楽や映像を軸に顧客の流入図る

HMVジャパン執行役員EC事業本部長の内山潤氏と、EC事業部EC企画部長の新美朋子氏

 「HMV ONLINE」は、HMVのEコマース部門として1999年に立ち上げられた。ユーザー層は男性が6割で、年齢層は30~40代が多い。内山氏は、「店舗は20代の男女半々くらいであることから、忙しくて店舗に行けない人や金銭面で余裕のある人がサイトを利用している」と説明する。

 サイトは立ち上げ後に何度かリニューアルしたほか、その後もカテゴリーやコンテンツ、機能を追加していったことでサイト構造が複雑化。ユーザビリティやパフォーマンスが低下したため、今年の4月から9月にかけて6度目のリニューアルを実施した。

 内山氏は、「HMV ONLINEは物販だけでなく、情報発信の役割もある。そういったところも視野に入れ、お客様の心をつかむことに主眼を置いて、全体的に見直すことになった。音楽や映像などを軸にお客様の流入を図るようにしたことが大きい」と話す。

音楽に詳しくなくても直感的に商品を検索できる機能

HMVタグタイル

 HMV ONLINEでは、ユーザーが自分の感情や感覚的なキーワードで商品を検索できる機能「HMVタグタイル」を用意している。

 「HMVタグタイル」は、ユーザーが商品にタグを付け、それによって検索できるようにしたものだ。Flashベースのユーザーインターフェイスになっており、探したい音楽を「ハッピー」「切ない」などのタグから絞り込む。音楽ジャンルを決めた上で絞り込むことも可能だ。検索結果は、タグを選ぶごとに動的に変化し、CDジャケットを一覧表示する。

 タグ登録にはHMV ONLINEのユーザー登録(無料)が必要。1商品につき、「きもち」「シチュエーション」「アーティストの空気感」の3項目でタグを追加する。タグを付ける場合は、すでに登録されているタグリストから、当該商品に合うものを選ぶ。合うタグがなければ、新規にタグを申請することも可能。新規タグはHMVの審査を通過した上で登録される。申請から新規タグの追加には2週間ほどかかるという。

 新美氏は、「HMVタグタイル」について、音楽に詳しくないユーザーでも新しい音楽と出会えるようにしたかったと話す。「コア音楽ユーザーの場合、探すことが好きということもあり、毎日のようにアクセスしていろいろ見て探してもらえるが、そうじゃない人は新しい音楽を探すことが難しい。もっと“感覚”で探せないかと考えた。HMVが薦めるというよりは、ユーザーが思ってること、集合知みたいなものを作れるようにしたかった」。この新機能は、既存ユーザーはもちろん、リニューアル後の新規ユーザーにも好評。タグ付けをしたユーザーを見ていると、男性40代、女性20代が多い。

音楽専門店ならではの知識でユーザーと交流

HMVジャパン執行役員EC事業本部長の内山潤氏

 Amazon.co.jpなど他のECサイトとの差別化について内山氏は、「音楽の専門性」を特徴にしていると話す。「商品で差別化するのは難しい。我々が売りにしているのはコンテンツ。社内に40人の各ジャンルの専門スタッフを抱えており、記事を書くなど情報発信している。お店を20年やってきたという音楽性の部分をアピールしていきたい」。

 そのための施策として、「MICHAEL JACKSON STORE」や「東方神起 HMV STORE」といった特集ストアを作成している。「特集ストアでは、当該アーティストに関連するあらゆる作品を紹介しているが、その部分は手作業で各商品を紐付けている部分もある。“通”な商品紹介は知識がないとできない。アナログだが、他社にはできないことだと思う」(新美氏)。

 また、内山氏は「音楽好きのユーザーが多いだけに、リコメンドには厳しい意見もある」と話す。「お店にあるような、お客様と店員との音楽知識の駆け引きをWeb上でしているようなイメージ。お客様は『自分はこういう音楽を求めているんだが、店員は何をリコメンドしてくるんだ?』という気持ちで来店する。それに対し自分の音楽知識をフル活用して店員は商品を薦める。お客様からは『そうきたか!』という反応もある」。

ライトユーザー向けに楽天市場などへも展開

HMVジャパンEC事業部EC企画部長の新美朋子氏

 HMV ONLINEでは、有料音楽配信サービス「HMV DIGITAL」も提供している。WMAとATRAC3の2形式に対応し、約150万曲を取り揃える。楽曲の中心価格帯は1曲150円。

 パッケージ販売と音楽配信の棲み分けについて内山氏は、「配信はパッケージの販促だと捉えている」と説明する。「一般的には着うたフルなど携帯電話向けの音楽配信の需要がCDシングルの需要に替わる傾向にあるようだが、HMV DIGITALでは、配信でシングルを買い、気に入ってパッケージを買うお客様もいる」(内山氏)。

 このほか、11月には「楽天市場」へも出店。コアな音楽ファン以外も獲得するために始めた。HMVジャパンでは、2年前から「Yahoo!ショッピング」にも出店しているが、オンラインショッピングモールのユーザーはHMV ONLINEと違った傾向があるという。

 楽天市場やYahoo!ショッピングでは、HMV ONLINEと比べ、流行のJ-POPがよく売れる。また、CDリリース後に売り上げが伸びるとのこと。「例えば、朝のテレビで話題になった後、スーザン・ボイルに注文が殺到したこともあった」(新美氏)。一方、HMV ONLINEでは、リリース前の予約が多いとした。

 さらに、HMV ONLINEでは11月、「HMV MALL」を開始した。音楽や映像関連の商材を扱う企業が出店するオンラインショッピングモールで、入店1号は新星堂。楽器販売サイト「ROCK INN」のHMV MALL店をオープンした。ここで購入すれば、HMVポイントが貯まって使えるほか、HMV ONLINEで販売する商品と連動することも可能。「有名ギターリストのCD販売ページから、同じモデルのギターを販売するページに誘導できる」(内山氏)。

将来は店舗とECの売り上げ比率50対50目指す

 HMV ONLINEリニューアル後から現在の状況について内山氏は、「ユニークユーザー、セッション数は昨年対比を維持している。不況の中、実店舗の状況も考えると評価できる」とした。新規ユーザーは以前に比べて20代と30代の女性が増えたという。

 HMVジャパンにおけるECサイトの売り上げは、「全体の3分の1強で、ECの比率は上がってきている」。今後は、携帯電話向けサイトを強化する。携帯サイトのアクセス数は、昨年対比で120%強で伸びており、ユーザーは20代の女性が多い。内山氏は、「将来的には、店舗・EC両方を強化することにより、店舗とECの売り上げ比率を50対50にしていきたい」と語った。



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(野津 誠)

2009/12/24 17:48