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山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
年始特別編:2008年の中国インターネットを予測する

 2008年、さまざまな点から話題となっている北京オリンピックがいよいよ開催される。1964年に東京オリンピックが開催された際には新幹線が開通し首都高もできた。北京オリンピックを機に、インターネット環境においても中国がどう変わるのか考察してみよう。



各ポータルサイトがオリンピック関連コンテンツで勝負

 日本のメディアでは年末年始時期に、前年を振り返り今年を予測するという特集がよく組まれる。筆者も本稿を執筆するにあたり、参考にしようと中国メディアにおける同種の記事を探してみた。しかし、確認できたのは調査会社のサイト内で発表されている専門的な市場観測のみ。

 IT系ニュースメディアでも「2008年のネット界を予測する」という記事はあっても、中国でなく世界(といっても米国発のトレンドがほとんど)のネット界を予測するものばかりだ。実は、年末に1年を回顧する記事が並ぶ頃も似たような状況で、どのITニュースサイトも2007年に起きた世界的なインターネットの話題を紹介するものばかり。中国に絞った回顧記事というのは皆無ではないものの、希有といってよいほど少なかった。

 投資ブームの中国では昨年、有名企業の新規上場の話題は絶えなかったものの、たとえば日本のニコニコ動画のように、これ! と言える斬新なサービスやサイトは生まれていないので、新サービスが生まれる米国中心に世界市場の話題でまとめることになるのかもしれない。

 もっとも、そうした予測記事を見るまでもなく、2008年に中国で確実に起こると断言できることがいくつかある。各ポータルサイトはオリンピック特設サイトを開設し、それぞれ自サイトの特徴を活かして、たとえば百度なら検索を使った、動画サイトであれば動画を利用したアプローチでサイト集客を図るだろう。また、オリンピックが開催されることから、違法サイトは2007年以上に厳しく摘発されるだろう。

 2008年には「万里の長城」と呼ばれるアクセス監視システムが完成すると言われていたが、こちらの状況についても気になるところだ。

 このほか、中国で人気急上昇中で大都市から地方都市へ人気が波及しているオンラインショッピングについても、百度がC2C(個人対個人のオンラインショップ)事業に参入し、C2Cで圧倒的シェアを誇る淘宝網がB2C(淘宝網が1社単独で提供する個人向けのオンラインショップ)事業に参入する。これらは2008年の中国インターネットサービスにおける大きなニュースになるだろう。オリンピック関連も含め、2007年よりは話題が豊富な1年になるのは確実だろう。

老舗ポータルサイトの網易(NetEase)のトップページ。去年日本並にシンプルなトップページに変わったが、いつのまにか再び密で重いデザインに戻ってしまった 人気のオンラインショッピングの淘宝網。百度は今年淘宝網のライバルとなる


3Gサービス開始でスマートフォン利用者急増

 中国の大都市では、インターネット接続のインフラに関しては有線環境よりも無線環境のほうが急激に発展しそうだ。北京オリンピックまでに中国発の3G規格「TD-SCDMA」のサービスがスタートする。すでに数都市でテストをしていることから、各地の大都市でまずTD-SCDMAのサービスが開始されるだろう。また「W-CDMA」と「CDMA2000」も認可が下りていることから、2008年にサービスが開始される見込みだ。北京や上海など、地下鉄工事ラッシュの都市では、地下鉄にも公衆無線LANサービスが設置されるだろう。

 3Gサービスのインフラ導入により、中国では、日本とは別の環境の変化が起きると予測される。3Gサービスの利用者は、当初は利用料の問題から、富裕層、特に経営者クラスの消費者と金儲けに熱心な消費者(これについては後述する)に支持されるのではないかと思っている。

 富裕層が最新のハイテクである3Gを積極的に導入するのは、金があるからという理由だけではない。中国では、現状は移動中などモバイル環境において、メールのチェックがしにくい状況にある。筆者も、中国で活躍する複数の日本人の経営者から相談を受けたことがあるが、中国では百万都市が広大な国土に点々と存在する。広い地域に市場、支社、工場、研究所が分散していることが多く、そのため経営者は頻繁に移動する必要があるのだそうだ。

 中国の携帯電話はGSM規格なので、メールの送受信はSMS(ショートメッセージサービス)となる。PCメールのやりとりのために経営者はたいがいPCから発信するメールが受信できるスマートフォンを所持しているが、オフィスソフトなどのファイルが添付されている場合には、GSM回線の通信速度が遅すぎて受信できないということがザラにある。

 また、中国のポータルサイトを一度でも見たことがある読者なら容易に理解していただけると思うが、中国のサイトはとにかく画面いっぱい字で埋め尽くされ、Flashによる広告がところ狭しと飛び回るようなデザインが多く、ともかくサイトが重い。スマートフォンでWebサイトを閲覧(中国ではスマートフォン以外の携帯電話の大半はWAPとなりPC向けサイトは見られない)しようとしても、回線速度がGSMではろくに見ることができないのが現実だ。3G導入によって、スマートフォンから中国の重いサイトを閲覧する環境はかなり向上し、現実的な通信速度で利用できるようになるだろう。

 広い国土の中を移動する間のメールチェックとWeb閲覧という、現在中国のビジネスエグゼクティブの頭を悩ませている2つの問題が3G導入で解決できることから、3Gサービスの開始によって携帯電話によるインターネット利用者は増えると予想される。

 一方、有線ブロードバンド接続環境はどうかというと、こちらも2007年12月末に電信会社の1つである中国網通が、北京のみという地域限定ではあるが、下り4MbpsのADSLサービスを発表した。地方まで行き渡るには時間がかかるかもしれないが、いずれ中国全土で下り4MbpsのADSLサービスが開始されるのではないかと思われる。


中国のインターネット人口は2億人超へ

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、中国のインターネット利用者は、2007年6月末の時点で1億6,200万人、11月末の時点で約1億8,000万人と発表した。

中国のインターネット利用者は、2007年6月末時点で1億6,200万人に達した。CNNIC(China Internet Network Information Center)調査より

 2007年末時点でのインターネット人口を知るには、1月中旬のCNNICの発表まで待たなければならない。同様に、2008年末の時点のインターネット人口を知るには、2009年の1月中旬まで待つ必要があるのだが、2006年から2007年の1年間で約2,600万人、2005年から2006年の1年間で約1,700万人、2007年の上半期の半年間で約2,500万人もインターネット人口が増えたことを考えると、2008年中には2億人を超えることが予想される。

 信息産業部は2007年12月、中国の全インターネット利用者のうち、6割にあたる1億2,200万人がブロードバンドユーザーであると発表した。この数字から逆算すれば、ナローバンドを含めた全インターネット利用者は2億300万人ということになる。

 米国のインターネット利用者は2億1,200万人だが、2007年よりも普及が加速した場合は、この米国の利用者数も2008年中に抜き、世界一のインターネット人口を抱える可能性もあるだろう。JP Morganは、2010年までに中国のインターネット利用者人口は2億3,900万人に達すると予測している。

 ネット人口増のキーワードの1つは、北京オリンピックではなく株バブルだ。中国のインターネット利用者の大半が、10代後半から30代前半の都市部の中国人だ。このため、各ポータルサイトのコンテンツやサイトデザインは若者をターゲットとしている。普及が進んだ2007年を通して見ても、この傾向に変わりはない。

 それに加え、「断層」とも呼ばれる中年世代以上の層は、若かりし頃、国情により当時の最新テクノロジーを享受することが難しい状況にあったため、そうした人たちは無理してインターネットに触れる必要はないと思っているようである。


中年以上が徐々にインターネット利用へ

 2007年には、株式投資や投資信託という検索ワードが急増した。このことからもわかるように、オンラインでマネー情報を調べる人が急増した。

 残念ながら、オンライントレーダーの人口に関する統計は見たことがないが、オンライントレーダー人口は都市部で、これまでインターネットを敬遠していた若者より所得のある中年層を中心に急激に増加したのではないかと筆者はみている。

 実際、商店や企業のPCを窓越しにちらっと見ると、株価チャートが表示されている画面を見る機会が昨年1年間で急増した。それに比例するように、オンライントレードの広告を見る機会も多くなった。もっとも、中国の株バブルがはじければ、これらオンライントレード目的でインターネット利用し始めた中年層のインターネット利用者は激減する可能性もある。そうした事態が起こらなければ、経済的余裕がある都市部中年層については、インターネット利用者は今後も増加の一途をたどるだろう。

 また、オンライントレードほどの魅力があるかどうかは微妙だが、ここ1~2年で、20~30代の社会人の間でオンラインショッピングサイト運営が急速に人気となった。こうしたブームも、商売上手といわれる中国人の錬金術のためのツールとして、新規にインターネット利用者を増やす要因となるのではないだろうか。

 前述した3G携帯電話普及により、インターネットがスマートフォンでも利用できようになることで、スマートフォンとPCを併用してオンライントレードやオンラインショップ運営を行なう富裕層も出てくるだろう。

 従来、一般市民にとってのインターネットとは、オンラインゲームやインスタントメッセンジャーサービスの「QQ」など、若者の娯楽というイメージしかなく、ポータルサイトまでがネット利用者の大多数を占める若者をメインターゲットにしたものであった。

 ところがここ1年で、オンライントレーディングやオンラインショッピング利用者が急増するとともに、インターネット利用者の年齢層も広くなっている。中年層の一部がインターネットを利用するようになり、同年代の間で、自分の周囲でもインターネット利用者を見かける機会が増えたことで、「じゃあ私も」といった具合に中年層以上の人々にとってもインターネットが魅力的かつ身近な存在となっていくのではないだろうか。

 従来インターネットの普及を牽引してきた新入学の大学生や高校生に加え、都市部の中年層が利用者増加に拍車をかける形で、インターネット利用者がさらに急激に増加するのではないかと筆者は思っている。


2007年にIT市場のキャパシティが見えてしまったのが不安材料

 一方で不安要素もある。13億もの消費者がいる中国市場にもかかわらずPC本体とmp3プレーヤーで業界再編が起きた。中国家電大手のTCL配下のTCL電脳が業績不振で身売りされる事態に、またmp3プレーヤーに至っては前年比で大幅なマイナス成長を記録した。特に後者は調査会社ですら「2007年も2006年以上に大幅に上昇する」と予想していたことから、非常に意外なことであったことが想像できよう。

 若者しか興味を持たないものであり、かつ都市と農村、沿岸と内陸で所得は桁が異なるほどだから、都市部の消費者以外は金額的に買えるものではない。消費大国となりつつあるものの、中国のキャパシティは現状では想像よりもずっと小さかったことがデータで実証された形だ。

 こうした数字から考えれば、中国のインターネット人口は2億人を超すと思われるものの、ある時点からほぼゼロ成長となる可能性も否定できない。インターネット利用者が今後も順調に増加をし続け、2億5千万人、3億人と伸び止まりを経験することなくインターネット市場が成長し続けるかというと、意外に近くに壁があるかもしれないと思えてならない。



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  山谷剛史の海外レポート
  http://internet.watch.impress.co.jp/static/others/travel/060126/index.htm
  中国のネット人口は1億2,300万人、回線はADSLが主流に
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/07/21/12742.html
  ワールドカップで盛り上がった中国インターネット
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/special/2006/07/19/12688.html

(2008/01/09)


  山谷剛史(やまや・たけし)
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。

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