少しでも多くのユーザーを獲得すべくサービスを拡張していく「ポータルサイト」。国内にも多くのポータルサイトが存在しており、それぞれ「フリーメールサービス」「ニュース提供」「インスタントメッセージングサービス」などのサービスを提供してる。
そんなサイトの一つに「エキサイト」がある。米国のサーチエンジン「Excite」の日本語版として'97年12月からサービスを開始した。エキサイト日本語版も、フリーメールやニュースの提供など、ポータルサイトとしてのサービスを提供しているが、他のポータルと比べて「際だった個性」や「ユーザーを引き込む魅力」の点であまり目立たなかった。そのエキサイトの今後について、今年1月にエキサイト株式会社のゼネラルマネージャー(GM)に就任した山村幸広氏にお話を聞いてみた。
山村氏は、'97年5月トランス・コスモス株式会社取締役に就任、その後、'97年9月インターネット上の広告配信会社ダブルクリック株式会社社長を経て'99年1月エキサイトGMに就任した。ちなみに、GMとは、山村氏によると実質的な社長業務をこなす「ホテルの支配人のようなもの」とのこと。
●「エキサイトは使ったことはなかった」
ウォッチ編集部(以下W編): ダブルクリック社からの移籍にはどういった経緯があったのでしょう?山村GM(以下Y): もともとトランスコスモスの役員からダブルクリックの立ち上げとともに社長として就任しました。それで、1年経ってダブルクリックがそこそこいい結果も出せたし、(トランス・コスモスから)そろそろ戻れという話しになったんですが、ダブルクリックを通してインターネットメディアが非常におもしろく可能性があると感じたんです。そこで、もっとインターネットメディアの商売につっこみたいと退職を決意したわけです。その後、何社かからお話をいただいて、その中の一つがエキサイトだった訳です。
それで米国のExciteに行ったんですが、そこで持っているテクノロジーが想像以上にすばらしくて、それを日本にインプリメントすればかなりおもしろいなと。それでエキサイトに決めました。
W編: ダブルクリック時代はエキサイトにどんな印象を持っていましたか?
Y: アメリカでは非常に成功しているんで、ポテンシャルとして怖いなと思いました。特にダブルクリック時代は「goo」専属でやっていたのですが、ああいうところがアメリカのビジネスをどんどん持ってくると怖いなという感じは受けてました。ただ、使ったことはなかった(笑)
●将来は「マルチメディア対応ポータル」
W編:エキサイトは他のポータルサイトに比べアピールする部分が少ないと思いますが、いかがでしょう。山:正直なところ、一番最初のトップページのイメージは暗かった。12月にリニューアルして少し明るくなってきました。もう2、3回改良を加えれば全体的なイメージはかなりよくなるかなと思ってます。
中身ということでいくと、去年1年というのは、サーチエンジンを立ち上げるのに精一杯でなかなかコンテンツまでは難しかったと思うんですよ。今後は、技術的にもマーケティング的にも他のサイトとの差別化をクリアに見せるような体制を整えていく必要があります。
W編:大幅なリニューアルの予定などあるのでしょうか?
山:今一番大きく考えているのは「コミュニティ」のサービスです。簡単に言えば、今ホームページ無料サービスをやってますが、それをエキサイトでもできると。しかも、HTMLの記述や専用のエディターがなくても簡単にできたり、自分の好きな掲示板を立ち上げることもできる。全部サイトの中で作っていって、勝手にユーザーが作っていける、参加していけるサイトを目指したいと考えています。
W編:「ニフティ」や「GeoCities」などのサービスが全部集まったようなサイトということでしょうか?
山:そうです。ポータルを、ゲームの「SimCity」みたいなイメージで捉えてほしいんです。人を集めるサイトを作ろうと。何が必要なのか、映画館や百貨店。それをどんどん作っていこうと、そういう風にポータルをイメージしているんです。
W編:ポータル=入り口ではなく、その中にコンテンツがある形ですか?
山:元々はサーチエンジンは「ハブ」、まさに入り口だった訳ですけど、その後、ユーザーを完全にそこに貯めて、そこで完結していこうという発想になりましたよね。これは、たぶんページビュー争いにも起因していると思います。
W編:他にはどのような機能/サービスが加えられますか?
山:夏頃には検索機能も拡張します。米国ですでに始めているように一つのキーワードで複数の情報が得られるように。例えば、スポーツのチーム名で検索すると、関連サイトのほかに試合結果も表示したりとか。ほかには、新聞記事も検索できる「NewsTracker」も春に開始します。
ホームページサービスはHTMLは使わず、クリックだけで写真の貼り付けもできるようにする。そのホームページを公開するか非公開にするかも決められる。米国で昨年から開始してる「Exciteコミュニティ」の発展版という形です。これも春には出せます。 メールも春には次のバージョンに上がります。主に使い勝手の部分です。まだ未定ですが、トップページに来た段階で「メールが届いてますよ」といったメッセージが表示されるくらいまでいけばいいなと思ってます。
W編:EC関連のサービスは開始される予定はあるのでしょうか?
山:あります。ECで儲ける形としては、マージンを収入にする場合や、ディレクトリーを紹介してそこにとんだら1トランザクションでいくら戴くという方式、また、Excite自身が販売をしていくといういくつかのビジネスモデルがありますが、その中でのいずれかの方法で今年中に立ち上げます。収入モデルとしては7割広告、3割ECという形にはしたいですね。
W編:米Exciteでは例えばインターネット電話「Net2Phone」部門の買収などで機能を拡張していくという動きがありますが、それは日本でもあり得るのでしょうか?
山:まず買収するお金がないですね(笑)。これは全日本企業が抱える大きな問題なんですが、アメリカと違って日本ができる状態ではありませんから。やりたくてもやれないということです。やっぱり時間を買うためにはああいう買収が一番速いですね。
W編:先日の@HomeによるExcite買収で日本法人に何か影響はありますか?
山:日本法人については特に影響ないです。アメリカのほうも体制に変化ありませんし完全な一会社として動きます。Netscapeなども変わってないですよね。
W編:今回の買収に関してなんですが、@Homeの親会社にはAT&Tがいます。そこで、従来のモデムによる接続のほかCATVインターネット接続など、今後様々な回線速度の接続サービス上でもポータルを提供していくという話だったんですが、そういう動きというのはどう思いますか?
山:これは非常におもしろいと思ってます。ここ2年位にWebサイトに映像とか音楽を付けようと、JavaとかActiveXとかが使われていった訳ですが、実際遅くてユーザーが嫌いましたよね。
今後、高速回線の接続が実現していくとですね、例えば遅いモデムで入ったユーザーは「Excite1」、56Kの人は「Excite2」といった形で、一方は従来のエキサイトだけど、もう一方はマルチメディア対応で音も映像もバンバン動くというようなサイトになると。そういうことはExciteが一番早くやっていくんですね。日本がそういう時代になった時に一番最初に持ってこれる。「マルチメディア対応のポータル」が実現されるんじゃないでしょうか。
●「Yahoo!に追いつき追い越せ」
W編:では、他社のポータル/検索サイトについてどう感じていますか?それぞれについて一言ずつコメントをいただきたいのですが。
・「Yahoo!JAPAN」について
山:やっぱり「ブランド」ですね。今回アメリカの方ではそれを狙ったからあの買収になったと思うんですね。見習う部分は「ブランディング」です。その中身に追いつき追い越すことを、常に意識しなければいけないと考えています。
それから、「Yahoo!Internet Guide」という雑誌とYahoo!というサイトはシナジー効果出してますよね。ああいうような戦略をやりたいですね。
・「goo」について
山:岐路にきていると思いますね。今までは、Yahoo!対gooという「手作業対ロボット型」というクリアな、ユーザーが理解しやすい差別化ができた。
今はロボット型っていうのは当たり前になっていて、どこも多くのサーチ結果が出る。そこで、何か言葉をサーチして10何万とかヒットしても1人が見ているのは、多くて2、3ページですよ。そこで、見せ方とか差別化がこれからは課題になってくると思います。
ただ、電子決済とかになるとNTTの総合力は大きいですから、そこは脅威に感じます。やっぱりサーチの強さがgooのウリだった訳でしょう?それがコンテンツに力入れだしてECにもいくわけですが、そのへんがどうかというところですよね。
・「infoseek JAPAN」について
山:先行する強みというか、早くからやってきてそれなりのページビューも持ってるんですが、どうでしょう?この半年一番伸びが悪かったのはinfoseekではないでしょうか。
今後はディズニーに買収されて、ディズニーの戦略の中でinfoseekがどう立ち回るのかが興味深いですね。あまりディズニーの声が大きくなりコンテンツとかキャラクターを売るためのサイトという位置付けにされるとinfoseek自身を伸ばそうという動きが少なくなりますから。Netscapeの例でいくとサーバー製品の販売より「AOLのためにNetscapeはなにをしてくれるか」という戦略に変わっていくんですね。そのへんが親子会社の難しいところ。
「go network」との切り分けもわからないですね。単純にDisney Onlineとinfoseek足した方がかなり上になると思うんですが。
・「Lycos JAPAN」について
山:アメリカでは収入の上げかた、ページビューのとりかたが非常にうまい会社ですから、体制とかノウハウが全部日本にインプリメントされると非常に強敵になるじゃないでしょうか。
あと、買収先として残っているのは「Lycos」だけですから、今そのへんのほうが興味あります(笑)。
・「AltaVista」について
山:非常に英語、日本語共に検索機能が非常に優れたサイト。ただ、Compaqに買収された時に向こうのキーになるメンバーがかなり辞めてるんですよね。そのへんがどうでるか。
それと今、日本企業が結構交渉に行ってるでしょう。「Alta Vista ジャパン」設立のために。でも、今から契約が終わって3月、立ち上げが9月、サービス開始したら12月ですか。ちょっと時期的なものはあるかもわからないですね。業界の動きは速いし。
W編:今お聞きした中で一番ライバル的に想定しているところはどちらですか?
山:やっぱりトップ、Yahoo!ですね。まだまだポータルの戦争の縮図というのが買収やアライアンスで確実に変わっていきますからね。(Exciteがトップになるのも)そんなに可能性がない訳ではないと思いますよ。特に、EC、コミュニティというところになってきたらまた変わってくるでしょう。
W編:では、インターネットウォッチの読者にひとことお願いします。
山:基本的には生まれ変わるぐらいの違い、Exciteは確実にここが違うねっていうような差は今年中にはご覧いただけます。また、今までは見るだけだったんですが、これからは参加するサイトになりますので、是非参加してほしいですね。
W編:ありがとうございました。
●まとめ
・ホームページ作成、掲示板サービス
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・独自にクローズド、またはオープンな会議室を開設できる 「Exciteコミュニティ」 |
・ニュースの検索ができる「NewsTracker」
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・チャットサービスの正式運営
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・メールサービスの拡張
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・検索機能の拡張
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・ECサービスの開始
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基本的に他のサイトで提供しているサービスの「いいとこ取り」だが、1つのサイトへの接続ですべて利用できるのなら確かに便利だ。あとは山村氏の言う通り、「エキサイト」というブランドをどこまで育てあげられるかが鍵となりそうだ。
('99/2/1)
[Reported by okiyama@impress.co.jp]