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政治、経済、法律など多分野の研究者が参加し、総合的な視点から21世紀の情報社会に向けた政策について考える「政策・メディア21シンポジウム~インターネット社会の信頼構築~」が2月25日、慶應義塾大学で開催された。同大学メディア研究科が'98年より推進している「政策・メディア21」プロジェクトの一環として開かれたもので、環境情報学部・村井純教授らによる基調講演やパネルディスカッションが行なわれた。
●日本における情報インフラ構築は今後10年が鍵基調講演では慶應義塾大学総合政策学部の竹中平蔵教授が「21世紀型経済と情報インフラ」と題して、経済学的視点から見たインターネット社会について話した。情報インフラが生産性を高めるかどうかは諸説があるとしながらも、日本における情報通信分野の設備投資率が米国に比べて3分の1から4分の1と低いことを指摘。政府、企業、個人が「アクティビスト」になり、ネットワーク社会に対応するための体系や構造、意識を変える必要があるという。その一方で、情報インフラを整備するにはそれに「投資するだけの能力」が必要となるため、日本がネットワーク経済をリードするためには、本格的な高齢者社会が来る前の「今後10年以内にシステムを構築できるかどうか」が鍵になるとしている。
続いて村井教授が「インターネット社会の緊急課題」と題して講演。今やインターネットは「人類全体のインフラ」となっており、それを支える「公平なグローバルガバナンス」が求められるとしている。ただし、インターネットは「テストベッド」であり、それゆえの「フレキシビリティを社会がどう受けとめていくか」が重要だとしている。また、家電など「日本のお家芸」とインターネットが結びつく分野が拡大する中で、近年ではIETF(Internet Engineering Task Force)などにおいても日本からの技術提案が急増していること指摘。インターネット社会でも、日本が大きく貢献できるとしている。しかしながら、日本の情報インフラを血管に例えるなら「毛細血管があるだけ」と比喩。現在でもとりあえず「栄養」は流れてくるものの、それを送るための「ポンプ」を日本も作るかどうか考える段階に来ているとしている。
●インターネット資源を公平にシェアできる枠組みをパネルディスカッションでは、慶應義塾大学総合政策学部の金子郁容教授がチェアを務め、パネリストとして村井・竹中両教授のほか、デジタルガレージ代表取締役社長の伊藤穣一氏、通商産業省機械情報産業局電子政策課の鈴木寛氏、慶應義塾大学法学部の田村次朗教授、インターネット弁護士協議会の代表を務める弁護士の牧野二郎氏が参加。「インターネット社会における信頼構築へのシナリオ~経済・技術・個人」というテーマのもと、主にインターネット社会において人々の信頼の基盤となる“ルール”について活発な議論が交わされた。
鈴木氏は、「政府が行なうルールメイキングでは、変化のスピードに対応できない」こと、また、広大なネットワーク社会では「セントラルガバナンスによる法の執行が難しい」ことを指摘。政府中心のルールメイキングから「産・官・学・民のコラボレーション」によるルールメイキングや運営へ移行する時期にあるとしている。
一方、田村教授は、日本人は「ルールは与えられるものでなく、ユーザーが自分で判断して作る」という意識が低いことを挙げ、グローバルな視点が要求される電子商取引分野などで、もっと企業が政府に働きかけていくべきだと述べた。また、法の執行が緩い日本の社会構造や、本音と建て前による二重の規範が通用する日本の文化と照らし合わせると、「日本の仕組み自体がインターネット社会のグローバルスタンダードになじまないのではないか」という意見も出された。
牧野氏は、「法律の作り方を変える」必要があるとしながらも、インターネットがこれだけ社会に浸透し、さまざまな事件も起きている中で「法律が簡単に変わらないのであれば、インターネット社会と現実社会とをオーバーラップさせる策」が重要だとしている。また、従来、法律の基盤となっていた「国という枠組み」がなくなることで、今後はより小さいコミュニティのルールやグローバルなルールなど、いろいろなルールが共存する時代になるのではないかとしている。
このように、インターネット社会ではさまざまな問題を抱えているが、これに対し村井教授は「グローバルなサイバースペースを構築し、その中で生きていく過程で、個々の問題は解決できるのではないか」と述べ、インターネットの資源やルールづくりの責任を「公平にシェアしていく枠組み」が必要だとしている。
('99/2/26)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]