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【インタビュー】

「メジャーのメーカーは必要ない」

MP3音楽配信を開始した「P-MODEL」の平沢進氏に聞く

■URL
http://www.chaosunion.com/ (P-MODEL)
http://netnavi.nikkeibp.co.jp/mp3/P-MODEL/ (P-PLANT)

平沢氏 '99年7月6日、テクノポップバンド「P-MODEL」がMP3による音楽の販売を開始した。P-MODELは'79年に結成されたバンド。デビュー以来、いわゆるメジャーのレコード会社から作品を発表してきた。そして'99年、結成20周年を迎える年に、レコード会社との契約を打ち切り、インターネット上での音楽配信に乗り出すという。メジャーのフィールドで活動してきたアーティストのMP3による音楽配信は、日本で初めてだ。

 現在、P-MODELは、結成20周年プロジェクト「音楽産業廃棄物〜P-MODEL OR DIE」を展開中。'79年当時のライブを再現した「バーチャルライブ」、通算12作目のオリジナルニューアルバム、ライブツアーもプロジェクトの一環として行なわれる。

 今回は、P-MODELのリーダー平沢進氏に、どのような心意気でインターネットでの音楽配信に望むことになったのか聞いてみた。

P-MODELの姿勢について

ウォッチ編集部(以下編)今回インターネット上で音楽配信を行なうに至った経緯をお聞きしたいのですが。

平沢進氏(以下H) : 僕らはそもそもニューウェーブ体質の人間の集まりな訳ですね。ニューウェーブという体質は、とにかく世の中と関わる時に不必要な枠組みから逸脱していくっていうような活動姿勢がまずある訳です。

 今までは、表現者としてリスナーに自分の意志を届けるには、音楽産業の“地主さん”にことわりを得て、地主さんがどうぞという方法論でやってくしかなかった。インディーズという方法論も取れたんですが、ディストリビューションさせていくにあたって、結局地主さんの下でいくしかないということで、すぐにインディーズになって活動するというやり方はしなかったんです。

 インターネットを使い始めてから、インターネットそのものが、表現者としてリスナーとコミュニケーションを取る新しい枠組みであるということが分かりはじめました。といっても、その時は、インターネット上の音楽配信は遠い先だろうと思っていたんです。活動の本筋ではなかったんですが、MOD(註1)を使ってちょっとやってみたりとか、感触を確かめながら来てたところにMP3が脚光を浴びてきて。そこで、MP3なら可能だろうと思ったんですが、いろんな問題でメジャーとの契約があると無理なんですよ。 旧音楽産業というのは、僕らみたいなアーティストにとって居心地のいい場所ではないし、音楽産業の低迷に伴ってますますいづらくなってきた。それであれば、当然ネットワーク配信を選ぶのはごくごく自然な選択であるということです。

MP3登場以前はインターネットを音楽配信に利用しようという発想はなかったのですか?

H : そうですね。実際アルバムを販売しようという発想には至ってないですね。唯一MODで何かできるかもしれないということは考えてましたけども、これは新しくMODに対応した音楽ジャンルを組み立てないと無理だなと。そっちで本格的に活動しようというのはなかったです。

今回のMP3配信にあたって、メジャーとの契約は切ったとお聞きしましたが。

H : 契約終了ですね。更新するという選択もあったし、移籍という選択肢もありました。

そこで、メジャーとの契約を切って、インターネットとインディーレーベルを使うということなんですが、メジャーにいた時代に、やりたくてもできなかったことなど多かったんでしょうか。制約されたりとか、「もっと売れるものを」という声があったりとか。

H : 制約というよりも理解がない。例えば、(メジャー時代の)後半になるにしたがって、デジタルコンテンツに興味を持ち始めました。CDエクストラを作りたいと思いますよね。難しいんですよ、あれは。実現するにはコンテンツを作るスタッフが必要ですね。そして発送もしなくてはならない。ところが、レコード会社というのは、そこでできあがったパッケージに対して、音楽のパッケージとしか考えませんから、よけいなお金がかかるものだという理解な訳ですね。まして、音楽の範疇でしかアーティストには(著作権料は)支払われませんから、僕らも大きなリスクを抱えなければならない。あと、やっぱり20年活動してくるともっと売れるものを作れとは直接は言われないですよ。ただ、イニシャル枚数とか、かけるコストに明かに差が出てきて、やりやすい環境ではなかったですよね。

 今回のバーチャルライブ('79年のライブの雰囲気を再現した作品)で出される楽曲というのはメーカーの中で廃盤になっているんですよ。新しいファンが聴きたくても聴けないという状況の中から出てきたアイテムなんです。これをもし、メジャーとの契約の中でこの計画を実行しようとしたら不可能です。例えばリスナーがレコード会社に直訴したところで出るとは限らないし。それが、ネットワークの中でアーティストに直接出してくれないかっていう希望が伝わってきて、それだったらライブのようなスタイルで新しく録音したものを(MP3なら)出そうと思って出せてしまうというということです。

そこで、今回実際始められて、環境的にはいかがですか?

H : もちろん、すべての制約は取れましたのでやりやすいですね。ただ、MP3で配信すること自体、まだまだそれほど実用的ではないと思うんですね。ある意味、リスナーと一緒に実験していかなければいけない時期だと思うんです。ただ、直接リスナーに音楽を届けるという、活動の新しい枠組みをいち早く見せたいというのが真意です。ですから、これそのものがビジネスになっているかと言えばまだわからないですし、自分たちでやらなきゃならないことは山ほどありますから。

その辺りの動きというのは、他のミュージシャンにも広がっていくと思いますか?

H : 今後広がっていくと思います。ただ、いわゆる音楽業界の内部では、MP3に対する認識は非常に低いですね。まず悪いものであるというプロパガンダが行き渡っている。考えようによっては、MP3によっていくらでも生き残れる構造ってのは作れると思うんですが。今までは、音楽さえ演奏していれば、周りの人間がCDにしてくれて、販売してくれるのになんであえて自分たちでやらなくちゃと思うだろうし、ミュージシャン自体が、自分から配信したいという欲求がない限り、当然面倒くさいから認識低いですよね。

 それよりも、人に伝えたくてもチャンスと機構を持っていないインディーズの人達は積極的じゃないですか。メジャーが尻込みしていたり、恐怖心を抱いたりしてMP3やネットワーク配信にタッチしない間に、街中にどんどんインディーズがあふれ出してるじゃないですか。MDを使った音楽の自動販売機みたいなものにも、メジャーはコンテンツを出すことを渋ってますから、いきおいインディーズが溢れてくると。

 そういう中で本当に人が配信するんじゃなくて、自分たちでやらなくちゃっていうミュージシャンがどんどん参入してくると思う。そういうことで音楽シーンの構造も変わってくるだろうし、そういう人達がたくさん出てくると思います。

例えばP-MODELがデビューした20年前には、いろんなインディーレーベルが誕生して、それこそニューウェーブ的な気運が高まったと思いますが、インターネットで配信できるというのがわかった時というのは、その時と同じような気分になったのでしょうか?

H : いや、もっとですね。例えば、インディレーベルがいっぱい出てきたとしても、ディストリビューションとかやっぱり地主さんの下でやらなきゃいけないっていうのがあるじゃないですか。そう考えると、これはリスナーのドア叩いちゃうじゃないですか。もっと、すごい事だし、もっと健全で、もっと可能性があると思いますね。

旧来のメジャーのシステムもいらないと。

H : アーティストがネットワーク配信に対する認識を高めて行けば、メジャーのメーカーは必要ないんですよね。

註1) : MOD…AMIGAより発生した音楽ファイル。演奏データと音声データをパッケージにして作成できる。

著作権について

音楽の著作権管理方法の中で、例えばJASRACの一元管理が批判されてますが、どう考えますか。

平沢進氏H : アーティストって著作権に対する認識が薄いんですよね。我々は、以前著作権を騙し盗られた経験(註2)があったから、ちゃんとしようとしたんですが。

 ある一つの組織の尺度で、本来個人に帰属する権利が管理されるというのは、権利者そのものの自由を奪うケースがありますよね。はっきり認識しなければいけないのは、著作権というのは著作物を作った人間そのものに属する訳で、それを保護するのは、法律なんですよね。どこか特定の団体が保護している訳ではなくてね。今あるのは代行して徴収するサービス業なんですよ。それは、ビジネスである訳です。

 それから、違法MP3っていうのはモラルの問題な訳ですよね。で、ビジネスとモラルの問題をごっちゃにすると宗教の壺売りと一緒で、モラルをカサに着せたビジネスっていうのは変な強制力を持っちゃいますよね。

 MP3配信をやると、よく「JASRACの方でまだ暫定合意の段階なのになんでやっちゃうんですか」と聞かれるんですね。別にどう使おうが私の楽曲は、著作権者の私が決めることで、JASRACにお伺いするものではない。…もちろん現状で、JASRACの会員として登録してあれば、まかせるしかないんですが。

 「じゃあ違法MP3についてはどうですか」とも聞かれるんですが、それは、モラルの問題であってビジネスの問題とごっちゃにするとややこしくなる。どういう形でいくら徴収するかっていうのはビジネスの問題であって、それがまだ固まってないだけですよね。モラルの問題は別に放置されてます。それはユーザーを信用するしか無い訳で、それを使ったからいくら徴収するっていうのはビジネスの話ですよね。どっちにしても、著作物をどういうふうに配信するかを決めるのは著作権者ですから。

来年には、仲介業務法も改正され、他にも著作権管理団体が登場するのではないかという話もありますが。

H : これはもう是非そうなって欲しいですね。サービス業なんだからここで価格競争をやって、消費者にも権利者にも物事をクリアにするべきですね。

註2) : 音楽出版社とのトラブルにより、作品が流通してもP-MODEL側に著作権料が支払われない楽曲が100曲以上あるとのこと。

 

今後の活動について

現在ニューアルバムを作成中とのことですが、その作成過程でMP3のデータをやりとりして作ることもあるんですか?

H : あります。データは東京、筑波、大阪のメンバーがネットワークでやり取りしてます。MP3はシンクはとれませんから、いったんハードディスクレコーダーに入れてからの編集になりますね。ニューアルバムは完全に書き下ろしです。

サイト「P-PLANT」に掲載されている今後の予定の中に「結合チェンバー」というのがありますが、どういうものですか?

H : いわゆるスタジオのようなものです。今回は、メンバーが集まることなしにミックスダウンしようと。途中経過をMP3でチェックしながら進め、それをサイト上で公開してしまおうというものです。8月に入ってから公開する予定です。

同じく「テラ培養炉」というのはどういうものでしょう?

H : これは、「グローバルトリビュート」っていう考え方で進めるんですが、世界中の人にトリビュートアルバムを作らせてしまおうということなんですね。そこでは、P-MODELが用意したカラオケとローマ字表記の歌詞を置いておきます。それを、各国のプロ/アマを問わず歌ってもらうと。母国語でもいいし、日本語でもいいし、新たに作詞してもらってもいいし。演奏も自分たちでやってもらってかまわない。ただ最低限、個人が参加できるようカラオケは用意します。スタートは9月15日です。

10月からはツアーが始まりますが、以前のような「インタラクティブライブ」(註3)のような形ではやらないんでしょうか?

H : 今のところまだツアーまで頭がいかないんですよ(笑)。まだ未定ですが、何かはやるかもしれません。多分、ツアーでインターネットを使うとしても、例えばストリーミングの実験をやりましたっていうようなことではなくて、もっと、ローテクでも実質的なものをやると思います。例えばステージでチャットをやったりとか。特定の人達が何べんも落ちながら見なきゃいけないようなストリーミングはやらないです。

今後もMP3とCDで音楽をリリースしていくのでしょうか?

H : そうです。通常のCDも併売していきます。ネットワーク配信というものは、まだまだ実験段階だと思います。リスナーが急に価値観の転換はできないだろうと。すべてのリスナーにパソコンが行き渡っているわけではないし、パッケージが欲しいという意識もなくならないと思うし、そういうところをカバーするためにCDも同時にやっていきます。目標としては世界発売を考えてます。

ありがとうございました。

註3) : 会場とインターネットに接続したユーザーとの連携でライブの進行を決定するライブ。'98年10月に実施した。

まとめ

 旧来の音楽産業から自由な姿勢で音楽活動を進めたいというなら、インディーレーベルを立ち上げ、作品をリリースする手段がある。しかし、日本のインディーレーベルの多くは大きくなるに従って必ず「流通の壁」にブチ当たるという。また、分配の規模が大きくなるに従って、自らが作品の著作権料の徴収を行なうことは困難になり、日本で唯一の著作権管理団体に委託することにもなる。

 メジャー並みの作品の分配能力、そして、自らが作品の管理を行なうことが可能なのが、インターネットだ。まだまだ整備すべき事柄は山積みだが、P-MODELはインターネットでの音楽配信を選んだ。新しい試みであるのは確かだが、P-MODELは、“ニューウェーブ”として当然のようにそれを実行する。

('99/7/14)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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