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【特集】

“無線アクセス”は個人ユーザーに低料金サービスをもたらすか?


 8月、ソフトバンク、東京電力、Microsoftの3社が設立した合弁会社「スピードネット」が、無線アクセスによるインターネットサービスをアナウンスした。また、6月にはソニーが、無線によるネットワーク事業へ参入することを表明している。
 こういったニュースが続いたこともあり、無線アクセスは、現在NTTの独占状態になっているアクセス回線市場に他社が競合サービスを提供する手段として期待されている。あるいはユーザーにとっては、スピードネットの「月額数千円」と言われる料金のインパクトもあり、個人ユーザーにも高速/低料金/常時接続可能な理想のインターネット接続環境をもたらす技術としてのイメージのほうが強いかもしれない。
 今回は、期待の高まる“無線アクセス”について、それをとりまく現在の状況について整理してみたい。


●ソニーも採用する“加入者系無線アクセスシステム”

 無線アクセスと言ってもいくつかの方式があるが、まず挙げられるのは“加入者系無線アクセスシステム”である。以前は“Wireless Local Loop(WLL)”などと呼ばれていたが、最近では“Fixed Wireless Access(FWA)”という呼び方が一般的になっているようだ。ソニーが採用するとしているのも、この方式である。

 FWAは、対になる2基の無線局同士で通信を行なうPoint to Point(P-P)方式と、1基の無線基地局とその周辺に設置した複数の無線基地局で通信を行なうPoint to Multi Point(P-MP)方式の2種類がある。P-P方式で伝送距離が最大4km程度/最大速度156Mbps程度、P-MP方式でそれぞれ半径1km程度/最大速度10Mbps程度の無線接続が可能だという。

 アクセス回線市場における競争促進の目的もあり、郵政省は昨年末に省令を改正し、FWA用に22GHz帯、26GHz帯、38GHz帯の3つの周波数帯を解放。22GHz帯に4ブロック、26GHz帯に7ブロック(2001年4月以降13ブロックに増加予定)、38GHz帯に7ブロックの新周波数帯を定めた。FWAサービスを運用するには、周波数ブロックの割り当てを受け、無線局免許を取得する必要がある。

 ソニーは4月、郵政省に第一種電気通信事業許可と無線局免許を申請。6月には、国内の電気メーカーとしてはじめて、郵政省から事業の認可を受け、無線による通信事業に参入する方針を明らかにした。中小企業やSOHO、個人のヘビーユーザーを対象としたサービスを2000年7月までに開始するとしている。当初は関東、東海、近畿地区で提供し、2000年度中にも全国に拡大する考えだ。

 残念ながら具体的なサービス内容はまだ明らかにされていないが、AV機器やゲーム機などを手がける大手電機メーカーということもあり、これらの家庭向け機器のネットワーク化を想定した個人ユーザー向けサービスの展開も当然のこととして期待できるだろう。

■郵政省「準ミリ波帯・ミリ波帯周波数を利用した新たな加入者系無線アクセスシステムの導入に関する基本的方針等の公表−地域電気通信市場の競争促進に向けた新たな無線システムの導入に向けて」
http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/denki/981224j602.html

■ソニー「ソニー通信事業へ本格参入、WLL事業を展開」
http://www.sony.co.jp/soj/CorporateInfo/News/199906/99-055/


●加入者系無線アクセスシステムは個人向けとなり得るのか?

 FWAの個人向けサービスの期待は大きいが、現段階では、企業向けのサービスで使われるもののようだ。

 日本テレコムは2月に無線局免許を取得し、FWAの周波数ブロックの割り当てを受けた。8月には、新たに開発した無線基地局によるP-MP方式による接続デモンストレーションも公開。これを使ったODN常時接続の実験サービスを全国の主要都市で10月から開始する予定だ。無線基地局は半径1kmをカバーするもので、これをJR駅などに設置し、エリア内の複数のユーザーを0.5M〜10Mbpsで接続する。2000年4月までには、商用サービスも開始するとしている。ただし、個人ユーザー向けのものではなく、当初は大企業などから広めていくという。料金については、同内容のサービスを「有線で提供する場合よりは安くしたい」(日本テレコム広報室)としているが、個人ユーザーやSOHOなどで利用できるほど、圧倒的に安いというわけではないようだ。

 となると、無線アクセスの意味がないようにも思えるが、「ケーブルの敷設工事費用がかからない」「導入までの期間を短縮できる」というメリットがあるという。「FWAでも、品質的にはファイバーと同程度のサービスが提供できる」としており、むしろ、アクセス回線の一手段という位置づけのようだ。例えば、すぐに専用線を引きたいという場合は、有線では難しいため、FWAを選ぶことになる。逆に、ビルの影になる場合など、物理的にFWAが使えないときは有線を選ぶことになる。また、FWA自体まだまだ認知度が低いので、中には、ビルの屋上から電波を発信することを怪しんで「無線局の設置を許してくれないビルのオーナーもいる」という。

 同様のP-MP方式によるサービスについては、日本テレコムのほか、東京通信ネットワーク(TTNet)もアナウンスしている。5月に無線局免許を取得し、2000年初頭からインターネットアクセスサービスとデジタル専用線サービスを開始する予定だ。1加入者あたり最大で6Mbpsの接続が可能で、当初は神奈川県横浜市と川崎市周辺で提供、順次エリアを拡大していくとしている。

 発表当初は「SOHO」や「インターネットヘビーユーザー」も対象として想定されていたTTNetのサービスだが、残念ながら、こちらも企業向けサービスになるようだ。同社では、FWAを「光ファイバーによるアクセス回線を置き換える補足技術」(TTNet企画部)としており、「光ファイバーの料金よりは安い」としながらも、個人でも使えるようなサービスを提供する方向ではないようだ。これは、TTNetと系列の東電も参加するスピードネットとの競合について「(TTNetのサービスは)企業向けなので、住み分けできると考えている」としていることからもうかがえる。

 一方、日本テレコムが個人向けのサービスを展開する計画はないのかというと「(個人向けサービスを提供するには)家庭にも設置できる受信端末を量産化する必要があり、それには時間がかかる」としており、個人ユーザー向けの無線アクセスとしてはむしろ、次世代携帯電話のIMT2000によるサービスを考えているという。同社ではIMT2000のリサーチ会社を設立し、2年後の2001年秋のサービス開始を目指している。IMT2000では2Mbpsでの通信が可能になるため、個人ユーザー向けには十分な速度を提供できるとしている。

 なお、FWAによる企業向けサービスとしては、KDDウィンスターがすでに6月から開始している。NTTなどの市内回線を利用する場合に比べて、最大で6割程度割安だという。

■日本テレコム「加入者無線アクセスシステムの周波数割り当ての確定について」
http://www.japan-telecom.co.jp/PRdept/news/n990302.html

■TTNet「加入者系無線アクセスシステムに関する無線局免許取得について」
http://www.ttnet.co.jp/news/news_h11/h110528.html

■KDDウィンスター「加入者系無線アクセスシステムによるディジタルデータ伝送サービスの提供開始について」
http://www.kdd.co.jp/press99/99-025r.html


●“無線LAN”をアクセス回線に転用

 FWAではない無線アクセスとしては、“無線LAN”によるものも考えられる。「スピードネットが採用するのではないか」と一部では噂されている方式だ。

 無線LANは、その名の通り、構内通信用に用いられることを想定している方式だ。2.4GHz帯を利用し、無線局免許なしで運用できるという特徴がある。今のところ通信速度が最大2Mbpsまでだが、郵政省が技術的な仕様の見直し、10Mbpsまで対応できるようにする。すでに審議は終えており、間もなく規制を緩和。対応製品が年内にも市場に出回る見込みだ。特に、今回の改正により欧米と同じ仕様となるため、欧米で開発した製品を導入することが容易になるという。

 実は、この構内用の方式を、通信サービスで利用しようという動きがある。電気通信事業者ではないが、すでに地域コミュニティによる無線LANによる通信サービス実験が開始されている。東京都台東区で実施されている「台東区谷中地域参加型高度情報化教育実証実験(YES-プロジェクト)」がそれだ。地域内の小学校に無線基地局を設置し、同校の生徒や半径1km内の住民等を対象にインターネットの常時接続サービスを低価格で提供するというものだ。2001年9月まで実験を行ない、結果を評価したのち、サービスとして提供するかどうか判断するという。

 このようにアクセス回線の手段として注目されている無線LAN方式だが、やはり本来LAN用として定められた仕様であるため、通信サービスで利用するには問題も多い。例えば、混信の問題である。この方式で使われる2.4GHz帯はもともと電子レンジなどで使われている周波数帯であり、無線局免許も不要のため、誰がどこで使っているかわからない。都市部では至る場所で利用されている可能性がある。このため、無線LAN方式で広範囲に渡って安定した通信サービスを提供することが難しいのだ。このように安定した通信が保証される方式ではないため「法律的には可能だとしても、今までは誰も通信サービスで利用しようとはしなかった」(郵政省電気通信局電波部移動通信課)という。

 なお、無線LAN方式には、無線局免許なしで運用できる2.4GHz帯のほか、19GHz帯という周波数もあるという。ただし、こちらは免許が必要で、国内ではほとんど利用されていないらしい。また、5GHz帯で25Mbpsまでの通信を可能にする新たな無線LANの仕様が、現在、郵政省で検討されており、今年度中にも解禁される見通しだ。こちらも、運用には無線局免許が必要になるという。2.4GHz帯とは異なり、免許制という規制があるため、むしろ今後は5GHz帯、19GHz帯の無線LANがアクセス回線に利用される可能性はある。また、これらの仕様についても国際的な動向に沿ったものだとしており、すでに海外で提供されている製品を導入することで開発コストなども抑えられ、低価格サービスに繋がる可能性もあるだろう。

■郵政省「2.4GHz帯小電力データ通信システムの高度化に関する規定の整備」
http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/new/990521j602.html

■YES-プロジェクト
http://www.yanaka.gfi.co.jp/

●個人向けの低料金サービスは“スピードネットしだい”

 このように見てくると、他社が企業向けサービスを意識している以上、「“無線アクセス”は個人ユーザーに低料金サービスをもたらすか?」という問には、今のところ「スピードネットしだい」としか答えられないのかもしれない。

 では、スピードネットはいったいどういった方式の無線アクセス方式を使うのかということになるが、現在のところ、これは明らかにされていない。一部報道では、無線LANを利用するのではないかとも言われているが、「あらゆる可能性について検討中」(ソフトバンク広報室)であり、サービス内容を含めて「実験を通じて決定する」としている。その実験は10月に開始され、2000年の夏にはサービスを開始する予定だ。

■ソフトバンク「高速インターネット事業会社の設立について」
http://www.softbank.co.jp/sbadmin/news/990811.htm

('99/9/20)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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