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【インタビュー】

NASDAQデビュー2ヵ月のIIJに聞く

■URL
http://www.iij.ad.jp/

 IIJが、米国NASDAQに新規公開してから2ヶ月が経過した。

 公募価格は1ADS(米国預託証券、ティッカーシンボルIIJI、2,000ADSが1普通株)あたり23ドルで、814万ADSを売り出し、約1億6,560万ドル(およそ200億円)の資金を調達。本年8月4日の初日取引では、公募価格に対し終値が31 5/16ドルと8 5/16ドル(+36%)上昇した。その後の株価も堅調に推移し、9月16日には終値で82 15/16ドルの公開来高値をつけ、公募価格に比べると、約1ヵ月半で3.6倍も値上がりしたことになる。

 今回は、このように公開来堅調な株価推移を続ける背景や、NASDAQデビューの感想、今後の展開などについて、鈴木幸一代表取締役社長に聞いてみた。


IW編:株式公開のきっかけは

鈴木社長:銀行との関係が頭にあったので、IIJは6期連続で黒字を達成するなどこれまで堅実経営をしてきた。しかし、それはかえって設備を抑えたりするなど、ある程度抑制された経営を強いられる面があったことも確か。仕事柄、米国に何度も足を運んでいるうちにウォールストリートの連中とも仲良くなり、必ずしも黒字の健全経営が評価されるとは限らないことを知った。IIJのようなインターネットという成長産業でビジネスを展開している場合は、特にそのような経営方針は合っていないとも指摘され株式公開を考えた。

IW編:どうして日本市場でなくNASDAQを選んだのか

鈴木社長:日本の市場関係者からの誘いもあったが、CROSSWAVEのような1種事業をはじめたばかりのIIJにとっては、日本の市場のレギュレーション(規則)やルールを聞くとこれは難しい面があることが分かった。それに、日本よりも米国のほうがインターネットに関する事業について理解が得られやすいとも感じていた。

IW編:株価の推移についてはどのように考えているのか。

鈴木社長:個人的には、あまり株価の動きには捕われていない。よりクリアーな経営を続けてゆくことにより、企業の価値というものがきまっていく。

IW編:株価のパフォーマンスを相対的にみても、NASDAQに公開しているほかの日本企業(現在合計17社)よりも大きく上昇しているが

鈴木社長:外国、特に米国人に分かりやすい業態だからということがいえる。インターネットやIT産業は、日本よりも米国のほうが少し先をいっており、彼らのビジネス経験からIIJのビジネスも馴染みやすく、評価しやすいのだろう。また、そういった評価が受けやすいことも考慮してNASDAQに公開したという部分もある。

IW編:では、IIJのどのようなビジネスが評価されているのか

鈴木社長:コネクティビティからネットワークソリューションに至るまで、バーティカルなトータルソリューションを早くから提供してきた。日本では「なぜISPが単なる接続業以外のいろいろな分野に手を出すのか」と首をかしげる向きも多い。しかし、昨年の米国インターネット市場の売上高をみるとイントラネット関連事業のほうがインターネット接続の売上を上回っている。単なる接続業だけということから変化が始まっている。米国では、GTEとUUNETの2社がSLA(Service Level Agreement、品質保証制度)を開始しており、IIJも日本で初めてSLAを導入した。この実績については、米国の評価のほうが高いように感じられる。アジアの高速バックボーンであるA-Boneを運営するグループ会社、ASIA INTERNET HOLDINGについても同様。海外で注目を集めても日本ではなかなか評価される機会が少ない。

IW編:日本であまり評価されないのはなぜか

鈴木社長:日米のインターネットの発展の仕方が違うためだと考える。インターネット業界が、日本ではアカデミック的な土壌をもった、サークル的な場所としての意味合いが強い。もちろん、米国もそういった部分があるが、これに加えて米国では政府が世界戦略、産業戦略として推し進めたことが大きい。日本はそのようにインターネットを捉えてこなかった。つまり、裾野の幅に違いがあり、国際的な政策という視点から未だインターネットが何なのか、また、インターネットの怖さなどについても国政を含めまだ十分に理解していない向きが少なくないのではないか。

IW編:そのなかで、どのような展開をしていくのか

鈴木社長:インテル、アップル、サンマイクロ等々のように、新しい時代を担う企業として伸びていきたい。インターネットの基幹部分で確固たる地位を固めてから、次の具体的戦略を考えていく。

IW編:ワールドワイドのキャリアになるということなのか

鈴木社長:今後、電子商取引などが本格化していけば、回線の品質や信頼性が一段と問題になってくる。そういった、ビジネスに堪えられるインターネット環境をワールドワイド、かつエンドツーエンドで自前で構築していくのか、パートナーと組んで行なっていくのかは、これから十分考えていくところ。ただ、リテールの通信と金融事業は、地場産業でもあり他国で展開して勝つのは非常に難しいと認識している。

IW編:個人向け接続サービスIIJ4Uを手掛けているが、回線接続のほかにコンテンツを提供していく考えはあるのか

鈴木社長:So-netやBIGLOBE、AOLなどが行なっているマーケティングやオリエンテッドなサービスをやるつもりはない。それよりも、それらのサービス会社が行ないたいことを円滑に行なえるように裏方的なサービス、ソリューションをIIJとしては提供していきたい。データセンターサービスなどもそれにあたろう。

IW編:世界を相手にするインターネット企業としてソフトバンクと比較されることも多いだろうが、同社のことをどう考えているか

鈴木社長:金融に精進しているソフトバンクと比較すると、IIJはどちらかというと技術志向でクラシックな企業だ。最も低いコストで品質のよいものを提供したいという考えは、これまでの日本を代表する企業である松下電器やトヨタなどと変わらないかもしれない。

IW編:インターネットを手掛ける企業が「クラシック」とは意外だが

鈴木社長:具体的にいうと、例えばアジアでバックボーンを構築したいというニーズがあった場合、方法としてはアジアのドメスティックなISPをすべて買収してしまうということが考えられるかもしれない。行ないたいことがどれだけ短い時間で実現できるかを追い求めるならばそれもよいかもしれないが、私ならアジアのネットワークに強い会社に赴き、フェイス・トゥ・フェイスで時間をかけて交渉し共に実現していくという方法をとる。そのような性格なので、IIJ Technology(あらゆるニーズに対応してトータルソリューションを提供する総合インテグレーター)のように成長が著しい会社でも、株式公開のような資金調達ではなくじっくりと育てていく方針。

IW編:買収戦略によって事業展開を図るわけではないということなのか

鈴木社長:日本の通信会社のなかには、IIJがNASDAQに公開したことでどこかと資本関係を結ぶのではないか、などと憶測する向きもあるが、買収などで拡大していくというよりは、自ら持っている技術や技能をさらに伸長させていくことを中心に考えている。

IW編:アジアでの展開の見通しは

鈴木社長:アジアでの展開は非常に難しい。国際・国内インフラがかなり遅れており、未だコンソーシアムで欧米系を排除する動きも一部にある。レギュレーションも含め、各国の主要キャリアがストラテジーそのものを変えてくれるような状況を早く実現しなければ、このままアジアが取り残されることもありえる。米国を中心に起こっている通信変革に対応していくような事業構造に早くなって欲しい。

IW編:最後に、NASDAQに公開してよかったか

鈴木社長:米国では非常にディスクローズ(情報公開)が厳しく、公開したあとも、四半期ごとに連結決算をまとめて公表しなければならず、社内体制の整備・充実が不可欠でバックオフィス的には非常に大変だ。しかし、その半面こういった経験は非常におもしろく勉強にもなった。アメリカン・スタンダードを体験してみたかったというのが本音で、これを体験できたことはうれしい。

('99/10/6)

[Reported by betsui@impress.co.jp]


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