一般家庭で複数のパソコンを所有することも、めずらしくなくなった。また、LAN製品の低価格化もあり、家庭内LANを構築することは、システム的にはそれほど難しいことではなくなっている。
しかしその一方で、意外に手間取るのが物理的な“配線”である。オフィスと違い、一般の住宅はネットワークケーブルを引き回すことが想定されていない。繋ぐだけなら、壁に穴をあけたり、廊下づたいにケーブル引き回し、むき出しのモジュラージャックを設置することでなんとかなるが、やはりそれでは見た目が悪い。ケーブルの敷設工事をするなり、無線LANを使うなり、一般家庭なりの対策が必要となる。
今回は、実際に家庭内LANを構築しているユーザーに配線事情を取材した。配線で悩んでいる方に少しでも参考になれば幸いである。
まずは、新築マンションの購入を機に、LANケーブルの敷設工事を行なった2人の例を見てみよう。
神奈川県内に住むNさんは、今年8月にマンションの購入契約を結んだ。しかし、初期状態では「ISDNを引いてDSUやTAを設置をすることが考慮されていない電話のモジュラージャックの配置」になっており、「部屋の配置や広さから考えて最もパソコンを設置するのに適している部屋(書斎)に、電話のモジュラージャックが設置されていない」設計だった。このことに加え、もともと各部屋にLANケーブルを敷設したいという希望があったため、Nさんは配線工事を依頼することにした。
ところが、敷設まですんなりといったわけではなかった。Nさんは契約時、あらかじめLANケーブルを敷設したいという希望をマンション販売会社に相談してみたのだが、「完成品渡しということで、事前に設計変更や配線工事を行なうのが厳しい状態」だった。そこで竣工後、内覧会の際に現地で業者に相談したところ、「ケーブルは壁づたいに露出する状態でしか引き回せないし、モジュラージャックも壁に埋め込む形ではなく、ボックスが外出しになってしまう」と言われたという。スペースが限られている共同住宅では、配線用の配管に余裕がなく、簡単にケーブルを追加するということができない場合があるのだ。また、すべて埋め込み式にする方法もないわけではなかったが、それには完成した壁や床をもう一度はがす必要があるということだった。
そういった理由で一時は有線LANをあきらめ、無線LANを検討したNさんだが、内装工事業者に天井裏を調べてもらったところ、ケーブルを通せそうなルートが見つかり、なんとか希望通りLANケーブルを敷設することができた。現在では、パソコンやTA、ルータを置いている書斎からリビング、寝室、和室の3部屋へ、カテゴリー5のLANケーブルが配線されており、各部屋には埋め込み式のモジュラージャックが用意されている。
一時導入を検討したメルコの無線LAN(後述)と比較して、「ちょっと高いかなとも思いましたが、有線にしておけば、ISDN機器の増設や電話の創設など、LAN以外にも生かせるということで選択した」。工事費は約11万円だった。
一方、将来はホームオフィスとして使用することも考え、家庭内というにはかなり本格的なケーブル敷設を行なったのが、東京都内に住むMさんだ。電話回線を4本引き込むとともに、リビング、仕事部屋、寝室の各部屋に電話線2本とカテゴリー5のLANケーブル2本、合計4本のケーブルを敷設。壁面には電源コンセントと並んで電話のモジュラージャックが2個、LANのモジュラージャックが2個ずつ埋め込まれている。引き込まれた4本の電話回線と各部屋に繋がるケーブルの間には、特注の“パッチ盤”を設置し、ケーブルを抜き差しするだけで、4系統ある電話回線の行き先や、部屋間でのLAN接続を瞬時に変更できるようになっているのが便利だ。
このようにかなり大がかりな配線となったが、完成までは意外に問題なく進んだそうだ。マンションの購入契約後、施工業者や電気工事業者を交えて行なった打ち合わせで、簡単な図を書いて説明し、内装工事の前にケーブルを敷設してもらった。もちろん工事費は別料金だが、「感覚としては、カーペットをフローリングに変えてもらう感じ」だった。業者にとっても、住居用マンションでLAN工事を依頼された例は過去にないそうだが、オフィスビルではよくあることらしく、問題はなかったという。
Mさんの場合はパッチ盤が特注だったため、その分費用がかさんでしまい、全部で約27万円ほどかかった。しかし「壁づたいに配線する方法では、部屋間のドアが閉まらなくなってしまうので候補外。無線LANも、マンションを購入した昨年の4月時点ではどういうものかまだよくわからない状況だった」としており、「安定性、信用性、応用性を考えると有線LAN工事以外に選択肢はなかった」。現在では無線LAN製品も充実してきているが、「将来的にオフィスとして利用することも考えれば、今選択するとしても、やはり有線LANの工事を選ぶ」としている。
このように、マンション完成前の仕様変更が可能かどうかは、家庭内ネットワークを構築したい人にとっては注意すべきポイントになるかもしれない。最終的にはNさんも壁内にケーブルを引き回すことができたが、仕様変更ができない場合は、壁づたい配線で妥協しなければならなかったり、大がかりなリフォームが必要になることもある。マンション購入にあたっては、早い段階で相談することが必要だ。
ところで、ケーブルの敷設工事を進めるにあたり2人に共通していたのは、「マンション販売会社の営業担当には、LANに関する知識がなかったので、下請けの電気工事業者などと直接相談する形になった」ということだ。インターネットで情報を発信したり、購入相談を受け付けるようなマンション販売会社も登場したが、家庭内ネットワークのことまではまだ十分に対応できていないようだ。こういった工事を行なう際は、購入者側にもある程度専門的な知識が求められるとともに、具体的な要望を出せるようにしておかなければならないということだろう。
紹介してきたように、有線LANでケーブルを引き回そうと思ったら、かなりの出費を覚悟しなくてはならない。そこで最近注目されているのが、無線LANだ。最近では一般家庭でも購入可能な価格帯の製品も登場しており、家庭内LANを構築する際の一つの選択肢となっている。次に、無線LANを導入したYさんの例を見てみよう。
Yさんは最近、メルコの「AIRCONNECT」シリーズの無線LAN製品を導入したばかり。2.4GHz帯の周波数を利用し、Windowsパソコンで2Mbpsの無線通信が行なえるというもので、ルータ機能を持ったアクセスポイント(親機)と子機用PCカード2枚をセットにしたパッケージが8万3,000円で発売されている。
現在Yさんは都内にある鉄骨3階建ての住宅に住んでおり、自室にケーブルモデムを設置し、CATVインターネットを利用している。パソコンが4台まで接続できる契約のため、家族が他の部屋でもCATVインターネットを利用できるようにと家庭内ネットワークを構築することにした。住宅は両親の所有だったため、有線LANの工事をすることにとくに制約はなかったが、「単純な工事でも費用がばかにならないこと」「恒久的に家庭内LANを使うかどうかは疑問であること」という理由で、業者への工事は最初から考えていなかったという。また、自分で配線しても「外観がみすぼらしくなる」ということで、メルコのAIRCONNECTを導入することにした。
導入にあたっては特に難しいこともなく、すぐに使えるようになったという。アクセスポイントはハブを介してケーブルモデムに接続し、PCノートには子機用PCカードを挿入、ドライバーをインストールした。設定もWWWブラウザー上から簡単に行なえたという。その結果、自室以外の部屋からもCATVインターネットに接続できる環境が出来上がった。
さて、無線ということで気になるのは通信状態だ。アクセスポイントのあるYさんの部屋は2階にあるが、同じ2階の部屋や1階では問題なく接続できた。しかし、原因は不明だが、3階との間では接続が不安定になってしまったという。メルコによると「家庭用のコードレスフォンの電波が届く範囲」であれば、ほぼ使用できるとしている。したがって、鉄筋コンクリートの建物ではフロア間の通信は無理だが、木造や鉄骨の一般的な住宅や、鉄筋コンクリートであってもマンションのような世帯内では、家全体で利用できる可能性が高い。Yさんのお宅は鉄骨のため問題はないはずだが、3階との間に何か電波を遮るものがあったのか、電波状況がよくない位置にあるなどの原因があるようだ。
一方、通信速度については、2Mbpsということで有線LANよりは遅くなってしまうが、CATVインターネットがもともと128kbpsのためそれほど差はなく、「有線LANの接続よりちょっと遅いかなと感じる程度」だったという。確かにファイル転送に関しては「2Mbpsという速度は決して速くないが、今のところ大きなファイルの転送はしないので、速度はそれほど大きな問題には考えていない」としている。逆に、大きなファイル転送を頻繁に行なうユーザーは留意しておくべき点だ(なお、速度に関しては、11Mbpsまで高速化された製品が来年のはじめにも出荷される予定だ)。
最後に、家庭内LANの配線について知るのに参考になるサイトをピックアップする。
システム面でのノウハウを紹介するページが多いのに対し、配線となると意外に少ないようだが、そんな中で配線についても非常に詳しい解説が読めるのが「岡田家のホームページ」にある「ネットワーク対応住宅建築記録」だ。そのタイトル通り、ページ作者がネットワークに対応した住宅を建てた際の過程を記録したもので、家庭内LANシステムの概要図や電話の配線図、電源コンセント、モジュラージャックの結線方法など、設計図や図面も含めて紹介している。
一方、「Tomoyuki's homepage」にある「部屋内LANのページ」は、LibrettoとMN128-SOHOで家庭内LANを組んだレポートだ。壁に穴を開けずに配線する参考例として、フラットケーブルやモジュラージャックの取り付け知識などを紹介している。
なお、現時点では国内では提供されていないが、既存の電話線を利用したネットワーク規格「HomePNA」準拠のLAN製品が近く、発売される。パソコンにアダプターを接続し、これを電話のモジュラージャックと接続することで、電話の通話を妨げることなくデータ通信が可能になるというものだ。各部屋に電話のモジュラージャックが設置されているような住宅ならば、工事を一切することなく、家庭内LANが構築できてしまうのが利点だ。
国内初となる製品が富士通より11月下旬にも発売されるほか、アイ・オー・データ機器も年内の発売に向けて製品を開発中だ。価格もパソコン1台あたり1万円程度で済み、ハブなどを用意する必要がない。現在の仕様であるHomePNA 1.0では伝送速度が1Mbpsだが、米国ではすでに10Mbpsに高速化された製品も登場している。価格や手軽さを考えると、今後大いに期待できる規格だろう。
('99/11/1)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp / Watchers]