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【インタビュー】

“新しい音楽”をデジタルで提供する
Cductive創立者Thomas Ryan氏に聞く

■URL
http://www.cductive.com/

Thomas Ryan氏  メジャーレコード会社によるダウンロード音楽販売がいよいよ本格化しそうだが、そもそも巨大な流通網を持つメジャーより、インターネットによる流通網の恩恵を受けられるのは“インディーズ系”だ。従来のメジャーの流通に乗らない音源が、インターネットで世界中に届けられるというわけだ。

 Cductive社は、Web上で好みの曲を選ぶとCD化して届けてくれるというカスタムCDサービスで知られる米国の会社。設立は'97年1月。R&S、Sublime Recordsなどのテクノ系やK Recordsなどのロック系まで合計350以上のインディレーベルと契約しており、そのセレクションが音楽好きから評判を呼んでいる。現在、カスタムCDと並行して、MP3による楽曲の販売も開始している。'99年11月にはインターネット上のレコード会社Emusicによる買収が話題になった。

 今回、Cductiveの創立者の1人であるThomas Ryan氏(写真)に、Cductiveの方針と今後について聞いてみた。

 

今後はダウンロード中心

ウォッチ編集部(以下編):Cductiveのビジネスモデルは?

Thomas Ryan氏(以下T)ビジネス的には、カスタムCDとダウンロードミュージックの販売で、楽曲の売り上げから数パーセントをいただくというモデル。

 可能な限り多くのレーベルと契約して、彼らに対してデジタル配信をするための機会を提供したり、エンコードや決済などのシステム的な作業をまとめてやってあげることが、基本的な姿勢としてある。多くの楽曲を配信できる流通チャネルを作ることで、今後のデジタル音楽配信市場で最大のプラットフォームになりたいと思っている。

 今はまだまだだが、今後、アメリカはもちろん世界的に市場は広がっていくと思う。市場が大きくなるほど派生的にセールスも伸びるはずだ。

:現在はカスタムCDの販売が中心?

TCDとデジタルの売上の割合は、現状で4対1くらいだが、将来的にはデジタルダウンロードが中心になると考えている。カスタムCDは必要があればやるという姿勢。カスタムCDは時間がかかるし、音楽に詳しい人じゃないとなかなか難しい。それに、ある程度大きなレーベルだと、同じCDに別のアーティストを入れてはいけないなどいろいろある。それに比べダウンロードは気に入ったらすぐ買える。セールス的に逆転するのも近い。

:ダウンロード中心というと、競合はMP3.com?

T:彼ら(MP3.com)は曲数があるといっても、別にレーベルと契約しているわけではなく、そのへんの“自称アーティスト”の曲を置いてるだけなので、あまりライバルという風には考えていない。彼らが今からレーベルと契約するというのは、すでに僕らがやってるので難しいと思う。

 レーベルを選定する際も基準を持っている。人気があるかどうかは関係なく、質的にある程度ちゃんとしたものを選んでいる。そうじゃないとmp3.comみたいになってしまう。社内には、ダンス系やヒップホップ、インディーロックなどジャンルごとに担当者がいて、クラブに行ったり雑誌を見たりして、これはイイと思ったものには声をかけている。最近はレーベルから声をかけてくることも多い。

 インターネットでは情報が多いのがあたりまえなので、そこに存在するサービスを選別したりユーザーが正しい情報を得られるようにするのは大切なこと。我々は、可能な限り新しい音楽を紹介したい。いままで聴くことのなかったような音楽を聴いてもらえるような立場にある。

:メジャーレーベルは競合相手ではない?

T:マーケットが違うので直接競合しているわけではないと思う。でも、お互いに新しい才能を見つけるということをやっている。自分たちはデジタル配信に関しては、可能なかぎり独占契約しているけども、今後、Cductiveが独占で先に見つけたアーティストに対してメジャーがプレッシャーをかけて「デジタル配信の権利をよこせ」と衝突することはあるかもしれない。

:Cductive出身でメジャーになったアーティストというのは?

T:DJ Spookyなどがいるけど、どれだけ自分たちの貢献があったのかわからない(笑)。今後Cductiveから出てきてブレイクするような、ある程度実感できるようなものが出てくるといいんだけど。

SDMIは効力なし

:現在、ダウンローダブルな音源に関してMP3を使っている理由は?

T:1つは圧倒的にスタンダードな存在であること。2つ目はユーザーの立場で言うと、パソコンからプレーヤーに移したりといった利便性から考えるとMP3になる。メモリースティックが普及すれば別だが。

:SDMIについてはどう考えているか。

T:CdutiveもSDMIのメンバーになっている。メジャーもいっぱい参加しているが、彼らは、どうにかしてスタンダードを自分達に有利な方法で作ろうとしている。例えば、コピーが3回しかできないとか、そういう点はユーザーにとって不便な部分が多い。それが実質スタンダードになっているMP3に取って代わるのは難しいと思う。メジャーレーベルがあまりにも規制をかけようとするのは、市場の底上げを妨げると思う。

 それに、メジャーは「SDMIは、プロテクトされたファイルを安全に送るようなスタンダードを決める機関」という、よいイメージを一般に与えようとしている。で、実際何をやっているのかというと、自分達の利益で「ああしてくれ、こうしてくれ」の言い合いになってしまって、何かあれば意見は変わってしまうし、あまり効力は発揮していないんじゃないかと感じている。

 メジャーレーベルというのは、コンテンツという意味では、すごい売れるものをもっているので、SDMIが何かを提唱してそれでやり始めたらユーザー数も増えると思うが、同時に新しい音楽はインディーズから出てくると思う。

:EMMSのようにCductiveではジャケットのダウンロードなどは考えていないのでしょうか

T:それはやりたいことの1つ。今はMP3がスタンダードだが、もっと大きなスタンダードがでてくるかもしれない。そういったものがでてきたら、我々はそちらを採用する。いずれはやっていきたい。

日本では来年春にサービス開始

:Emusicによる買収後、Cductiveの体制に変化はありますか?

T:買収に関しては、まだ、今月決まったばかりなので、細かい条件を現在話し合っているところ。例えば、Cdnowに買収されてMusic Boulevardのブランドがなくなってしまったようなのとは違って、ブランドとして「Cductive」は残る。新しい音楽にフォーカスしたサービスということでブランドができているので、それを活かしたいというのは両方(Emusic、Cductive)にある。

:日本でのサービス開始はいつごろ?

T:Emusicとの話し合いがまだ詰まっていないので、具体的は話はできないが、(2000年の)春くらいにまでは日本で始動したいと思っている。当初は今年の6月にやる予定だったが、MP3販売を開始する時期と重なってしまったので動けなかった。日本でのサービスでは、日本ユーザーにあったアーティストを紹介する。あとは、プリペイドを使うとか支払い方法も検討している。

:日本では、1曲100円で販売すると発表した音楽配信の新会社というのが話題を呼んでいるんですが。

T:Cdutiveも値段を安くしているが、それは、まだ市場が新しいから。とりあえず人に来てもらって曲にお金を払うという習慣を付けてもらいたいというのがある。メジャーの曲は高いが、それは、安くしたらCDが売れなくなるわけで、実験的に高い値段を付けているのだろうと思う。Cductiveは、手に入りにくい曲をインターネットで買えるというものなので。まず開拓をしているところ。あと、曲の値段については最終的にレーベルが決めることだし、疑問があればレーベル自身が話し合えばいい。

:将来的にダウンローダブルな音楽と既存のCDの位置は逆転すると思うか

T:今後テクノロジーが追いついてくれば変わる可能性は十分にあると思う。ただ、それには、生活習慣が変わる必要もあるかもしれない。あと、例えば12インチとかは、DJとかマニアはどうしても欲しいだろうから、今後も残ると思う。

:ありがとうございました。

まとめ

Thomas Ryan氏 Thomas Ryan氏は、New York郊外出身の30才。Cductiveを始める前はベルギーでDJとして活躍していた事もあるという。その時代には、Thomas Ryan氏のレコードコレクションから選んだ曲を人に紹介して喜ばれていたとのこと。それを世界規模に発展させ、ビジネス的にも成り立たせたのがCductiveであり、実現に不可欠だったのがインターネットである。

 なお、Cductiveでは、現在「Dance/Electronic」「Indie Rock」「Hip-Hop/Urban」の3ジャンルが用意されているが、今後「Reggae」も加わる予定だ。

('99/11/26)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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