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【インタビュー】

非パソコン系インターネットアクセスの隠れた主役

iモードやドリームキャストのブラウザー開発元 アクセスに聞く

■URL
http://www.access.co.jp/

 '99年にブレイクしたものの1つに、パソコン以外の機器を使ったインターネットアクセスがある。300万台を突破したiモードを始めとして、世界で200万台が普及したドリームキャストのドリームパスポート、また続々と登場するポケットボードフォロワー機などラインナップも充実し、2000年以降はカーナビや携帯ゲーム機など、さらに期待のできる状況になってきた。
 この非パソコン系のインターネットアクセスに使われるブラウザーで、シェアの8割以上を握っているのがアクセスだ。アクセス製のブラウザーが搭載された機種は現在50種を超え、その出荷台数は累計500万台以上にもなる。この取締役副社長で、理学博士でもある鎌田富久氏に非パソコン系機器のネットワーク対応についてお話を伺った。


◆TVユーザーのことを考えていなかった「インターネットTV」

IW編:創業が1984年だそうですが、現在の非パソコン系機器ブラウザー開発が主体となるまでに、どのような経緯があり ましたか?

鎌田氏:創業は1984年です。当時は8ビットパソコンの全盛期で、マイクロソフトのベーシックを使う時代でした。それに反発して、もっと簡単にプログラミング言語を作れないかと「LOGO」というプログラミング言語の処理系を作ったのが出発点です。要はパソコンの中で基本的に使われるものを作りたかったのですが、マイクロソフトが強くてね(笑)。16ビットパソコンの時代になったらMS-DOSの壁があって、当時やっているところが少なかったネットワークの分野に行ったら、Windowsが標準でネットワーク機能を持って、マーケットがなくなったり。
 それで、パソコンがネットワークを標準搭載するならパソコンに付随する機器もネットワークが必要になるはずと、ネットワークにつながるパソコン以外の機器を開発するようになりました。プリンターや周辺機器、店舗のPOSターミナルなどにネットワークのソフトとOSをセットで提供する、いわゆる組み込みの技術をずっとやっていました。それを家電などに応用し始めたわけです。

IW編:家電分野に進まれたのは何かきっかけがあったんですか?

鎌田氏:実は'90年くらいから「そろそろネットワーク機能を入れませんか」と、メーカーさんに言い続けていました。'95年~'96年にようやくインターネットが一般化してきて、いくつかのメーカーさんからインターネットテレビが出ましたが、ちょっと早すぎた。
 失敗したのは、テレビのユーザー向けに考える部分が欠けていたからなんです。テレビ向けにコンテンツを提供することを考えていなかったし、接続もまだ28.8kbpsモデムなどが主体で、パソコンユーザーなら待ってくれても、スイッチを押せばすぐ見られるのに慣れたテレビユーザーは待ってくれない。さらに電話料金やISP料金もかかるなど、多くの問題がありました。

◆予想していたiモードの成功

IW編:現在メインの事業はなんですか。

鎌田氏:今はブラウザーソフトの開発がメインです。各機種ごとに合わせて、ネットワークにつながるソフト一式を提供しています。特に「NetFront」という中心的なソフトは50~60製品に搭載され、トータルで約500万台が出荷されています。NetFrontにはいろいろなものが入っていて、通信プロトコルやメール機能など、OS部からモジュール部まですべてを含んでいるんです。
 iモードを含めた小型機器は、画面が小さいしCPUも速くないので、NetFrontをさらにシンプルに、スリムにしたものを提供しています。これが「CompactNetFront」です。
 これらで非パソコン系のブラウザーでは8割以上のシェアを持っています。

IW編:なかでもiモードは大成功しましたね。出荷台数が300万台を超えるこの状況は予想されていましたか?

鎌田氏:メーカーさんで1社10万台しか出ないと言っていたところもありましたが、うちは1機種で100万台行くと思ってました。やはりコンテンツがこれだけ揃ったのが成功の理由でしょう。iモードを立ち上げる際、今インターネットでコンテンツを提供している人たちをiモードに呼び込まなければならない。そこで明確にこの形に合わせてください、という基準を(コンパクトHTMLで)提示できたのが大きいです。
 というのも、インターネットテレビで失敗したときは仕様が各社バラバラだった。その反省を生かして、1つ標準になるものを作ろうと思ったんです。コンテンツを作る側からすれば、揃えるものが明確になるし、呼び込む側は、この形にしてくれればいいですよと言って集めることができる。
 さらに、もともとあったコンテンツをそのまま使えるようにした点もあります。たとえばバンキングですが、これをまったく新しく作るのは非常に大変で、コンテンツ提供側が尻込みしてしまう。iモードでは現状のインターネットバンキングなどのシステムを、表示の形を変えればそのまま使える形にしています。

実は、小さい液晶の画面でいいのかという点は非常に問題になりました。どうしても(ブラウザーボードのような)大きい画面にしたくなる。そこをとにかく今の携帯電話のサイズで何ができるかという方向に持っていったんです。小さい画面でも表示の仕様を決めれば、コンテンツは必ず付いてくると思っていましたから。

IW編:cdmaOneなどには対応していますか?

鎌田氏:現在は対応していません。NTTドコモさんとのおつきあいが長いですし……。ただEZwebやWAPもありますが、HTMLやJavaなど、他の機器で使っている技術を入れていかないと。携帯電話だけに対応した形だと、先々やりにくくなると思います。

◆テレビと電気コンセントがホームネットワークの立役者になる

IW編:今後、非パソコン系のインターネットアクセスはどういった形になると予想しますか?

鎌田氏:この先、家庭内の家電は必ずつながります。インフラは1つではないかもしれません。たとえば音声や映像の大容量系なものはIEEE1394を利用し、電子レンジや冷蔵庫などの制御できればいいものは、電力線でのデータ送信方法を採用するといった形が考えられますね。この電力線でのデータ送信の利点は、電力コンセントからコマンドも受け取れるので機器を制御できる点と、配線がいらないので既存の住宅に対応しやすい点です。テレビの料理番組を見て、気に入ったレシピを電子レンジに電力線を通じてダウンロードして調理するなど、利用法はいくらでも出てくる。電源メーターは家庭で唯一電力会社が自由にできるところなので、ここにサーバー的な役割を持たせて、情報をダウンロードもできますし、我々が持っている携帯電話などからも、家の機器のコントロールが可能になる。
 これは一例ですが、今は家庭の中にあるインターネット機器をどうやって押さえようかと、どこも考えています。この後1~2年が、メーカーが熱くなるところでしょう。一般家庭には2005年あたりに普及するのではないかと。
 それでも1つの規格にまとまることはないでしょうね。お互いがつながるにしても、何通りかの方法が残る。我々はいずれにしても、どの機器にも対応できるブラウザーを用意していく構えです。

IW編:なかでも特に注目している分野はありますか?

鎌田氏:テレビにはこれからもう一度力を入れていきます。来年はBSデジタルデータ放送が始まるので、それに合わせて「NetFront for DTV」を発表する予定です。
 また、家に帰って真っ先にパソコンの電源を入れる人は少ないと思うんですよ。普通はまずテレビのスイッチを入れたり、留守電をチェックしたりというステップがある。これを1つにできるとすると何だろうと考えたとき、それはパソコンではないと思うんです。テレビとセットトップボックスの形なら、1つにできる可能性はあるかもしれません。
 2000年末からのBSデジタルデータ放送対応機器にはすべてブラウザーが入りますし、中身がハードディスクのデジタルビデオデッキもぼちぼち出てきます。ホームサーバーを使ったネットワークでもテレビは中心に来るでしょう。パソコンはどちらかというと作業をするもので、中心として使うには弱い存在だと感じています。
 また電話機に多彩な機能を持たせたものも出てくるでしょう。当たり前ですが家庭の中で電話線が確実に来ているので、そこにいろいろな機能を乗せるのもリーズナブルにできる。ただ日本は家庭での電話の置き場に問題があって、まだ玄関にある家庭が多い。親機と子機のようにブラウザー部分が分かれて、手元でソファーで使えるといったセパレートタイプが出てくるかもしれません。
 携帯電話もまだまだ出てきますが、電話の形をしていないもの、たとえば「エクシーレ」のような、通話機能のないものがさらに増えるでしょう。

◆将来ネットワークからパソコンが消える?

IW編:となると、家庭の中でのパソコンの役割はどんどん薄くなるのでしょうか?

鎌田氏:私はパソコンにテレビを入れること自体、無理があるんじゃないかと思っています。パソコンは本来ツールとして作業に使うもの。今はインターネットアクセスにパソコンを使うケースが多いですが、そこも変わってくるでしょう。今後はアクセスしていることを意識しないでサービスを使う方法が増えると予想しています。たとえばテレビショッピングをして、商品を買うためにリモコンのあるボタンを押す。すると自動的にネットワークにつながるが、ユーザーはそれを意識しないで買える……という形に進むのでは。
 パソコンがなくてもインターネットを使うスタイルになると、チップなどの意識しないところにインターネットが入ってくる。我々のソフトもそういった場所で使われるのを期待しています。我々はコンポーネントウェアと呼んでいるんですが、コンポーネントとしていろんな機器に簡単に組み込める方向を目指したい。実際にLSIのなかにソフトを組み込む開発もしています。

IW編:今後はどういった展開を予定していますか。

鎌田氏:我々の強みは、これだけ多様な機器で使われているので、皆がつながる時に何が必要なのかを分かっているところなんです。こういった機器同士を繋ぐエージェント的なソフトウェアを、タイミングよく出していければと考えています。この機器に組み込める形に加えて、インフラもどんどん新しくなっているので、次世代携帯電話向けのブラウザーの開発なども進めていきます。

IW編:サーバービジネスも考えているそうですが。

鎌田氏:ええ。これだけ多様な機器にブラウザーが載ると、コンテンツを提供する側は各機器に合わせた調整が大変になってくる。それを解決するために開発しているのが「コンテンツ・フィルタリング・サーバー」です。コンテンツは1つのサーバーに納めて、携帯電話やテレビなどの機器からアクセスがあると、サーバーがそれぞれの特性を判断して、適応させた形でコンテンツを送る形になります。大きい画面だったら大きく出したり、モノクロ画面だったらモノクロで送信するわけですね。これは2000年から始める予定で、コンテンツサーバーかキャリアの中に置かれる形になります。これも我々がクライアントを把握していて、サーバーから何を送ればいいか分かっているので始められることだと思っています。まずはiモード向けにスタートして、徐々に強化していく予定です。

(1999/12/24)

[Reported by aoki-m@impress.co.jp]


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