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【業界動向】

IDCのSean Kaldor氏が市場予測

Eコマースの将来は“C2H”と“C2C”に?


 “B2C”と“B2B”という分類は意味がなくなり、将来は“C2H”と“C2C”になる──。IT専門調査会社の米IDC社・eBusinessアドバイザリーリサーチグループのSean Kaldor副社長が、19日に都内で開かれた報道関係者向けのカンファレンスで、今後のEコマース市場の動向について予測した。



Mr.Sean Kaldor  Eコマースの市場は現在、企業対消費者“Business To Consumer:B2C”と、企業間“Business To Business:B2B”という形態に分類されている。IDCによると、すでに1998年時点でB2B市場は250億ドルと、B2Cの120億ドルを上回っているが、2003年にはその格差がさらに拡大。B2Bが6,420億ドル、B2Cが750億ドルになると予測する(出展:IDC Internet Commerce Market Model, V 5.0)。いかにB2B市場の規模が大きく、成長が期待されているかがわかるだろう。

 しかしこれに対し、Kaldor氏は、こういった分類はそれほど重要ではなくなるという。同氏は、コップをオンラインで購入する例を挙げ、「社員が会社で使うコップをオンラインで買うのと、消費者が家庭で使うコップをオンラインで買うことには大きな違いはない」と指摘。B2Bというカテゴライズに疑問を投げかけた。実際、Eコマースにおける購入目的を見た場合、仕事で購入している人の34%が家庭用に商品を購入しており、逆に家庭における購入者の23%が仕事のために商品を購入しているというデータが出ているという。

 そこでKaldor氏は、「もっと現代的な分類がなされるようになる」とし、扱う商品が“最終製品(Final Goods)”か、“中間材(Intermediate Goods)”かで分類する方法を提示した。例えば、B2Bの大部分を占めている原材料の調達は、B2Bの流れをくむ中間材のカテゴリーに分類される。一方、企業が備品として購入する文房具などは、従来はB2Bにくくられていたが、これは中間材ではないため、消費者向けの取引と同じ最終製品のカテゴリーに分類されるわけだ。

 さらに、Kaldor氏は「4、5年後にはもっと興味深いことが起こる」という。「コンピュータと人間」という要素によるカテゴライズだ。

 すでに現在、希望する商品がどこで一番安く買えるかということをコンピュータに探させ、それを購入することができるようになってきている。その結果、同氏は、「将来は、(販売者の)コンピュータが、(購入者の)コンピュータに対して、どのような商品情報を提示してくれるか」ということが重要になるという。こうなると、企業の中間材の取引は、当然のように“Computer To Computer:C2C”で行なわれるようになる。一方、最終製品については、C2Cの場合もあれば、消費者が自分の手で探して購入する“Computer To Human:C2H”の場合もあるわけだ。

 このように、今後Eコマース市場を分析していくうえで、「B2CとB2Bという分類は、もはや意味を持たなくなる」。さらにKaldor氏は、C2Cという取引形態が拡大すれば、購入者はブランドや広告を気にしなくなると指摘する。「現在、多くの企業が多大なコストをかけて自社のブランドを確立しようとしているが、人間ではなくコンピュータが購入行動をとるようになれば、このような努力も水の泡となってしまう」としている。



 Kaldor氏はまた、B2C企業が発展する過程を4つの段階に分け、“資金”“カスタマー戦略”“評価基準”“財源”といった観点から各段階の方向性の違いを説明した。

 これによると、新興のEコマース企業は、初期の第1~2段階において、資金や財源を“投資”に頼る。そして、“認知度アップ”や“トラフィックの増加”をカスタマー戦略にかかげ、トラフィック増加に対応すべくインフラの構築に取り組む。企業の業績を測る評価基準は“マインドシェア”や“サイトヒット数”ということになる。

 これが第3段階に入ると、Eコマース企業は、競合企業の“合併”により資金を調達、財源は“収入”でまかなうようになる。また、カスタマー戦略は“取引の増加”に変更され、評価基準は“売上”ということになる。この段階では、売上が増加しても利益が出るまでに至らないこともあり、Kaldor氏によると、Amazon.comなどがこの段階に属するという。

 そして第4段階でEコマース企業は、競合企業だけでなく“オフライン企業”をも買収することで資金の“強化”を図る。財源も“利益”からまかなわれるようになる。カスタマー戦略としては、単に売買の取引を増やすのではなく、リピーターを獲得できるように“ロイヤルティ”という考え方が持ち出される。評価基準は、売上の大きさではなく、その分野でどれだけシェアを持っているかという“マーケットシェア”だ。

 Kaldor氏によると、現在のEコマースは「第3段階から第4段階への移行期にある」。多くの新興Eコマース企業が第3段階に属している一方で、(オフライン企業のTime Warnerを買収した)AOLやCDNowが第4段階に移行しつつあるという。第4段階の企業は「もはや新興企業という立場ではなくなり、自分の資金で市場を戦っていかなくてはならなくなる」が、反対に、初期の段階にある企業は「ベンチャーキャピタル、つまり株式市場に依存して資金調達を行なっている」のが現状だ。同氏は「株式市場が右肩上がりに成長していて、そこで潤沢な資金を調達できる間はいいが、市場に何かあった場合は資金調達の術を断ち切られる」と、新興Eコマース企業のリスクを指摘した。



 Kaldor氏はこのほか、“Eファイナンス”の利用拡大や、アメリカ中心のインターネット市場の終焉を予測した。現在、CDやビデオなどがオンラインで購入されるようになったが、「Eコマースに慣れ親しんできたように、今後、消費者はどんどんEファイナンスを利用するようになる」としている。また、1998年時点では全世界のEコマース消費者人口の半分を占めていた米国が、2003年には3分の1に縮小。逆に、ヨーロッパの消費者人口が半分を占めるようになるとしている。日本の消費者人口が占める割合については、1998年の3.5%から1999年には6.2%に、2003年には7.5%に拡大するという。これについて同氏は、世界全体で見ればとるに足らない数字だとしながらも、「日本経済には大きな影響を及ぼすだろう」と述べている。

(2000/1/20)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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