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【インタビュー】

レコード会社にとって有料音楽配信「bitmusic」とは
――SMEのスタッフに聞く

■URL
http://bit.sonymusic.co.jp/ (bitmusic)
http://www.antinos-r.co.jp/ (Antinos Records)

 3月8日、株式会社ソニー・ミュージックエンタテイメント(SME)の有料音楽配信サービス「bitmusic」は、新たに株式会社アンティノスレコードに所属するアーティストの楽曲を配信する。アンティノスは、SMEの100%子会社ではあるが、別法人として活動する独立したレコード会社。従来のレコード会社の常識であったディレクター制度を廃止し、欧米スタイルの制作システムを取り入れているという(ちなみに社名は「アンチソニー」の意だとか)。アンティノスの音源の配信は、関連会社とはいえ、bitmusicにとって初めての「別会社の音源の配信」となる。

●配信開始から2カ月弱――bitmusicの現状は

 今回、国内のメジャーレコード会社として本格的に音楽配信を開始して約2カ月を経過したbitmusicの「現状」と「これから」について、SMEのbitmusic推進部プロデューサー加納糾氏(写真)からお話を聞いた。

プロデューサー加納氏編集部(以下編)bitmusic開始から2カ月ほど経ちましたが、ダウンロード数は予測していたものと比べていかがでしょう。

加納糾氏(以下加納)サービス開始日の夜に予測クイズみたいのをやったんですよ。具体的な数は言えませんが、(予想の数字に)すごく差が出てた。それぞれ妥当だと思う数字が違ってたことが、おもしろくもあり、そんなものかなとも思っています。

 今は、新譜が増えるたびに数が増えているので、だいたいデイリーで2~300ダウンロード、月間で1万くらいです。1回は来てくれるんだけど、結構時間がかかるとか、面倒だとかで来てくれないんじゃないかというのを心配していたので、リピーターが増えてるということが一番うれしいです。

 (トップページの)ページビューは、1カ月60万位です。Sony Music Online Japan(編注:SMEの音楽情報サイト)は、だいたい100万位なのですごくいい数字だと思います。あと、購入方法が簡単になれば60万のうちのもう少しが買ってくれるかなと思います。夏前位にはもうちょっと購入方法を簡単にするかもしれないですね。

編:ユーザーの属性などは取ってあるんですか?

加納ぜんぜん取ってないんですよ。もともとお店でCD買う時に名前とか年齢とか言わないですよね。それと同じことです。あと、スタッフもいろんな有料の音楽配信サイトで買ってみたんですが、あまりにも個人情報を入れなくちゃいけないところが多くて。ちょっと話し合いまして、我々がもらえるのはメールアドレスだけにしようとということになりました。

編:実際のCD販売の売上とダウンロード販売の売上はリンクしてますか

加納ぜんぜんしてないですね。上位はパッケージと同じような感じですが、中にはダウンロード比率が非常に高い人もいますね。具体的には佐野元春さんとか鈴木雅之さんとか、ちょっと30~40代後半の名前のある方ですね。

 演歌系アーティストについては、後援会などで「インターネットで配信します」みたいなことを言ってくださってるようなところは、結構、総動員で買ってくださってるみたいです。

編:bitmusicを開始されてからのアーティスト側からの反応、意見というのはいかがでしたか

加納実際に会って話しを聞いたのは、佐野元春さんとブルーム・オブ・ユースさんとゴスペラーズさんなんですが、一様にみなさん言われるのが「思ったより音がよかった」と。便利さの面ですぐれてるし、ポータブルで外で聞く分にはまったく支障がないと。特にブルームさんは品切れがないのがすばらしいと言ってました(笑)

編:bitmusicの音楽配信は、プロモーション目的なんでしょうか

加納プロモーション目的というわけではないですが、パッケージに代わるものだとも思ってません。パッケージにアドオンするものだと思ってます。実際始めてみたらパイがひろがったなというのが感じられるんですよ。そういう意味では、やってみてよかったなと思ってます。今まで貸しレコードに行ってた人がこっちのほうがいいと思ってくれれば。

編:料金的なことに関するユーザーからの声にはどんなものが?

加納バラバラですよ。私なんかは最初聞いたとき結構高いなと思いました(笑)。でも、同じものを売ってるのに、一つは350円から400円で、こっちは200円というのはつじつまがあわないなという気持ちがあります。そう言った意味ではちょうどいい値段だと思います。将来的にはオンラインの販売が黒字になって余裕が出てくれば、シングルの曲だけはちょっと安くしてもいいかなという感じはします。

編:ノンパッケージなら安くできるはずだとの意見もありますが。

加納でもライセンスなどの費用が結構かかるんですよ。結構やる前は、『パッケージで採算とれないのやってよ』なんて言われたんですが、そういうのはこっちでも採算とれないんですよ。アマチュアの人が自分のホームページでやるんなら本当にお金かかんないと思うんですけども。こちらは、一度に1万件アクセスあっても大丈夫なようにとかプロフェッショナル仕様なので、まったく別モノという感じですね。配信だからお金がかからないんじゃないかというのは、やればやるほど違うんじゃないかと感じてます。

プロデューサー加納氏編:今回アンティノスレコードの音源の配信を開始するに至った経緯と、今後他のレコード会社の音源を配信する予定はあるのかお聞かせください。

加納アンティノスの場合は、基本的なことを構築してから参加していただきたいと思ってたのでこの時期になりました。立ち上げまで結構ギリギリのスケジュールだったので、いろいろな不具合とかが生じつつ、また、修復しつつという感じでやっていたんです。

 アンティノスのアーティストラインナップを見てもらえるとわかるように、ティーンエイジャーのしかも前半のほうがユーザーの中心なんですよ。今の段階では知識の必要なbitmusicのシステムを、いきなり10代前半のユーザーに参加していただいてもトラブルとかがあって、逆にアーティストなりレコード会社なりに悪い印象を持たれても困るなというのがありました。マイクロソフトとIBM(MediaDirect)の両方の方式が立ち上がって、問題なく運用できるようになった時点で参加していただきたいなと。

 あと、他社に参加していただく場合は、bitmusicからではなく、配信のシステムをそれぞれの会社で使ってもらうという形になります。現時点ではまだ具体的には決まってません。

 

●インターネットの登場でレコード会社とファンとの関係は
 本格的な音楽配信がスタートし、レコード会社スタッフの現場はどう変わったのか。加納氏に加え、アンティノスレコードのA&R部アシスタント インターネット担当川上陽子氏にお話を聞いてみた。

編:川上さんはどのような経緯があってインターネット担当になられたんでしょうか。

川上陽子氏(以下川上)私はアルバイトでこの会社に入ってまして、3年程前にアンティノスのページ作る時に、パソコンの使い方になれているということで抜擢されました。立ち上げからやっている状態です。私自身がミーハーでいろいろ情報を知りたがる部分があるんで、そういう面を一般の子たちに落とせればいいかなと。いつのまにかwebmasterにということに。

編:webmasterとしての苦労はありますか

川上みなさん私と同じで、ミーハーで情報知りたがりの方が多いので、情報が間違っていた時がちょっとこわいなと。バラエティ番組で出演がずれた時もBBSに「出なかった、出なかった」の書き込みがずらりで。掲示板絡みが一番大変ですね。掲示板はID登録制にしているんで変な書き込みはないですが。

編:ファンサイトとの関係は

川上ファンサイトとはリンクを張っているんですよ。画像や音源使っちゃいけないとかいう部分をわかってもらった上でリンクを張ってます。数はもう、西川さん(T.M.R)のところはいくつあるんだろう(笑)。西川さん本人は、インターネットも好きで、必ずBBSで話題になっていることをチェックしておいてラジオでしゃべったりしたりとかしてます。

編:レコード会社としてインターネットが登場して一番変わったところというのは?

加納やっぱりユーザーの意見が直でくるから、かなり参考になりますよね。結構気にしたりして。あと年間通してのプロモーションがしやすいですよね。今までリリースのタイミングでしかプロモーションできなかったんだけど。

川上私は、CDエキストラやCD-ROMの制作もしているんですが、ファンからの声を吸い上げた次に何をやるかというのを考えたり。すごいファンが近くにいる感じがします。

藤井隆さん
藤井隆さん

 あと、前に、藤井さん(藤井隆:吉本新喜劇所属の芸人でアンティノスからCDデビュー)のプロモーションビデオの撮影で、藤井さんがデビューするっていう情報を出さずに、平日午後3時に横浜で300人のエキストラを集めなくちゃいけないことがあったんです。その時に「すごい新人が出ますから、横浜に来てください」っていうのをメールサービスの読者2~3,000人に流したんですが、300人近く集まって(笑)。よかった~と。

編:あと広報担当者の立場としては、これまでインターネット関連媒体とのつきあいはなかったと思うんですが、いかがですか

SME広報室の平澤弥生氏そうですね。特に年末からパソコン誌の方中心におつきあいさせていただいたんですが、専門用語がわからなくて何度倒れそうになったことか(笑)。最近はわかるようになってきましたが。結構衝撃でした。こんな世界があったんだと(笑)

加納しかし、インターネットの雑誌っていうのは不思議ですよね。インターネットで情報を得ればいいのに、それを雑誌でっていうのが。パソコン誌はわかるんですけどね。だけど見てしまいますよね。で、さっきのパッケージの話と同じなんですが、雑誌も無くなりませんよ(笑)

 

●アンティノスのリリーススケジュール
 今回アンティノスからリリースされる5アーティストは次の通り。
 
コタニキンヤ
仲間由紀恵
n.i.c.e
コタニキンヤ
「高熱BLOOD」
仲間由紀恵
「Birthday」
n.i.c.e
「L.A」
 
藤井隆
GAKU-MC
 
藤井 隆
「ナンダカンダ」
GAKU-MC
「クロスワード」
 

 なお3月23日には、Fayrayの「MY EYES」が配信開始されるほか、以後に販売されるCDシングルは発売同日にbitmusicでも配信される予定だ。

(2000/3/9)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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