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【特別集中連載】

~~ あるウィルス感染者の告白 ~~

■第1回:発覚

誰だってウィルスはイヤだし、ましてバラまいてしまうなんて恥ずかしいことはまっぴらゴメン。だからウィルス対策ソフトだって入れているし、怪しいファイルはすぐに捨てている……ベテランのインターネットユーザーなら、皆こう口を揃えるだろう。だが、それでも感染してしまう人はいる。
 これから始まるのは、自分のマシンへの感染はもちろん、約200人の知人に電子メールでウィルス(ワーム)を送ってしまったライターの体験談だ。ウィルス感染の発覚からそれに続く混乱、そして事態の収拾まで、彼はどうやって災難を乗り越えたか? そして、その中で得た教訓とは……?
 本日から3日間に渡ってお送りする特別集中連載、読み逃すリスクは大きい、と言っておこう。

 ~~ プロローグ ~~

 子供が一人前に育つまでには、大小合わせて200回の風邪をひくという。ウィルスやバイ菌に何度も感染し、それを克服して、社会生活を営むための「免疫力」を獲得していくのだそうだ。
 ひるがえって、自分のネットライフはどうだったろうか。1,200bpsでのパソコン通信時代から数えて、かれこれ13年。数限りないフリーズを乗り越えてきた。ウィルスが流れ着いたこともあるし、ネズミ講やチェーンメール、デマメールだってよくあった。そういったものを「ポイ!」と捨てるだけの免疫抵抗力は身に付けてきたはずだ。

 ……だが、今回ばかりは見事に感染してしまった。しかも、かなりありふれたワームにである。我ながら情けない。その後がっくり気落ちして本物のウィルスに感染し、1週間近く寝込んでしまったほどである。
 本稿編集者に「そこそこ事情の分かっている人で、こんなに見事に感染した人は珍しい。せっかくだからコラム書いてくださいよ、転んでもタダでは起きないってことで(笑い)」と妙な言い方で慰められ、恥を忍んで読者のみなさんに私の「ウィルス感染体験」を開陳したいと思う。他山の石としていただければ幸いだ。

 ~~ 襲来 ~~

 ある夜、高校時代の友人から短いメールと添付ファイルが届いた。メール着信を知ったのは自宅のMacintosh。.exeファイルなのでMacでは開けないが、その時点ではちっとも怪しいとは思わなかった。「明日、オフィスのWindowsマシンで開いてみよう」と考えたのが、間違いの始まりだった。

 そもそも「知らない人からの怪しい添付ファイル」ならば、誰だって警戒する。ところが「親しい人間からの怪しそうな添付ファイル」となると、警戒するどころか興味を持ってしまうのは(言い訳じみるが)私だけではないと思う。「それ」を送って来たのは高校時代の友人で、彼とは「YUBITOMA」で再会し、メールで旧交を暖めていた。悪所通いを重ねた当時の交友を思い返し「これはきっとアッと驚くようなものか、プッと吹き出すようなものに違いない」と、警戒心がすっぽり抜け落ちてしまったのである。

 ~~ 感染 ~~

 翌朝、オフィスのWindowsマシンでメールソフトを立ち上げ、「それ」をダウンロード。添付ファイルをクリックしたとき「保存しますか、開きますか?」と聞いてきたが、こともあろうに「このまま開く」を選択してしまった。今になってみれば魔が差したとしか言いようがない。

 マシンはデスクトップ型のVAIOで、OSはWindows 98。Outlook Express5.0を標準のメールソフトとして使っていた。VAIOの液晶画面を右に、MacのCRTを左に置いて、両者をダイヤルアップルーターに接続して使っている。
 仕事はMacでやることが多いが、外部とのやりとり、すなわちWebをチェックしたりメールをやりとりしたりといったコミュニケーションは、ポピュラーなWindowsマシンの、ポピュラーなメールソフトで行なっていた。もちろん文字化けやらファイルが開けないといったことが、自分にも相手にも極力少なくなるようにという互換性の観点からである。そして、そこがワームのつけ込みどころでもあったのだ。

「ファイルを開く」のボタンをクリックしたが、別に何も起こらない。いぶかる間もなく、メールソフトはすぐ処理が必要な案件を次々受信している。注意は当然そっちに向かい、私はメールの本文をチェックし始めた。2、3通読んでも、メールソフトはまだサーバーと接続された状態が続いているようだ。そういえば昨夜、西表島の道路に逃げ出した牛のデジカメ写真が2枚ほど来てたよなぁ、200万画素だから時間もかかるわ……。なんて思っていた頃に、「それ」はシコシコと「仕事」をしていたのであった。

 ~~ 発覚 ~~

 午前9時半頃、電話がかかってきた。

 ちょうど「インターネットマガジン」の出たばかりの号で、ゲストとして記事に登場してもらったベンチャーファンドのファンドマネージャーからだった。彼に登場してもらった記事の直前に、たまたま彼がかつて関わった仕事を扱った記事がうまい具合にハマっており、注意深く読んでくれる読者には面白い取り合わせになった、などと世間話をしばし。
 こんな具合に、発売直後に取材対象者と連絡をとりあうのはよくあることで、「では、また何かとお世話になりますが、今後ともよろしく」と電話を切ろうとしたら、

「それでね喜多サン、さっき送っていただいたの、ウィルスですよ」

 ちびまる子ちゃんなら、ここでさーっと顔にタテ3本線が入るところだが、まさにそんな気分。「え、え、えっそうでしたか、それはすいません。あああの、どうもありがとうございます、お知らせいただいて」。礼を言い、受話器を置きながら、私の脳味噌は急回転する。

「さっきのファイルはウィルスだった。それも、私のアドレスブックを勝手に拾って、自分を添付ファイルとしてメールを送りつけるワーム! 電話をもらった彼とメールのやりとりをするようになったのは今年に入ってからだから、それ以前からのつきあいがある人たちにも間違いなくウィルスは届いている。今電話をくれた彼と同様、モノの分かった人なら私への連絡もメールより電話を使う人が多いだろう。これから恐らく、電話は鳴りっぱなしになる。受け取ってすぐウィルスと分かってくれればいいが、二次感染も出るかもしれない。大変なことになった……」

 電話を切ってまずやったのは、ダイヤルアップルーターの電源を落とすこと。それから気持ちを落ち着けようと一服点けたが、吸い込む間もなく別回線の電話が鳴った、鳴った、鳴った……。

(※第2回に続く)
■著者紹介
喜多充成(きた・みつなり) 1964年石川県生まれ。時事ニュース、IT、産業技術などをフィールドに、「インターネットマガジン」「週刊ポスト」「プレジデント」などで活躍するジャーナリスト。情報山根組通信兵の肩書きもあるが、今回の感染で格下げを討議されている。

◎この続きはこちらから!
あるウィルス感染者の告白 ~ 第2回:症候群 ~
あるウィルス感染者の告白 ~ 第3回:終息、そして…… ~

(2000/4/12)
[Reported by 喜多充成 kita.mitsunari@nifty.ne.jp]


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ウォッチ編集部INTERNET Watch担当internet-watch-info@impress.co.jp