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【イベントレポート】

ITを教育にどう活用するのか
─日本アイ・ビー・エムがシンポジウム─

 日本アイ・ビー・エム主催によるシンポジウム「インターネットが変える教育~ITがつなぐ世界の子供─その未来~」が27日、東京ビッグサイトで開幕中の「21世紀夢の技術展」会場内で開催された。

 日本でもここに来て学校へのインターネット導入が本格化しているが、実際のところIT学習へのハードルは高く、教育現場ではどのように活用すべきか模索しているというのが現状のようだ。そこで今回のシンポジウムでは、実際にITを利用し、成功を収めている取り組みを紹介。IT導入の問題点や、ITを利用した学習が子供たちにもらたす効果について紹介された。ここでは、その中から2つの取り組みを紹介したい。


 
Mr.Mouri
毛利靖氏の基調講演
まず1つ目が、小学校の“総合的な学習の時間”にインターネットやITを活用している実践例だ。つくば市立並木小学校教諭の毛利靖氏による基調講演の中で紹介された。

 同校では平成4年度から全校で環境学習に取り組んでいるが、これを進めるにしたがって3つの大きな問題にぶつかってしまったという。まず、各児童が興味や関心のあることをもとに学習課題を設定するため、その分野について関心を持つ児童が少ない場合は話し合いが深まらないことが挙げられる。また、調査範囲が学区内に限定されてしまうことで、植物の分布などを広範囲にわたって調査することができなかった。そして、児童が主体的に課題を見つけて学習を進めていくという性格上、小学校の教師が対応できないほど高度な課題を考え出す児童が現われることもあった。

 そこで、同校ではこれを解決する道具としてITを利用した。グループウェアを導入し、児童が疑問やそれに対する回答を自由に書き込める環境を整えた。図書室を改造したというメディアルームやコンピュータ室のほか、各教室にもパソコンを設置。また、無線LANで接続されたノートパソコンも用意し、休み時間などにどこからでも、誰でもグループウェアにアクセスできるようになっている。データベースには現在40件のテーマが登録されており、1週間で500件ものやりとりが発生しているテーマもあるという。例えば、「秋の生き物見つけた」というテーマを見ると、「コオロギの特徴を教えて」という書き込みに対して、「どこかの公園にいるよ」「学校のごみ捨て場にいるよ」などのレスポンス。そっけないほど簡単なやりとりだが、これをきっかけにして、それまで話もしたことがなかった他のクラス/他の学年の児童を実際に訪ね、一緒にコオロギを探しに出かけるまでに発展しているという。

 一方、学校外との情報交換にインターネットを利用することで、調査範囲が限定されてしまうという問題も解決できた。例えば、並木小学校の近くを流れる花室川の環境調査では、隣接する2つの小学校とも共同で調査を実施。並木小学校の学区内にあたる中流域だけの調査に止まらず、上流域/下流域の環境も含めた調査結果をまとめることができるようになった。これにより、流域による水の汚れの違いが把握でき、水草が水質の浄化に貢献していることなども突き止められたという。なお、調査の方法やノウハウは、動画などを用いてインターネットを介して他の小学校に伝えたという。

 こうしてまとめられた成果はウェブサイトとして公開されたが、思わぬところからの反応があった。花室川から採取した微生物で先生も知らないものがあったが、ウェブサイトに掲載したところ、それをネット上で見たという微生物専門の大学教授からメールで回答が届いたのだ。これまで、小学校の先生の知識では対応できないような課題については、他のテーマへの変更をすすめるなどしていたが、インターネットの活用により、児童の学習意欲を伸ばしてやることができるようになったわけだ。並木小学校ではまた、「人材バンク」というシステムも運用している。専門的な知識を有する保護者や地域の人などに登録してもらい、電子メールなどでアドバイスをもらう仕組みだ。今では、県外の工業高校の専門家などとも交流が生まれているという。

 毛利氏は、ITを使った環境学習を通じて「子供たちが自信を持つようになった」と、その効果について述べている。例えば前述の花室川の調査では、微生物のほか、アユやカワセミが住んでいることなど、大人も知らなかったことを発見するまでに至った。それまでは誰も専門に調査することがなかった身近な自然について「自分たちが初めて研究した。また、自分たちしか研究していないという自信」が感じられるようになったという。中には卒業後も自主的に研究を続けている児童もいるそうだ。


 
PanelDiscussion
パネルディスカッションの様子
さて、並木小学校の例がインターネットによるオープンなコミュニティだったのに対し、“学校のイントラネット”とも呼べるクローズドな取り組みも紹介された。シンポジウムの最後に行なわれたパネルディスカッションの中で、沖縄尚学高校教諭の上杉兼司氏により紹介された「尚学グローバルネット」である。

 インターネットにウェブサイトを設けるということは、生徒の写真や名前などをどこまで公開すべきかというプライバシーの問題を抱えているのが現実だ。これに対し、「もっと手軽に、限られた人だけのためのネットワークが構築できれば、情報を発信する側も受ける側も扱いやすいものになる」として、同校では保護者、教職員、OBだけが加入できるプロバイダーを沖縄の地域ISPと協力して運用。このプロバイダー経由に限定して学内のサーバーにアクセスできるようにした。

 提供されているのは、学内のニュース(ほぼ毎日更新しているという)、教職員の紹介、掲示板、教育に関するリンク集など。「学校と家庭をインターネットでつなぐことで、学校と家庭が共通の認識を持ったうえで教育に取り組むことが重要」だとして、情報を提供している。実際に拝見したところ、修学旅行のレポートや運動会の結果などが詳しく掲載されていた。同校が私立であるという性格上、離島からの入学者もおり、そういった生徒の保護者からは学校の情報がリアルタイムで入手できると喜ばれているという。また、IDとパスワードを入力することで、保護者が生徒の模試などの成績を参照できる点が、比較的めずらしい取り組みだとしている。運用にはセキュリティに留意する必要はあるが、志望校のレベルと現状の成績を照らし合わせる機能などがあり、家庭にいながらにして進路相談を受ける感覚で利用できる。模試の成績などの情報は「保護者に届く前に生徒にフィルタリングされてしまう」ことも多いとしており、提供価値は高いようだ。

 尚学グローバルネットは、今年4月より提供を開始したが、現在、同学園中・高校の生徒2,000人のうち、3分の1にあたる約700人の保護者が加入している。特に保護者の平均年齢が低く、生徒自身のインターネット利用率も高い中学1年生については50%の加入率があるという。なお、プロバイダーの利用料金は月額に換算すると800円となる。同校では今後、OBや同窓生同士の情報交換、OBからの就職先の情報の提供なども展開する予定だ。「沖縄尚学高校の関係者という限られた範囲の、開かれたコミュニティーを構築することが目的」としている。

(2000/7/27)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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