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【イベントレポート】

東北地方にネットベンチャーは根付くのか?
「フォレストポラーノin盛岡」より

■URL
http://www.forestalley.org/ (フォレストアレー)

 東北のネットベンチャーによるコミュニティー「フォレストアレー」の交流会「フォレストポラーノin盛岡」が14日、岩手県盛岡市で開催された。フォレストアレーは、いわばビットバレーの東北版と言えるもの。今年2月に設立されたばかりだが、これまで同様の交流会を東北各地で実施しており、今回が6回目の開催となる。フォレストポラーノin盛岡には、東北各県はもちろん、東京などからも約130名が参加し、「東北のIT革命の夜明けはここから始まる!」のキャッチフレーズのもと、ネットビジネスについての意見交換などが行なわれた。


 会場を見渡してまず感じたのは、スーツ姿の参加者が大部分を占めており、全体的に堅い雰囲気だということ。うかがったところによると、参加者のほとんどは自治体や行政関係者、金融機関、広告会社、一般企業の社員などで、主役となるネットベンチャーの方はあまりいないという。また、「学生も参加しやすいよう、スタッフはみんなカジュアルな服装にした」にもかかわらず、参加した学生はたったの3人だけだった。いわゆる“ビットスタイル”のイベントとは印象がかなり違うのである。

 その理由は、フォレストアレー代表世話人を務めるデジタルカルチャーテクノロジー(デカルト、本社・岩手県盛岡市)代表取締役の藤原隆司氏によると、東北では「まだまだネットベンチャー自体が少ない」から。過去のフォレストポラーノにおいても、参加者におけるネットベンチャー関係者の比率は、それほど高くないという。地方では、ネットベンチャーを起こすにしても、起業家がゼロから起ち上げるのは難しく、「どうしても、オールドカンパニーやトラディショナルカンパニーとのジョイントベンチャーという形にならざるを得ない」のが現実だという。

会場の様子。写真は、比較的カジュアルなエリア 乾杯の音頭は、東北通商産業局部長の仁賀健夫氏

 とはいえ、そんな環境の中でも自らベンチャーを起ち上げ、ビジネスを展開しているメンバーもいる。フォレストポラーノの後半には、そういったネットベンチャーの代表者が壇上に上がり、実際に東北でネット事業を展開するにあたっての問題や、行政による支援のあり方などをテーマに意見を交わす「バトルトーク」が行なわれた。

 アテルイ・ドット・コム(本社・岩手県水沢市)代表取締役社長の広野聡氏は、ある雑誌に掲載されたネット普及率調査の都道府県別ワースト5のうち、4県が東北だったことを例に挙げ、「そんな中でよくこんなことをやってるなと自分を誉めたくなる」と冗談混じりに心境を吐露。しかし、今後ネット利用が普及していくことは確実であり、「広まれば広まるほど、逆にローカルな方向に向かっていくんじゃないか」と予測する。「ご年輩の方々にも使えるもっとイージーな使いやすいインターフェイス」や「大容量で快適なインターネットインフラ」が地方でも整うことが条件だが、「地方のローカルな中でのビジネスモデルというのが確立されてくる」ことを信じて、「今は(岩手で)商売をやっている」としている。

 実際のところ、地方ではまだまだネットベンチャーがビジネスを展開できる市場は確立されていないようだ。シックメン(本社・山形県山形市)代表取締役社長の松田充弘氏は、ネットビジネスでは大前提となる情報に対する価値観が東京と山形では違うと指摘する。したがって、山形におけるネットビジネスは「まだ“業界”というレベルではなく、これからインターネットでご飯を食べていける下地が出来つつある」段階だとしている。

 また、徐々にネットサービスに対する需要が増えつつあるとしても、この意識の違いから来るサービス価格に対するギャップも、地方のネットベンチャーにとっては問題だ。ジャパン・ビジネス・ニュース(JNEWS、本社・静岡県浜松市)代表取締役の井指賢氏によると、同じ内容のコンサルティングサービスを、地方のネットベンチャーが地方のクライアントに対して行なう場合と、東京のクライアントに対して行なう場合では、見積もり金額が「1桁か、へたをすると2桁違う」のだそうだ。したがって、「地方だから地方の市場を狙うというよりは、東京で認められる、もっとよくすればアメリカで認められるようなビジネス」を成功させようという意識が求められる。その結果、東京で認められたということで、地方のクライアントも「(同じサービスに対して)高い額を出してくれる」ようになるわけだ。

 しかし、せっかく地方にありながら、彼らすべてが東京を向いてしまうようになっては、その地域にとっては惜しいことだ。アウィッシュ(本社・岩手県盛岡市)代表の内山裕信氏は、この点について「地方が悪いということではなくて、競合があまりない」ことがあるという。つまり、サービスの価値というものを判断しようがないのだ。例えば、企業からウェブサイトの制作を請け負う際、「5ページで10万円」が高いのか、安いのか? 「東京の方から言わせると安い。でも岩手だと高い。そういう意識の違いというものが地域にある」。したがって、その意識差が変わらない限りは「どうしても地方には残りづらい」のが実感だ。「仕事量は増えるけど、単価が上がらないというのでは、地方のネットベンチャーとして地方に何かを落としていこうという人は少ない」と指摘する。

会場中央に設置された壇上で、参加者に囲まれながら行なわれた「バトルトーク」 JNEWSの井指氏による講演「地方ベンチャーが勝ち残るためのネット戦略」

 なお、JNEWSの井指氏は今回、フォレストポラーノにゲストスピーカーとして招かれたメンバーだ。このバトルトークとは別に、地方ネットベンチャーの戦略についての講演を行ない、ネット時代における行政による支援のあり方も述べている。それによると、自治体は「他の地域からもベンチャーが移住したくなる魅力づくり」を心がけるべきだという。すなわち、「自治体が地元の企業にがんばってもらいたいというのはわかるが、外部の企業は支援しないというのでは時代遅れ」であり、「他県の企業や海外の企業でも支援するという手本」を示してもらいたいと強調する。現在、ネットベンチャーが集中している東京は、会社を構えるにはコストがもっとも高いということを考えると、インフラや支援策などの条件次第では、地方が彼らを受け入れられるチャンスは大きいというわけだ。

 今回のイベントは、先にも述べたように、“ネットベンチャーの”というよりは“ネットビジネスに興味がある自治体関係者や地元企業の”イベントという意味あいが強かった。もちろん、“IT革命の夜明け”がまだ訪れていない東北においては、まずはこういったイベントを通じながら、回りの理解を深めていくことから始めざるを得ない。

 人材の流出や就職口の減少は地方にとって深刻な問題となっているが、地域に根ざすネットベンチャーをうまく育成することが、その解決につながる可能性は大きい。当日参加された行政関係者や地元企業の方々には、こういったネットベンチャー自身の努力が空回りに終わらないよう、今後の適格な支援を期待したい。

(2000/11/16)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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