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■URL
http://www.saito-kinen.com
1月4日、小澤征爾指揮によるサイトウ・キネン・フェスティバル松本の特別公演のインターネット生中継が行なわれた。曲目は1時間20分強におよぶ、マーラー作曲「交響曲第9番ニ長調」。
今回のインターネット中継を支援したのはIIJグループ。IIJグループのデータセンター上に2,000人規模の同時アクセスを前提とした配信環境を構築し、最大で256kbpsの帯域で視聴できる環境を提供した。これにより、CATVやADSLなどのブロードバンドネットワークのユーザーの場合は音楽CDのクオリティーと同等レベルで演奏を視聴できる環境が用意されたという。また、電話回線などで接続するユーザー向けに64kbpsなどの低音質での提供も準備。中継は「Windows Media Player」と「Real Audio」の2つの方式に対応して行なわれた。
~国内初のクラシックコンサートのインターネット生中継が行なわれるまで~
日本を代表する指揮者である小澤征爾氏には、以前からインターネット中継をやらないかというオファーがいくつかあったそうだが、スポンサーがついた放送はしたくなかったため断っていたという。しかしインターネットに以前から注目し、小澤征爾氏をはじめ、数多くの音楽家を育てた斎藤秀雄氏から受け継いだ音楽を後世に残したいといった想いや(サイトウ・キネン・オーケストラは小澤征爾氏の呼びかけにより、故・斎藤秀雄氏を記念して桐朋学園の卒業生や在校生によって作られたオーケストラ)、小澤氏とIIJの鈴木社長が以前から友人だったことから企画が実現することになった。
IIJの鈴木社長はインターネットのいちばん大きな課題は、「その可能性を具体的な形で実感できるコンテンツがインターネットでは流されていないこと」としている。情報という分野では新たな地平を開拓しているが、人々に感動を与えるコンテンツについては、未だわずかだと実感していたため、今回の中継に意味を感じたという。また小澤氏と「いい音楽を演奏したい」という演奏家が世界中から集まって演奏するサイトウ・キネン・オーケストラの形態に初期のインターネットの育ち方と共通したものを感じ、「こうした試みをきっかけに従来とは違う形でインターネット上にコンテンツが広がっていくことを期待する」と語っている。
また、小澤征爾氏は21世紀の幕開けに氏のホームグラウンドであるサイトウ・キネン・オーケストラで斎藤秀雄氏を始めとした先人から受け継いだ音楽への想いやスピリットを広く若い人たちに届けたい、感じて欲しいという思いから、今回のインターネット中継の話を受けたとのこと。「マーラー『交響曲第9番』にこめられたエモーションや思いの丈をインターネットを通じで若い人たちに受け取ってもらえるかどうかが自分達のチャレンジである」とのコメントを寄せた。
~中継の舞台裏は?~
IIJでは企画が正式に決まってからわずか数週間でストリーミング配信の準備をすすめなければならず、配信設備の構築にはかなり苦労したという。実際にコンサートが行なわれた東京文化会館は建物が古く、インターネット回線が設備されていなかったため、臨時でISDN回線を8本束ねるという力技を使うことになった。また、クラシック音楽はロック等のポピュラー音楽と違って拾う音域がかなり広いため、リバーブのレベル決めを始め、音のチューニングにはかなりの神経を使ったという。
会場には中継用のカメラを5台設置。カメラの映像は中継車で選別され、編集室に送られる仕組み。広帯域接続環境で見たところ、映像は演奏者たちの手の動きまで見られる高画質なものだった。音源はライブ録音用にマイクで録られた音声が使用された。
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壁から延びたISDNのケーブル |
中継車 |
~まとめ~
今回の中継のアクセス数はトータルで約4,500。内訳はReal Audioの高品質によるユーザーが約1,500、低品質によるユーザーが1,550。Windows Media Playerのトータルが約1,550ユーザー。一般的なインターネットライブに比べれば数は全然少ないが、クラシック音楽というニッチなリスナー層でこのアクセス数は多いといえる。また、音質が何より要求されるクラシックコンサートの中継にはブロードバンドが適していることを証明したライブ中継だったように思う。インフラ整備もさることながらコンテンツ不足が深刻なわが国で、今後、広帯域を活用したキラーコンテンツがどれだけ登場するか注目されるところだ。
(2001/1/5)
[Reported by tanimoto@impress.co.jp]