|
■URL
http://www.mr-system.co.jp/MiRai-01/
“複合現実感(Mixed Reality:MR)”を体感できるイベント「MiRai-01」が、15日と16日の2日間にわたり、横浜市のパシフィコ横浜・会議センターで開催されている。
MRとは、3DCGなどで描かれた“仮想世界”と、実在する“現実世界”をリアルタイムで継ぎ目なく融合し、合成して表示する技術。例えば、実際に目の前に見えているリビングルームに仮想の家具を重ね合わせることでレイアウトを確認したり、逆にCGによる仮想空間の中に実写によるオブジェクトを配置して現実感を高めるといったものだ。
しかも、単純に平面的に映像を重ね合わせるだけではない。見ている人の視点の動きに合わせて、現実と仮想が空間的ズレを生じないようにしたり、遠くのものは小さく、隠れている部分は見えなくするといった空間的な整合性が求められる。また、仮想のオブジェクトの影を現実世界の上に自然に落としたり、逆に現実世界の光源の変化を仮想のオブジェクトにも反映するなど、違和感を取り除く処理がなされる。
そこで、MRを実現するには、視線の変化を高精度でとらえるセンサー技術、空間の奥行きや前後関係、光源の位置などを判断する画像認識技術、合成映像を描画する高速なソフトウェアとハードウェア、そしてその映像をあたかも目の前にあるかのように表示するヘッドマウントディスプレイ(HMD)などの高度な技術が必要になる。
国内では1997年1月、旧通産/郵政大臣の特別認可法人である基盤技術研究促進センターとキヤノンが共同で、エム・アール・システム研究所を設立。東京大学、筑波大学、北海道大学と協力しながら、世界に先んじてMRの研究プロジェクトを推進してきた。今回のイベントは、同プロジェクトの研究成果を発表する場として設けられたもので、会場では15種類のデモンストレーションが公開された。
「Contact Water」。いったい手のひらに何があるというのか?(上) HMDを通してみると、このとおり(下)。 | 「今そこにあるMRカー」。傍目には挙動の怪しい人物(上)だが、彼にはこう見えている(下) | 窓の外には空き地が広がっている(上)。そこにCGによる建物や巨大キャラクターが合成される(下) |
会場に入り、まず最初に目に飛び込むのが「Contact Water」だ。エンターテイメント分野におけるMR技術の活用アイデアを公募したコンテストで、第1回グランプリを獲得した作品だという。HMDを装着すると、自分の手のひらにCGによる水面が現われ、その中でイルカやエイなどの動物が飛び跳ねる。デモでは、4人が同時に体験できるようになっており、互いの動物を放り投げて交換することも可能だ。
会場中央、体験希望者が列を作っていたのが「今そこにあるMRカー」という展示だ。その名称通り、まるでそこに自動車が実在するかのように見えるという。ステージにはシートだけが真ん中にポツンと置かれており、HMDを装着した人が手を動かしながらその周りをうろうろしている。傍目から見ると何をしているのかはわからないが、MRで描画された映像ではそこに自動車が存在しており、ドアを開けて乗り込み、シートに座って回りを見渡せるようになっていた。こういった展示系分野への活用は、ショールームはもとより、博物館などからも期待が高いという。
MRは、何も屋内での利用に限った技術ではない。「インサイド・アウトMR」という展示では、パシフィコ横浜の窓越しに現実のみなとみらい地区を眺め、そこにエッフェル塔や自由の女神といった建造物を実際のスケールに合わせて合成して見せる。また、巨大なキャラクターを出現させ、ビルに飛び乗ったり、敵と闘うなどの操作も可能だ。屋内と違って日照条件が刻々と変化するため、調光機能を持ったHMDが必要なるとしているが、システムは屋内に設置できるため、テーマパークでのアトラクションなどに適しているという。
これに対して、「アウトドアMR TOWNWEAR」は、MRのシステムを丸ごと屋外に持ち出そうというものだ。パシフィコ横浜からほど近い、横浜美術館前の広場でデモが行なわれている。利用者はヘルメット型のHMDをセット、MRシステムが搭載されているノートPCを収納したバッグを背負う。すると、何もない広場に彫刻やオブジェが設置されているように見える。将来、機材が小型・軽量化し、ウェアラブルコンピュータで処理できるようになれば、現実の町の中を歩いている際に、案内や誘導の表示を合成表示するといった利用方法が考えられる。
このほか会場では、横浜キャラクターミュージアムの展示品をキャプチャーし、仮想空間上に展示、それを好きな角度から眺められるデモや、岩井俊雄氏によるMRを利用したアート作品などが公開されている。
横浜の奥様方が遠巻きに怪訝な視線を投げかけていた「アウトドアMR TOWNWEAR」 | パシフィコ横浜では「複合現実感国際シンポジウム」も開催されており、3次元ポインティングデバイスなどが展示されていた | 同じくシンポジウムの技術展示。各指にセンサーを取り付け、仮想のルービックキューブを操作できる |
なお、MRプロジェクトは3月いっぱいで終了し、以降はキヤノンが中心となって実用化への研究が進められる予定だ。今回公開された展示はあくまでも技術を紹介するためのもので、システムの軽量化やHMDの低価格化などの課題が残されているという。
(2001/3/16)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]