【業界動向】

注目を集めるGNUのインターネット選挙システム「GNU.FREE」

■URL
http://www.free-project.org/

 最近になってFree Software Foundationの正式なプロジェクトで、インターネットで大規模な選挙を行なうためのソフトウェアである「GNU.FREE」が注目を集めている。先週、最新バージョンの1.6がリリースされたが、基本的な機能やソフトそのものの安定性が向上したと評判だ。

 GNU.FREEプロジェクトは、元々英国Warwick大学コンピュータサイエンス学部とWarwick大学ビジネススクールの共同プロジェクトとして始まった。このプロジェクトの目的はインターネットなどを含む情報革命が政治にどのような影響を与えるかということを確かめることにあった。ところが調査を続けていくなかで、要となる電子投票には多くの人が関心を示しているのに、そのようなシステムの多くが作りがあまりに弱々しいか、商業的に過ぎるかで問題が多いと感じたという。そこでプロジェクトでは最も商業的な色彩が薄いと思われるGPL(GNU Public License)に基づいて自らソフトウェアを開発することにし、それがGNU.FREEとして結実した。

 GNU.FREEは、どのようなプラットフォームでも動くようにJavaで記述されており、高速なGPLの専用データベースシステム「Hypersonic SQL」も含まれている。しかしver.1.6になってPostgreSQLやMySQLもサポートするようになった。システム自体は導入時にいくらかの技術を要するが、その代わりに分散環境のもとで国家的規模の大選挙にも対応できることを目指している。最新バージョンでは英語以外にフランス語やスペイン語など計9カ国語に対応し、今後も各国のボランティアを募って国際化を進めるという。

 このソフトを実際の選挙に使う場合には悪意のあるコードやセキュリティーホールをすべて除去する必要があり、利害関係のない独立した専門家がソフトウェアをすべて確認する必要があることをプロジェクトでは指摘している。これらの作業はどのような商業的なソフトウェアであってもネット選挙を実施するときには必要だと思われるが、GNU.FREEの場合には元々GPLで配布されているためこの作業は比較的容易だとされる。また、GPLで配布されることの利点として、このソフトに改良を加える場合に、その改良された部分をプロジェクトに還元する必要が生じるため、国家としてこのソフトウェアを利用した場合には他の国家のインターネット選挙のためのインフラを整えることにもなる、という奇妙だが興味深い副作用も存在する。

 GNU.FREEが最初に公にリリースされたのは2000年の3月だが、最近までに世界各国のさまざまな組織や政府関係者から問い合わせを受けたとされており、今後のソフトウェアの発展が注目される。インターネット選挙に関してはさまざまな意見が存在し、国家的な規模でのインターネット選挙が十分に安全な仕方で行なえるのかという疑問や、特定の政党を利するような悪意のあるコードが忍び込むのではないかという指摘もある。それだけにこうしたプロジェクトには技術者の側に高い倫理規範が求められるだけでなく、必ずしも技術とは関係のない民主主義やさまざまな思想に関する理解も欠かせない。また、インターネットで選挙を行なえばコンピュータを保有している、あるいはコンピューターが扱える人に不当に有利な選挙を行なうことになり、「一票の格差」となって現れると指摘する声もある。今後さまざまな議論が必要とされるインターネット選挙だが、ソフトウェアの実装の点で一歩先んじているGNU.FREEプロジェクトから学ぶことは多いだろう。

(2001/6/4)

[Reported by taiga@scientist.com]


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