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日本科学未来館に「インターネット物理モデル」の巨大オブジェ

■URL
http://www.miraikan.jst.go.jp/

 科学技術振興事業団は10日、「日本科学未来館(愛称:みらいCAN)」を東京都江東区青海にオープンする。“地球環境とフロンティア”“生命の科学と人間”“技術革新と未来”“情報科学技術と社会”という4分野について常設展示コーナーを設置し、最先端の科学技術を体験しながら理解できるようにしている。入館料は大人500円、18歳以下200円。

 最高時速300km以上を記録したという8輪駆動の電気自動車、人間型ロボット「PINO」、世界最深の潜水能力を持つ潜水調査船「しんかい6500」の実物大模型、超伝導体と磁石の力で浮上しながら全長30mほどのレールを走らせることができるリニアモーターカー、人体の輪切り模型など、みらいCANの展示物はバラエティに富んでいるが、その中から本記事では「インターネット物理モデル」を紹介したい。

 インターネット物理モデルは、“情報科学技術と社会”分野の展示の一つで、IPパケットが配達される仕組みを“物理的に”表現したものだ。展示スペースは縦横各5メートルほどもあるだろうか、網の目状に貼り巡らせられた雨樋のようなレーンの上をゴルフボール大の白い玉と黒い玉があっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロと転がっている(かなりうるさい)。一見するとどこがインターネットなのかわからない、まるで前衛芸術のオブジェのような展示だ。

 よく見ると、展示スペースの周辺部には、玉を並べるボードが5カ所設置されている。一方、中央部にはレーンをつなぐ拠点となるタワー状の装置が10個ほどそびえ立っており、そこに玉が転がり込んでは別のレーンに吐き出されている。最終的には、あるボードから送り出された玉がいくつかのタワーを経由して、別のボードまで転がっていくということらしい。

 実はこの玉、白が0、黒が1といった具合に“ビット”を表しているのだという。来館者は、ネット端末を表わす5つのボードの中の1つで、2色の玉を“物理的に”並べることで、IPパケットを表わす“玉列”を作成する。1つの玉列は全部で16個(16ビット)からなり、行き先のボード(A~E)のアドレスに相当する先頭8個(8ビット)と、それに続くデータ内容(アルファベット1文字に対応)に相当する8個(8ビット)から構成されている。完成したら、ボードのレバーを押せば、あとは自動的に玉列が“送信”される。

 玉列は途中、タワーを通過する際に先頭8個の配列が光学的に読みとられ、行き先のレーンが切り替わるようになっている。もちろんタワーはルーターを表わしたものだ。いくつかのタワーを通過した後、玉列は指定したボードに到着。これを受け取ったボードでは、先頭の8個は廃棄し、データ部分となる8個のみを読みとって、送られてきたアルファベット1文字を表示する。

インターネット物理モデムの全景。周囲に設置された各ボード(端末)の上に、そのアドレスを示す8個の玉の配列が表示されている 送信する“IPパケット”を作成しているところ。手前に一列に並んでいるのがそれ。左8個が送信先アドレス、右8個がデータ部分(ここでは「&」という文字)
各タワーでは、届いた玉をいったん動力で上部まで持ち上げ、らせん状に下っているレーンに転がす。その途中に宛先を識別するセンサーがある このセンサーは、宛先アドレスを表わす8個のうち最初の4個(上位4ビット)のみを識別するもののようだ。宛先が同一LAN内かどうか判別し、そうでなければ“インターネット”につながるレーンに玉を吐き出す
レーン上を転がって次の“ルーター”に向かう“IPパケット”。タワー部分で動力が使われているものの、あとは傾斜によって自然に転がっていくところがいい味を出している 宛先のボードに届いた“IPパケット”。アドレス部分の玉は廃棄され、データ部分のみが残される(送られたデータは「&」であることが表示されている)

 実際にAからBへ“IPパケット”を送信してみたところ、“ルーター”を1回経由しただけでBまで届いてしまった。係員の説明によると、AとBは「LANで接続されているという設定」だからだという。他の端末宛であれば、そこから先は“インターネット”を経由するところが見られたので、少々残念だ。原始的なモデルだが、妙に細かい所を再現しているのに感心する。

 送ることができるデータは、玉8個で表現できるアルファベット1文字だけではない。これを8回繰り返すことで、横8列×縦8行のドットで描いた“画像”も送信できる。各ボードには横8列×縦8行のフィールドが用意されており、届いた順番で玉列のデータ部分が並ぶようになっている。ただし、途中で他の玉列が割り込まないとは限らない。その際、受信側で正常に画像を再現できなくなるのはご想像の通りだ。

 また、あるタワーに玉列が集中してしまうと、そこで廃棄される玉列も出てくるようになっているという。この場合も、そこで廃棄されたからといって、その玉列を送り直す仕組みは残念ながら用意されていない。

 このように、ここの展示されているのは本当に原始的なモデルであり、実際のインターネット、ましてやIPv6など次世代のインターネットに至っては、同様の仕組みで再現するのは不可能だろう。しかしながら、普段は意識せずに使っているインターネットの“世界とつながる仕組み”を実感できる展示と言える。

館内の様子。みらいCANは、地上8階、地下2階建て。1、3、5階に展示室があるほか、6階にドームシアター、7階にホールや会議室などがある。3階には、学校の理科室を思わせる「実験工房」もあった(右)
1~5階を貫く吹き抜けスペース。その1階には、電気自動車「KAZ」が展示されている(左)。定員は8名で、全長が6.7mもある。その頭上には、みらいCANのシンボル展示である「GEO-COSMOS」(右)。16cm角のLEDパネルを3,715枚貼りつめた、直径6.5mの“地球儀”だ。NASAからデータを取り込み、刻々と変化する地球の様子を映し出す
みらいCANは、同日オープンした「国際研究交流大学村」の中にある(左の写真が国際研究交流大学村の全景)。中央より左手にある、半だ円型上の建物がみらいCANだ。右手にあるのは「東京国際交流館」、左端が「産業技術総合研究所臨海副都心センター」だ。東京臨海新交通「ゆりかもめ」で船の科学館駅またはテレコムセンター駅下車、徒歩5分ほど

(2001/7/10)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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