|
ブロードバンドが普及してきたことにより、「動画広告」や「リッチメディア広告」といった言葉がよく聞かれるようになってきた。その反面、インターネット広告の効果を疑問視する声もよく聞かれている。インターネット広告の現状と今後について、大手メディアレップと、リッチメディア広告を専門に手がける企業に伺ってみた。
●リッチメディア広告で、インターネットが4大媒体と肩を並べる
ダブルクリック株式会社
7月に「ライコス」で、トップページを開くとプレイステーションのゲームキャラクターが降ってくる広告が話題となった(本誌記事参照)。この広告をサポートしたダブルクリックでは、現在こうした動きのある「モーション広告」への引き合いが非常に高まっているという。同社メディア開発部の上園尊仁氏、広報マーケティング部の船見厚宏氏にお話を伺った。
船見 現状では実は決まった名称ではないんですが、「モーション広告」と総称しています。サイトのトップページなどのページ全面を使った動きのある広告を、ある一定期間で展開するという。ライコスさんでは「ドライブモーション広告」と名づけられていますね。
上園 現場では“リッチメディア広告”と呼ぶことも多いです。FlashやJava、DHTMLなど、新しい技術を用いたものを“リッチメディア”と呼んでいます。
ダブルクリックは米国に本社を持ち、世界的な広告配信ネットワークとともに広告配信を行なっている。米国ではリッチメディア広告はポピュラーな存在になりつつある。日本でも注目が高まっており、現在も「NIKKEI NET」、「Shockwave.com」などで、実際に配信中のものが見られる。
上園 「NIKKEI NET」で展開しているのはノースウエスト航空の広告なんですが、ロゴに加えて飛行機がぐーんと飛び出してきて、1回表示されたら消える形です。コンテンツに重なるため、ずっと表示されていると後ろのコンテンツが読めない。それで3秒だけ表示してすっと消える設定にしています。
今は1つのサイトのなかに、バナーやテキスト広告、ボタンなど、複数の広告が入っていることが普通ですので、リッチメディア広告を出せるスペースを探すことから始まる場合が多い。他の広告の上を通らずに、どうやって動きを出すか。サイト側とデザイナー、エンジニアなどで「ここはどうか?」「こうした動きは可能か?」といったことを詰めながら動きや形を決めていきます。まだ作業効率があまりよくないですね(笑)。WindowsのInternet Expolorer4.0以上を基本に製作することが多いです。もちろんより多くのブラウザー・OSに対応する場合もありますが、それだけ煩雑な技術が必要な面もありますので、8割近くがカバーできることでこの条件を取っています。
船見 日本では現状、まだブロードバンドとナローバンドの中間のミドルバンドくらいだと捉えています。今一番普及している環境で快適に観られる、動きのある広告手法ということで、リッチメディア広告に積極的に取り組んでいます。ただ作り手側が不足していまして、そこは悩みどころなんですが。動きを持たせるだけなら通常のFlashの技術だけですが、それを「DART」(DoubleClickの広告配信システム)に乗せて配信するという技術的な部分が必要で、デザインとプログラミングの両方を理解することが必要になるんです。
上園 表現手段はどんどん新しいものが可能になっているんですが、クリエイターの数が追いつかない面はあります。印刷物のデザイナーは非常に多いですが、オンラインの広告枠のなかで、FlashやDHTMLを使ってクリエイティブを見せる技術を持つデザイナーはまだ少ない。現状はほとんど社内で製作している状態ですね。
インパクトの強いリッチメディア広告だが、実際の効果はどうだろうか。
上園 米Double Clickで通常のバナーとリッチメディア広告など、いくつかのパターンで効果測定調査を行なっています。広告の表示方法や、動画や音、サイズなど、どういったケースが効果的なのかを、Double Click、IAA、MSN、CNETの4社、および大手25サイトが参加し、約15万人からの回答をもとに調査したものです。たとえばサイズだと、正方形の大バナー(ラージレクタングル)が高い効果を上げた半面、縦型バナー(スカイスクレイパー)の小型タイプでは、通常バナーとあまり変わらない、またFlashを使ったインタラクティブ性の高いもの効果も高いが、TVCM的なムービーをバナー内で見せるものは効果が少ないなど、多くのデータが得られています。詳細は省きますが、結果としてインターネット広告は従来の販売促進だけでなく、4大媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)のように“ブランディング”が可能なところに来ていると捉えています。従来はクリック率が指標でしたが、今後は4媒体のような効果測定の指標がインターネット広告にも必要で、クリック率がよければいいという短絡的な評価はどんどん変わっていくでしょう。
ブランディングとは、企業や商品への認知度や高感度を示す。インターネット広告の場合、これまではクリックして企業やキャンペーンのサイトに飛ぶことが基本だったが、クリックなしで、広告が表示されるだけでユーザーに印象付けられれば(従来4媒体の広告は基本的に表示されるだけ)、それも成功となる。
上園 ブランディングの視点で見た場合、一人のユーザーに対して何回広告を出すべきかも変わってくると思います。「DART」はフリクエンシーコントロール(回数指定配信)が可能で、今まではクリック率を最大限にするために何回表示するかが重要だった。5回表示してクリックしない人はもうクリックしない、それ以上見せても効果がないと言われていたんです。現在は、サイト上で表示するだけでも充分に価値があると主張する傾向が強まっています。ブランドを覚えてもらうのが目的なら、なるべくたくさん見てもらうほうがいい。そしてより大きなスペースを使って、音が動きを使ったほうが効果が高いと。米国ではすでにそうなりつつあって、今後はどんなサイズやクリエイティブ(デザイン・仕掛け)にするか、どういったテクノロジーを用いるかなどを踏まえつつ、オンラインとオフラインのシナジー効果を追求するべきと考えています。テレビも新聞もインターネットもすべて使うなかで、最大限の結果を得られるような広告キャンペーンを打ち出す方向になってくる。日本でも小規模にやっているところはありますが、こうしたメディアミックスでの調査方法も検討しながら、1つのパッケージとして商品化していく姿勢です。
さらにダブルクリックの事業にも、インターネット広告だけではない面が登場しつつあるという。
船見 もともとメディアレップとしての広告販売部門と、テックというシステム部門があって、メディアレップとしては競合している企業にも、配信テクノロジーの提供は行なっている面があります。もともと多様な機能を持っているんですが、最近は広告で養った技術を他に生かす面も増えつつあります。すでにBtoCサイトに向けて顧客へのリコメンデーションエンジンを提供するなどの事業も開始していますし、メール配信も手がけています。広告がまったくないサイトで、新たな使われ方をしている部分もあるんです。
上園 そういう意味では、インターネット広告会社から、オンラインマーケティング会社へ移行しつつあるといえますね。これまではコンテンツと広告がインターネットの中でもはっきり分かれていて、コンテンツ配信のサーバーと広告サーバーの使い分けもできていましたが、最近はどこが広告でどこがコンテンツかの境目がなくなってきている。そうした状況で、後ろのお手伝いで関われることには積極的に関わっていきます。最終的にはインターネットならではのインタラクティブ性とうちの技術を生かして、CRMなどに直結するマーケティングツールの提供も図っていく構えです。
●今秋からリッチメディア広告を本格展開
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
大手メディアレップのデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(以下DAC)も、8月にリッチメディア広告への本格的な参入を表明している。メディア本部長の鶴田淳氏、メディア本部の駒形政樹氏、e-ビジネス本部の森橋新祐氏にお話を伺った。
駒形 以前から引き合いとしてはあったんですが、8月に対応を発表してからは引き合いが増えています。現在はユーザーもナローバンドとブロードバンドの混在環境にあるんで、適切なメッセージを多くのユーザーに届けられるポイントを狙ったリッチメディア広告という位置付けです。
森橋 ユーザーのアクションに応じて何か起きるようなタイプのものを「ダイナミックアド」と呼んでいるんですが、これはFlashを使った480×60のバナーで、マウスに連動して効果が登場したり、動きを出したりが可能です。このサイズだと、今までのバナーの代わりに置きやすいですし、希望ならさらに大きい「ビッグアド」もあります。JavaベースでTVCFなどの動画素材をストリーミングする「ネットCM」もあり、これだと多少重くなるので、ユーザーの回線状況を判断してGif画像や動画を選んで表示しています。
駒形 TV局や新聞社、大手ポータルなどのサイトを媒体とした商品メニューを9月に発表しまして、すでにいくつか製作は進んでいますね。
森橋 すでに出ているものでは、「TBSモバイル」のものがあります。Flashバナーで、携帯電話向けサービスの告知をするんですが、バナーの片側をクリックすると、モバイルサービスの利用法が印刷でき、もう片側はポップアップ画面が登場して、それを見ながら携帯電話でメール登録や着信音ダウンロードができる。ポップアップ画面のなかでも充分なアプローチができるわけです。
現在リッチメディア広告には、クライアント・媒体ともに注目している状態にあるという。こうしたリッチメディア広告に注目が集まる背景とは?
鶴田 まずユーザーの環境や回線速度で、これは今過渡期にあります。それから技術的な要素。Flashで、これまでより表現の範囲が広くて軽いという状態が実現できた。それから、これでどういう効果が得られるか。効果というとCPC(コストパークリック、1クリックにかかった費用)という評価指標しかなかったんですが、技術の進歩で表現の幅が広がると、見せるだけや音を出すことで認知やイメージを上げるインプレッション効果が得られるという見方が増えてきた。このインプレッション効果については、どういった指標で計るかという問題があり、この部分は現在も業界内で検討されています。
あと、クリエイティブ面も大きいです。これまでのインターネット広告はクリックを大前提としたクリエイティブしかなかったんですが、Flashの存在でクリエイティブが大幅に変わって、さらに重要になってくる。DACでもそうした面に着目し、クリエイティブに強いデザイナーやプロデューサーなどの体制を整えています。
駒形 これまでWebの広告に積極的でなかった一般消費材や化粧品、飲料などの企業からの注目もありますね。Gifバナーでは表現力不足でイメージダウンになるということで手を出さなかった企業が多かったんです。Flashなどで表現方法が変わって、これなら、というところも見られます。
鶴田 あと、面白いことをやりたい、他がやっていないことをやりたいという点はもちろんあります。それに加えてターゲティング。テレビですとどうしても限界があるので、無駄のない広告の出し方ができる点に注目される場合もある。
駒形 ただ、Flashが出たからといってGifがなくなることはないと。あくまで共存して、それぞれのいいところを出しながら進んでいくでしょうね。
インプレッション効果の指標はまだ確定していないというが、方向としてはどう進むのだろうか。
鶴田 テレビの場合はGRPという、視聴率×放送回数で出した延べ視聴率という概念があって、その数字である程度の認知率を出せる目安がある。インターネットにはそうした指標はまだないんです。テレビの視聴率も根本にあるのはユニークユーザー数(世帯数)なので、これをスライドして考えれば、インターネットの世界でもユニークユーザー何人に到達しているかがまずベースとなって、そこに何回見せているかという考え方もできますが、テレビとは視聴態度が違い、なんらかの目的でサイトを見ている面があるので、一概にはいえない部分があります。現在は業界やメディアレップ間で協力して、その指標確立を目指している段階です。
なおストリーミング広告に対しては、現状まだそれほど積極的なスタンスではないという。
鶴田 現在ストリーミング放送のコンテンツをリストアップしていまして、テレビ同様にコンテンツの間にCFが入る形を考えてはいますが、正直いってインターネット上で使える素材があまりないんです。TVCFは権利関連の問題で現状はオンラインでそのまま配信できず、だからといってオンラインのためだけに素材を作るクライアントも少ないという問題があります。今はちょっと難しいというのが現状です。あと、ストリーミングコンテンツがどれだけ見られているかという問題もありますね。効果の部分でいうと、あまり見られていないところに広告を出しても…という面はあったりします。
駒形 現状はインフラ部分でも、同時接続数がまだそれほど多くないですよね。大規模なところでも1~2万人ですので、それだとちょっと…。将来的には充分考えられますが、まだ検討段階でしょう。
●Flashに特化した広告製作・配信を行なう
株式会社インフォデックス
これまではインターネット広告全般を扱っている企業からの視点だったが、リッチメディア専門の企業はどう考えているか。2000年3月にリッチメディアの広告配信のために設立された会社インフォデックスの代表・滝沢暁氏と取締役・松村 昌弘氏に伺った。
滝沢 2000年9月からリッチメディアの広告配信を行なっています。1つはメディアレップの役割で、媒体さんの枠をお預かりして、そこに配信するもの。もう1つは配信システムのASP提供です。
松村 メインとなるのは正方形のFlashバナーで、「Flash AD」と呼んでいます。現在「ザクザク」や「@nifty」といった大手サイトのトップページ周辺を中心に、約20サイトに配信しています。配信システムはこの広告用に作ったもので、デザインやプログラムも基本的に社内でやっています。
現在見られる例としては、「TBS INTERNET」のFlash広告がある。トップページ右側のカラムで展開されているものだ。
インフォデックスのFlash広告は、上記のものでも見られるように、サイズや容量を定型化している点が特徴だ。166×125ピクセルのサイズを、基本に4:3の比率で35K以下が基本という。15秒前後にわたって展開するアニメーションから、バナー内でスクラッチやゲームができたりといった機能を持たせたものも多い。
滝沢 Flashではスクリプトが入れられるので、インタラクティブ性のあるゲームやクイズなどを盛り込むことが可能です。リンク先のサイトのコンテンツやイメージを盛り込んで、疑似体験してもらうことを意識しています。
松村 クリックした後にもう1つ専用のページを表示して、それを経てから企業サイトにいく2段構えを取ることも多いです。もう1ページで、イメージをつなげて、そのまま先方のサイトに移動できることがメリットです。
Flash広告を専門にした理由とは?
滝沢 従来のバナー表現が充分なところまできていないと感じていました。広告本来が持っている要素やクリエイティブな部分をどうやってユーザーに提供するかを考えたときに、今さらGifバナーを配信してもしょうがないと思い、それでユーザーの負荷が少なく、かつ表現ができるものとしてFlashを選んだ経緯があります。できればいい場所で表示させたいというのは最初からあって、それで媒体にお願いしてきて、現在の形は2001年に入ってからですね。
松村 半年以上前は媒体側も容量などについてかなり厳しく、35Kを使わせてくれというだけでも風当たりはかなり強かった。2001年になってブロードバンドって言葉を良く聞くようになってから、ぐっと変わってきた印象があります。ブロードバンドとリッチメディアへの理解が進んできたのかなと。
滝沢 現在は月に1~20本、すでに200本以上のFlashADを配信していますが、これをスタンダードに使ってもらうために力を注いでいる状態です。キャンペーンだけではなく、レギュラー的に使ってもらえるものになるまで、もう少し時間がかかると思っています。クライアントは車や食品など、TVCMをよく展開しているような企業が多いですね。
FlashAD専門のインフォデックス、目指すは広告全体のFlash化だろうか?
松村 可能性としてはありますが…。
滝沢 その辺は諸説あって、たとえば容量の小さいFlashバナーで、Gifと代わらない効果しか出せないものは、Flashを使うことに意味があるのか?という。基本的には用途によって使い分けすることになるでしょうね。テキスト広告などもそれはそれでありだと思いますし、インターネット広告の1つの形として、Flashという選択肢が定着すれば。将来的には、Flash広告と受ける側の企業サイトとのクリエイティブの一貫性を持たせていきたい。Flashを使った場合、リンク先のサイトの中身を疑似体験させることが可能なんです。以前行なったものでは、自己測定サイトの広告で、FlashAD上で簡単な診断ができて、サイトに行くともっと詳しい診断結果がわかるという形がありました。こういったものは反応も高いですし、同様の連携はもっといろいろできると考えています。例えば米国の例ですが、バナー上で映画の予告編を表示させて、クリックしてメール登録するとその続きが見られるという。こういう連携で興味を持つユーザーをうまく誘導することができる。こういったいい情報の出し方と取り方を行なっていけるようにしたいですし、それがインターネットならではの有効な使われ方と考えています。
●Flashと自社ツールで効果的なマーケティングを提案
株式会社ナチュラルアイデンティティー
リッチメディア専門に展開するもう1社が、ナチュラルアイデンティティーだ。もとはインターネット関連のソフトウェア開発を行なっていたが、今はFlash広告配信が1日1,000万PVという実績を持つ。同社代表の樋口明正氏に伺ったところ、リッチメディア広告が注目されるのは、ブロードバンドではない要因があるという。
樋口 現在はインターネット広告にクライアントが予算をかけたいが、掛けられない状況にあるんです。いまやインターネットには4千万人もユーザーがいるわけだし、展開はしたいんですが、バナー広告自体がネガティブな、効果が出ないと言われている現状があるため、そこにはお金をかけられない。それで最近はクライアントの広告予算や注目がリッチメディアに大きくシフトしつつある、いわばターニングポイントになっている気がします。
うちでは以前からインターネットで効果が出る広告はどうあるべきかを、クライアントと共同で、フィードバックのデータをいただきながら開発を進めてきました。クライアントに合ったマーケティングの方法を、ツールを使って個別に提案していくことが必要なんです。クライアントといってもすべて業種や商品は違うわけで、それを今までは1つのバナー広告でトップページに連れて行く手法だった。そうではなく、多様な業種があって、それぞれに向き不向きもあるわけですから、いろんなツールを搭載することが、広告上でも必要であると。そのツールを開発してきたのが私どもの会社なんです。ツールを使わないと、いくらキレイでインパクトの高い広告を出しても、Gif広告と同じような運命を辿ると見ています。
Flashにデータベースやメール配信システムといったツールを組み合わせることで、効果は何倍にもなるというのが、同社の考え方だ。
樋口 たとえばリアルタイムに画像やテキスト表示を変えられるFlashバナーがあります。画像の枠はフィックスして、クライアント側に入力フォームを設けて画像やテキストを入力してもらうと、それがFlash広告になって配信される。例えばビールの広告で、晴れで日中が30度以上になったときに、「今日はビールが美味しいですよ」と、ビールの画像や注ぐ音声と合わせてアピールする。また花粉症のサイトに毎日の花粉情報を表示して、それに合わせて花粉フィルターつきのエアコンを紹介するなど、消費者のメリットにもなる広告が可能になってきます。また例えば中古車売買などの企業で、あるクルマの在庫が少なくなってきて集めたいというときに、「今はこれが高価買い入れ!」とバナーからアピールすることもできる。在庫情報データベースと広告を組みあわせることで、広告を使ったリアルタイムの在庫調整も可能になるわけです。これらは見るだけでも充分効果があって、Flashのよさってそこでもあるんですが、いかに判りやすくイメージさせるかが可能になる点も大きいです。
こうした広告の例は、同社のサンプルページから見ることができる。ツールと連動して多彩な機能を持たせた広告は、これまでクライアントの領域だった部分に同社が関わることで、初めて可能になるという。
樋口 これまでインターネットで広告やマーケティングを展開してきたクライアントは、独自にデータを取って成果を出そうと努力してきましたが、それはやはり難しいし、予算もかかる。また単にクリックして、トップページに送って広告会社は終わりでは、成果はどんどん落ちていってしまう。それでインターネット広告は効果がないといってネガティブになっているのが現状ですよね。そうではなく、インターネットのフローで成功している事例を元に、広告を成功させるための多様なツールを提供していく、クライアントに合わせた提案をしていく、こういうやり方が今後の方向性として正しいんじゃないかと。それには技術も非常に重要で、うちはもともとソフト開発を行なっていたので、クライアントと一緒になって、フィードバックを行ないながら技術に反映してツールを作ってきましたという強みがあります。クライアントの要望を反映できることが非常に大きいです。
また、いまや一般の企業で、インターネット抜きではいられないというところもあるんです。たとえばこれまでTVCM主体だった企業が、インターネットを巧く利用してコストダウンし、まだTVCM主体の競合相手よりも成果と業績を上げている例が実際に出てきています。そういう意味では、企業のターニングポイントにもなっている。こうしたシフトの仕方を提案するのもコンサルテーションの1つですし、今後はそうした企業を増やしていきたいですね。また来年に向けて、ストリーミングとFlashを組み合わせた新たな展開も考えています。これは非常に魅力的なものになると思うので、期待してほしいです。
●動画は要素の1つ、基本はやはり適材適所
株式会社サイバー・コミュニケーションズ
メディアレップ企業のサイバー・コミュニケーションズ(以下CCI)も、リッチメディア広告には積極的な立場をとり、今年7月には“ブロードバンド部”を新設している。その一方で、最近のバナー軽視の風潮には疑問を投げかける。メディア本部長の桜井賢氏にお話を伺った。
桜井 2000年の10・11月ごろから、Gifバナーの効果を疑問視する傾向が出てきました。ちょうど日本が不況に傾いてきた時期でもあって、企業が広告費を削減しようという動きの中、「バナーの費用対効果ってどうなの?」と言われ始めた。実際にクリックレートが下がってきた事実もありましたが、これには原因があるんです。1つは媒体が増えすぎて、バナーはあって当然という意識がユーザー側にできてしまい、ユーザーがバナーに慣れてしまった。もう1つはターゲットの問題。専門的なコンテンツで軌道に乗っていたサイトが、広告収入を増やすためにページビューを伸ばそう、じゃあコンテンツを増やそうと拡大した結果、サイトのユーザー層や特色がいつのまにか変わっていて、広告を出してもターゲットとずれていたという事態が起こるようになっていた。要はユーザーのバナー離れではなく、ターゲットに合ったユーザーに向けてバナーが掲載されていなかった部分が多くなってきたのです。
またクリック数や、バナー経由での登録や購入件数を評価することに対して、それだけでは足りないとする見方も出てきた。
桜井 従来、インターネット広告は、広告というより販売促進ツールに近かった。でも実際、いわゆる“4大媒体広告”は、告知している商品を認知させて、店舗で覚えていることを目的とする使われ方なんです。国内のインターネットユーザーはいまや4,000万人とも言われ、ユーザーが増えればリーチが広がりますから、こうした広告本来の“ブランディング”に使われていくでしょう。いくつかの企業はすでに開始しており、今後はもっと広がると見ています。私は「Yahoo! Japan」の立ち上げ時から、ずっとブランディングって言ってましたけどね(笑)。
あとインターネット広告では、オンラインで会員登録とか、資料請求とか、いわば無形物告知していたものが多かったんです。ブランディングとなると、もっとも広告効果的に有効なのは一般消費材、たとえば食品や飲料メーカーなどでしょう。その場合、Webサイトからの会員登録だったら、1クリック100円の広告費用を出せても、たとえば1クリック100円で、120円の缶コーヒー1本を売るわけには行きませんよね。広告の目的が何かによって、使い方がまったく違ってくるんです。クリック、そしてインプレッション(広告表示)によるブランディングという、それぞれに合った指標と使い方が必要となります。
インプレッションでの効果が高められるものとして、より情報が多く表現力を高められるリッチメディア広告が注目されだした。
桜井 リッチメディア広告に関しては、2000年の年末くらいから部分的に展開していたんですが、2001年前半からかなり引き合いが増えて、今年7月に専門の「ブロードバンド部」を立ち上げた形です。ただ、日本のブロードバンドユーザーはまだ全体の10%にも達しておらず、現状では56~64Kbpsのユーザーが最も多いので、そうした回線でも問題ないFlashを使おうと。ナローバンドでも見られる状況で、初めてブランディングや認知度について語れると思っています。実はリッチメディア広告自体はCCIでは4年前、Flashバナーで実験的に行なったことがあったんですが、当時はFlashの代わりに置いていたgifバナーを見た人がほとんど。さすがにちょっと早すぎました。現在はFlashをインストールしているユーザーは全体の96.4%(米NPD調査)に達していて、リッチメディア広告を立ち上げるには充分といえます。
CCIでは、現在動画広告として「Webスポット」という商品を打ち出している。
桜井 ポップアップと埋め込み型があって、ポップアップだと位置や表示回数は自由に設定できます。120×160ピクセルのサイズが標準で、容量は100K以内に納めています。ポップアップは日本では受け入れにくいと言われがちですが、実際はそんなことはないんです。たとえばある女性ポータルサイトでのポップアップ広告で調査したところ、不快・邪魔としたのはわずか0.4%。そのうえ、ポップアップウィンドウで何を見たいかというアンケートでは、1位はもっと広告を見たいという結果になった。ポップアップ広告をインターネットのコンテンツと同様に受け止めているわけです。10媒体くらい総合的に調査した際にも、ネガティブな反応は4%ほどでした。TVCF等の動画を再生したり、ポップアップ上でアンケートを行なったりと、多様な使い方が可能です。
またブランディングでは、一般消費材のクライアントは不可欠な存在です。そうした企業をインターネットに誘導するため、3Dコンテンツの展開を予定しています。実は、個人的に3Dはインターネット上での展開に無理があると思っていたんです。理由は4つあって、1つは重すぎる、2つめはアプリケーションのダウンロードが必要、3つめは納期がかかる、4つめは値段が高い、と。こうした問題を全てクリアできる技術を広告上で独占契約しましたので、これは近いうちにWeb上でも展開できると考えています。バナーと連携したり、カタログの一部として展開したり、用途はいろいろあります。例えばバッグなどの場合、中のポケットがどうなっているかとか、開けて見てみたいものですよね。それを3Dで見て確認することで、購入に結びつくケースが考えられる。この場合、まさに商品認知度を上げるために使えるわけです。Flashバナーと組み合わせて、バナーから3D画像をポップアップさせたりも可能です。
3Dコンテンツはほとんどが100K以内で、価格は従来の2/3~1/10で、Javaで動いているためプラグインも必要なく表示できる。Webスポット、3Dとも、同社サイト内でサンプルが閲覧できる。同社のサイトからアクセスが可能だ。
Webスポットや3D以外にも、ダイナミックHTMLや動画コンテンツへの対応なども必要に応じて対応していく。ただ、クライアントのニーズと媒体の特性に合わせたコンサルティングを行ない、必要なものを提供するという姿勢は、以前から一貫しているという。
桜井 バナー自体やそのクリックも軽視してほしくないですね。クリックが必要なところにはクリック率を高める広告を提供するし、一般消費材など、オンラインでの購入ではなく店頭などでの認知が重要な場合はブランディングを提供する。それがうちの考え方です。うちの社長がよく言うんですが、お茶漬けのTVCMがありますよね。あれを見てすぐにお茶漬けを買いに行く人っていますか?と。いないでしょう?(笑)。でも、インターネットの場合、「今すぐ資料請求!」で、請求する人がいる。また以前オプトインメールで実際にあったんですが、分譲マンションの空き室2件が、非常に低予算で売れてしまった。例えば20万から30万円程度の広告費でマンションが売れてしまったって、すごいことですよね。今はそうした点に、みな目を向けていないんです。インターネットの場合、ユーザーは自分の意思で広告を見て、自分の意思でクリックしている。これにはすごく意味があることだと思います。だからクリックには意味がないとか、バナーが廃れたなどは全く思っていません。実際うちではバナーの売上げが多くを占めていますし、将来的にも絶対になくならない。サイトが全て動画の広告になるってことは絶対ないんですよ。バナーがあってテキスト広告やボタン広告があって、クライアントのニーズや目的に合わせて、それぞれ残っていくと思っています。
●最後に
5社から話を伺って共通していたのは、インターネット広告がブランディングの役割を持つことへの期待、そしてその指標が求められている点だ。もはやインターネット人口は4,000万人に達したといわれており、その存在は無視できないものになっている。広告の表示によっては、情報量はTVCMよりも多いという声もあった。また点けっ放しやながら見ができるテレビと違い、基本的にユーザーは自分の行きたいサイトにアクセスしてるため、より目的意識の高い、またターゲティングしたユーザーに提供できる利点がある。その一方で、ユーザーがWeb上の広告に慣れてしまっている面もあり、たとえばバナーがローテーションしていても注意を払わないといったことも珍しくない。こうしたメリットやデメリットを踏まえたうえでの指標作りが求められるだろう。
また今回、ストリーミングコンテンツへのCMに関しては、まだ尚早という見方が多かった。コンテンツ・ユーザーともいまだ層が薄いという現状と、広告素材の不足、TVCMと同じことをやるのではTV以上にはなれないなどといった声が多く聞かれた。今後ブロードバンド化が進むことでどう変わっていくのかが気になるところだ。
(2001/10/15)
[Reported by aoki-m@impress.co.jp]