【特集】

あなたの“欲しい”を実現する御用聞きサービス

 景気の後退が語られて久しいが、2001年10月10日に内閣府が発表した月例経済報告でも、「個人消費は、おおむね横ばいの状態が続いているものの、ここのところ弱い動きが見られる」と、当分上向きそうにない。この状況を打破するためには、やはり個人の「」を刺激するしかない。しかし、ここまで凝り固まった状況では、いまさら普通の「物欲」を刺激しても仕方がない。

 そこで今回は、人々を“その商品を手に入れるためには、一定額以上の金額を払ってもかまわない”と動機付ける、手に入りにくいアイテムに対する「収集欲」や、“自分しか持っていないぜ”というプライドをくすぐる「独占欲」を満たすアイテムを提供するサービスを集めてみた。

●“欲しい”の方向性とサービスタイプ



 一口に“欲しい”を実現するサービスといっても、さまざまな種類が存在する。まず、そのアイテムが、かつて存在していたが今は手に入りにくいものなのか、それともまだ見ぬ未来のアイテムなのかという区別が必要だ。前者の場合、廃刊した書籍や廃盤になったレコードやCDなどが挙げられる。

 また、存在していないアイテムの場合も2種類に分けられるだろう。一つは、既存の枠組みはあるものの、自分専用にカスタマイズした「オーダーメイド」なアイテムだ。オーダーメイド(もしくはカスタムメイド)の概念そのものは、インターネット誕生以前からあるものだし、実際、Web上でオーダーメイドサービスの受け付けをしているショップなどは、クリック&モルタルなところが多い(むしろ、オンライン受付というものが副回線かもしれない)。この種類にあたるアイテムといえば、オリジナルデザインのTシャツや、色のバリエーションが選べる靴などがあたるだろう。

 もう一つのパターンは、既存品のカスタム化以上にユーザーの意見を吸い上げて、まったく新しいアイテムを生み出すタイプだ。例えば、文字盤のデザインだけでなく、形状や機能までオリジナルの腕時計とか、“あったらいいな”というアイディアからスタートする商品企画型サービスが挙げられる。

 商品企画型サービスには、企業主導による期間限定品(例えば、麺の上にカレーを乗せたカップラーメン)もあるが、むしろ面白いのは、ユーザーが発案し、賛同者を募って「ムーブメント」にすることで企業に作らせてしまうタイプのものだ。インターネット上なら、賛同者を幅広く募ることもできるし、多くのアイディアマンが忌憚なく意見を交し合うこともできる。実際に、そういう経緯を経て生まれた商品がいくつか存在する。

 以上を踏まえて、いくつかサービスを紹介したいと思う。

●夢の商品企画提案系サービス



■たのみこむ
http://www.tanomi.com/

 “御用聞き”サービスの代表的なサービス。「たのみこむ」では、大きく四つのサービスを展開している。会員登録制だが、無料で登録できる。

 「たのみこむ本店」は、主に「たのみこむ」側からユーザーに対して商品を提案するもので、購入希望者が募集人数に達した時点で生産を開始する完全受注生産サービスだ。取り扱い商品は、衣類、飲食物、生活雑貨、アクセサリーや、玩具、コンピューターなど多種多様。過去に、アイドルとのお食事権や、有機農法の米「たのみこめ」などが商品化されたほか、ユーザー提案の「Visor」専用アルミニウムボディーなどが販売されている。

 「たのむ!作ってくれ!」のコーナーでは、ユーザーが商品案を出し、賛同者を募って商品化に向けて意見を交し合うサービスだ。特に商品化に踏み切る規定賛同者数というものはなく、「たのみこむ」スタッフの判断で企業と商品化へ向けた交渉が行なわれる。さすがに、版権が絡むものは実現しにくいようだ。

 ユーザー発案の「たのむ!作ってくれ!」に対して、「たのむ!考えてくれ!」というコーナーでは、企業が商品のアイディアを募集している。例えば、携帯端末向けコンテンツサイトのプロモーション方法などが募集されている。過去には、製品化や採用にはいたらなかったものの、「光るギター」や「クロレッツのTVCM」など、アイディアの柔軟さを試される「考えてくれ!」が実施された。

 「たのモール」では、さまざまな企業のアイディア商品を販売している。このほか、積極的に「たのみこむ支店」を展開して、多くのジャンルに富んだコミュニティからの意見を募集している。

■空想生活
http://www.cuusoo.com/

 空想生活は、家電製品やガジェットに焦点をあわせた商品企画提案サービスだ。会員制だが、メンバー登録は無料。製品化するには、ユーザー側の盛り上がりと同時に、メーカー側の協力が必要だ。このサイトでは、それぞれを「ユーザー指数」、「メーカー指数」として進捗具合を公表している。

 空想生活では、アイディアの発案者だけでなく、デザイナーやデザイナーの卵も参加して、今までにないアイテムを生み出しているのが特徴だ。また、コンペティションなどを企画し、積極的にデザイナーに活躍の場を提供している。

 現在、テレビなどのリモコンを埋め込んだテディベアのぬいぐるみや、一人暮らしに十分なシンプルな機能を持ったおしゃれな電子レンジや炊飯器などが提案されている。なお、これまでに、衝撃に強い携帯電話カバーや、インテリアデザイナーがデザインしたPCなどが商品化された。

 サイトの方向性を理解するには、同サイトに掲載されている「空想家電という考え」を読むのがわかりやすそうだ。家電というと、大量生産されるものというイメージがあるが、空想家電ではあえてデザインを重視し、未来を想像させる「一品生産」を提案している。

●復刊・復刻系サービス


■復刊ドットコム
http://www.fukkan.com/

 サービス名のとおり、現在絶版になっている本を復刊させるサービス。これまでに52冊の絶版本を復刊し、126冊が交渉中だ。会員制だが、登録は無料。

 復刊までの流れは、ユーザーが復刊して欲しい本を登録し、それに賛同するユーザーが一定数以上集まれば復刊ドットコムが出版社と交渉に入る。交渉が成功すれば晴れて復刊となり、一般向けにWeb上で販売される。復刊される形態は2種類あり、元の本と同じ装丁・印刷・製本される重版と、ユーザーの希望によって1冊より生産される「POD」と呼ばれるオンデマンド出版だ。なお、POD復刊のほうがコンテンツのデジタル化作業などでコストが高くなったり、元の本がハードカバーであってもソフトカバーでしか再現できないという制約がある。

 これまで復刊された本の中には、絵本や楽譜なども含まれている。また、リクエスト段階のものが、5,000冊以上もありジャンルはさまざまだ。復刊を希望するには、まずその中に自分が希望する本があるかどうかを調べなくてはならないが、書名検索や「復刊特集」といった機能が提供されている。

 「復刊特集」とは、同じ著者や出版社、ジャンルによってリクエストがまとめられたページで、同じゲーム関連書籍でも、「ドラゴンクエスト」といったメジャーなタイトルから「TRPG関連」といったマイナーなものまで幅広く用意されている。

■廃盤復刻計画
http://www.so-net.ne.jp/haiban/

 廃盤復刻計画は、洋の東西を問わず廃盤になったレコードやCDを復刻するサービスだ。会員制だが、登録は無料。

 レコードやCDの復刻の手順は、ユーザーが希望商品のリクエストをすることから始まる。レコード会社に復刻の可否を問い合わせ、可能であれば「予約販売」という形で賛同者を募ることになる。予約販売には期限が定められており、復刻最低枚数を超える予約が集まらないと「復刻失敗」となる。基本的には、購入を前提として賛同した予約者に向けて販売され(キャンセルも可能)、復刻後に一般販売される可能性は低い。なお、復刻失敗したものでも、6ヶ月以上経過したものの中から敗者復活の形で再度予約を募る場合がある。残念ながら、現在までに復刻に成功したレコードやCDはない。

 姉妹サービスとして、「新盤お願い計画」というものもある。これは、かつてレコードで出ていたものをCDとして(もしくはCDをアナログにして)新たに販売することをレコード会社にお願いするものだ。こちらも始まったばかりなので、販売までこぎつけたものはまだない。

■あ~る盤
http://www.r-ban.com/index.asp

 日本コロンビアが開始した製造中止や廃盤のCDを、CD-Rにして復刻するサービスだ。オリジナルのCDと同じマスターデータからの複製なので、同じ音質のものがオンデマンドで提供される。

 あ~る盤を利用する場合、全国の取り扱いレコード販売店かオンラインショップから注文する。購入価格は、製造中止CDの場合オリジナルと同じ値段で、廃盤CDの場合新規に価格が設定される。参考までに、第1弾として復刻された廃盤だった5タイトルは2,800~3,000円で販売されている。

 あ~る盤では、日本コロンビアがサービスリストを決定するため、ユーザーが直接、復刻して欲しいCDを指定することはできない。2001年10月21日に公開された第1弾リストには、405タイトルがラインナップされており、今後、毎月20タイトル程度が追加される。

 第1弾のリストの多くは1990年代に発売されていたCDで、奥菜恵や観月ありさ、河合奈保子といったアイドルのアルバムや、TMNetworkの楽曲の作詞をした小室みつこのセルフカバーアルバム、変り種ではプロレスラー安生洋二と声優・富沢美智恵のアルバム「OH TACO」などが入っている。

◎この他のCD復刻サービス

■名盤レア復刻大作戦-洋楽秘宝館-
http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/hihoukan/

■新星堂・渡辺音楽出版共同レーベル「パレードレーベル」「WATANABEレーベル」
http://www.shinseido.co.jp/parade/index.html

●人と違うファッションアイテムが欲しい人向けサービス



■NIKEiD
http://nike.jp/

 ナイキのシューズのカスタムメイドサービスで、柄や全体の色、靴紐を通す部分のパーツの色などを自由に選ぶことができる。利用にはメンバー登録が必要で、決済はクレジットカードかセブンイレブンを利用したコンビニ決済だ。

 対応商品は、「Air Presto iD」と「Air Visi Havoc iD」の2種類だが、100種類近いパターンが選べる。さらに、最大8文字まで英数字を刻印できるので、まさに自分専用のシューズが作成できる。

■Time-REX
http://www.timerex.com/
■バンド工房
http://www.mission-watch.com/band/

 リコーエレメックスでは、さまざまなカスタム腕時計の販売を行なっている。その中でも、ユーザーの声を取り入れて腕時計を設計する「WALG(Win a losing game)」は、まさにインターネットを活用した企画だ。リコー側から提案されるデザインコンセプトやデザイン案に対して、ユーザーは自由な意見を掲示板に書き込める。この書き込みを元に、デザインの修正をしながら製品化を目指す。

 また、Shes.netと共同で女性向けの腕時計「shesshes」を製品化したり、原哲夫氏が漫画「北斗の拳」のイメージでデザインした腕時計などを販売している。その他、自分の家紋を文字盤に彫りこめる「家紋ウオッチ」や、オリジナルの皮バンドがオーダーできる「バンド工房」など、非常に充実している。

■時計工房 MY CREATION
http://www.citizen.co.jp/watch/index.htm

 シチズンでは、簡単に自分でデザインした腕時計が作れるサービスを行なっている。自分で描いたイラストを文字盤やバンドに印刷した腕時計をオンラインから注文できるのだ。また、自慢のデザイン腕時計を「ギャラリー」にて公開することも可能だ。

 選べる腕時計は、標準タイプやスポーツタイプだけでなく、針が逆に回る逆転タイプや、ユニーク針を利用したもの、文字盤が大きい熟年タイプなどが準備されている。自分専用の腕時計を作るだけでなく、プレゼントにも最適だ。

◎この他のインターネットオリジナル腕時計

■appetime
http://www.appetime.com/

●商品企画に1から携わりたい人向けサービス



■伊勢丹「オンリー・アイお客さま参加商品開発プロジェクト」
http://www.isetan.co.jp/icm2/jsp/fashion/only_i/index.jsp

 伊勢丹が、ユーザーの“こんなものがあったらいいのに”を実現する商品企画サービスだ。第1弾商品として、働く女性のためのワーキングエプロンを販売している。別売のインナーをつけることで電磁波防止エプロンになるあたり、インターネット上でディスカッションを続けた商品らしいといえる。現在、第2弾企画として、「おしゃれな通勤バッグを作ろう!」と題して、参加者を募集(80名)している。

■美・構図(Because)
http://www.because.ne.jp/

 美・構図は、女性の発想による商品開発を目指すマーケティングサイトだ。各分野で活躍している女性のコラムなどの他に、「美・構図アカデミー」という商品開発セミナーなどを提供している。商品開発に参加する場合は、会員登録(無料)が必要。

 商品開発に関連するコーナーとして、「美・構図アカデミー」のほかに、商品開発に関する意見交換をする「開発ルーム」と、自分が考えたアイディアを発表する「プレゼンテーション」が予定されている(現在、工事中)。

■アットコスメ 「商品企画室」
http://cosme.net/cosme/html/frame/f_enq.html

 化粧品や美容に関する口コミ系コミュニティサイト「@COSME」では、「商品企画室」と題して、オリジナル商品の企画をしている。商品企画に参加するには「プロデュースメンバー」としての登録が必要だ。登録は無料だが、参加資格があるので注意。

 商品企画室では、これまでにオリジナルメイクボックス(販売中止)、オリジナルメイクブラシの商品化などを行なってきた。現在、第3弾としてオリジナルポーチの開発が進行中だ。このほかにも、「こんなもの欲しいコンテスト」などが開催されている。

●企業主導、期間限定アイテム



■麺づくりプロジェクト「koikesan.com」
http://www.koikesan.com/

 インスタントラーメンなどを販売するエースコックと、コンビニエンスストアのサンクス、サークルケイが共同で、ユーザーの声を取り入れた新しいカップラーメンを作るプロジェクトを進行中だ。

 「koikesan.com」では、かつて「燻製焼豚しょうゆラーメン」と「クリーミーとんこつラーメン」を作成、本流と亜流としてそれぞれ10万個を販売した。その結果、亜流にあたる「クリーミーとんこつ」の牛乳風味が消費者に受け入れられた。それを受けて、本流の開発者がリベンジ企画を立ち上げた。

 ユーザーは、リベンジを目指すkoikesanA、「クリーミーとんこつ」で勝利を飾ったkoikesanBどちらかのアドバイザーとなり商品開発を手伝う。ユーザーは、掲示板に自分の意見を書き込む形で参加するが、途中でアドバイスを行なうKoikesanを変えてもかまわない。プロジェクトは、2001年11月より人気投票が開始され、来年製品化される予定だ。

●まとめにかえて



 今回は、消費者であるユーザーが積極的に商品開発に参加したり、企業に働きかけて生産が終了したものを復活させることができるサービスを紹介した。自分が“欲しい”と思える商品を生み出すことができるのも、インターネットの誕生によって個人の意見表明がしやすくなったからだ。

 実際に、これらのサービスを使っても、アイテムとして手に入るまでには、さまざまな障害が残されていることは確かだ。しかし、このようなサービスがなかったら、個人の力で企業を動かすことはできなかっただろう。インターネットならば、簡単にムーブメントを起こすだけの人材を集めることができるのも魅力だ。また、たとえ製品化に至らなかったとしても、同好の士や同じことを考えている人を見出すことができる。そこから、新たなコミュニティが生まれたり、商品を開発する新たなベンチャーが誕生するかもしれない。

 一方で、インターネットを利用した完全受注生産は、企業側にしてみると、売れずに在庫を抱えたり、高いマーケティング調査のコストの削減が図れるなどの利点がある。現時点では、このようなマーケティングによって、大ヒット商品は生まれていないが、メイド・イン・インターネットなヒット商品がいつか現れるだろう。

 なお、本誌では11月より、ユーザー参加型の商品開発を行なっている企業を取材し、その実態や動向に関する新連載を予定している。期待してお待ちいただきたい。

(2001/10/29)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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